しばらくしたらこいし達が戻ってくるようなのでしばらく応接間で待つことにした。
なるべく意識をされないよう霊夢の意識に隠れるようにしてひっそりとしている。まあ霊夢という存在そのものが集団意識の中では存在が大きいから相対的に側にいる私の認識が薄まっているというだけなのですけれど。
色々なところを妖精や鬼達が駆け巡っていて普段より周囲は忙しそうにしていたけれど、それでも私は手持ち無沙汰。つまり暇であった。そもそも怪我人なのだから暇でなくてはならないのだけれど。
なのですぐ隣で手を繋ごうとしている霊夢の手を突いては留める遊びのようなものに意識を集中するくらいには暇な方が良い。
だけれど私にとって静かに安静にしていてというのは些か無理があると思う。
部屋の扉が勢いよく開いて、部屋に誰かが入ってきた。妖精たちというわけではない。彼女達ならもうちょっと開け方が丁寧だ。ちなみに鬼の場合はそれこそ蹴破るか扉を壊して入ってくる。つまり妖精や鬼ではない別の誰かということになる。
霊夢が素早く意識を切り替える。一瞬だけ戦闘態勢になった意識はすぐに引っ込められた。
「やっほー‼︎」
真っ先に私に訪問者が飛び込んでくる。どこか聞いたことある無邪気な声。体にかかる衝撃から私とほぼ同じくらいの大きさの子だと理解する。ならあとは簡単だった。
「フラン?どうしてここに……」
紅魔館の主の妹は私に抱きついて太ももの上に跨っていた。霊夢もこれには困惑している。
「私も来ているわよ」
透き通その声が響き渡る。その声の主を探せば、それは応接間の真ん中にいた一匹の蝙蝠だった。それが小さく爆発したかと思えば、発生した煙が収まった時そこにはいつものレミリアさんがいた。
「なんであんた達がいるのよ。ここは地底よ」
私が口を開くより先に霊夢がレミリアに噛み付いた。そこまで威圧的に言わなくてもと思ったものの、それが彼女の本心なのだなあと納得し咎めるのをやめる。ただ、喧嘩するようなら止めさせるつもりだ。
「別に私たちが地底に来ようがそんなの私達の勝手でしょう?」
真っ向から喧嘩売るような言い方はやめてくださいよ……無駄にプライド高いんですから…
「お姉様が運命でさとりが怪我するのを見たからお見舞いに来たの!やっぱり怪我してたね!」
フランが体を弄ろうとして手を服の内側に入れる。それを締め上げて手首の関節を外す。痛そうだけれどフランのスキンシップは時々度を過ぎる事があるからこれくらいがちょうど良い。あといい加減太ももの上から降りてください。重いです。
「あんたいい加減離れなさい」
あ、霊夢嫉妬していますね。顔にフランに対する妬みが見て取れます。別にそんな嫉妬しなくていいのに…何をそんな嫉妬するんですかねえ?よくわかりません。あ、お札貼られた。あれじゃしばらく動けませんね。
「それにしても…運命で私が怪我する事なんて分かるんですね」
「当たり前でしょう?運命は決定づけられた答えのようなものなの。そこの人間のような例外を外せば運命の理からは逃れられないわ」
運命を操るレミリアらしい言い方…だけれど少し悲しそうな表情。えっと……運命を操る能力の応用で私が怪我をする未来を見れたのは良いけれどいくら運命をいじっても私が怪我をする未来が回避できなかった。あるいは怪我をする未来を無理に変えると幻想郷そのものが崩壊しかねない事態になったってところでしょうか?手を強く握りしめた跡があるますし唇噛みましたね?ちょっとだけ傷になっていますよ。でも黙っていることにする。
「私だけ例外ってどういうことよ」
そういうには霊夢。
「言葉通りの意味よ。貴女が一番運命の理から外れている存在なの。だからあなたが混ざっただけで未来は読めなくなるわ」
霊夢がというより博麗の巫女がと言った方が良いかもしれない。そしてその理由も継承する飛ぶ程度の能力が関わっている。あれは運命とか空間とかそういう色々なものから浮く…つまり少しずれた次元に入り込むことになり事象観測の結果として発生する単属的未来予知を妨げる効果がある。本人がどこまで自覚しているのかは分からない。でも無意識的にやっている可能性がある。まあ教える必要はないでしょうけれど。
