古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

21 / 325
タイトルはほぼ関係ないですね。今更ですけど


depth21.さとりとお月見(月見篇)

昨日雨が降ったというのに朝からこんなに暑い。

雨が降って涼しくなるわけでは無いが余計に暑くなってもらっても困るんですけどね。

そんな愚痴りは知らぬと言わんばかりに太陽は頭上近くまで上がっており周囲を明るく照らす。

そんな周りとは対照的に直ぐ真横には真っ暗な闇が固まりになって浮いていた。

 

「……前、見えますか?」

 

「真っ暗で見えない」

 

じゃあ闇から出ましょうよ。と言うか白昼堂々そんな闇が浮いてたら大変な騒ぎなんですけど…

 

「だって暑いんだもん。それに認識阻害の術をかけてもらったから大丈夫なのだー」

 

そういう問題でも無いのですが…ねえ。

 

他人事のようにお燐が腕の中であくびをする。

猫にはくだらない…退屈な話だったのでしょう。

 

 

昼間からなんという面子でしょう。百鬼夜行にでも参加出来そうな人たちですよ。

この時代に百鬼夜行があったかどうかわかりませんが…

 

 

月のお迎えが来る当日にして何をする訳でも無くこうやってみんなで都をぶらぶらしている訳です。

まあ私自身、不安で落ち着かないですし二人が一緒に散歩しようと誘ってきたので乗ったまでです。

だから私がお燐の服を買いたかったとか料理店に行ってみたかったとかそういう事では無いですよ。あくまで実行中ではありますけどね。

 

「ねえ、そろそろ姫のところに行かないのかい?」

いつの間にか人型に戻ったお燐が訪ねてくる。

人の行き交うところでよくそんなことできますね。バレてないからいいんですけど。

「まだ時間あるじゃないですか」

 

月が上るまでまだ時間はありますしどうせ行ってもろくなことないでしょうし…

 

それに貴方はこれ以上着せ替え人形みたいにされるのが嫌なだけでしょう?拗ねて猫に戻られても困るんです。誰も見てないから良かったですけど。

 

「それよりもなんかお腹空いたなあ」

 

お燐が露骨に話題を変えてきた。たかだか数着なのですがね…まあ高かったですし買いはしませんでしたけど。

 

「あ、あの子とか美味しそう!」

物騒すぎるのでやめてください。そんなことしたら認識阻害が解けちゃいますよ。

二人も妖力を極限まで低く抑えて隠蔽してる。ですが、かなり強い人達にはバレてしまう。

丁度輝夜の護衛に駆り出されて都にそういう人がいないからバレてないのであって普通ならアウトである。特にお燐は耳と尻尾を無理無理隠しているが何かの拍子に出てきたりでもしたら大変だ。

 

二人を連れて近くの店に入る。ちゃんと店の表示は見てなかったが料理店っぽい感じだった。あのまま放置してたら襲いかねないです。もうちょっと抑えてくださいよ。

 

 

「じゃあ簡単に人を倒せる方法でも教えましょうか?」

 

空腹を紛らわす為にちょっと小話でもしてましょうか。この店の主人には悪いですが少し寝ていてもらいたいです。それかどっか消えて。

 

とは言ってもそう簡単に消えてはくれないし注文を入れれば多分奥の方に行ってくれると思いますね…

 

「なんか…物騒だねえ…あ、あたいはおまかせで」

 

「私も店主に任せます…ルーミアさんは?」

 

人通りを行き交う人達の方に視線を向け続けるルーミアさん。意識があっちの方に向いてるみたいなので戻しましょう。

 

「いらないのだー」

 

やっぱりあっちの方が良かったのですか…好みは人それぞれですから何も言いませんけど…

 

 

「生物の弱点は大体体の真ん中辺り…後は太ももの裏側とか首筋、刀ならそこらへんを狙った方がいいですね」

 

「うへ…地味に生々しいね」

 

「後は…一発で楽にするなら目を爪とか刀で刺すのが効果的ですね。頭蓋骨に無理やり刺すより柔らかくて脳に直結している目は楽ですよ」

 

