古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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スピンオフ作品
『古明地さとりは執行官である』もよろしくお願いします


depth.202さとりはお空を頼る

レミリアがこちらに送ってくれた協力者はその日のうちにすぐ来てくれた。

でも風呂上がって体拭いている時に新しいタオルをしれっと渡してくるのは心臓に悪いからやめて。普段のノリでそのままスルーしちゃってたけどあれは絶対に狙ってたわよね?私の反応……

紫めっちゃ笑ってたしお空はお空で困惑してたし。その中で私だけ普段通りを貫いたら流石に空気がおかしくなるか。

正直最近思い切りが良くなったというかなんか色々吹っ切れたような気がする。主に目が見えなくなってから。

しかしいたずら好きなメイド2人がやってくるとは…いや片方は完全に素でやっていた節がある。あれは絶対分かってない。挙句レミリアの指示に従うのであってこちらの指揮下に入るつもりはないのは丸わかりであった。だってそんな雰囲気なんてあのプライドの高いレミリアのところにいれば自然と身についてしまう。

本人達は否定しても内心快くは思わないだろう。主人以外からの命令なんてと思うだろうしそういう考えが無意識下でもあると意識の齟齬が起きやすい。

そういうわけだから向こうの指揮権はやっぱりレミリアかフランのまま。私としては指揮権が一本化できないとトラブルが起きやすいのだけれど……かといってこちらがレミリアの配下に入るとそれはそれで地底のみんなが怒る。

みんなプライド高すぎでしょ。むしろこっちで喧嘩して内戦が勃発しそうですよ。

そうすれば勝手に妖怪が争ってくれてると喜んで向こうも手出しはしてこないかな?いや絶対連携していない時が好機とか思って突っ込んでくるだろう。過激派はなにをしでかすかわからない。同じ同胞であっても妖怪に味方する。或いは自分達の主張に反する者を討ち取る事だってするかもしれない。っていうか今までの人類史見てたら絶対打ち取る。

「咲夜と…玉藻さんですか」

で……早速玉藻はソファに寝っ転がってゴロゴロしている。咲夜さんは完璧で華奢なメイドを続けている。性格絶対合わないでしょ。

さっき酔いが回っているお空のために布団を敷いたりしてくれたのだけれど今となっては疲れたのかのんびり横になっている。

「はい、お嬢様の命で今回は協力させていただきますメイド長十六夜咲夜でございます」

咲夜さん固い。反応が堅苦しいよ。何気に会うのは初めてだけれど……

うん、何度か宴会などで顔を合わせることはあったけれど面と向かって話すのは初めてである。

「硬くてごめんね。メイド長やらせてからずっとこうだから…あ、違うね。メイドになってからずっとこうだから」

ソファで完全に猫化している狐に言われたらなんだか…咲夜さんの方が立派だと思えてしまう。それでもやっぱり硬いというかなんというか…話しかけづらいところがある。困ったなあ……

「構いませんよ。むしろメイド服着ているのにオフになっている貴女の方がこの場合問題あるかと」

そう咎められる玉藻さん。何を隠そう仕事服でゴロゴロしているのだ。完全にシワになってしまっている。今更起きたところで服が残念なほどシワになっているということくらいしか伝わらないだろう。狐は気まぐれ。猫も気まぐれ。

「さとり様からもお手数ですが注意してくださいまし」

仕方がない。流石に私に注意されたら態度を改めるだろう。

「ゴロゴロするなら私服に着替えてくださいよ」

 

「違うそうじゃない」

いや仕事服でゴロゴロされるのが困るだけというか目に余るだけなので私服に着替えてしまえば問題はない。

「私服ならお空のサイズのもの持ってきますので」

直ぐにお空が寝ている部屋に向かう。起きていれば良いのだけれど……

 

お空の部屋にノックして入れば、布団の上で半身を起こし俯いているお空がいた。どうやら寝ているわけではないようだった。ただ酔いが想像以上に早く回ったためかもう二日酔いも発生しているようだった。可哀想というかなんというか……

「あ、お空起きてた?」

 

