古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.190 神話大戦 下

あ…やっと見つけた……

 

障害を排除してようやく灼熱地獄を目の前にした。

既に体の一部が破損してきているのか一部一部がちぎれかかっていた。急がないといけない。

 

破損して炎を吹き上げている灼熱地獄の入り口から中に入る。

全てを焼き尽くすような熱が体を焦がしていく。それでも私自身の体はそんな熱が無かったのかのように冷えていた。

 

入り口のところも至る所に亀裂が走っていて、熱が外に漏れ出しているのが嫌でもわかる。別に完全密閉とは言わないけれどそれでも外に漏れすぎると良くない。特にここはマントル直結なのだから。

炎が渦を巻きながら襲ってくる。それを左腕で受け流す。一度逸れた炎が再びこちらに引き戻される。黒色の腕が炎を飲み込み、力の一部として体に取り込む。成る程…あの白蛇の本来の力は「取り込む」でしたか。ちょうどよかったです。正直私は喰らって想起するだけですから神の力全てを奪うと言うのは本質的に向かない。

炎の渦がいくつかこっちに向かってくる。意思を持ったそれはどうやら攻撃のようだった。事前の対抗措置とでも言うのだろうか。

それら全てを回収し、中心部へ進む。純粋な熱風が服を焦がす。

布が焦げるほどの熱風ってなんだかなあ……それはもう熱風というより熱の暴力というべきだろうか。

 

さてお空はどこだろうか……まだお空でいるのだろうか?

そう思い探そうとしたけれど、それより先に向こうはこちらに興味を示してくれたようだった。

「今日はお客さんが多いね」

その声の主は、黒い羽を広げ私の前に降り立った。それは紛れもなくお空だった。私と同じくらいだった身長は180センチほどまで伸び、それに合わせて体のいたるとこが大人になっていた。片脚は岩のようなものに包まれている。

 

「お空…じゃないようね」

サードアイを使えばもっと簡単に分かっただろうけれど今の私にはそれは使えない。だけれど感じる気配はお空のものではなく、完全に私が取り込んだモノと一緒であった。意識に取り込まれたわけではないようです。それだけが唯一の救いだった。まだ間に合う……

「小娘と一緒にするな雑種。我が名は八咫烏」

雑種…確かに今の私はいろんなものが混ざり合ったいびつな存在でしょう。それで構わないけれど。

「なら話が早いです。早くお空を返してください」

見た所お空の体を乗っ取っているというより借りている状態に近い見たいです。おそらく…お空の体で全力を出すのは不可能。

「今はまだ無理だ」

悲しそうな顔をしながら八咫烏はそう答えた。やはり……お空の体は借りているだけ。だとしたらどうやって自身の都合の良い依代を見つけ出すつもりなのだろうか?ここでずっと待っているわけにもいかないであろう。

「ほう……」

だとしたらどうするのだろう?ちょっとそれが気になって…サードアイが使えない事をちょっとだけ後悔した。妬まれる能力であっても私にとっては必要で……ある意味今まで私を助けてくれてきたものだかでしょうか?

 

「今はまだこやつの体が必要だ。ああ……少しづつ本体を形成する。それまで借りているつもりだ」

なるほど、力を使って本体を再生するつもりですか。実際貴方がどのような体をしていたのかは知りませんけれど…時間かかるものでしょうね。

「それで……お空に体を返した後の貴女は何をするのですか?」

仮にそれが事実だとしよう。お空も戻ってくるとしよう。それで、体の戻った貴方は一体どうするつもりなんですか?

力を持つ者の思考は大概決まっているようなものですけれど例外だって存在する。だから決めつけることはしない。

 

「決まっているだろう」

その神様は無邪気そうな笑みを浮かべ、当たり前のことだと言わんばかりの態度でこう言った。

「地上を焼き尽くす。それだけだ」

 

「そうですか……」

どうやらこのままにしておいてもお空は無事に帰ってくるようだ。彼女の話を全面的に信じればだけれど……だけれど信じたところで今度は地上が焼け野原になる未来しか無くなる。それはすごく困る。地上は大事なところですからね。と言うより幻想郷を焼き尽くすなんて暴挙紫が黙っていないでしょう。だけれど地上になんらかの影響が出るのは避けられない。

「こやつの恩もある。地底は見逃すが……お主はどうする?」

へえ…そうすれば私が協力すると本気で思っているのですかね?

