古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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番外編 時と空間って違うようで似ている 下

「あら、フラン。起きてきたの?今ちょうどさとりからたこ焼きを貰ったから一緒に食べましょうか」

「⋯⋯⋯⋯」

レナータさん目を背けないでくださいね。怪しまれますから…まあ私は証拠隠滅をしたいだけですけど…

「エクレアもあるので口直しが必要でしたらどんどん食べてくださいね」

口直しになるかどうか分かりませんけれどね。

「わーいエクレアだ」

 

「⋯⋯怖いなあ、色々と」

「え? 何か言ったかしら?」

「いえ、何も言ってませんよ。では私はお先に⋯⋯」

レナータさんが逃げ出した。巻き込まれるのを恐れたのでしょうけれど…そんなことは知らないし私だって巻き込まれたくないのでここでおさらばしようと思う。

それに運が良ければ片方は助かるわけですからね…

「私も行きますね」

 

「二人ともどうしたのかしら…」

後ろでレミリアの声が聞こえたもののそんなものは知らない。

「そんなことよりお姉さまたこ焼き食べましょう!」

「そうね……」

部屋から出て駆け出す。ここにいたら巻き込まれますからね。

あ、悲鳴です。

 

これは…フランさんの方ですね。

そんなことを考えながらレナータさんの部屋に駆け込む。自ら罠に入ったような気がしますけれど…まあ大丈夫だろう。

「げっ、もうバレましたか⋯⋯。さとり、この場は任せますね。私は罠カード、緊急脱出とかで一足先に失礼──」

レナータさん…逃げるつもりですか?

別に逃がしませんよとか言って道連れなんてことはしませんから安心してください。

「逃げたら後で弾幕ごっこです……」

でも少しは脅しておきましょう。

部屋の扉を蹴破って駆け出す。うん、私がレミリアに追いかけられることは確定ですけれど…

「さとり!? ちょ、ちょっと、私はまだ逃げれてない⋯⋯あっ」

だがどうやらレミリアさんの頭にはレナータさんしかなかったらしく…その上逃げるのが遅いのか魔法を展開する前にあっさりと捕まっている。

「レーナー?」

「さ、さとり! 元凶はあきゃぁぁぁぁ!」

完全にとばっちりになってしまいましたね。

 

「逃げる準備に時間がかかってたら本末転倒ですよ…」

逃げるときには迅速にですよ。もちろん私も気配を薄くしてなるべく視界に入らないように気をつけている。

「あなたもこれ食べてみなさい?ちなみに私は当たりを引いたけれどフランが辛さで火を吹いてたわよ」

 

「やっぱり私の魔法、作る時間があることが難点ですね。ええ」

それ結構致命的ですよね。後レミリアさんそれ本当に辛いやつですからね。冗談抜きで…

「とりあえずおやめくださいお姉さま。死にます。辛いの食べたら死にます。⋯⋯あ、本当にやめ⋯⋯」

慈悲もなしに口に入れましたよこの方…悪魔だ…いや悪魔か。

「かっ!? あ、ああ⋯⋯わ、ぁあ!?」

 

「そこまで辛くしたつもりないんだけれど……」

そもそも私がちゃんと食べられるレベルで作ったはずですよ?何故か小悪魔さんとか倒れましたけれど…辛いものに耐性ないんですかね。

 

「むり! ほんほにむり! わひゃひ、からいのむり!」

ああ…あれはもうダメですね。レミリアさんも辞める気なさそうですし…

「ねえレナ…私思うの。少し妹を甘やかしすぎなんじゃないかって。だから後2つ食べれば許してあげるわ」

やっぱり甘いような甘くないような…そもそも残った分どうするんですか。それ8個入りですよ。

「ふぁい!? 何をしゅ!? ⋯⋯あ、かんかくがなくなってきた。これならだいじょ⋯⋯ばない! からい!」

 

しばらくレミリアさんによるお仕置きが続き、ようやく解放された頃には日付が変わっていた。

未だに口がヒリヒリするのか涙目の彼女の為にアイスを持ってきたのですけれど…

「口直しでアイスもらってきたんですけど食べます?」

 

「⋯⋯有り難くいただきます。死ぬかと思いましたよ。⋯⋯あの人になら別に構わいませんが」

 