「失礼ね。私は運命なんてものに縛られるのはごめんなのよ」
「ええ、そっちの方が面白いからそのままでいてほしいわ」
2人がそんなやりとりをしていると再び扉が開いた。
入ってくるのは2人分の足音。
「あ、レミリア達来てたんだ!」
「あ……えっと…」
この状況になんら違和感を見出さないこいしと、なんて言っていいのかわからないお燐がそこにはいた。
確かに今の状態はちょっと見るものの思考を停止させるかもしれない。
気にしなければどいうという事はないのですけれどね。
あ、フランこれお見舞いの品ですか?ありがとうございます。
動けないフランが必死に私に箱を渡してきたのを皮切りにレミリアが動いた。
「そうだったわ!私もお見舞いの品持ってきたのよ」
これ…もしかしてワインですか?うーん…確かにワインだったら問題なく飲めたから良いのですけれど……それでも一度にたくさんは飲めないしなんとも…でも気持ちはすごく嬉しいのでもらう。気持ち大事。これ鉄則。
ちなみにお空は謹慎のため部屋にいる。
流石にあんなことがあった後なのだ。いかなる理由があったにせよ処分が必要となる。だから私が寝ている合間にこいしが謹慎をさせていたようだ。本人もそれを納得しているようだった。ただ処分のことが不安で仕方がないようで時々部屋の方からお空が歩き回る音がする。
あれは相当なストレスになっているはず……どうにかしてあげたいけれどこればかりはどうしようもない。
あとでこのワイン持って行ってみようかな?
ちなみにフランの見舞い品はぬいぐるみだった。早速頭に乗せてみたらこいしとフランが鼻から血を流した。わけがわからない。
気づけば数時間ほど経っていた。
私が色々考え事をしている合間に霊夢達は霊夢達で色々と決めたらしく明後日まで地上の私の家に泊まることになった。それに伴い私も地霊殿から家の方に移ることになる。
レミリアとフランはしばらく地霊殿を満喫してお引き取りになった。あまり長居されても地霊殿側の負担が大きくなります。なにせ紅魔館当主とその妹御一行だ。復興作業の最前線指揮所になるここでは負担もいいところだ。秘密とか非公開な情報とかがふとした拍子に漏れる可能性もある。
とはいっても私が関与しているのは今回の件の隠蔽とそれ以外では闇に紛れて処理をしないといけない者のリストくらいだ。他は知らない。
結局それ以外は特になく、食べ物を食べようにも内蔵の一部がない状態で食事をとったらどうなるか分かったものではない。なので皆との食事はせず一足早く部屋に戻ったはずだった。
「霊夢…なんで抱きついているの?」
何故か後ろから抱きしめられた状態だった。ご丁寧に布団に入り込んでである。部屋に戻って寝ようと思っていた矢先のことだった。私の後に続いて部屋に入ってきた霊夢が後ろから抱きついてそのまま布団に押し込んだ。ほんとどうしたのよ。
「抱きついちゃダメなの?」
確かに幼い時に悪夢を見たとかでよく添い寝はしましたけれど……
ああ、寂しいからと言うのもあるのかもしれません。霊夢の精神は所々不完全になってしまった。その責任は私にもあるのだから。
「……いいですよ」
体を霊夢に向き合わせ、頭を胸のあたりに持っていく。こうさせた方が霊夢は一番落ち着くらしい。
こういう時サードアイは便利なものだ。その分のデメリットが大きいからあまり使いたくはないけれど。むしろもう無くて良いかもしれない。
戦闘以外でも多用してしまっているからか私の精神はもう人間ではなくなってきてしまっている。
何をもって人と呼ぶのかは議論の余地があるけれど…もう私の考え方は妖怪寄りになってしまっていた。結局人でいたいと言う私の願いはサードアイがある限り無理な事だったのかもしれない。
「……」
「悩み事?」
「贅沢な悩みです…」
そう、本当に贅沢な悩みなのだ。霊夢が気にする必要は全くない。
「あっそう……そうだわ。寝る前にトイレ行ってくるわ」
さっきまで撫でられるのに甘んじていた霊夢が急に起き上がり部屋の外へ向かう。いきなりすぎて対処できない。
