古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.203お空の受難

なんだか久しぶりに地上に出てみた。前に出たのは宴会の後だから結構な時間が立ってたんだなって思う。

それでも綿飴が一面に撒き散らされた景色は相変わらずだしそこに飛び込んで模様をつくって遊びたくなるのは別に悪くはないと思う。

実際玉藻って言うメイドも頭から雪に突っ込んでなにかを引きずり出していた。それは雪の下に隠れていた小さな小動物で、掘り起こされてからしばらくして玉藻さんのおもちゃになっていた。

 

だからお燐、頭叩かないで。痛いから!みんな遊びたいんだよ!ちょっとはここで遊んでもいいじゃん!

え?宴会の時散々遊んだって?雪遊びは冬の特権よ!

うわーん!お燐が意地悪するう!

 

「まあ兎にも角にも先ずは偵察して情報を集めないとだね」

私の言葉を無視してお燐が指揮を取り始めた。見れば咲夜さんって言うメイドも玉藻さんの首根っこを掴んで引っ張ってきていた。

情報集めるのはいいんだけど…

「偵殺?」

情報を引き出して殺しちゃっていいの?すごく簡単な仕事になるよね。

「サーチアンドデストロイなんて誰も言ってないよ」

え?違ったの……だって偵殺って…

 

偵察!殺すなんてどこにもニュアンスないじゃないか!

 

ええ……なんで怒ってるの

「同感ですわ。私達もレミリア様からなるべく情報を引き出せとの命令を受けていますので」

 

「なんだ咲夜も偵殺するのかい?」

玉藻さんも偵殺って言ってるよ?

「ええ…偵察には賛成です」

うーん…ニュアンス似ているから分かりづらいや。

えっと……情報を得るためには確か張り込みでもするの?それ以外にも確か色々あった気がするんだけど……

「じゃあ……張り込みするの?」

 

「張り込み以外にも色々あるでしょう潜入とか」

 

「あ!聞き込み」

お燐の言葉に触発されてようやく思い出した。すっかり忘れてたよ。別に大変な手段を取らなくても聞き込みである程度の情報は集まるんだった。まあ時間もかかるし地道にやってくことになるから結構大変らしいけれど…

 

「ですが今回は時間がないとレミリア様もさとり様もおっしゃられてました。なので少々危険ですが張り込みをしましょう」

あ、そうなんだ……じゃあやっぱり張り込みかあ……

「私達が張り込んだり尾行したら目立つからなあ…それはお二人さんに任せるよ」

咲夜さんの横で雪を払い落としていた玉藻さんが私の方を見てそう言った。なんで私見ているの?あ!そっか私達動物になれたんだった。っていうか元々動物の妖怪だった。

「それじゃあ行こうか」

お燐が立ち上がり、肩に積もった雪を払いおとす。

振り払われた雪はまだ固まっていなくて、そのまま粉雪となり宙を舞う。巻き上げられた雪と今まさに降っている雪が乱反射を繰り返す。

「行くって人里?」

 

「当たり前じゃないかい」

えーもうちょっとゆっくりして行きたかったなあ……せっかく雪があるのに。

「後少しくらいここでのんびりは……」

玉藻さんも私に同意してウンウンうなづいている。

だけれど次の瞬間私達の周囲の雪が一瞬だけ消えた。

それほどの覇気が周囲にばらまかれた。思わず身を縮めてその巨大な何かから逃げようとしちゃう。

 

覇気を出した原因である2人はゆっくりとこちらに向き直った。ちょっとだけ笑顔なんだけど全然笑顔じゃない。怖い……

「「ダメです」」

しょぼーん……全部の仕事終わってからならいいのかな…

 

 

 

 

結局引きずられる形で人里のすぐ近くまで来たけれど私達は正規で入ることが出来ないから動物になって先に獣専用の抜け道を使う。咲夜さん達は異変解決も時々手伝っているらしいから正面から堂々と入れるらしい。いいなあ……

でも手続きがあって大変なんだとか…私達とどっちがいいのかなあ……

まあ人里すきじゃないからいいんだけど……正直言ってここは嫌い。色んな感情が渦巻いていて、私ら動物はそういうのに結構敏感だから精神的に疲れる。

お燐は慣れって言ってたけれどこれはあまり慣れたくないなあ……

「あーいたいた。あの人たちだねえ……」

お燐の背中に乗っかって人里の中をめぐっていれば、なにやら叫んだりビラを配っている男が見えた。あれなんだ……ずいぶん派手にやってるんだね。

「見つかるのは早いよね……」

 