「かなりきわどい発言ですね……レミリアが聞いたら勘違いしますよきっと」

アイスを片手に話す内容じゃないのですけれどね。

「? あ、ああ。確かに死んでほしいとは思ってないでしょうね。また怒られそうです」

いやそうじゃなくてですね…そりゃ誰だって死んでほしくないですよ。救えるものがあるなら救うんですよ。

それにしても…レミリアさんの事愛してるんですね…サードアイを展開しているので心の声丸聞こえですよ。

「……レミレミのこと好きですよね」

「はい、好きですよ。この世で一番大好きです」

あれ……なんだか私の思う好きとニュアンスが違う…どう見ても今恋愛的な方のニュアンスが心に含まれていたのですけれど…

「えっと…一緒に寝たことってあります?」

だから私はこれを質問する。

一緒に寝るでどのようなものを連想するか…それで本心を確認する。普段は使わない手ですけれど…彼女の場合は能力故に心が見えづらい。だからこうして誘導をかけないといけない。

「姉妹ですし、何度かありますよ。お姉さまと一緒なら安心して眠れます」

どうやら私の考える方の好きであっていたらしい。よかったです…普通に家族としての愛であって……

「ホッとしました…恋愛的な意味で好きってわけじゃなかったようですね」

 

「いえ、恋愛的な意味でも好きですよ。だってお姉さまは優しいですから」

それ…素で言います?しかももっと隠すとかなんとかしないんですか⁈なんかこいしも私の事そう思う時がありますけれど…

「そ…そうですか…」

なんだろう…自分の感覚がおかしくなっているのかと錯覚してしまう。でもそれは錯覚であって現実ではない…頭ではそう分かっていても錯覚というものは起こってしまう。

「そう言えばさとりもこいしがいますよね。やっぱり好きなのです?」

唐突ですね…ってアイス食べるの早くないですか?もう食べ終わってますし……

「んー…家族として守るべき存在ではありますから好きという感情で括るのであれば当てはまりますね。ですがそこに恋愛感情があるかといえばそれは否定。でもだからといって好きじゃないわけでもないし……言葉にするのが難しいですね……」

改めて考えてみればかなり難しいものだ…だってこいしは家族であって恋とかの対象にはならない。でもだからといって嫌いというわけではなく言葉に表すなら好きと言ってしまう。

「ふーん⋯⋯ちなみに私はどうです? 好きな方です?」

不意に壁を叩く音がして内心跳ね上がる。

考え事をしていた為か意識が上の空していたようです…レナータさんに壁際に追い込まれていた。あれ?もしかしてこれって壁ドンってやつではないでしょうか。

 

「…え?え…いきなりどうしたんですか?」

さっきの辛いので壊れたのでしょうか…それともラム酒入りのアイスはダメだったのでしょうか。でも咲夜さんはこれで良いって言っていたし…

「いえ、ただ気になっただけですよ。それで、私のことはどう思っています?」

あの…あの…顔が近いんですけど!しかも目が怖いです。

「あ…えっと……その…あう」

ここまで言い寄られたのは天魔以来です。

本当は抵抗したいけれどどうしてなのだろうする気になれない…いや、

気力がどこかへ奪われている。

 

どうにかしてほしいと思っているとドアの外に気配…レミリアさんのようだ。

「ちょっといいかしら。さっきはごめんなさいね。少しやり過ぎ⋯⋯えぇ!? な、何してるの!?」

ノックもなしに入ってくる上…この状況では完全に誤解されてしまいますよね…

「あ、お姉さま。何もしてませんよ?」

真顔ですけれど思いっきり私のこと襲う気満々でしたよね?

「う…レミレミ助けてください…寝とってきそうで怖いです」

「えっ!? ご、誤解ですよ!?」

どう見てもこれは誤解する以外ない状況ですけれどね!

レミリアさんも誤解してますし…

「ねえ、レナ。やっぱりもう少し話す必要があると思うのだけど」

あ…レミリアさん怒ったようです。

「ヘルプミー! ヘルプぅぅぅぅぅ⋯⋯」

首根っこを掴んで部屋から出て行ってしまう。なんだか…さっきの激辛を非常事態用に作っておきたいです。

「助かった……」

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。スッキリ寝れました?」

日が昇る頃になってようやくレナータさんは帰ってきた。

「⋯⋯うん、あ、はい。よく眠れました。永眠するかと思いましたけど⋯⋯」

ああ…何があったのかは聞きません。それに思い出さない方が良いですよ。

「それは良かったです。ほら早く準備してくださいよ」

話題を変えるために、19世紀のとある方っぽい服装を着込む。まあ英国紳士の服装なのであまりわからないと思いますけれど…

 