急に霊夢が出て行った扉をただ呆然と見ていると入れ替わりにお空が入ってきた。なるほど、霊夢…これを察知したのね。空気を読んで2人きりにしてくれたと……霊夢らしいわ。
「さとり様起きてますか?」
「お空?どうしたの?」
サードアイが彼女の心を素早く読み取る。
真っ先に読み取れたのはこれから先の処遇における不安。
今のお空は体に再び宿した八咫烏の件で色々と面倒な事態になっている。別にお空が悪いわけじゃない。ただ八咫烏の所業を巡って守矢の2人と紫との間で色々とあるらしい。こればかりは私も口を出させてもらうけれどまずは向こうからのコンタクト待ち。
それと私への謝罪…後悔の感情と言ったほうがいいのかしら。
少しの合間何かを言いたそうにしながら黙っていたお空がようやく口を開いた。
「ごめんなさい…こんなことになっちゃって…」
自責の念が強い。これ以上闇雲に自分を責める必要なんてないのに……見ておるこっちが辛くなってくるではないか。確かにやらかしてしまった事については庇い様がないけれどそこまで強く責めなくても良いの。
「気にしないで。色々と責任はあるけれど……貴女があれこれ悩む必要はないわ」
これくらいしか言えない。それでもお空に安心して欲しかった。だからゆっくり抱きしめる。一気に成長してしまい頭まで手が届き辛い。
「さとり様……」
近づいた事で心がより深くまで読めてしまう。お空の心の奥底にあったのは…本能的な恐怖だった。それは私に対するもの…
ああ、この子は…私にも恐怖を抱いてしまっていたのか。私が怒っていると勝手に思い込んでしまっている節があったのもこれが原因。
安易に八咫烏の力に頼ってしまったこと。そしてその結果罪を背負ってしまったこと。その発端は私が居なくなってしまうのではないかという恐怖だった。
「お空……ごめんなさい」
ここまでお空が恐怖を感じてしまっているなんて……
もうちょっと考えてやるべきだった。もう今更遅すぎる……
「さとり様?」
「貴女に無理に背負わせてしまって……本当は貴女は、いいえ。誰も背負う必要なんてなかったのよ」
これは私の勝手なエゴだ。だけれど…言わずにはいられなかった。心配されるのはわかる。だけれど私にも譲れないものはあったのだ。やっぱり私は弱いのかもしれない。
「飛行状態安定したよ」
気流に乗るたびに損傷した船体ではバランスが取れず何度も大きく揺れていた床は今では僅かに左右前後で揺れるだけとなった。
「そう、じゃあ被害をまとめようか」
さっきからいろんなところが壊れているらしい。一通り2人で船体を見て回り状況を確認する。1時間ほどでムラサ船長と再び合流した。
「メインエンジンとサブエンジンの一つが脱落。左側のバルジが全部持っていかれたかな。そっちに装備されていた兵装も全滅」
あの洞窟をこの大きな船体で無理やり通ればそうなるはずだった。岩や岩盤に擦り付け、ボロボロになった船体にとどめを出したのは狭く閉じた出入り口だった。左側面が大きくえぐられてしまっていた。
これは痛いかもしれないけれど船を守る人工結界は健在らしい。それくらいがあれば多分大丈夫だろう。
「エネルギー機関も損傷で出力が出せないから浮いているくらいにしか使えないね。でももっと重症なのは……」
「飛倉の破片が足りないってことね」
本来の船体は無事だった。それは幸いなのだけれどこれだけでは魔界に封印されている聖様を救う事は出来ない。
この船自体飛倉を改造して作られたものだと聖様は言っていた。
ただそれは飛倉全てを使用したわけではなく、半分近くは使用されずに砕け散りあたりに飛び散ったとされる。一応この幻想郷内に必要な分は存在しているのは今までの調査でつかんでいる。
あとはそれを集めることができれば良いのだけれど。
それにはまだ時間がかかる上に地上は一面の銀世界。春を待たないと流石に探すのは無理だろう。
雪の中から掘り起こすのは流石に非効率的すぎる。
雪解けと同時に捜索をするか。確かナズーリンと星は今地上にいるはずだ。あとでコンタクトを取ろう。