「うにゅ……酔ったくらいじゃ寝ないよう」

覇気が全然ないのは二日酔いが辛いからだろう。あまり刺激しないようにしておこう。

「ちょっと服借りたいんだけど……」

お空の部屋は意外と私の部屋より広い。だけれど置いてある私物も多いから人が歩けるスペースは私の部屋よりない。

大半は何かの本だったりよく分からない宝石系だったり。それが無造作に置いてあるから足場がないのだ。正直宝石なんてどこで見つかるのやらと思ったものの、灼熱地獄の外壁に自然生成されるのだとか。

「じゃあそこのクローゼットの……」

話すのも頭に響いて辛そうだったので素早くサードアイで思考を読み取る。最近思考を読んだ方が落ち着くようになってきたのは妖怪に近づいたからかな……なんだか嫌だなあ。

「左端っこの一式ね」

 

「うん!」

 

左端の一式…あったこれね。

ハンガーにかかっていたそれを持って部屋を後にする。今度来た時はもうちょっと整理しておいて欲しいけれど…元動物なのだから無理強いは出来ない。

 

しかしお空と体格は似ているけれどサイズは大丈夫なのだろうか……なんだかブカブカなような気がしてきた。

 

案の定服を着替えさせたらぶかぶかだった。しかも何故かへんなロゴの入った黒いTシャツと短パンなのだ。このチョイス……いや色合わせは問題ないのだ。この黒いシャツにどこかしら親近感を感じてしまう以外。絶対これあの人がお土産とか言って渡したのだろう。流石にお空もこれを着て出歩くのは憚られたらしく使った様子はない。だけど使った様子もないのに首回りがすごい開いているのはシャツとしてどうなんだろう…肩出し用の服とか確かに開いているけれど…これはそうではないだろう。多分何かの手違いでこうなってしまったものだ。丈だって短いし……

 

正直別の服を持ってこようかと思ったらものの本人がこれでいいやって適当なこと言って再びソファに寝転んでしまったから交換も何もなくなった。

それにしてもその場で堂々と着替えるってどうなんですかね……目の保養にはなったのですけれど正直気まずいですよ。

「コンバットメイド服じゃないから動きづらいのなんのってねえ…」

いやそこに同意を求められましても……

咲夜さんが同意している。普通のメイド服ってやっぱ辛いんだなあ……

「ですがコンバットは重量がありますので」

確かにこのメイド服少し重量ありますよね。多分繊維質に破れにくい加工がされているのでしょうけれどそれが却って重さを増しているというわけか。

「だよねえ……でもあまり問題にはならないかなあ…どうせナイフ沢山持ってくんだからさ」

ああ……隠しナイフで一杯でしょうね。そう考えたら重さも気にならないのだろうか?

「……まあ、取り敢えず話し合いしましょうか」

 

と言っても打ち合わせらしい打ち合わせはできそうにないかな……ああもう人だけ集めてはい頑張ってねなんて……せめてレミリアさん本人連れてきてくださいよ。こっちは良い迷惑です。

「やっぱ…レミリアさんの指示の方優先しますよね」

 

「「当然です」」

……面倒だなあ。

あ、そうだ!

 

 

 

 

酔いが程よく冷めて、二日酔いの気持ち悪さもある程度落ち着いてきたところで、タイミングを計っていたかのようにさとり様が部屋に入ってきた。

なにかあったのかなあ?起き上がろうとしたけれどさとり様がそのままでいいと手で肩を抑えた。

「風呂で紫が言っていたこと覚えてる?」

隣に座り込みながらさとり様が問いかけてきた。確か…地上で変な人たちの集団が暴れそうだから事前に取り締まってだっけ?あまり記憶力良くないから要点しか覚えないんだけどそれであってますよね?

「覚えてますけど……」

正直私はさとり様にまた何かさせようとする紫様は好きじゃない。まだあの事件から1ヶ月も経ってないんだよ?

「あなたにそれを手伝って欲しいの」

うんうん……え?今手伝ってって言った?

思考停止…ちょっと待って待って。え?まさかさとり様に手伝ってって言われた?しかも今までならさとり様が1人でやったりすることを?