「なるほど…あまり参考にしたくなかった知識ばかりありがとね」

 

皮肉ですか…この時代に必要な知識だとは思うんですけどね。

「そーなのかー?私は直接首を跳ねることが多いけど」

 

それは貴方達大妖怪クラスなものです。

普通の妖怪はそこまでのことは出来ません。精々一瞬で楽にすることくらいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人とは一旦別れ、護衛のために集まった人達のところに歩いて行く。

屋敷の周りが完全に要塞状態になっている。うん、人間達凄い必死なんですね。

少女が一人こんなところに来るものだから周りの目線が集まる。そんなに見たって何も出ませんよ。

 

 

 

私の目的は、会った時には何回も警告をかけたのですが、おそらくきているのでしょう人に会うこと。

出来れば最後に思い直して欲しいと思ってしまうのはこの先の結末を大なり小なり知ってる私の勝手な考え。ですけどそれを自覚しながらやはり実行してしまう私の意思。

 

兵団の中を探すこと十数分。本当は見つけたく無い…でもあの人なら来るだろうと確信していた人を見つけた。

 

「やっぱり来てたんですか…不比等さん」

私の声に周りが変な反応を見せる。中には敵対心むき出しのものまでだ。

「おお!さとりか!」

 

だがこの人と親しい人だとわかった瞬間それらの反応が消える。

 

「姫の護衛ですか…ご苦労なことです」

 

「はは!愛すべき者を守るのも男の役目だ」

 

やはりというべきか不比等らしいと言うべきか…家族よりも姫を取ったのですね。

「……やっぱり思い直しはしないんですね」

 

「まあな。妹紅には悪い事をしたと思ってはおる。だが、私が決めた事なのだ」

 

別に私は何も言いませんよ。不比等さん、あなたがそれを決めたのであればそれを最後まで全うしてください。

私には、貴方になにか物言えるような立場ですらないし言う資格すら無いです。

精々、応援するくらいです。

例えその先が破滅であっても…どうせ貴方はそれも考えての事でしょう。

「まあいいです。ですけど、私に妹紅さんを頼ませるような事はしないでください。お願いです」

ですがその考えに妹紅さんは含まれていないのでしょう。彼女がどんな人生を送るのか…不自由なく暮らせるように手配はしてるのでしょうけどね。

 

「ほほう、お主のことだから妹紅のそばに居てやれと言うかと思ったが…」

普通ならそう言うでしょうね。私だってそう言いたいです。

「言っても貴方はここで姫を守るのでしょう?なら私はその意思を尊重するまでです」

 

「ははは!年頃の娘には思えん!」

 

ヒトは見かけによらないですからね。

 

少し目を細める。

不比等さんも何やら私の事を不思議そうに見てる。探ってるのでしょうか。

 

詮索されても何も起きませんよ?それとも何か気になることでも?

どっちでもいいですけど……

 

「それでは、私はこれで…」

 

そう言い残して私は立ち去る。

不比等も私に対しては深く言及せずに見送ってくれていたようだ。

と言うか薄々察していたのだろう。それでいて見逃しているのだからかなり大胆な人だったのでしょう。

 

一回だけ振り返ってみれば不比等と目があった。

 

ーーすまない。

そう訴える目線をしっかりと受け止める。

 

ーーその謝罪は、妹紅さんにしてください。

 

全く……妹紅が輝夜と仲が悪くなるのも頷けます。

 

 

しばらく草原のようなところを歩く。不思議とこの辺りに人はいない。何も無い…でも落ち着くところだ。ここら辺に月の民が降りてくるのだろうか…

それとも別のところだろうか…

 

「あ!さとりちゃん!」

 

前から走ってきた人影が私の名を叫ぶ。

 

「あら、妹紅さん。どうしたのですか?」

 

「お父さんに会いに来たの!」

 

屋敷から抜け出してきたのだろう。いたるところに葉っぱとか土とかが付いている。

お節介ではあるけど服を叩いて綺麗にしていく。

 