だとしたらお笑いものです。

「ではここでくたばってくださいまし」

交渉は決裂した。ここで無理やりにでもお空からあれを引き剥がし、叩きのめすしかない。

向こうも交渉が失敗したのを悟ったのか殺意を向けてきた。そういえば……妖怪や神にとって戦いとは結局死ぬか殺すかだった。

最近弾幕ごっこの中で過ごしていたからそんな当たり前も当たり前じゃなくなりかけていた。

どう思います?

それは私の怠慢

ですよね

「弾幕ごっこで…決めようとは思いませんか?」

 

「あいにくだが弾幕ごっこをよく知らないのでな」

あらそれは残念……

でも弾幕ごっこも慣れると楽しいんですよ?まあ…それをあなたが知る事はないかもしれないですけれど。

 

失った腕の代わりにそこにある黒い蔦の塊のような腕を引き延ばす。

伸縮自在って良いですよね。

でもそれを予想していたのか私の腕を素早く回避。お返しと言わんばかりにその腕に火を吹いた。燃え上がる腕だけれど直ぐに炎が収まり白煙だけが上がる。

そもそも腕というより神力の一部が邪念化して実体になったものだから物理攻撃はあまり効かない。

それを向こうも理解したのか、直ぐに次の行動に出る。

八咫烏の姿が消える。

真下に向かって急降下したらしい。

らしいと言うのも私はちゃんとそれを見ていないから。ほぼ同時に上昇。距離を取る。

灼熱地獄の天井を背に大きく旋回。後ろで同じくこちらに向き直った八咫烏と対峙する。

随分と距離が離れている。普通に考えればスナイパーライフルとかが活躍しそうな距離だ。私の攻撃では届かない。

なら近づこう

 

私が動き出すのとほぼ同時に八咫烏は攻撃してきた。高エネルギー反応。熱流が彼女を中心に渦巻く。遠距離からのビーム砲。名前こそ言わなかったもののそれはロイヤルフレアだった。ほぼ一直線のこちらに向かってくる。

エルロンロールで横に避ける。視界が回転し、体が遠心力で引っ張られる。弾幕を私の周囲に展開。そのまま八咫烏の側まで飛び込む。あんな強大な熱攻撃を出したのだから流石の彼女もすぐに反撃はできなかったらしい。すれ違いざまに叩き込む。

全弾命中。だけれど咄嗟に結界で守ったらしくダメージにはなっていない。

規格外も良いところだと思ったけれどよくよく見たらあの結界私が与えた護身用のお札だった。

 

反転しもう一度攻撃を叩き込む。近接戦。相手に持っていかれ原型をとどめていない脚で思いっきり脛を蹴り飛ばす。

「……ッ‼︎貴様…!」

やっぱりそこは痛いらしい。そりゃそうか。私だってそこを蹴られたら痛いですよ。

もう一度蹴りを叩き込もうとしたものの、膝をぶつけられて蹴りは空ぶる。

素早く無事だった腕の方で拳を叩き込む。体を逸らされて回避される。

反撃で殴られそうになる。その拳を異形化した腕で包み込む。

流石に体はお空だから引きちぎったりは出来ない。それでも、腕から神力もとい八咫烏を取り込もうとする。

 

「いただきます」

 

「させるかっ‼︎この化け物‼︎」

なにかが腕を切り落とす。体が支えを失い後ろに吹き飛ばされそうになる。

腕を切り落としたのはお空の手から放たれている光の棒のようなものだった。

それが何かはわからないけれどガスバーナーとかそう言った類のものだろうか?でも腕に効果があるってことはきっと力自体を切る存在なのだろう。

 

考えている暇はない。すぐにその場から離れる。私を狙っていくつもの弾幕と、高熱のレーザーが飛び交う。左右で腕の重さが違うからバランスが取りづらい。

ボロボロだった服にいくつもの焦げ目が生まれる。それでも左右にシザースして狙いをつけさせない。どうしても命中してしまうものは素早く迎撃していく。

それでも岩壁沿いに追い込まれる。というより追い込まれた。八咫烏が意図してやったわけではないだろう。私だって意図的にやっているのであれば気がつく。全くの偶然だった。それでもその偶然にあやかろうと彼女は私めがけていくつもの霊弾とレーザーを降り注ぐ。それによって破壊された岩壁が視界を奪う。体をひねって宙を舞う大きめの岩を回避する。