「あ、もしかしてシャーロキアンです? 私もですよー。って、何処に行くのです?」

あっさりバレた…なんででしょうか…普通ホームズなら鹿狩帽なはず…

「よくこの服で当てましたね。普通なら鹿狩帽の方が連想しやすいですけどね」

まあそんなことは置いておこう。多分ベッドの上に散乱しているホームズの本でわかったんでしょうね。

「ちょっと妖怪の山に突撃しようと思いましてね」

 

「妖怪の山⋯⋯? わ、分かりました。急いで準備しますね」

すぐに準備を始めるレナータさんだったが疑問が解消できないらしい。

「それにしてもどうして妖怪の山に? もしかして何か思い出しましたか?」

身なりを整えながらそんなことを聞く。

「いいえ、もしかしたら河童が空間転移装置を作れるかも思いましてね」

昨日ちょっとだけ蜘蛛の巣を作っていたらふと思いついた。異変版蜘蛛の巣…作るの楽しかったです。

「ああ、なるほど。確かに河童なら面白い物を作れるかもしれませんしね。よし、そうと決まれば向かいましょうか」

 

「そうですね。ついでですから、そこを動かない方がいいですよ。今あなたが踏んでいる床、トラップにしてますから」

いない合間に暇つぶして作ったものだけれどまさかあっさり踏むとは…

「⋯⋯え? 何故です!? え、どうやって解除をあわわ!」

パニックになってはダメです。そんなことをして余計な罠を作動させたら大変ですから。

「落ち着いてください。今床から足を話したら秒速400メートルで銀の球が壁から飛んで来ます。解除しますから余計なところを触らないでくださいね」

実際には銀色に塗装した球ですけれど……

 

「ぶ、物騒にも程がありますからね? というかいつの間にそんな罠を⋯⋯」

足元に仕掛けたトラップを解除しながらそういえば入るときにもう一つ作動させていたなと思い出す。

「あ…そういえば入り口入って4センチのところの床踏んでますね。あれも罠だったんですよ。後5秒です」

10分ほどの時間差で作動するやつでしたから忘れてました。

「え、ちょ⋯⋯は、早くヘルプです!」

完全に何言っているのかわからないけれど…

「それじゃあ行きますよ…」

レナータさんの手を取り窓から飛び出す。

「は、はひ!? ま、まだフード⋯⋯!」

あ…フード忘れてましたね。危ない危ない…危うくこんがり焼けるところでしたね。

 

「はい…時間です」

レナの部屋とレミリアの部屋の中で何かが爆発する。同時になんだか悲鳴のようなものも…

「ちょ⋯⋯後で直すの大変なのですからね!?」

少し怒っているけれど何も直すようなほどの被害はない。

「大丈夫ですよ。数分で消える粘着魔法です。被害はありませんよ」

「なるほど、それなら良かったです」

もちろんパチュリーに教えてもらったものを罠として転用したものだ。妖力代用だったけれど…パチュリーさんも面白がってましたね。

「ええ、レミリアさんが激怒するように犯人はあなたに仕立てましたのでね」

「やっぱり良くないです! 後で一緒に謝ってくださいよ。私だけ怒られるのなんて嫌ですから」

まあ、帰る時には忘れているでしょうよ。

「検討しておきます。ああ、そういえばレミレミの部屋にはもう一つ…あなたの転移魔法と似たようなものを仕掛けておきました。もしベッドから起きて右側に降りた場合食堂に転移されるようにしてます」

こっちは私が想起したもの。魔法も技もそうだけれど…一度見て覚えれば想起する分には十分です。

「それ完全に誤解されるやつですからね?はあ。帰ったらなんて言い訳しましょうか⋯⋯」

「まあ…大丈夫ですよ。そっちは私がやったと証拠を残しましたから。気付くかどうかは別ですけど」

転移先に私が作った料理を置いておきましたからね。多分気づくでしょう…

「それ絶対に気付かないフラグです。⋯⋯まあいいです。諦めましたから。とりあえず早く向かいましょうか」

「ええ、そうしましょうか。それじゃあ行きますよ」

早く行こうということで…じゃあとっておきを一つ。

「想起……」

思い起こすは…幻想郷最速の彼女。妖力の流れを調整し、想起したものを再現。実行に移す。

急加速で体が飛んでいく。

「え、速──っ!?」

景色が流れるように飛び始め僅か1分ほどで山に到着する。

 