「お父さんに会いに行くなら…ちゃんと別れの挨拶はしてくださいね」

髪の毛を整えてあげながらそう囁く。

 

「……?わかった」

 

いまいちわかっていないようでしたが、そのうちわかるかもしれません。

わかった頃には手遅れになってるなんて事もありそうですけど…

それは私には関係ない。あとは妹紅次第。

このまま蓬莱人になるのかそれとも人として一生を終えるのか…

 

「ありがとね、さとりちゃん!それじゃ!また今度!」

 

そう言って走り出す妹紅さん。どこまでもあの子は純粋なのでしょうか。羨ましいです。

 

「話し合いは済んだみたいだね」

 

「ええ、話し合いってほどでもないんですけど」

 

妹紅が走り去っていった直後、後ろから声が聞こえる。

お燐だ。

 

なんだか私何も出来ていない気がしますが…仕方ないでしょう。

今の私に出来ることといえばこのくらいですし…後悔は後でたっぷりしますから今は勘弁してくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れはじめ辺りに松明の光がともり始める。

都の外で隠れていたルーミアさんと合流し、屋敷の近くに身をひそめる。

 

「わくわくしてきたー」

 

呑気ですねえ…その気構え分けて欲しいです。

 

(ねえねえ、なんか変なのが来たよ)

 

上空をずっと見ていたお燐が異変に気付いたみたいだ。

 

月を背にして白い物体が点のように見え隠れする。人間達の方もそれに気づいた人たちが騒ぎ出した。

 

だんだんと大きくなってくるそれは三角形のような形をした平べったい何かだった。

 

牛車とかなんだとか言われてるけどあれは牛車じゃない。

 

(ほへ〜?なんだいあの牛車)

 

艦橋が二つ、全長は600メートル前後だろう、相当でかい。

 

「スター……デスト○イヤー」

よくよく見れば細部は全然違うしかなり小柄ではある。でもあれはどう見てもあれである。星の戦争で目にしたあれだ。

あれあれ言うのも面倒なので宇宙船って略でいいでしょう。

どんどん迫ってきたそれはものすごいブラストを地面に当てながらホバリングを行う。

 

春一番とか比べ物にならない突風が吹き荒れる。

(ひゃー!飛ばされる!)

 

猫化しているお燐が飛ばされそうになるのを辛うじて止める。正直私も飛ばされそうですけど…

 

あ、兵の先頭集団が転んだ。

 

ゆっくりと着陸してきた宇宙船の底部ハッチが開き、そこから戦車やらバイクやらなんやらが一斉に出てくる。

 

突風から立ち直った頃には既に戦闘配備が整っていた。

 

すごい速さです。あれはもう…なんというかねえ。

しかも戦車は多脚歩行戦車…蜘蛛みたいです。

 

しばらくは様子を見ることにしましょう。

人間達も何かの術のようなもので身動きが取れなくなっているみたいですし…

 

「早く行かないのかー?」

 

「まだです…頃合いを見ます」

 

おーあれが薬の壺なのか。って羽衣着ないんですか?まあ着たら色々とまずいみたいなので放っておきますが…

そのまま式みたいなものはどんどん進んでいく。

こっちでもルーミアさんが今にも飛び出しそうになってます。

 

「あれ?」

 

ふと、輝夜の目線に違和感を覚える。

普通なら宇宙船の搭乗口の方を見るはずなのですがそことは別、お迎えの人達の方に視線を向けている?

 

その視線を追ってみる。男性ばかりでむさ苦しい中に一人だけ女性がいるのにようやく気がついた。意識阻害の術式でも組んでいたのでしょうか?

 

(まだいっちゃダメなのかい?)

 

「まだダメです」

 

先陣切って動いたところであそこにいる戦車の主砲でズドンですよ。

そうじゃなくてもあそこに置かれてる対空車両とか迫撃砲、更には携帯火器で穴だらけです。

 

意識をもう一度さっきの女性に戻す。おそらくあの人が例の…あのお方と言う訳でしょうか。

 

ってなんかこっちを見ている気がするんですけどどう考えてもあれは探しているって目つき…

 

 

 

「……⁉︎」

視線がぴったり合った⁉︎まさかこっちに気づかれた?いや、うん…多分気づかれたみたいですね。ですが何もしてこないという時とは、見逃してくれているのでしょうか?