「うにゅ?私が?」

顔に出ないように抑えているけれど少しニヤニヤしてきてしまう。それでも胸にあるそれが微かな熱を放てば、私の心を浮かれさせていた熱はかき消された。

同時の冷静になってくればさとり様の提案がなんだかとても恐ろしい怪物のように感じてしまう。

「ええ、話し合った結果よ。私も動くけど地底の仕事もあるから自由には動けないわ。レミリアと同じで」

そういえばレミリアさんも参加するんだったっけ?あ、違うレミリアさん達の部下が来るのか。

「だから私?でもお燐とかも…」

正直私に頼んできたのは嬉しいんだよ?でも今の私は……まだ力の制御だってうまくいかないことがあるし誰かを傷つけてしまうかもしれない。だからお燐の方が適任な気がする。さとり様だってきっとそう思っているはず。なのにどうして私なんだろう?

「そこらへんも貴女が好きにしていいわ。取り敢えず…任せたわよ」

私の好きにしていいって……え?ええ?どうして……

「い……良いんですか?」

だって私……さとり様にいっぱい迷惑かけちゃったんだよ?いけないこと沢山しちゃったんだよ?自信がないとかそういう問題じゃなくて取り返しのつかないことしちゃったことが怖くてまた同じようなことしちゃうんじゃないかって……そう思っちゃうといつも眠れなくなる。

「別に恨んだり怒ったりなんてしてないでしょ。もう一ヶ月も前の出来事を蒸し返す必要性はない。自覚無いでしょうけれどお空、貴女は強くなったわ」

気づけばさとり様のサードアイが私をじっと見つめていた。さっきのことも全部さとり様に伝わっていて…その上でさとり様は怒ってないって言ってくれたの?

「そうでしょうか……」

でもその言葉を疑ってしまう。私を励ますためなのかもしれない。もしかしたら本音では怒っているのかもしれない。

「いつまでも腐ってないでちょっとは外で色々見てきなさい」

背中に手を回して、優しくさすってくれた。いつのまにか私、呼吸が乱れてたみたい。少し大きく息を吸って落ち着かせる。

「わかりました!」

せっかくさとり様が私を頼ってくれたんだ。そう考えたらやらないなんて選択肢無いよ!うん‼︎

「じゃあさとり様一緒に…」

 

「話聞いてた?」

やっぱダメだった?

 

取り敢えずお燐誘わないと!確か今旧都に行ってるんだっけ?

「地上よ。さっき帰ってきたから部屋にいるんじゃないかしら」

そっか!じゃあお燐の部屋行ってきます!

「服くらい正して行って」

え?あ……乱れてた。そういえばさっきまで寝っ転がってたりしてたからか。危ない危ない……

一旦帯を解いて服を整える。お客さんも来ているんだから……あ!そうだ!

「鴉に戻ればいいんだ!」

そう思いついた時には体は既に人型から本来の鴉の姿に戻っていた。手が翼となり風を切る感触が戻ってくる。

後ろで着ていた服が主人をなくして床に布切れとして落ちていく。

お燐みたいに服ごととかは私は出来ないから仕方がない。せいぜいが制御棒くらいなんだよね。一緒に変幻出来るのって…

後ろでさとり様が何か言っていたけれど聞き取れなかった。あとで聞けばいいや。

 

 

お燐の部屋は私の隣だったんだけどそこには誰もいなかった。部屋にいるんじゃなかったのかな?それとも出かけちゃった?だとしたらどこに行くかな…えっと…地上にお燐が行ってたのは死体集め。でも部屋を見た限りじゃ清潔好きだから部屋には持ち込まない。もしかして地下の霊安室かな?よくお燐あそこに死体持ち込んでるし。この前もこっそり拾った死体を霊安室に持ち込んでさとり様に注意されてたっけ?今思い出したんだけど……

 

まあいいや!行ってみよっと!

霊安室は一番端っこの階段を使って下に降りる。そこが唯一の入り口だから。

それ以外にも入り口くらい作ったらって言ったけど元々あそこ自体が後から作られたらしくて今更無理に地下を作るのも面倒だってこいし様言ってたなあ。でも普段使用しない東側に設置するかなあ?

 

あ!お燐いた!

下から上がってくるお燐に合流出来た!やった!

「ねえねえお燐」

お燐の肩に素早く着陸して耳元で話す。動物同士だからかお燐はこの状態でも私達の声が分かるらしい。基本は動物でも他種族の言葉は鳴き声って認識にしかならなくてわからないはずなんだけどね。

「どうしたんだい?」

手についた汚れを拭き取ったお燐が私に聞き返してきた。

「あのね…手伝って欲しいんだけど」

 

「詳しく聞こうじゃないか」

さすがお燐!実はさ……


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