「到着です」

急制動と衝撃吸収。

「ふぇ? あ⋯⋯ごほん。とても速いですね。地味に頭がクラクラします⋯⋯」

あっけにとられていたようですけれど…

「音を超えましたからね…さて、地上に降りましょうか」

あまり空中にいると哨戒の天狗に見つかりかねませんし…

「勝手に山に入って大丈夫でしょうか……」

殺気…真下ですね。まさかもう来たんですか⁉︎完全に今フラグに引っ張られましたよね

「おい、勝手に山に入らないでください!」

銀色の光るものが視界をかすめ、反射的に足で止める

同時に相手の姿がはっきり見える。

白髪に狼の耳…それに天狗衣装。記憶に当たるのは1名のみ…でも彼女以外にもいますからねえ…

 

「噂をすれば何とやら。本当に現れましたね。天狗さん。⋯⋯そう言えば吸血鬼異変の時に山が襲われたらしいですけど、大丈夫でした?」

危機感なさすぎですよレナータさん!

「あ…まさか貴方は吸血鬼ですか?じゃあ余計山に入ってはいけませんね」

あら、吸血鬼相当嫌われてますね…まあ相当やらかしているでしょう。

 

「えっと…それじゃあ、普通に斬り合いといこうじゃないですか」

折角、刀を構えてくれたのだ。私だって構えないわけがない。

リーチは短いですけれど…

懐に入れれば…

空中を蹴り飛ばし接近。だけど読まれていたのか抜刀した短刀は彼女の大剣で弾かれた。

「あ⋯⋯。まあ、うん。多分大丈夫でしょう」

レナータさんまさかの試合放棄ですか?じゃあ周囲見張っててくださいよ。

「……うーん…椛さん、死なないでくださいね」

「どうして私の名前を知ってるのか知りませんが…」

刀同士が触れ合い火花が散る。

相手の懐に入るために右から左からと何度も攻撃。なるべく流れるように素早く何度も…

だが椛さんも全く引けを取らない。私の攻撃をかわしつつ、隙あらば斬り込んでくる。弾幕ごっこじゃなければ相当な腕だ。このままだと増援が来るし面倒ですね…

「あ…そうそう。レナさん、4秒後に右に頭振ってください」

太陽の位置と椛の視界範囲…それにレナータさんの視界から最適な位置を出す。

「うわー。何故か螺旋を思い⋯⋯あ、了解です」

螺旋?矛盾螺旋ですか。まあそんなことは置いておきまして…

「ほいっと…」

首を振った所を光の線が通り抜ける。

少しだけ遠くに飛んだところで停滞したそれは…だんだんとしぼんでいく。

「振り向いちゃダメですよ」

警告を促し椛の視界をなるべく一定方向に固定させる。

「な…何をし……」

何って…強力なフラッシュですよ。スタングレネードの三倍前後の光量があるので相当きついですよ。

「怖いなあ⋯⋯。というか避けなかったら頭が吹っ飛ん⋯⋯まあ、それなら大丈夫ですね。死ぬほど痛いでしょうが。あ、眩しっ」

ちょっとレナータさんまでどうして巻き込まれるんですか。言ったじゃないですか振り返るなって…

「バルス…って言った方が良かったですかね」

レナータさんの手を引き地上に逃げる。目が眩んでいる合間に視界から消えれば探すのに時間がかかる…その合間にどこまで距離を稼げるか…

「うー⋯⋯。いつも目眩し系の武器を使ってましたが、今回初めて相手の気持ちが分かりました⋯⋯」

 

「まあ…たまには自分で食らってみるのも良いものですよ…えっと川はこっちですね」

川の音がする方向は…こっちですね。

「あははー、まさかそんなこと一生ありませんよ。自分で使うタイミング決めれるのですからー」

でもそんなに一つの武器を思い浮かべてしまってはどうぞ再現してくださいと言ってるようなものですけれどね…

 

「なるほど。じゃあ想起…『クラウ・ソラス』!」

妖力でアレンジしたバージョンのためソロモンの指輪は要らない。だがどう考えても燃費が悪い…なんだこれ。

 