 

と思ったら突然その女性が動いた。

 

背中に背負っていた弓を素早く取り出し、真上に向ける。

突然のことで月の兵も反応できてない。と言うかコンマ数秒の早さで背中に背負ってた弓を構えるって凄すぎるんじゃないですか?あんな人相手にしたく無いですよ。

 

矢があろうところはまるでレーザー砲の様に淡い黄色に光っている。なにやらやばそうな雰囲気を放って……あ、発射した。

手が少しだけ動き光が弓から消える。少し遅れて空気を切り裂く音が聞こえた。

直ぐに飛ばされた矢を目で追う。

真上に打ち上げられたそれは数秒ほど飛び続けた後に…

 

「伏せて!」

 

咄嗟にルーミアの頭を叩きつけるように下げさせて隠れている茂みの中に隠す。

 

直後、物凄い閃光と轟音が辺りに響く。聴力が失われ無音状態になる。

少し遅れて地上でいくつもの爆発が起こる。当然私達の近くにも数発落っこちたみたいだ。

 

「MIRVみたいな攻撃ですね」

 

(呑気にいってる場合かー!ってかMIRVってなに⁉︎呪文⁉︎)

 

爆音が止んだので頭をあげる。

 

すごい穴ぼこだらけな上さっきまでいた月の兵の半数の姿が見当たらない。戦車も二台程破壊されたのか。黒煙を吹き上げて活動を停止している。

 

 

「ルーミアさん!行きますよ!」

 

「うえ⁉︎あ、ちょっと!」

 

未だに混乱しているルーミアさんを引っ張り空に上がる。なにやら文句言いたげですがこの際無視します。

 

ここからなら戦場がよく見渡せる。それに月の兵のほとんどは上空まで意識が及んでいない。

 

どうやら人間を止めていた術式も解けたみたいだ。多くが混乱しながらもなんとか月の兵へ攻撃を始めている。

やや遅れて妖怪の軍団が動き出した。

 

三つ巴の戦いになってますね。えっと…輝夜はどこでしょうか?

 

下を探すが、わけがわからないほど入り乱れてしまっていて分からない。

時折生き残った戦車が発砲。その度に人間がまとめて吹き飛ぶ。

直撃を受けて粉々になった人体や爆風で飛ばされる人間。月に兵が持つ銃から曳光弾が飛び出し妖怪や人間を容赦なく肉片に変えて行く。

 

「うわ…荒っぽいねえ」

 

(ほんとだよ。あんなことしたら綺麗な死体が残らないじゃ無いか)

 

二人は置いといて…輝夜が見当たりませんね。

 

 

さっきの攻撃による混乱で逃げるというならまだ遠くまで行ってないし追いかけている人たちもいるはず…えっと…

お燐も腕の中から下を見て探し始める。

 

(あ!いた!)

お燐が叫ぶ。

直ぐにお燐の思考を読み場所を特定。

 

「森に逃げ込んで撒くつもりですか。確かにバイクとか車に襲われるよりはマシですね」

 

「ねえねえさとり、あれ壊していいのかー?」

 

輝夜のところに向かおうとした途端にルーミアさんが肩を引っ張って止める。

振り返ると母船から複数の何かが飛び出していた。

 

縦に異様に細い胴体に左右に小さく飛び出た長方形のような翼。昆虫の触覚を思わせる先端…頭の上で大きく回転する大きな羽…そして尻尾のように後ろに伸びた胴体の一部。

前世知識が形の似ているものを思い出させ警告する。

 

「せ、戦闘ヘリ⁉︎」

 

それもただの戦闘ヘリではない。メインローターの上に搭載されたお皿のようなもの…AH-64D アパッチ・ロングボウだ。

 

想定外だ。輝夜だってヘリがいるなんて言ってない。向こうが万が一のために用意しておいた物なのでしょうか。

 

