古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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本日2本目


depth.193 神層心理 中

「ここは……」

 

目を覚ませばそこは石畳の上だった。さっきまで灼熱地獄にいたはずなんですけれど……

手で地面を触ってみる。石特有のひんやりした感触はなく、ただそこに無機質な何かがただあるという感じが手のひらから伝わってくる。

本当にここはどこなんでしょうか?妙に体が軽いですし……

ともかくいつまでも座り込んでいるわけにはいかない。起き上がり周囲を確認する。

石畳の道が延々と続いている以外に周囲には何もなかった。真っ白…それに近いようななんだかねじれた空間のようなそんな雰囲気の場所だった。

ただ、少しだけ熱い。

ポツンと、所々で波紋が生まれる。三次元的に…空間に球形を描くようにして生まれるそれらは、やがていくつもいくつも生まれ増大し、景色を変え始めた。

それに構うことなく足を進める。こういうのは気にしないようにするのが最も良い。

奥に進むと不意に鳥居が現れた。それも一本ではなく何十本何百本と並んでいる。さっきまでのはは波紋は消えて、ようやく視覚が落ち着く。

目の前に広がる光景はそれはさながら朱色に塗られた通路のようになっていた。

その鳥居一つ一つをくぐり抜け奥へと向かう。どうしてそうするのかはわからない。だけれどここでは理解するより先に体を本能のままに動かす必要がある。そもそもこの場において自我とはひどく不安定なものであり、あってもなくても変わらないものであるから。

 

淡々と続くその道は終わりを告げるのだろうか?そう考え始めた時目の前の空間が開けた。崩れた鳥居やボロボロになった鳥居などが周囲を囲む異様な空間。そんな少しひらけた空間に、それはいた。

大きさは普通の鴉とほぼ同じくらい。それでいて足は三本ある。

それは私の姿を視認し、大きく狼狽えた。

少しづつ距離を詰めるために歩き出す。

「くっ!くるなあ‼︎」

その途端後ずさり、発狂する。いきなりどうしたと言うのだろう?

そうか…ここは八咫烏の深層心理だったのか。確かにそこに私がいたら驚きますよね。でもやめるつもりはありませんけれど。

 

鳥居が一斉に燃え上がる。火柱となった鳥居が火の粉を吹き、周囲を赤く…紅く照らす。

焼ける鳥居の通路を抜ける。周囲の光景も鳥居と同じで真っ赤に燃え上がっていた。炎が支配する空間で私は八咫烏と対峙する。

八咫烏が宿すその強大な力はこの空間では使えない。それでもここは向こうの深層心理。何があってもおかしくはない。こうやって相手の深層心理に入り込むのはフランの時以来です。あまりしたくはないのですけれどね。向こう側に引っ張られますし。自我を保つのもすごく大変ですから。

それでもここで対峙したということは…向こうはもう抵抗できない状態になっていると認識してしまっているのだろう。

「くるなと言われましても私はあなたを徹底的に潰さないといけないんですよ」

結局ここに私が自我を保ちこうして存続できているその意義はなんとも悲しい復讐のような感情であったわけです。

そしてそれを達成するための条件もすでに揃ってしまっている。

「ふざけるな‼︎そんな…そんなこと……」

認めないなんて言わせませんよ。

「悔やむにしてももう遅いんですよ」

そしてここは私のテリトリー。もう誰も私を止めることはできない。

さあ始めましょう。終わりを‼︎

「まだだ‼︎まだ……」

諦めが悪いのは嫌いじゃないですよ。

だから……徹底的にトラウマで心を破壊してあげますね。

 

 

 

 

 

さとり様と八咫烏様を包んでいた光が収まった。そこには互いに黒い煙を上げた2人。そのまま落下していく。

思わず飛び出した。2人がこのまま落ちたら溶岩の中に飛び込んじゃう!生身であそこに落ちたら誰だって死ぬに決まっている。

「さとり様‼︎八咫烏様‼︎」

気を失っているこいし様を右腕に抱えたまま2人を左手で掴む。だけど流石に三人分の重さは……むり‼︎

やっぱり私じゃ支えきれなかった。

無理やり羽を羽ばたかせて飛び上がろうとするけれど重量バランスも崩れちゃって回転しながら落下していく。

このままじゃ…溶岩に落ちちゃう!