「え、眩⋯⋯!? えぇ⋯⋯!?わ、私のもできるのですね。流石です⋯⋯」

「うーんこれは…記憶から精製したものを妖力で再現したものです」

それにしてもこれだけで相当眩しいのですけれど…なんだか太陽が近くにあるみたいです。

「できれば消してから話してください。全く見えません」

「おっとごめんなさい」

 

「ふぅ、これで見えるようになりました。⋯⋯って、私の召喚魔法も使えるのですね。やっぱり結構強いです?」

まあ…魔術はある程度理解できますからね。

「私はむしろ弱い方ですよ。今まで勝ったことある人なんて数えるくらいです」

生き残った件数なら話は違うんですけれどね。

「ふーむ。昔の方が神秘が強いとかはよく聞きますが、強い方が多いのでしょうか?それはそうとして、こんな川に河童がいるでしょうか? ここまで来たのは初めてで分かりませんが⋯⋯」

 

「鬼の四天王と玉藻の前と一流陰陽師に封印指定の怪物とか最強クラスの天狗とか…一度もガチの勝負で勝ったことないですけれどね。河童ならきゅうりぶん投げるか貴女の尻子玉あげるといえば来ますよ」

考えてみればえぐい。

「どれもヤバい人じゃないですかやだー。あ、きゅうりを投げましょう。後者はお断りします」

「きゅうり持ってきてないのですけれど……」

というわけで尻子玉プリーズですよ。冗談ですけれど…

ふざけていると私の背後に誰かが降りてくる。

振り返ったら斬られそうで怖い…

「やっと見つけましたよ!通行料は安くないんですからね」

椛さん復活早くないですか?

「あ、わんわんおです? ごめんなさい、骨も持ってきてないのです。⋯⋯でも狼だから骨よりも肉ですかね?」

怒らせてどうするんですか!レナータさん怒らせないで!

「そこの吸血鬼……どうやら斬られたいようですね」

「せっかくですしお手並み拝見」

レナータさんが蒔いた種ですからね。椛さん怒らせたら怖いんですよ?この世界でも多分……

「嫌です。それに吸血鬼じゃないですよ。⋯⋯あれです、魔女です。ですから魔法以外使えないのです。剣を収めてください」

とか言いながらも槍を召喚する。もう言ってることとやってることが違いすぎる。

 

「……私の鼻は誤魔化せませんよ。それにその槍は交戦の意思があると判断しました。よって2名とも妖怪の山の規定により処分します」

その言葉が終わるか終わらないかのところで、私の体に何かが刺さる感覚がする。

そのまま真上に引っ張られる。

赤いものが吹き出す。あれ…まさか私斬られた?

視界が地面に崩れ落ちる。だめだ…しばらく動かせない。

 