「そりゃ…あんだけ派手にやってたらそうなるよ」

そういうものなのかなあ……

しばらく建物の陰から様子を伺う。といっても猫とカラスだからぱっと見は周りの人も違和感は持たないと思う……でも時々子供が来ては猫さんだ鴉さんだって言っているのはちょっと怖いなあ……バレないの?って聞いたら堂々としてたらバレないようって言われた。

 

「あ、動いたね」

一通りビラを配り終えたらしく、最後に礼を言った男が荷物をまとめて歩き出した。

「それじゃあお空は空から追いかけてね」

そうは言っても私目立つかもよ?目が赤くて足が3本ある鴉なんて早々いないでしょ。

八咫烏様が宿ってから体の変化で一番驚いたのは足だよ。三本になるなんて…なんだか最初はなれなかったけど慣れてきたら満更でもないんだけどね。たださ……目立つんだよね。

「遠目で確認できればいいよ」

 

「そうなの?」

だったらまだバレるリスクは少ないのかなあ?

「聞き耳を立てろってわけじゃなくて相手がどこに住んでるのかとかそういうことを知りたいだけだからさ今回は」

そっか…

「じゃ行ってくるね」

翼を広げて空に舞い上がる。少し空に上がれば、小うるさくいろんなことを叫んでいた人がよく見えるようになる。周囲を結構気にしているからちょっと離れたところで様子見だなあ……

 

やっぱり雪だからか人通りは普段より少ない。おかげで大通りでも見失わなくて済む。

「んー?知り合いかなあれは……」

数分ほどすると後ろから別の男が近寄ってきて一緒に並んで歩き出した。どう見ても知り合いなんだけど……

ちょっとだけ近づいてみれば途中で合流した別の男と何か話していた。何だろう……

すぐ後ろに張り付くようにホバリングしながら聞き耳をたてる。

翼のはためきが聞こえないよう慎重に…

「向こうはどう言ってきている?」

 

「交渉次第と……」

 

交渉次第?なんのことだろう…

さらに聞き耳を立てようとして、男の1人が振り返った。あ、やばい見つかる。慌てて降下するけれど間に合わない。3本足の鴉なんて妖怪って即バレじゃん‼︎あああまずいよお!

「ふぎゃ⁈」

瞬間私の体が横に弾き飛ばされて、上にふさふさした毛並みの何かがのしかかった。体を地面に強く打ち付けたけれど雪の影響で泥になっていた地面のおかげでそこまで痛くはなかった。

 

「どうした?」

 

「いや、鴉が猫に捕らえられてただけだ」

彼らの言葉を聞きながら私はお燐に路地裏まで引っ張られた。

ちょっと荒いんだけど……

 

「あんたバカ⁈あたい言ったよね!居場所を探るだけって‼︎」

お燐に解放された直後怒鳴り声が耳を通過した。同時にお腹の底からドロドロした負の感情が出てくる。決してお燐に対するものではない。これは……私に向けての感情だ。

「ごめんなさい忘れてた」

本気でお燐が言っていたことを忘れていた。物忘れが激しいから気を付けなきゃって思ってたのに……

「忘れないで!どこかにメモして!危うくバレるところだったじゃないか!」

ああやってしまった……

「ごめんなさい…」

 

「まあいいや…次は気をつけておくれ」

はい……

そういえば見失ってしまったのだけれど大丈夫なのだろうか……

「ああ、多分今頃はあっちが追尾を始めているよ」

 

ふと上をお燐が上を見上げ、一瞬だけ上を影が通った。

屋根の上まで飛び上がって見れば、屋根伝いに移動する玉藻さんがいた。バレないよう時々屋根に張り付くように身を伏せながら人里を縦横無尽に飛び回っていた。

 

「本当は危険が伴うんだけどね…」

たしかに…あれじゃあ見上げた時にすぐばれちゃうよね。

「じゃあ私が……」

今度は失敗しないように気をつけよっと…

「今度は気をつけるんだよ」

わかっているよう。

 

 

 

雪山というのはどうも歩きづらい。まあ足場は悪いし気温は低いし…生き物の大半は春に向けてこの過酷な環境の下で耐え忍んでいるか…この環境にすら対応した僅かな生物が生きているくらいだ。

そんな山を登っていけば、ようやくお目当のところが見えてくる。なんだかんだで久しぶりに訪れる事になった。

 

