古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.210 星蓮船 中

「じゃあ霊夢、先にあの船にたどり着いた方が勝ちだからな!」

え?勝ち負け競うんですか?

「望むところよ」

 

どこがどう望む所なんだ…しかも魔理沙はそれを言うためだけに博麗神社に寄ったの?魔理沙ならあり得そうなのだけれど……律儀だから異変解決だろうと何だろうと霊夢と競いたいのだろう。たとえ自分1人が何かに気づいてもフェアじゃないとかそういう理由で周囲に話す…それでいて対等な勝負で勝とうとする。良いですねえ…

「魔理沙はどうしてここに来たのです?」

私の言葉で何かを思い出したのか去ろうとしていた魔理沙が戻ってきた。

「ああいけないいけない。こいつを忘れる所だったぜ」

そう言って手に握っていたUFOを差し出してきた。散々振り回されたからかなんだかぐったりしているようにも見える。でも生き物というわけでもないからただの気のせいだろう。

「なにこれ?」

当然UFOなんて概念幻想郷にないし未確認飛行物体という単語だってない。つまりこれを表す単語は幻想郷にはなく…何と聞かれてもなんかよくわからないものとしか答えられない。概念が無いから。

萃香も霊夢もそれを見て首をかしげるばかりだった。

「なんだか知らんが雪解けで地面から湧いてきやがった。怨霊の類でもないし…こうやって」

 

手でUFOを握りつぶす魔理沙。

UFOにしては生々しい肉が潰れるような音と粘土を握りつぶしたような潰れ方をして光の粒となって消えていった。

後に残ったのは木片。

「破壊すると木片になっちまうんだぜ」

ただの木片にしてはかなりの威圧がある。妖怪じゃこれはさわれませんね。触ったら手が焼けただれてしまう。だけれどその表面に纏ったUFOカバーは妖気を孕んでいたのにどうしてこの力と反発しないでいるのだろう?不思議だ……

「木片?……にしては何この神性?」

霊夢もそれに気づかないほど鈍感ではない。そもそもこの世界で鈍感なヒトは真っ先に死にますし。

「今までどうしてこんな神性があったのに気づかなかったんだ?」

確かにこんなものが幻想郷中に散らばっていたら確実に噂になる。萃香さんがそう思うのも無理はないだろう。だとすればこれらは……

「……多分これ、近くに特定の何かが来ないと力が発せられないようになっているのではないですか?」

特定の何かがあの船だとすれば筋が通る。それにこれらの木片がそう簡単に腐り落ちるようなものでもないから今までずっとその形を保ち地面や土の中で長い合間眠っていたのだろう。

「そうなのか?」

憶測だけれどそうなのだろう。まあそんな事実自体は今の時点では関係はないし解かなくても良い謎である。

「多分……」

 

「まあ良いわ。こいつらがどうして飛んでいるかより実際にこれらをどうするかよ」

霊夢の言う通りです。取り敢えずこれの仕組みは後でこれを作った本人から聞き出せば良いのだ。

「倒して集めた方がいいんじゃないかな?」

倒して集めるですか。

「集めてどうするの?」

どうするんですかね?集めたら集めっぱなし……本来はそれが正しいのですけれど。

「でもあの船の噂とほぼ同じタイミングで出てきたんだぜ?絶対無関係ではないだろう?」

実際無関係ではなくこれを集めているのですけれどね。でもそれを言ってしまったらなんで知っているんだと問い詰められそうだからやめておくことにする。

「どうするかは任せますわ」

でも一応は集めた方がいいのだろう。

だってこれらを必要としているのはあの船なのだ。集めておけば向こうからコンタクトが来るかもしれない。まあそんな事をしなくても直接乗り込めば良いのだけれど。

「もしかしたらこれらを集めていけばあの船から迎えが来てくれるかも?」

たしかにUFOなら普通の木片よりかはわかりやすい。しかもそれらは赤とか青とか結構派手な色使いだから外でも分かりやすい。だけれどそれぞれ場所によっては同化してしまう色である。意外と赤なんかは夜の闇の中では恐ろしいほど目立たない。何だかんだ夜間迷彩になってしまうのだ。

「そっちの方が楽だな。でも本当に来てくれるのかあ?」

確証がないと信じていいのか困りますよね。

それに、そんなことするくらいなら絶対直接乗り込んで暴れるでしょうね霊夢は……

でも今のあの船に乗り込むのは至難の業だろう。

「三人バラバラに行きましょうか」

私がふと呟いた瞬間霊夢の顔が絶望に染まった。え?今のそこまでショック受けることだったんですか?