「く…ルーミアさん!壊しちゃっていいです!」

 

「わかったのだー!」

 

私が言い終わる前にルーミアさんは闇をまといながら突っ込んでいった。

だが向かってくるルーミアさんに気づいたのか3機のアパッチが高度を上げて、胴体の下につけられた機関砲が旋回し容赦無く弾丸を打ち込み始めた。

 

「ちょ!やっぱ無理なのだー!」

 

慌てて逃げる。ヘリの方も地上の支援に回りたいのか深追いはして来なかった。

 

「あんなのどう倒すのだー!」

 

弾丸が掠ったのか右足から血を流している。

 

うん、あれはちょっと危険すぎますね。私が一回弱点を教えないとだめでしたか。

 

「あの、弱点はあの上で回ってる羽か後ろの方の小さいやつです」

 

「わはー」

 

人の話を聞いてない…元からでしたっけ。まあいいです。

実際にやってみてなんぼですから。

 

一番近くにいるヘリを探す。こっちを警戒する1機のアパッチが視界に入る。丁度いいです。それにこの距離ならAAMでもない限り向こうの攻撃は当たらない…と思いたい。

 

メインローターに向かって弾幕を発射。当然アパッチは回避しようと旋回する。ですけど甘いです。

サードアイで先読みしたルートにも弾幕を放つ。一発がテイルローターに命中。小さく爆発しローターが吹き飛んだ。

 

「まあ、あんな感じに簡単に落とせます」

 

テイルローターを失った機体はメインローターのトルクを相殺出来ずくるくると回りながら地面に叩きつけられた。触覚のような機首が潰れ胴体がひしゃげる。

 

 

「すごいのだー!」

 

「では私達は輝夜の援護に向かいます」

 

はーいという気の抜けたような返事を背中に聞きながら戦闘空域を離脱する。途中で機銃の弾が私めがけて飛んできたがあの程度の攻撃当たるわけがない。

森の中だと上空からでは見つけづらい。

少し危険ですけど森の中まで降りましょう。

私のしていることを察したのかお燐は私の腕をがっちり掴む。爪たてられると痛いんですけど…

 

そうこういってる暇もないので急降下。速度が一気に上がり風切り音が鋭くなる。

そのまま速度を落とさず木々の合間に潜り込む。

記憶とサードアイがキャッチする思考を頼りに姫の元へ飛んでいく。

どうやらバイクが追っかけているみたいだ。そのほかにも10…いや12人が追っかけている。時々爆竹の破裂音のようなものが聞こえてくる。

木々をギリギリのところで避けながら最短ルートを飛行する。

(木が目の前にい!少しはスピード落としてええ)

 

「ーー!見つけた!」

 

視界に発砲する兵が見える。

即座に弾幕を展開し発射。紫と赤が混ざったような色をした弾幕がばら撒かれる。

 

突然の事で避けきれなかった兵士が吹き飛ぶ。

 

「お燐!任せました!」

 

「はいさー!」

複数の兵士たちの上空でお燐を投下。

即座に人型になり着地したお燐が近くの兵の首筋に爪を刺す。

 

あの距離なら銃火器は使えない。更にいえばお燐の得意な距離だ。相手が接近戦に強くてもそう簡単にはいかないだろう。

 

血しぶきが上がるのを横目に私は直ぐに前の方にいる輝夜たちのところに降りる。

 

「遅れました」

 

近くに来たバイクのヘッドライトが私を照らす。スポットライトはいらないです。

瞳孔が直ぐに絞られて目に入る光量を調整。同時に一瞬だけ(サードアイ)が光る。

 

「あ、あなたまさか⁉︎」

 

 

「説明は後です!」

 

最初こそ奇襲で優勢だったお燐ですが向こうもアホでは無い。直ぐに体勢を立て直して小型結界などを張ったりしながらお燐の攻撃を防いている。

その上数が揃ってきた。これ以上はお燐が危ないわ。

「お燐退きなさい!」

 

「え⁉︎わ、わかった」

 

お燐が一回転し猫の姿に戻る。そのまま森の中に逃げ込み視界から消えた。残っていた兵が一斉にこっちに意識を向ける。

めちゃくちゃ睨んできてるんですけど大丈夫なんでしょうか。

 

突然降りてきた私に警戒しているのか迂闊に攻撃はしてこない。攻撃してきた方が楽なんですけどね。

ちょっと煽っておいた方がいいかしら?

