古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

224 / 325
天狗は鋭い…


depth.212春雪異変 下

「さとり様」

私とお燐が少し揉めていると、そこにお空が入ってきた。

「あれ?さとり様は……」

やっぱり変装が上手くいったのかお空が気づく様子はない。

まあ気づかれるような変装はしていないから分からなくても仕方がない。

「お空…目の前にいるのがさとりだよ」

お燐が苦笑いしながらも教えるがそれを信じる気は無いみたいね。

「やだなあお燐、流石に冗談すぎるよ」

それもそうよね。

 

紫がかった紅い薄桃色の髪はコバルトブルーが少し混ざった黒色になり癖っ毛故の毛先の跳ねもストレートにしている。さらにバレないように赤色のメガネをかけて普段は使わない化粧道具を使って少しだけ肌のトーンを落としている。挙句身長も普段より20センチ増しにしたのだ。まず同一人物だとは思えまい。

いやあ……関節を外したりずらしたりして無理に身長を高くしたせいで少し辛いです。まあこれくらいなら支障はないのですけれど。

ちなみにサードアイは羽衣で隠している。

「いえ、私よ」

流石に声まではまだ切り替えていないからこれでお空も気づくだろう。

「え…見知らぬ女の子がさとり様の声で話している…」

まさかまだバレないなんて……お空鈍臭いを通り過ぎてあれね…少し思考をどうにかしないといけないわね。

「変装しているだけよ」

サードアイを見せたらようやく信用してくれた。やっとですか……

「なんだそうだったんですかー。お燐もちゃんとそう言ってよ」

 

「あはは…悪いねえ…」

 

「あ…やっぱり目の周りとかさとり様だ」

 

「そこで気づく?」

髪留めを使って少し髪をまとめているせいか印象がずいぶん違うのだろう。

ついでに…

「これでどうかしら」

 

少しだけ妖力を使いお燐の耳と尻尾を再現する。

とは言っても飾りだから意味はないけれど。

なんとなくつけておけば変装の足しになるかな程度だ。

「あれ……同族に見えてきた…」

あらお燐、仲間として見てくれるの?なんだか嬉しいのやら悲しいのやら…

「あらそう?なら成功ね」

ここまですれば誰も私がさとりだとは気づかないだろう。だけれど霊夢の勘だけは気をつけなければいけないわね。

あれは本当未来予知とか心読とかそんなんじゃない。本当にやばいやつだから。

 

「それじゃあ行ってくるわ。一応ご飯はミスティアに任せるけれど大変かもしれないから手伝ってあげて」

 

「今度何かお礼くださいね」

お燐、そんなこと言うなら貴女には唐辛子エキス入りの目薬をあげるわ。もちろん冗談だけれど……でも護身用に凝縮唐辛子エキスのスプレーならあるから作ろうと思えば作れてしまうのが怖い。

「私台所見てくるね!」

 

部屋を出たお空に続く形で私も部屋を後にする。

ひんやりとした空気が露出した僅かな肌を刺す。針で刺されたような痛みが全体に広がりやがて消えた。

確かにこの寒さでは霊夢も動きたくなくなりますね。

それに…生命力が全体的に落ちているように見えます。このままだと少しまずいかも。

 

 

 

 

さて、一応誰が黒幕かは知っているわけだから寄り道する必要はない…だけれどやはり寄り道というかなんというか…ちょっとした様子見をしたいと思うのは悪いことではない。

実際あまり気を張らなくても良いのだし。ただあの妖怪桜は少し危ないかなあ…「浮ける」霊夢は問題ないけれど咲夜と魔理沙は対抗策がないとかなり危ないだろう。まあ仕方がないのかもしれないけれど。

 

 

向かうは妖怪の山。雪に半分埋もれかけた地面を下に悠々と空を飛ぶ。

ここまで銀景色になってしまうと晴れた時に地面からの照り返しがきつく飛ぶのは難しいけれどあいにく曇っているおかげでそこまで照り返しは酷くない。

それよりも哨戒している白狼天狗は銀髪か白髪な上に普段から白を基調にした服を着ているせいで雪景色では自然と迷彩になってしまっている。

だから接近に気づけないことが多い。特に私が指導してからは迷彩服を着る子が増えたのか年中見つけづらくなってきているのですけれど。

 

「止まりなさい!これ以上先は天狗の要域です!許可のない侵入は許しませんよ」

 

ありゃ…やっぱりきた。しかも今変装していますからこれはまずい……

どうしたことか…

数は2人。だけれどバックアップが近くにいて何かあればすっ飛んでくることを考えれば攻撃して強行突破とかはしたくない。

 

