古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.189 神話大戦 中

完全に意識を失った巫女とそれを支えようとする魔理沙に向かってお空は、いやお空を乗っ取った本人は容赦のない攻撃を浴びせた。まばゆい光と轟音がして彼女を中心とした巨大な光の玉が成形されていた。

 

嫌な予感がして飛び込んでみれば、やっぱりというかなんというか…想定外の結果になっていた。やっぱり2人だけで行かせちゃダメだったなんて後悔している暇はない。

お願い間に合って‼︎

肌が焼けるような熱さ。咄嗟に2人と光の玉の間に遮光、断熱結界を張る。

加速して2人の首根っこを掴む。コンマ数秒で後ろに下がる。魔理沙が何か言っているけれど気にしている余裕はない。

それでも光の玉から逃れられない。直線的じゃ無理…だったら……

どこか隠れられる場所……

あ!あった!

結界がもう保たない。2人を放り投げ、自分もそこに向かい始めた瞬間後ろで結界が砕け散る音がした。

 

まばゆい光に包まれかける。

 

 

 

 

「うわ…危なかった」

 

間一髪岩棚に隠れる事が出来た。放り投げた2人は魔理沙が霊夢をちゃんと庇ってくれたからか怪我をすることはなかった。まあ怪我で済むならそれはそれで良いやって感じで放り投げたからこれは結果オーライだね。ちょっと右足火傷しちゃったけどまあそれは仕方がないかな…

ヒリヒリしてすごく痛いけど。

光と熱風が収まったので外を確認する。さっきと変わらない場所。だけれどそこはさっきより地獄と化していた。

 

至る所で熱風の渦巻きが出来て、一部は溶岩を巻き込んでいるのか火の竜巻になっている。少しづつここら辺の温度も上がってきている。この調子じゃ直ぐ人間の2人は生きていくことができなくなる。

もうちょっとだけ周りを確認したけどお空の姿は見当たらなかった。どこかへ行ってしまったみたい。

流石にもう戦いたくないのかな……まあ居ないなら居ないに越した事はないんだけど。

ともかく今は2人の状態を確認しなきゃ。四十度超えの外気で頭がクラクラしてくる。私暑いの本当ダメなんだよね。よく2人ともこんな環境で戦えたね。

今の温度は…うげ…もう48度だ…

 

霊夢顔真っ青…でも肌すごく熱くない?これまさか…

魔理沙の方は大丈夫そうだけど…やっぱり暑さでダウンしているのかな。

「霊夢は…熱中症。魔理沙起きてる?」

 

「なんとかな……」

私が声をかけたらちゃんと返事してくれた。一応脱水の兆候があるけれど意識がはっきりしているなら今はまだなんとかなる。取り敢えず重症な霊夢は安全なところで手当てしないと手遅れになりかねない。こんなところで熱中症の応急手当てなんてしたって意味ない。

「取り敢えず逃げるよ」

私が言いたいことを察したのか魔理沙も静かに頷いて私の指示に従った。

お空が居ない今がチャンス。

霊夢を背負って熱風吹き荒れる灼熱地獄に突っ込む。

周囲の景色はさっきと変わらないのに熱の暴力がいたるところから襲いかかってくる。それどころか火の粉まで降りかかってくる始末。いくつかが私と霊夢の服を焦がして穴を空ける。燃えないかどうか心配だよ……

一応魔導書には水を出す魔術式書いてあるけど霊夢を背負っていて両手がふさがっているからページ開いて何してって余裕もない。

できるだけ回避するしかなかった。

不規則な動きで熱が比較的少ないところを通過する。意思を持っているかのように熱風が襲いかかってくる。再びエネルギーの本流が後ろで流れ出した。やばい…間に合うかな……

 

出口がようやく見えてきた。1秒の間隔が長く感じる。幸いなのはまだ熱風だけってことかな…これが炎の壁なんて事態になったらもう目も当てられない。

「魔理沙、先に行って良いよ」

 

「そうか?じゃあお先!」

後ろでくっついてきていた魔理沙を先に逃がす。後ろでエネルギーが爆発した衝撃波を感じた。

熱風が近づいてきているのがよくわかる。

 

私達が飛び出した直後灼熱地獄が爆発した。開かれていた扉から炎と熱風が衝撃波になって飛び出した。一瞬体が熱風に巻き込まれそうになったけれど魔理沙が思いっきり手を引っ張ってくれたから助かった。熱風より少し遅れて吹き出した流動炎が天井部分に到達し、炎を飛び散らせた。間一髪……

あんなの直撃してたら多分骨まで黒焦げになっていた。うん……怖っ!もうあんな無茶二度としたくないね!