 

「妖怪風情が邪魔だ死ね…ですか。物騒なものですね」

 

「な⁉︎」

考えていた事を言い当てられたのか一人の兵が驚愕する。

「狼狽えるな!」

 

「そういう貴方は地上にいるのが嫌だからさっさと帰りたいと…なら帰ってください。地上に迷惑です」

 

「このっ‼︎生意気な!」

 

一人がそう叫んだ瞬間、私とその後ろにいる輝夜たちに向かって鉛弾が飛んできた。

 

少しくらい話聞こうとか思わないんですかね。

煽った私が言うのも変な話ですけど。

 

「な、なんで効かない!」

 

私の周りの木々や地面が銃弾により抉れ破片が飛び散る。当然そこには私や輝夜の身体も含まれていなければならないのだが、そんなものはない。

 

「何でって言われましても効かないんですから効かないんです」

 

まあいくらでも撃てばよいです。

私はゆったりと反撃しましょうか。

 

先ずは、面倒なバイクを破壊。燃料タンクは大体座席付近…まとめて吹っ飛ばしちゃえ。

 

こちらを照らすバイクに弾幕を撃ち込み吹き飛ばす。

 

破損したタンクから漏れた燃料に引火し空中で火花を作る。綺麗なものでは無いですね。

 

さてお次は…

 

「うわあああ!来るなああ!」

適当に狙いをつけた兵の元に歩いて行く。貴方に逃げるという選択肢は無い。あってもそれは叶わない。

あーあーそんな乱射しちゃダメですよ。弾が無駄になるだけですからね。

 

「やめろお!目が、目が潰れる!」

 

だから煩いんですよ。

首をへし折って放り投げる。

 

叫んだり逃げまとう兵達を一人一人捕まえる。

一人の口から私が飛び出す。ありえない光景に周りがパニックになる。

這い出てきた私に銃撃とナイフが容赦無く襲う。だが、いくら銃撃しようとナイフで斬ろうと全くダメージを受けた雰囲気が無い。

 

「まだまだ遊びましょ?月の民さん」

 

 

 

 

 

勝手に跳弾やフレンドリーファイアで自滅が始まる。そろそろ姫達を連れて離れましょう。

 

「なんか…貴方って相当エグくないかしら?」

 

「そうでしょうか?私としては精神が再起不能になるくらいで生命活動に支障はきたさない程度に留めてるんですが」

 

《十分えぐいよ》ですか?はて?訳がわからないです。彼らに一応選択肢は与えてますよ?まともな思考はさせませんけど。

 

何も難しい事はしていない。ただ全員と目が合った一瞬を使って全員にトラウマを植え付けていっただけだ。

それだってリアルタイムで見れるように五感からの感覚が脳に伝わる僅かな遅延時間の合間に記憶に直接投影しているだけです。

ただ私の処理する情報が多くなって面倒になるだけで大して効果ないですし。

 

「で?貴方は何者?万が一姫に危害を加えるようなら…」

 

「《その場で消滅させますよ》ですか。あ、すいません勝手に心を読んでしまって」

 

ずっと黙ってこっちを睨んでいた女性が話しかけてくるが、それをつい遮ってしまう。

いけないいけない。妖怪としての癖が出てしまった。かなり気がおかしくなって来てるのでしょう。

 

「……さとり妖怪ね」

 

完全に警戒されましたね。背を向ける私に矢を構えているみたいですが…

 

「やめなさい永琳。さとりは私の親友よ」

 

「……失礼しました」

 

「こちらこそ無駄に警戒心を抱かせてしまってすいません」

素直に謝っておく。この人を敵に回すようなことだけは避けたいです。

 