必死に羽ばたく。それでも落ちる速度は変わらない。

 

だれか…助けて……

 

 

「危ないねえ……」

 

「やれやれ随分と派手にやったもんだ」

不意に横から声がして、八咫烏様とさとり様に別の誰かの手が伸びた。

そのまま2人をつかんだ腕がそのまま引き上げていく。制御不能だった私の方もようやく体勢を立て直せた。

横に首を向ける。そこには私のよく知る顔がいた。

「お燐‼︎それに諏訪子様!」

 

「間に合ってよかったねえ…」

さとり様を引っ張り上げたお燐と八咫烏様を持ち上げた諏訪子様と一緒にすぐその場を離れる。安全な灼熱地獄の外を目指して飛ぶ。

灼熱地獄を抜けすぐに地面に三人を下ろす。お燐がすぐにこいし様の応急手当てを行う。

服の切れ端で患部を塞ぎこれ以上の流血を抑えている。私は…こっちも2人をどうにかする。

外傷は…多すぎてもう訳がわからない!さとり様は異形になっちゃってるから余計にどこをどうしていいかがわからなくなっている。

「ゲホゲホ…まさかまだ…なんてね……」

 

「さとり様!」

今は喋っちゃダメ‼︎もうさとり様はボロボロなんだから……

「……」

八咫烏様が急に起き上がった。そのまま羽を広げて…飛び出さなかった。しばらく羽を広げさとり様を威嚇し…諦めたかのようにその場に顔を伏せた。

もしかして怖いのかな……

 

ぐちゃぐちゃとさとり様の体が変な音を出した。慌てて意識をそっちに戻したら、目の前でさとり様の異形になっていた体が蠢いて、急に膨張し始めていた。高速で細胞分裂が進むような…奇形が奇形の肉塊を呼び成長していくようなそんな感じ。

「八咫烏の力…結構奪ったから…」

笑い事じゃないです!

「ちょっと私の蛇が壊れちゃうよ!」

諏訪子様がさとり様に何か術のようなものをかける。膨張が止まって今度は元の異形の姿に逆再生するように戻っていく。

大丈夫…?なのかな……

 

「それで…八咫烏あんたはどうするんだい?もうあんたは全盛期の3割しか力は出せない。もう地上を焼き尽くすなんてことはできないさ」

諏訪子様がそう八咫烏様に告げる。全盛期の三割。それでも私の中にいた頃はそれくらいしか出せないって言っていた。

「そう……かもな……」

 

「どうするかは神奈子に任せるけど…もうあんた生きることはできないね」

八咫烏様……このままだと滅ぼされちゃうの?それはなんだか悲しすぎる。悪いやつだけど根は良いヒトなのは私がよく分かっている。だから……

「だったら私が…」

 

「お空?」

 

「私が八咫烏を宿す!」

どうせ消すんだったら私が宿したっていいでしょ!

「良いのかい⁈だってそいつは……」

確かに私の体を乗っ取ったけどちゃんと後で返してくれたし……それになんだか放って置けない。うまく言葉には出来ないんだけど……でもこのまま消しちゃうのは可哀想というかなんというか違う気がする。それに火がたくさんあって暑いところが居心地がいいなら灼熱地獄は丁度いいところだよ!だからさ……

「あはは!いいよいいよ。だったら八咫烏は好きにしな。後で神奈子に伝えておくさ」

諏訪子様が大笑いする。そんな変なこと言ったかなあ……

でも…良かったね。

「勝手なことを……」

 

「あなたも勝手にしてたじゃん!」

人のこと言えないよ八咫烏様。

お燐もそれでいいでしょ?ダメなんて言わせないからね。

何か言いたげなお燐を見つめたら諦めたのかわかったと一言だけ言った。

 

小さくなった八咫烏様の体が溶け出す。やがて形を失った体はそのまま光になって私を飲み込んだ。暖かい…体の中から熱が出てくる感覚。

 

光が収まった時そこに八咫烏様はいなかった。ただ、胸のあたりにまた目ができていた。どこを見るわけでもなくただまっすぐ前だけを見つめる。こいし様やさとり様と同じ第三の眼でありながら2人のとは全く違う。

 

 

 

 

「うがッ‼︎」

 