「え⋯⋯?あ⋯⋯冷静に、冷静に⋯⋯。ねえ、いくら椛でも、友人を殺したとなれば──殺すよ?」紅の目がさらに紅く、黒くなる。

「神槍『ブリューナク』⋯⋯死んで」

何があったのかはわからない。だけど剣道同士が接触する音が響くあたり…状況は良くない。

動けるようになるまで回復…幸い臓器は損傷していないから回復は早い。

「そのようなもの……」

互角に打ち合ってるようですけれど、少し椛が押され気味ですね。

なんとか立てる程度まで回復できました。

体を起こしてみれば、丁度椛さんの後頭部。

「はい、倒したからといって油断禁物」

思いっきり殴りつける。

上手く気絶してくれましたね。まあ…あまりやりたくはないですね。

頭を殴るのって危ないですから。

「あ、さとり。良かったです。やっぱり生きてたのですね。流石に殺られはしないと思ってましたし、原作キャラの子を殺すのは気が引けますよー」

さっきの声と同じなのかと言うくらい雰囲気が違う。多分あっちが本性に近いのでしょうね…まあどうでも良いことですけれどね。

「たかだか体をざっくり斬られただけじゃないですか。大袈裟ですねえ……」

「いや怖いですから。普通だと死んでますからね? いや割と真面目に」

「そうですか?今までの傷よりマシだと思いますよ。腕切られたり潰されたり脚を吹き飛ばされたり色々と…」

これくらいの傷どうということはない。そもそも臓器が傷ついていないのだから傷がそのままでも死にはしない。

「私はそこまで酷い傷は負ったこと⋯⋯あ。一度、だけありますね。でもあれは事故なのでノーカンでしょう。とか話しているうちに傷が無くなりましたね」

ああ…もう治りましたか…腕まるごと一本再生より格段に早いですね。

「傷は消えても血まみれだし服ボロボロです…着替えようかなあ…」

せっかく作ったのに…まあ必要経費といきましょう。

何故か服を脱ぎ始めた私を見てワタワタし始める。

「って、誰か見てたらどうするのです。いえ、何か起きる前に対処されそうですが⋯⋯」

そもそも誰も見てませんよ。

「誰か見ていたら…その人の精神壊します」

それにもう着替え終わりましたけれどね。

「おお、普通に怖いです。こわいこわいとか気安く言えないレベルで怖い⋯⋯。そう言えばどうします? このわんわんお。まあ放っておいても怪我はしなさそうですが。天狗の支配下ですし」

 

「……裸にして吊るしておきましょうか」

もう終わりましたけれど…服はちゃんと畳んで下に置いておきますからあまり気にしないように…あ、でも先に誰かが見つけたら大惨事でしょうね。

「⋯⋯まあ死ぬよりマシですか。可哀想ですが、お姉さまの言葉を借りるならこれが運命です」

 

なんとも悲しい運命ですこと。

椛さん以外の天狗が周囲にいないことを確認し、少し歩いたところにある川に行く。

「さて、川の近くにいるはずの河童はどこでしょう。怯えて出てこない、なんてことは流石にないと思いますが⋯⋯」

 

多分実際怯えて出てこないだけですよ。

「河童さん……出てこないと川を血で染めますよ」

軽く脅せば出てきます…出てこなかったら私の血でも流してみますか。

「ひぇぇ。わ、分かったよ。出てこればいいんだろ、出てこれば。何の用だい? 天狗なんて敵に回してろくなことないよ?」

「あ、本当に出てきた」

案外簡単に出てきましたね。

「出てきましたね。実は作って欲しいものがあるのですが……ノーと言ったら頭を潰します……とそこの吸血鬼が」

「やっぱり吸血鬼は怖いわぁ⋯⋯」

あーあー怖がられましたよ。まあ彼女が潰さなくても私が潰しますんで…胡瓜を

「そんなことしませんからね? というかできないですからね?」

 

「で? ともかく何を作ればいいんだい? 材料と時間さえあればたいていの物は作れるよ」

大抵の物ですか…じゃあ大丈夫かな?

「空間転移装置、それも任意で空間座標を設定できるやつで」

 

「訂正するよ……実現可能な範囲で」

え⁈無理なんですか?一応実現可能な範囲に入ってますよねだって紫とか空間転移できますしテレポートの魔法だってあるんだからさ。

 

「実現可能な範囲でなら無理だ! というかそんな物作れるわけないよ!」

「⋯⋯予想はしてましたが、やっぱり無理ですか⋯⋯。河童の技術力は高いと聞いたのですが」

「どれだけ凄い技術力でも限度がある!」

「うーん…戦車や戦闘機は作れるのに」

それとこれとでは違う?まあ似たようなものじゃないですか。

まあできないと断られてしまえば仕方がない。他の方法を探すしかないですね。

さてどうしようかと思ってみれば、はてはてなんでしょうねこの空間に出来た切れ目のようなものは…

 

「呼ばれてないけど私よー。あら、奇遇だわ。こんなところで誰かと出会うことになるなんて」

その切れ目が私達を飲み込みそうなほど開き中からドレス姿の女性が現れた。

「げっ⋯⋯八雲紫⋯⋯」

 

「あ、ゆかりんじゃないですか久しぶりですね」

どっちの紫か分からないので適当に挨拶。多分こっちの紫でしょうけれど…

「貴女とは初対面なはずなんだけれど…」

「おっとそうでしたねこっちの私とは接点が壊滅的でしたね」

残念。あっちの紫ではありませんでした。というか私と初対面って…そんなことあるんでしょうかね?だって古明地さとりはかなり重要なところに置かれているはずだから合わないなんてことはない。それに私という存在を恐れているはずだから忘れるなんてこともありえない。

……ああ、そういうことですか。確かに私という存在とは初めて会いますね。どうしてこうも簡単に正体見破られますかねえ…

「って紫さんはどうして出てきたのです?」

 

「幽々子から連絡があってね。妙なさとり妖怪と吸血鬼が私を嗅ぎ回っているっていうからどんなもんかとみてたのよ。まあ…あなたたちが全くそれっぽいことしてこなかったから確信がつくまで待ってたのよ」