「なに言っているの。母さんは私と一緒よ」

 

「効率悪くなりますから…」

集めるのであれば手分けして集めた方が良いに決まっている。まあ集めないであの船に乗り込むと言うのだったら良いのですよ。こちらが追いつけない高速で空高く移動する船に飛び乗る事ができると言うのなら別ですけれど。

まあ破片を集めたところで向こうから来てくれる確証もないのですけれどね。

「大丈夫よちょっとくらい」

大丈夫じゃないから言っているんです。後私は私で寄りたいところとかありますし。

探し出したい子もいます。まあ……別に探し出さなくても良いのだけれど。

 

 

「デレデレだなあ2人とも」

さっきから黙っていた萃香さんがやっと口を開いた。多分この甘ったるい空間に耐えきれなくなったのだろう。気づけば彼女はお酒を勢いよく飲み散らかしていた。そんな酒どこから取ってきたのやら……

「別に良いでしょ」

私は良くない。博麗の巫女がこんなに妖怪にデレデレなんて広まったら博麗の巫女への不信感が爆発しかねない。それは冬場に騒いでいたアレらが息を吹き返す可能性を秘めている。正直言ってとてつもなく危ないのだ。一応魔理沙と萃香さんは私が霊夢を育てたということは知っているからこの光景でも平然としていられるけれど…

「わたしゃ妬いちゃうなあ」

茶化さないでください。霊夢の機嫌が悪くなります。ここで機嫌悪くしたら赤い通り魔が生まれちゃいますよ。ストレス発散に出会った妖怪は全滅させる。後には骸と瀕死の妖怪しか残らない……

魔理沙ですらドン引きするんですから相当なものですよ。それに……

「パルスィが寄ってきますよ」

地底だろうと地上だろうと妬みあるところに彼女ありですから。

「おうそれは困ったなあ。普通に話し合うなら良いんだけどあいつ妬みで遊ぶかならな」

それがたのしみだからでしょう。人の妬みにつけ込んで対象者を一時的に攻撃的かつ凶暴化させて喧嘩、あるいは戦わせる。一種の洗脳のようなものだ。操り人形というわけではないので普通の対洗脳術も無意味だ。あくまでも本人の意思が本人の意思の生み出した嫉妬という感情によって支配されているだけなのだ。

 

そんな本人もタバコの吸いすぎで最近胸焼けがひどいそうですけれど…

一日一箱に制限したとか言っていたけれど…水タバコに手を出したお燐とどっこいどっこいな気がしてならない。

「ともかくばらけますよ」

いい加減親離れしなさいよ。それに船に乗り込んでからは一緒にいるって言ってるじゃないの。

「むう……」

なんでむくれるんですか。私だって色々とあるんですよ。

「船に乗り込むときくらいは一緒にいますよ」

多分……

説得がうまくいったのか霊夢は必ずだからねと言って魔理沙と一緒に飛んで行った。私はまだお茶を飲み終わってないのでまだ出ない。

「で…お前さん行かないのかい?」

急かさないでくださいよ萃香さん。あと脇を突かないでください。そこ弱いんですから。結構くすぐったいです。

「あのですねえ……私は妖怪なんですよ。異変解決に出てどうするんですか」

 

「そもそもあれ異変扱いにしちゃっていいのかい?」

あ、そういえば確かに異変とは言い難いですよね。ただの宝探しに近いですし。しかもやってることただの略奪だし。罪深いとかそういう以前に……俺がルールだを地で行っている気がする。

「巫女が異変と言ったら異変なんでしょうね」

身勝手かもしれないけれど異変だって身勝手なのだから同罪である。

「さすが暴君だな」

暴君ではあるけれど…それで助かっている人がいるのも事実。それに巫女が受け持つのはなにも異変だけというわけではない。

例えば相手を呪ったものの供養やお焚き上げ。更には解術、さらには除霊。多分除霊が一番多いかもしれない。私も巫女やっていた時は除霊とお祓いが多かったから。

 

なんだかんだそういうのは気が強くないとできない。と言うか気を強く持たないと逆に死んでしまう。だから巫女は気が強くなってしまうのだろうか。だとしたら私はどうなんだろう?気が強いのかな?