 

「ではお燐。この二人を連れて直ぐにこの場を離れてください」

 

「さとりはどうするんだい?」

 

人型になったお燐が不思議そうに尋ねる。

 

「私はルーミアさんを迎えにいきます」

 

状況のよくわからない二人は何を話しているのかいまいち分かってない。だがお燐にはこれで十分。

「わかった。それじゃああそこで待ってればいいんだね」

 

「ちょっと待って!まさかあそこに戻る気なの⁉︎」

正気の沙汰じゃ無い。ですか…まあ普通に考えればそうですよね。ですけどあそこにはまだ知り合いがいるんです。

 

「知り合いが戦ってるのに逃げるのは嫌なんで」

 

これ以上何かを言われるのは御免なのでお燐に後を任せ戦場となっているであろうところに向かう。

小さく聞こえる炸裂音が不思議と懐かしさを感じる。

後ろで輝夜が何か言ってる気がしますが聞こえないことにしましょう。

 

 

 

 

「さて、お二人さん。あたいについてきて」

さとりが飛んでいってしまい途端に姫が騒ぎ出す。

 

「ちょっと!大丈夫なの⁉︎」

 

「さとりなら大丈夫だよ。確証はないけど、そう言い切れる自信はある」

 

こういう時の勘はよく当たる。無傷というわけにはいかないだろうけど必ず帰ってくる。そう感じたらそれを信じるのがあたいだからね。

だから帰ってきたら思いっきり甘えられるようにしておかないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だに戦闘は行われている。だが地上はバラバラになった人間の死骸や槍などが刺さった月の民のものなどであふれかえっている。

戦車も全車が破壊されたのか脚のようなパーツや砲台が転がっている。

 

戦っている妖怪も1、2体くらいしか見当たらない。

 

まさに地獄絵図と言うか…泥沼の戦場というか…そんな感じのものです。初めてみますね。

 

流石に半数の兵力ではいくら兵器が優れていようと優勢にならなかったみたいですね。

 

 

ルーミアさんを探すと、宇宙船の上部で寝っ転がっていた。

闇にすっぽりと覆われていて何が何だか分からないが、寝ていることだけはわかった。

おいておくわけにもいかないので回収しに行く。

凹凸も接合後もない滑らかな船体の上に降り立つ。

「ルーミアさん?起きてください」

妙に血なまぐさい。負傷しているのだろう。なおさらここにおいておくわけにはいかない。

 

「……」

返事がない。取り敢えず闇の中に手を入れてルーミアさんの身体を担ぎ上げる。その直後、身体を激しい振動が襲う。

 

「きゃ!」

バランスを崩してそのまま船体から落下。空中に投げ飛ばされる。

 

「な…なにが?」

 

爆発でも起こったのかと思ったが違うみたいだ。宇宙船が浮き上がっていた。

浮上自体は珍しい事では無いかもしれない。

だが、異常なのはまだ地上には月の兵がいるにも関わらず逃げ出そうといった格好で浮上している事だ。

 

人を抱えて飛ぶのは困難なので一旦地上に降下する。

生き残っている人達が何かを叫んでいる。

それに答えるかのように宇宙船の下部ハッチが開く。そこから筒状の何かが切り離される。

「逃げろ‼︎」

誰かがそう叫んだ気がした。

その声で生き残っていた月の兵が一斉に逃げ出す。

 

全長12メートルほどあろうかと思われる巨大な爆弾が迫ってくる。

「ここを…吹き飛ばすつもりですか⁉︎」

飛んで逃げても巻き込まれるのは目に見えている。

 

とっさにルーミアさんを地面に開いた窪みに押し込み上から覆いかぶさる様に伏せる。

戦車の砲撃か永琳の攻撃で開いたものなのかよくわからない穴ではあったがそんな事は関係ない。

 

効果があるかどうか分からないが結界のような感じに残っている妖力で壁のようなものを作る。

生き残れるかどうかはわからない。でも何もしないよりかはマシでしょう。

 

そう思った直後、世界が真っ白になり音が、空気が消えた。

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。