「ふう……」

すぐに蓋を閉める。あのまま開けっ放しにしていたらどうなることやら……

「助けてくれてありがとな…」

私のすぐそばで座り込んでいた魔理沙がお礼を言ってきた。ここは危ないから一回地霊殿まで戻るよ。

「んーお礼言われることはしてないけどなあ」

 

「ってかどうして助けてくれたんだ?」

どうしてって…助けられたくなかった?移動しながら魔理沙の方を見る。

「どういうこと?」

私の顔を見た魔理沙が少しバツが悪そうな表情をした。

「いや、言い方は悪いけどあんたにとって私らは敵だろ?確かに今は協力関係だが…それでもあそこで始末しちゃえばメリットが多くないか?お空ってやつも助けるのに失敗したんだしリベンジにしたってあれはもう……」

どうだろうね。でも私は2人をあそこに放置なんてしていないしもし倒せなくてもそれはそれで仕方がないって事で別の方法を探るよ。それに……

「それしたらお姉ちゃんが悲しむ。それに言うほどメリット無いよ。むしろ幻想郷の維持管理を考えたらむしろ死んじゃ困る」

うん、巫女が死んだなんてなったら混乱と暴動と革命が起こるのは常々なんだよ。それを短いスパンでいくつもなんてこっちから払い下げだよ。私もお姉ちゃんと同じで日常は平穏で過ごしたいからさ。だって混沌とした殺戮空間なんて誰得なのさ。私は人は食べないし…人が死んで良いことなんて一つもないよ。

「なんだ優しいんだな」

優しいかどうかがわからないけど妖怪の価値観とは違うってのは確かだね。でも人間の価値観かと言われたらそういうわけでもないかなあ……

「んー……個人的には霊夢にも紫にも色々言いたいけどさ。でもそれは私の役目じゃなくてお姉ちゃんの役目だから」

言いたいだけであって死んで欲しいとは思ってないし。

 

ようやく建物が見えてきた。裏口からすぐ中に入る。利便性を考えて医務室を一階に作っておいて正解だったね。

「私はそこら辺詳しくないから分からないんだけど…」

そういえば魔理沙は詳しく知らないんだったね。でも詳しく知っても良い事ないと思うよ。

「聞きたい?」

 

「いや、部外者が聞くもんじゃなさそうだしやめておく」

そう言う魔理沙の顔はなんだか悲しそうだった。

 

「分かった…じゃあ霊夢の手当てするから手伝って」

 

「ああわかった!」

医務室まで運び込み、すぐに布団の上に寝かせる。

改めて肌に触れてみるととても熱い。四十度ほどの高熱を出していた。汗がほとんど出てないから脱水状態でもある。本当はあの場ですぐ応急処置したかったけどあんな場所じゃ意味ないしかえって危ない。

 

「……今はすぐに冷たいもので冷やして…水飲ませなきゃ」

意識レベルに問題があるほどだから重症だとは思ってたけどここまでとは…

取り敢えず服を脱がせて下着だけにする。着込んでる状態じゃ熱もちゃんと逃げていかないから。でもなんでサラシなんだろう……まあ良いや。

いつの間にか魔理沙の姿はなくなっていた。誰か人を呼びに行ったのだろう。しばらくすると妖精と一緒に魔理沙が氷と水を持ってきてくれた。

 

まずは氷を脇には挟ませて……

「水は無理に飲ませると呼吸器官に入っちゃうから慎重に…」

点滴が欲しいなあ……そもそも意識がない相手に経口補水は難易度高すぎるよ。

でもここは病院じゃない。あるもので対処するしかない。それに点滴なんてあるのは永琳さんの所しかないだろうし。

 

 

 

「そういえば魔理沙、人形は?」

手当も大方終わって後は少しづつ水を飲んでもらうだけになったところでふと気になった事を聞いてみた。

「え?あ…そういえば居ないな……」

あの熱攻撃で焼かれちゃったかな?私も2人を助け出すので手一杯だったし人形までは気を使ってなかった。

「アリスには悪いことしちまったなあ」

何か破片でも見つかれば良いんだけど……全部焼けちゃっただろうなあ。

うーん…謝らないとね。あれ大事な人形みたいだし。

 

激しい揺れが建物を襲う。

灼熱地獄が激しく揺れていた。2回目だ。今はまだ耐えているけれどあれが何度も来るようだと流石に灼熱地獄は耐えきれないよ。

 