さとり様の体からいくつもの白い何かが飛び出す。それ一つ一つが固まりとなって集まり、中くらいの蛇になった。

同時にさとり様の体で異形になっていたところが元に戻って……そのまま干からびて砕けた。

最初は腕。次に腰から下が。次々に砕けていく。バラバラになったそれらが風に吹かれて消えていく。

「さとり様⁈」

あまりの光景に叫ぶことしかできない。砕けた破片を集めてみるけれど枯れた葉っぱのように砕けてさらに小さくなるだけ。

「平気……そういう契約だったから……」

普段よりもっと力なく…抑揚のなくなった声でさとり様が言う。

そういう契約って……そんな……

「さとり!流石に今回は……」

もうさとり様に無理して欲しくなかった…私が助ける立場になりたかった。なのになんでこうなるの?ねえなんで‼︎

思わずさとり様の体を抱きしめる。普段の半分くらいしか重さがなくて、それがさとり様の命の今の重さなんだと嫌でも分からされる。

「こりゃよく吸い尽くされたもんだ。でも再生が始まっているね」

諏訪子様が逃げ出した白蛇を握りつぶし、自身にと取り込む。

それには取り込んだ八咫烏様の力も入っているわけで……全部あなたのものになったんだ……

 

体の各部から煙が上がって、少しづつだけど再生しているのがわかる。だけどもう私はこれを見たくなかった。

私はどうすればよかったんだろ……

「お空……気に病まないで」

お燐が頭を撫でてくれた。荒ぶっていた感情が少しだけ落ち着く。

 

「悪いのはこいつらだから」

お燐……?

後ろにいるはずのお燐の方を向く。そこには諏訪子様を引きずっていくお燐の後ろ姿があった。

「覚悟しろクソ野郎」

「ヒッ」

普段のお燐とは思えないドスの利いた声に思わず声を上げてしまう。

怖い……

 

 

「お空……頼み聞いてくれる?」

消えそうな声でさとり様が呟いた。

「なんですか?私にできることならなんでもします!」

必死の私を見て、安心したようにさとり様は私の顎を撫でた。

「制御盤がまだ生きてるなら……黒と黄色のボタンを押して……」

 

「分かりました…黒と黄色のボタン…」

 

さとり様をその場に下ろして完全に崩壊している制御室に向かう。

瓦礫を放り投げて撤去していく。ようやく制御盤が見えた。確か黒と黄色のボタンは…これだね。

ボタンを覆っていたカバーは完全に壊れちゃっている。

どうしてこれを押して欲しいって言ったのかはわからない。だけど……

私はそのボタンを押し込んだ。

 

その瞬間、小さな揺れが灼熱地獄から響いた。

 

 

「これで…あの人たちは自由」

 

 

 

 

突然船を固定しているアンカーが爆発した。喉が渇いたからとお茶を飲もうとしていたタイミングだったせいで思いっきり服にかかった。白い服が完全に茶渋色に染まった。最悪…とぼやく前に体は咄嗟に操舵室に向かって駆け出していた。

左右のバランスが取れずに船が傾く。一体何が起こったの⁈

それと同時に今まで動かせないようにロックがかかっていたはずの機関が勝手に作動する。出力が少しづつ上がっていって、船体の傾斜が元の戻る。

船体が少しだけ固定台座から浮いた状態で静止する。同時に安定翼が開く。

今はこんなの使わないから戻す。

「今の揺れはなんだったの……⁇」

状況を確認しなきゃ……

「今の揺れはなんなの⁈」

一輪が遅れて操舵室に入ってきた。

「今原因を調べてるところ!外で動きがないか見張って!」

 

「わ、わかった!」

すぐに操舵室の横に張り出しとして設けられた見張り台に一輪が向かう。

 

「大変だ!後ろから高圧蒸気が……」

一輪が後ろを見ながらそう叫んだ瞬間、船全体が激しい揺れに襲われた。蒸気に押されるように一輪が船内に吹き飛ばされた。でもそっちに気を配っている暇はない。

前に向かって船体が押し出される。操舵しようにもこの狭い空間じゃ逃げ場なんてない!それに無理に舵をきって壁に横からぶつかったら船が壊れる。横とか斜めからの力には船の構造ではあまり強くない。むしろぶつけるのなら正面から一気にぶつかった方が良い。そっちの方が被害が少なくて済む。

「このままじゃ壁に押しつぶされるよ!」

「分かってるってば!」

エンジンが動いているなら…全力後進‼︎

甲高い音が足元から響いて、河童が勝手に増設したエンジンがその力を発揮する。

前に進む力に逆らい船体は速度を落としていく。それでも間に合わない。

だけど、目の前の壁に亀裂が走り、船が衝突する瞬間壁が崩れ去った。

そのまま開いた穴に船体が押し込まれる。

増設された左右のバルジが壁に擦れ火花が散る。

 

押し出されるように洞窟を無理やり船は押されていく。

もしかしてこれ地上に出れる?だとしたら……

賭けるしかない!チャンスはこれだけだから!

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