 

とかなんとか言って…正直な話覗き見で楽しんでいたのでしょう。私の強さを測るためにわざと椛さん一人をこちらに誘導しましたね。

椛さん自身は自覚無いでしょうけれど…分かりますよ。

「えーっと面倒ごとは嫌いだから私は帰るよ」

河童の姿が消える。どうやら光学迷彩で姿を隠したようだ。だけど水面の波紋でまだいることは分かっています。

 

 

 

「あ、河童が逃げた。⋯⋯まあいいですか。なるほど。ちなみにさとりが別世界から来たらしいですが、何か心当たりありません?」

かなり疑っていますね…どれだけ紫って信用ないんでしょうか。

「ああ…もしかして結界の歪みが原因かしら…」

何かを考えていた紫がふと何かを思い出す。

どうやら少し前に結界に原因不明の歪みが発生したらしい。その際に何か別の大きなエネルギーが接触したとかなんとか。一応元に戻したらしいけれどそれを秘密裏に隠していたのだとか。

「もう確信犯じゃないですか。⋯⋯あ、それ、元に戻せたりしますよね?」

心配しなくても大丈夫ですよレナータさん。

「出来なくはないわよ。ただし同じ空間につながるか怪しいけれどね。それにしても異世界のさとりねえ……興味が出来ちゃったわ」

 

「まあ…紫とは友人関係でしたし断れませんねえ」

 

まあ…向こうの世界もこっちの世界も対して変わりはないだろう。だとすれば紫は安全ですね。目が細まってますけれど…

「紫さんの目が怖い。まあそれはともかく、戻れるという絶対の確信がないのは怖いですね。もっと安心安全な方法はありませんか?」

 

「そうね……唯一安全にいけるとすればさとりの空間的波長と一致する波長の次元を探し出すのが一番安心よ。って言ってもやったことはないのだけれどね」

扇子で仰ぎながら彼女はそんなことを言う。わたしには空間の波長だなんて分からない。

 

「ふーむ⋯⋯。こればっかりは紫さんに任せるしかなさそうですね。

これから先は分野外のようですから。⋯⋯って、そうなるとさとりとはお別れになるのでしょうか?」

ああ…そういえばそうなりますね。そう思うとなんだか急に寂しくなってきました。こっちにいる時間はあまり長くなかったですけれど…なんででしょうね。

 

「そうねえ…後1時間くらいってところかしらね」

「結構早くないですかゆかりん」

「それとも私の質問に答えてくれるなら……」

「結構です」

「後一時間⋯⋯。長いようでやっぱり短かったですね。色々と⋯⋯」確かに色々とありましたね。紅魔館でいたずらしまくりましたし。でもまあ、この世界のさとりと鉢合わせしなくてよかったです。

鉢合わせしていたらと考えると……少し恐ろしくなります。

「そうですね…」

「あ、帰る前に一言お姉さまに謝りましょうよ。というか謝りなさい」

あ、すっかり忘れていました。

「そうしましょうか…まあ怒られたら戦うので」

もちろんただ怒られっぱなしになるのは嫌ですから。私が悪いのは確定ですけれど悪いことをしたなら最後までその悪を貫かないといけませんからね。そうじゃなきゃ正義は揺らいでしまいます。

「いやだからやめてください。⋯⋯紫さん、一時間後、また会いましょう。ここに来るのは面倒なので来てくださいね」

 

「ええ、そうさせていただくわ…」

それだけ言い残して彼女は去っていった。あの人やっぱり神出鬼没ですね。

「それじゃあ帰りましょうか…」

 

「⋯⋯ですね。帰りましょうか。時間が惜しいですし、魔法で行きますよ」

レナータさんに頼んで再び転移魔法を使ってもらう。私も使えなくはないけれど…有効距離が短い。

「よっと…あ?レミリアさん」

転移した先にまたレミリアさんがいる。この人エスパーなのだろうか。

「レナ?それにさとり……言いたいことわかってるわよね」

レナータさんが思いっきり頭を下げて謝っている。だけどそこまで恐ろしいだろうか?なんだか…疑問です。

「……反省も後悔もしていません」

だからこう言わせてもらう。

「よろしいならば戦争だ」

気づけば私の目の前にグングニルの赤紫の光が迫る。

「甘いですよ…」

だけど見えているのなら対処は可能です。刀の側面で少しだけ軌道をずらす。外れたグングニルがエントランスの階段を吹き飛ばす。

「館の中で暴れないでくださいよー。後で掃除するの、私や咲夜なのですからー」

止める気ないですよね。

まあ良いです。

それじゃあ、開戦といきましょうか。

 