「崩壊しそうだな…」

それはこっちの家のこと?うーん…確かに見た目からすれば頑丈とは言い難いかもね。でも中身は別物だよ。

「一応地震対策で補強材は入っているよ」

地霊殿とか全壊して再建築した旧都の建物はやたらめったら揺れや外部からの攻撃に頑丈に設計されている。

お姉ちゃんがここら辺凄くうるさかったからだ。構造材とか補強材で費用が余計にかかるけれどお姉ちゃんそういうところに妥協全然しないからなあ。でも今になって思えばこれを想定していたのかもしれない。

っていうかあんなに激しく揺れてるってことは地上の方にも影響出てるんじゃ……今は考えないでおこう。

 

「取り敢えず避難誘導の準備とかしないといけないから霊夢の看病お願いね」

 

「おう、任せておけ」

なんだか魔理沙っていざという時頼もしいよね。

 

医務室を後にして一旦灼熱地獄の確認をしに戻る。

さっきと変わらない道。だけれどどこか雰囲気が違った。

地獄の入り口は熱で変形していて、もう完全に開かなかった。破壊する以外で向こう側に行くことはもうできない。

コンソールがある建物も見てみるけれど、さっきの揺れで建物自体が歪んでいた。これじゃすぐ崩れちゃいそう。

それに中の計器も生きている様子はない。ダメっぽいね。

これじゃあ冷却機能が生きているのかどうかすらわからないや……一応まだ灼熱地獄自体は生きている。でもこのままじゃ崩壊するのも目に見えていた。

地面に亀裂のようなものが走っている。それはまっすぐいろんなところに伸びていた。

早めにどうにかしないとなあ……でももうどうしたら良いんだろう。

 

お姉ちゃん本当どこ行ったの…早く帰ってきてよお……

 

 

 

ふと旧都の方を見ると、防衛装置が一斉に動いているのが見えた。また何かあったの⁈もう今日は次から次に…やになっちゃう‼︎

状況を確認したいからすぐに攻撃指示を出しているエコーのところに向かった。

 

途中ビルがいくつか攻撃で崩れ去るのが見えた。やばいかも……

 

 

 

 

 

「……うにゃ⁈」

地面が一瞬だけ揺れ、轟音が響き渡った。空に居たあたいには地面が一瞬起伏したかのように見えた。

やや遅れて土煙のようなものが山の懐から上がっていた。

「うわ……随分派手な爆発だねえ」

付いてきている神様はいつもの調子だった。

「感心してる場合じゃないよ」

様子を見に近くまで行ってみる。

森の中に隠れるようにひっそりと口を開けていたはずの洞窟から煙は上がっていた。それはつまりその奥でつながっている灼熱地獄がなんらかの強大なエネルギーを出しているという事だ。今はまだ爆発だけで済んでいるけれどあそこから溶岩が大量に吹き出したらもう目も当てられない。

 

「こりゃ後で天狗のところに謝りに行かないとなあ…」

 

お騒がせしたなんてものじゃない。下手をすれば山一個吹き飛ばしましたってなってしまう。いやそれだけは止めなければ……

 

「八咫烏の力はあんなもんじゃないよ。多分全力ではないんじゃないかな?」

冷静に分析を始める神さま。これで全力じゃないって…いったいどんなやつなんだい。

「ちなみにだけど…全力を出したらどうなるんだい?」

ちょっと聞くのが怖かったけれど勇気を出して聞いてみることにした。あたいは神話とかに興味ないし本もあまり読まない。だから神話に載ってるよとか言われてもわからないんだよ。

「そりゃあ……霊烏路空の体は消失するだろうね。それほど強いんだよあいつは……須佐男とかが四国を焼け野原にしてまで封印する程のやつだから」

お腹の底が焦りと緊張とでへんな気分になってきた。急に落ち着かなくなってしまう。思考がへんな方向に持っていかれて負のスパイラルになる。

「大丈夫?顔色悪いけど…」

 

「大丈夫、でもなんでそうとんでもない奴を世に放つかなあ……」

気持ちを無理にでも落ち着かせる。うう…不安で押しつぶされそう。

「安全だったんだよ。制御装置さえあればね。まさか意識を乗っ取るなんてできるとは思わなかった…」

今は責めている時じゃない。ともかく先に行かないと……

 

地底への入り口に入りさっさと地底に向かう。地底への道はいつもより長く感じられた。


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