一応柳君がくれた通行証代わりになるやつは持っているのですけれど。

これ通用するかなあ?少し前に古くなったのと交換してもらったのですが真新しいと偽物と疑われる場合があるとかなんとか言っていたような。まあいいや。

「これ一応あるのですが…」

私が懐から引き出したそれを見て2人の白狼天狗が仰天した。というより驚愕してしまったが故にしばらく静かになってしまった。

「あ…はっ!失礼しました!どうぞお通りください!」

あら…随分あっさり通すのね。もしかしてこれそこまでやばいやつなのだろうか?確かに前に交換したものと紋章や繊細度が違いますが……

 

まあ通れるのであればなんでもいいや。

おっとそうだった…折角白狼天狗に会えたのだから聞いておかなければ。

「あの…お尋ねしたいのですが射命丸文はどちらに?」

 

「射命丸さんですか?すいませんわかりません」

やはりダメでしたか…まあ哨戒任務中のヒトに聞くことでもなかったわね。

「いえ、お気になさらず」

 

地道に探していきましょうかねえ……もしかしたらもう異変の黒幕のところに行っているのかもしれない。

少し探していないようであればさっさと行きましょうか。

「あややー見ない顔が山に来たと椛が伝えてきたから何かと思えば…」

一陣の風が吹き、背中に声がかけられる。それと同時に舞い上がる黒い羽。振り返ればそこには探そうとしていた人物が音も立てずに浮いていた。

「あら、文さんいたんですか」

普段と同じような仕草をするのもアレだったので少しお嬢様風の身なりで動いてみる。まあ着ているのは羽衣と浴衣に近い服なのでお嬢様風にはなりませんけれど。

「ええ、さとりさん久しぶりですね。見ない合間に随分と変わったようですが…」

あら、まさか私の正体を一瞬で看破するとは…誰の入れ知恵でしょうか?

「ただの変装ですよ。それにしてもよくわかりましたね」

どのようにして見破ったのか…気になるところです。

「匂いでわかりますよ」

匂い?ああ…そういえば風呂入って匂い落としてくるの忘れました。なるほど…そこからバレてしまったのですね。

「では……香水つけてきた方がよかったでしょうか?」

 

「いえ、そういうことではなく…雰囲気というものでしょうか?なんとなくわかるんですよ」

 

……どこかで気配遮断の能力があるお面を買った方が良いかしら?霊夢に見つかったら即バレねこれじゃあ。

 

「それで今日はどうしました?変装までして出てきたということはきっと何かありますよね!」

急に嬉々として私に抱きついてきた。一応関節をずらして身長を誤魔化しているから同い年に見えなくもないですが普段の姿でそれをやったら完全に犯罪ですからね?後急に抱きついたら危ないですって……

「ちょっと異変解決のお手伝いに…正体がバレるとまずいので私の名前は隠しておいてください」

 

「おお!バレずにこっそり…密かに解決のお手伝いですか!かっこいいですねえ……お伴しますよ」

まるでスパイ映画見たいとか言いそうな表情だ。まあ映画なんて幻想郷に来ないのですけれど。でも一緒に来てくれるのはありがたい。交渉の手間が省けました。

「もとよりそのつもりです」

 

行きましょうかと再び空に上がる。確かあの雪雲の上に冥界への入り口が口を開けているはずだ。まあわざわざそこから行かずとも、旧地獄を経由して三途の川まで行けば自ずと冥界には行けるのだけれど。

 

「黒幕について知っているようですが…」

 

「まあ知っていますけれど…ところで雲の上はちゃんと見たことありますか?」

 

「いえ…見てはいません…まさか黒幕は上にいたんですか?」

あら、貴女が見ていないなんて珍しいわね。

まああんな雪降らしている雲の中に突入するのは気が引けますけれど。

 

「当たらずとも遠からず……」

 

真実は目で見て確かめなさい。

速度を上げて空を飛ぶ。文も私に続いて上昇を始めた。とはいえ普段の速度よりもかなり遅いですけれど。私に合わせてくれているのだというのは直ぐにわかった。

まあ焦っても仕方がないのだからこのままのんびり行こう。

 

 

 

 

 

 

「うーん…参ったわね」

 

「だなあ…」

気がつけば魔理沙とともに同じところを何度も回っていた。まるで広範囲に結界がかけられておりそこから抜け出せないかのようなそんな感じだった。

 