凍結した川のほとりに、それは露わになっていた。

私のために光学迷彩をカットしているのだろう。まあいつものことだ……

にとりさんが玄関に立っているのが見えて安心したのもつかの間、それはホログラムであって、入ってと自動案内するだけの機械だった。地味にオーバーテクノロジーな気がしなくもないけれど…

 

「……どうして私を呼んだのやら」

案内に従って中に入れば、工房の中は前に来た時より物が片付けられていてスッキリしていた。

「よく来てくれたね盟友!」

そんなガレージの真ん中でにとりさんがクレーンにぶら下がっていた。何しているんだろう…あ、あれブランコか。

「どうしてここに呼びつけたんですか?」

 

「ウヘヘ、ついに出来上がったんだよ!」

笑い方が気持ち悪い。

それと出来上がったって…なに作ってたんですか?

 

ブランコから降りたにとりさんがついてきてとガレージに隣接する別の部屋に案内する。大人しくそれについていくと、そこに佇んでいたのは全長が15メートル以上もある大型の飛行機であった。正面から見ると三角形に近い形の胴体は後方に行くにつれて窄んで行き、最終的に平らになっている。複雑な曲面構成だからか、ところどころ凹んでいて完全にツルツルとはいかない。それでも手作りなのだから仕方がないだろう。

塗装はまだ施されていないのか鉄の鈍い輝きを放っている。

「……随分と大きいですね」

前に作った航空機…確か短距離で飛べる奴はもう少し小さかった。

「4人乗りで双発なんだからこれくらいの大きさは必要だろう」

確かにそうかもしれない。4人乗りであるならここ大きさも納得してしまう。

「その割にすごい位置にエンジンありますね」

 

その機体のエンジンは主翼下や胴体内部ではなく、胴体後方、垂直尾翼の合間に収まるように設置されていた。エンジンポッドは左右分離していて……どことなくA-10を連想させる。しかし緊急脱出する時どうするのだろう?

「吸気口を地表から離して砂や石などの異物吸入による損傷を極力減らしているんだよそれにこっちの方が駐機中にエンジンを運転したままでも整備点検しやすいし」

実に試験機らしい……合理的というかなんというか。

「後は接触事故対策でめっぽう頑丈にしたから並の弾幕じゃダメージ受けないよ」

一体どこを目出しているんですか。それ接触事故どころか空戦にも対応できちゃうじゃないですか。

時々河童の発明する武器は恐ろしいものがある。ノビールアームで使用するレーザー兵器とか見せられた時は流石にビビった。

「それでこれを私に見せてどうしろと…」

 

「折角あんたの設計をもとに作ったんだからさあ…もうちょっと喜ぶでしょう」

ああ…そういえば渡したなあ……アイデアないって聞かれたからA10のスケッチ描いて。

「好きにしてくださいと言ったんですけれど……」

 

「ついでだから飛ばしてみない?」

いや自分で飛ばしなさいよ。作ったの貴女でしょ。

「いや…いいです」

 

「ちぇ……」

残念そうな顔したってダメですよ。

「ところで…修復の時に色々データ取って行きましたよね」

にとりさん達に最初地底の復旧を依頼したのだけれどそのとたん完全に色んな計測装置を備えた河童が入ってきて片っ端から何かのデータを取って行っていたと勇儀さん達が言っていた。多分…神の力の測定をしていたのだろう。

「あ、バレてた?」

なにいたずらが成功した子供みたいな顔してるんです?成功どころか失敗していますよね?

「まあ…あれだけ派手に計測をやっていれば」

 

「いやあ、丁度良いデータが取れたからさ。これはそれの埋め合わせみたいなものなのよ」

やっぱりデータ取っていたのか…でも実際に使用されるところのデータではなく使用された後の結果のデータだけで良いのだろうか?

 

「今さとりが考えている疑問を当ててあげよう!被害のデータだけで良いのかでしょ!」

 

「当たりです」

ドヤ顔で言っていて外したらどうするつもりだったんだろう。

「言っておくけれど神の力を測り模倣するのに最も必要なデータって結果のデータなんだよ」

そうなんだ……確かに理屈を考えてみたら納得はいきますけれど。神の力って結果が中心になっているからその過程はなんでも良いらしい。

「神の力はその本質が何であれ最終的に結果として表に現れる。その過程は実は現実の法則や観測事象を完全に無視したものになるから発生中のデータって役に立たないんだよ」

ふうん神様らしいといえば神様らしいや……そんなデータを取ってろくなもの作ろうとしないそちらも…同じようなものか。

 


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