 

「巫女くらいなら暴君でちょうど良いのでしょうね。巫女が聖人だったらそれこそ今の幻想郷はありません」

まずこんなところに閉じこもっているはずがない。人類救済のために幻想郷を滅ぼし世界から争いをなくすために色々しでかすだろう。

「戦争を消しとばすねえ」

私の話を聞いた萃香さんは足を組みながら酔いが回って虚ろになってきた瞳で私を見つけていた。

「正直な話争いを無くすなんて無理じゃないのかい?」

 

「まあ出来ないでしょうね。生命の本質は争いですから」

 

「だろうなあ…それに無信者なら説得でいけるところまでけるかもしれないけどお、宗教とか信じる神様が違えば相見えるなんてことはまずないだろう?基本的はヒトならざるものと異教徒なんだからさあ」

ほんと宗教って異教徒に厳しいですよねえ……

「確かにどこの教派も暴力を振るっていいのは化け物と異教徒、人を殺すべからずと言っても異教徒とバケモノは殺して良いですからね」

 

「異教徒は人にあらずか。面白いねえ…そこまで好戦的なら、私と満足に戦える存在もたくさんいるかもしれないねえ」

幻想郷が荒野になりかねないからやめてくださいね。荒野にするのは地底だけにしてください。あ、外でやるには十分ですけれど……それでもあまり派手に暴れたら面倒ですよ。軍隊とか……

 

 

お酒を煽りまるで仕事終わりのおっさんのような格好で寝っ転がっている萃香さんを見て、ため息をつく。

こんな様でも鬼ですからね。その力は恐ろしいの一言に尽きます。

「少女なんですからそんなはしたない格好しないでくださいよ」

ぺったんこな胸とか丸見えだし。ズボンだって下がってしまっていてみっともないと言うか…なんだろうやっぱおっさんじゃん。幼女の皮を被ったおっさんじゃん。

「えーいいじゃんかよー」

せめて性格がおっさんだとしても美少女の姿でそれをやられると色々と目に余るものがある。

「良くないですよ……」

 

それにそろそろ私も出ますからね。戻ってきてもこんな感じじゃ多分霊夢の雷が落ちる。まあそれまでここに彼女が止まっているとは考えられませんけれど……

それでも外は寒いし暖かい室内で酒を飲んでいた方が心地良いのだろう。地底とは違って風がありますからね。

春の風はまだ冷たくて、まだ木々は茶色のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうん……面白いねえ…」

機械が放つ僅かな電子音と冷却ファンが作動する音以外静かであった空間に1人の女性の声が響く。

「面白いですか?今の状況」

面白くないのは事実だろうが彼女の声に反応した少女はそれでも嫌悪感を見せるように努力していた。

「確かに予想だにしないトラブルに見舞われ、私達はそのトラブルを解決することができないまま。だけどそれでも楽しまなければ人生は虚しいものになってしまうのだよ」

それは持論なのか…あるいはどこぞの老人たちへ言っているのか。

「そういうものなのか?」

 

「それに……こっちもこっちでかなり面白い子を見つけたからねえ……前と大して変わらないけれど研究にはなにが起こるか分からない楽しさがあるのさ」

その時の女性の表情は、しかしなんとも形容しがたい、あえて言うのであれば狂気に満ちているとでも言った方が良い表情をしていた。そこに他人の事を考える余裕はなく、あくまでも研究者としての……モルモットを見るような顔だった。

「だとしたらいい加減データ取りに徹底した方がいいと思うんだぜ」

 

「あんたやっぱ言葉遣いおかしいわ」

 

「あいつと同じこと言わないでくれよ!」

言ってるそばから直す気は無いようだ。

「いや…前々から思ってたことだし……」

 

「結構ショックなんだけど!」

今まで黙っていたのはそれが面白かったから。ある意味人でなしである。

「まあ落ち着きたまえ。取り敢えず私は少し休む。観測を続けていてくれ」

 

「はいはい……」

 

「そうそう、あっちとは違うからちょっと出力に気をつけてね」

 

「わかってますよ」

 

船はゆく。誰にも知られることはなく…

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