 

 

 

「⋯⋯あれ、本気になり過ぎでは⋯⋯?」

弾幕というよりほとんどグングニルと私の剣とでの斬り合い。その余波で紅魔館は半壊していた。主にエントランスと二階の一部…

でもまあ…そろそろやめましょうか。攻撃を弾くだけの一方的な戦いはもう面倒ですし…

「降参です」

私から引けば良いだけですし。

「はあ、はあ⋯⋯少しはやるじゃない」

あの……すごいボロボロなんですけれど。私そこまで攻撃らしい攻撃してませんよね。

「いやもう⋯⋯。面倒なので何も言いません。というかお姉さま、さとり、もうすぐ帰るかもなのですよ?」

「あ、え? そうなの?」

そういえば言い忘れてましたね。

「ええ、帰れる採算がついたので帰りますね。あ、今度行くわっていうのは無しで。それに『私』はこの事を体験していませんから…そう考えると『私』に悪いことしましたね」

 

「どういう事?」

「レミレミには言ってませんでしたね…詳細は妹さんからお聞きください」

説明するのが面倒です。

「そ、そう⋯⋯分かった、後で聞くわ」

それにしても世話になりました…お礼は…今朝作ったケーキで。

 

「⋯⋯これでお別れなのね。まあ貴方にも大切な人がいるでしょうから、止めはしないわ」

「ええ、守るべき家族がいますからね…あ…そういえば今レミレミが立ってる床…咲夜さんとトラップしかけたんで…気をつけてくださいね」

最後の最後だけれどレミリアさんが立っている足元の床がなんだったのか思い出す。

「ちょっと最後のお別れでそれはないんじゃない!? ってか咲夜ー! 貴方まで何やってるのよー!」

魔法陣が展開してレミリアの姿が光に飲まれる。

「⋯⋯最後まで相変わらずですね。どっちも」

どっちもですか?少なくとも私ではないとして誰でしょうね?

「罠は…フランの部屋に直行する転移魔法です。さようならレミリア。また会おう」

 

「⋯⋯ええ、色々とありがとうね、さとり」

 

「さて私はもうそろそろ行きましょうか…」

壊すだけ壊してなんだかあれですけれど…

「ちょ、壊した物くらい直し⋯⋯まあいいわ。今回くらい、大目に見てあげるわよ。じゃあ、また会えたらいいわね、バイバイ」

ええ…また会えたら……会えるかなあ?

「……ふう、それじゃあレナさん…私も行きますね…」

すごく名残惜しいですけれど…名残惜しすぎてなんだかホームシックがどこか行っちゃいましたよ。元からないだろって?ありますよ私だってホームシックになりますよ。なっても忘れますけれど……

 

「⋯⋯ええ。そうですね。もう時間ですものね。⋯⋯最後まで楽しかったです。本当に、楽しかったですから、また会いたいです。⋯⋯でも贅沢は言いません。いつか会えるといいですね。会いたい、というのが本音ですが」

「ええ、こちらこそありがとうございました。可愛い転生者さん」

隙間が現れる。どうやら入れという事だろう。

「はい、バイバイです、さとり」

 

「ええ、今度は馬車を立ててお迎えに上がりましょうレナータ・スカーレット。それまでしばしの別れです」

すごい芝居掛かった台詞だとは思うけれど…まあ仕方がないだろう。

「ふふ、ええ。お待ちしてますね」

隙間が閉じて彼女の姿が見えなくなる。

その代わりに紫の姿がぼやけながらも視界に入る。

「それじゃあ…帰りなさい。あなたの家へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年後

 

一体どれほどの長い合間待ちわびたことだろうか。私は晴れてこの扉を叩くことができる。

「あ、はーい。誰ですー?」

中から懐かしい人の声が響き、扉が開かれる。

「やっほー!迎えに来たよ!」

馬車とこいしに意識を逸らしつつこっそりと後ろに回る。

 

やはりこればかりはやめられそうにない。

だから私は真っ赤な髪の毛に手が触れないように彼女の肩を叩いた。

 


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