無人の村を見つけて降りてみたは良いけれど入ってからどうも前に進んでいる気がしない。いや実際には前に進んでいるのだけれど結局同じところに戻されてしまう。さらに空に上がろうとしても気がつけば一定以上の高さから移動していないなど空間が繰り返しを起こしている。

その上人がいない…建物だけの村だ。気色悪い。なんだかうごめいているようにも見える…そんなことあるはずないのに。

雪を踏みしめる私と魔理沙の音以外、自然がおりなす音しか聞こえない。

どうにかしなければいけないけれど解決策がなかなか浮かばない。参ったわね…

「魔理沙何かいい案ある?」

 

「なにかの術でここに閉じ込めようとしているなら村を吹き飛ばせばどうにかなるかもしれないな」

 

「ただ精神攻撃の一種だったらそれすら通用しないわよ。むしろ体力の消耗につながる分危ないわね」

だよなあと腕を組んで考え始める魔理沙。このように迷わせる妖怪はいくつかいる。だけれどいつまでたっても襲ってこないのはなんだか不自然だ。足止めでもしている?

 

気がつけば目の前には茶色の猫が1匹だけ。それ以外はさっきと変わらない光景だった。

それにしても小動物は普通にいるのね。この子達についていけばもしかしたら出られるかしら?

 

ついそんな気がして歩き出した猫を追いかけた。二本に分かれた尻尾を見るにどうやら妖怪らしい。だけれど猫の妖怪は猫だった時と大して変わらない事が多い。無暗に退治するものでもない。

魔理沙も私の意図に気づいたのか黙って猫を追いかけることにして。

だけれど私達の予想を裏切るかのように目を細めた猫は、その場から煙のように姿を消した。

「迷い人かなあ?」

 

直後真後ろで声がする。

振り返ればまだ寺子屋で習い事をしていそうな年齢の少女が私達を見つめていた。その目がさっきの猫そっくりで、頭にある耳や尻尾を見るより先にそいつがさっきの猫なのだと理解した。

「…流石猫又だな」

魔理沙が素早く戦闘態勢に移る。そんなに身構えたら不意打ちができないわよ。

「猫又ね。倒せば何がゲロってくれるかしら」

まあ猫だから期待はしていないけれど。

「なんか物騒すぎない?」

知らないわよ。そもそも物騒なのはそっちでしょ。私は異変を解決する目的で合法的に妖怪をボコボコにすることができる存在よ。それに喧嘩を売ってくるということはそういうことなのよ。

だからさっさと退治されなさい。素早く針を袖から出し投げつけるが、見切られていたのか素早く回避されてしまう。その動き…確かに猫ね。

「まともに退治しようとするならやめておけ霊夢、私に秘策がある。どうにかしてあいつの動きを一時的に封じてくれればなんとかしてみせるぜ」

魔理沙が追撃しようとした私を止める。秘策ねえ…まあ面白そうだから乗ってあげるわ。

「じゃあ動きを封じ込めるからよろしく」

 

「うにゃああ‼︎やばいやばい!迷家だから出られないの!ここは迷家‼︎」

流石にこれには焦ったのか慌てて土下座し始めた。最初からやるなよとか思うけれどどうも妖怪は戦闘狂の気質が多いやつばかりみたい。今度似たような奴見つけたら許す許さない関係なく〆ましょう。

「あっそう…じゃあここから抜け出すために案内してちょうだい」

 

「それは断りたいのですが…」

なんでそれを断るかなあ?そもそもあんたに拒否権ないから。

「えっと…えっと……」

じゃあ大人しく動けなくされなさい。お札を投げつけ結界を展開する。猫又の後ろに結界の壁ができ退路を塞いだ。さて逃げられないわよ。どうするのかしらあ?

「霊夢流石にそれは鬼だぜ…」

 

「失礼ね私は巫女よ」

 

「そうじゃなくてだなあ…」

 

 

「わ、わかりました…」

あら根負けしてくれたのね。それじゃ案内お願いね。

「ここは迷家…入り込んだら普通じゃ帰ることはできない場所だよ」

 

「なあ、迷家って村だったか?」

そうね。名前的に家を想像するのだけれど。……

「迷家自体は妖のようなものなんです。意思はないのですけれど自己増殖を繰り返していまして…一つの家からようやく村まで成長したんですよ!」

 

「へえ…増殖する建物かあ…」

 

「さながら決戦増殖村ね」

 

「変な名前」

 

おい今変な名前って言ったな?ちょいとツラ貸しなさい。




巫女は鬼

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。