その直後目の前でレーザーが着弾。真っ赤に焼けた岩が剥離し、そこに飛び込む形になってしまう。炎が腕や頬を焼く。

服が溶けた岩に当たって燃え始めた。咄嗟に手で握って揉み消す。

 

だけれどそれに気をとられ目の前に来ていた尖った岩の破片に気づくのが遅れた。熱い感触と、何かが焦げる匂いがして左目から視力が消えた。

ようやく黒煙を抜けることができた。

少し距離を取りながら左目に手を当てる。

尖ったものが瞳から飛び出している。同時に焦げる匂い。

ゆっくりとそれを手で引っこ抜く。まだ内部は熱が残っているのか赤く光りを放っている。

ふと頬を何かが伝っているのに気がついた。

恐る恐るそれに触れてみる。

真っ赤な血が手を汚した。

どうやらさっきのは瞼か何処かを一緒に傷つけたらしい。眼球にものが刺さったくらいじゃ血なんて流れませんから。

 

まあ…それくらいなら問題はない。

 

八咫烏は私を遠巻きに観察しているようだ。まあそれもそうか……

ではこちらも反撃しましょうか。左目が使えない分視野が狭まる。でも今は仕方がない事。

 

私の腕と足を喰らったのだ。ちゃんと仕事してくださいよ

 

それは私次第。

でしょうね。

 

 

「降参するか?今なら見逃してやってもいいんだぞ」

はて降参?誰に向かって言っているのでしょうか?私は絶対降参なんてしませんよ。

「まだ左目が潰れただけです」

 

「ほう……まだ闘志を失っていないとはなあ…邪神を取り込み精神を蝕まれているのにようやるわい」

それはお互い様だと思いますよ。ねえお空……

それに…切り札はいくつかもってきているので……それらを使ってないうちは負けなんて認められないんですよ。

 

ボロボロになった服のポケットからスペルカードを取り出す。

それに妖力を流し込む。

「想起『ぶらり廃駅途中下車の旅』」

 

その宣言とともに私の後ろに擬似的な隙間が現れる。それは見た目こそ紫の隙間ではあるものの、それ自体どこに繋がっていると言うわけでもなく、紫の空間に接続されていると言うわけでもない。ただの見かけだけだ。ただし…そこから引き出されたものは本物であって、私の想像のものなのだからあの隙間は私の頭脳と直結していると言える。

警笛が鳴り響き、闇を切り裂く光が隙間から溢れ出す。

「ッ‼︎」

 

ともかくそこから飛び出してきたものを見て八咫烏が初めて焦りを見せた。

飛び出してきたのは重連のEF63とEF62。それに引っ張られる青色の客車であった。

普通それだけであれば慌てたりはしない。

それが時速100キロと言う速度で突っ込んだ場合の運動エネルギーがどれほどのものであるのかを予測できるのであれば別であるけれど。

なにせ客車だけでも重量35トン。それが12両。更に機関車に関してはEF63で108トン、EF62で96トンもあるのだ。

人に使うにはややオーバーパワーである。

実際これの元を見せてくれた紫も対人戦で使うスペルとしてはおススメ出来ないと言っていた。

 

慌てたように迎撃をしようとするも、それより先に空中を走る列車が八咫烏に突っ込んだ。

いくら規格外の神さまであっても今はお空の体に縛られている。つまり体自体は私とそう変わらない。

威力を減衰することなく列車は八咫烏を灼熱地獄の外壁と挟み込んだ。土煙と黒煙が列車の先頭を見えなくさせる。

衝突の衝撃で灼熱地獄自体が大きく振動する。列車の一部は隙間から出ることなく隙間の向こう側に未だ止まっている。

「これで……」

 

私が近づこうとした直後、強大な熱が列車の先端から発生する。同時に爆発。列車の先頭が炎に包まれた。

鉄の融解温度に到達したのか、機関車先頭が溶け始める。

後方の車両も一部が発火していた。車体表面の塗料が自然発火を始める。

「やるではないか…」

 

溶けた金属を纏い、そいつは大破した機関車から飛び出した。燃えたぎる列車先頭が力なく下に落下し、つられるように客車が引っ張られて流れ落ちていく。

へえ……やっぱり強いですね。

「良い顔だな」

その言葉で頬がつり上がっているのを自覚。私は……笑っているのだろうか。




スペルカード使用列車モデル
1964年10月1日ダイヤ改正後
上野行き602レ
急行白山
軽井沢→横川区間

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