古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.214 星蓮船 厄

夜は真っ暗だと良く思う人がいるけれど実際のところは月明かりがあるからそこまで暗くはない。少なくとも相手の顔がわからない程の暗さはない。それでも暗いというのに変わりはないから人間にとっては恐怖を感じてしまうかもしれない

 

「もう夜なのに山に登るのは危ないんじゃ……」

山の中腹まで来て魔理沙がそんなことをぼやいた。最初の勢いは何処へやら。どうやら恐怖に直面して気持ちが萎縮してしまっているらしい。でも今更引き返すのはもっと危ない。特にここは天狗の里の近くだ。昼の天狗も十分危ないけれど夜はもっと恐ろしい。本来は人ならざるものの時間なのだ。向こうが慈悲をかけてくれるということはまずない。大体夜中に人里の外に人間がいるというのは殺してくださいという自殺志願者しかいないのだ。

「何言っているんですか。間に合わなくなっても知らないですよ」

 

いつ向こうが行ってしまうかわからないのだ。私としては別にそれでも良いのですけれどそしたら貴女達当たり散らすでしょう。

それで周りに被害が出るのは嫌なんですよ。

 

霊夢は周囲に灯をともして魔が寄ってくるのを弾いている。確かにこの明かりは魔除けの効力がある。そのせいで私まで被害を受けているのですけれどね。それは内緒。

 

 

途中で高度を落とし木々の合間に降り立つ。まだ新芽が出たばかりの木はそこまで視界が悪いわけではなく、比較的楽に降りることが出来た。

山を流れる川が見えてきた。

急斜面で流れが早く、岩肌が邪魔をしていて決して泳げそうには見えない川。だけれどここを楽々泳ぐ事ができる河童にとってはむしろ絶好の居住地域なのだろう。

 

「ここら辺か?」

ちょっと手前でしたね。もう少し奥の方です。

「もうちょっと上流です」

 

「うへえ……まだあるのかよ」

確かに夜の川というのは結構危険ですけれど。でも貴女たちは妖怪相手じゃどうということはないでしょう。問題は……水のあるところは霊が寄ってきやすいという問題です。悪霊対策は霊夢がしていますけれどそうじゃない…純粋に脅かしたい霊や成仏できないでいるだけのものは悪霊じゃないですから普通に寄ってきます。あ、もしかして魔理沙はそういうの苦手でした?

 

「ち、ち、ちげえよ!霊なんか怖かねえ!」

怖いんですか…まあ霊は大抵の人間が怖がるものですから何も恥ずかしいことではない。

「あんた昔怨霊に脅かされてちびってたわよね」

「霊夢‼︎」

ドンマイですね…っていうか小傘だけじゃなくて怨霊にまでやられるなんて……まあ昔の魔理沙なら納得です。

 

 

霊夢と魔理沙が言い争いをしているのを尻目にさっさと川ぞいに上流へ向かっていく。夜は光学迷彩の効果も相まってにとりさんの工房は視認することは不可能だ。そういう時はどうすれば良いかと言われれば、場所さえ覚えておけばあとは結構簡単である。

 

妖力を使い河童の弾幕を再現構築。それを周囲にばらまく。いきなりのことで後ろの二人が警戒を始めた。先ほど言っておけばよかったですね。

四方八方に放出された弾幕が木や地面にあたり弾ける。周囲を確認すれば大体のところでそんな光景が広がっていた。その中で一箇所だけ空中で弾ける場所が出てきた。まるで見えない壁に弾かれているかのような感じである。

 

「ありましたありました」

建物はどうしても動くことはない。だから迷彩で隠してもこうしてしまうと無意味になってしまう。

手探りでドアノブを見つけその場所の近くを叩く。

正直これで聞こえるかどうかは分からない。だけれどこれを霊夢達に任せたら壁を破壊して中に入り強奪をするだろう。

実際紅魔館で似たようなことをやっているし魔理沙も時々地霊殿の私の書斎から本を盗み出そうとしていた。それをやられると困るので全力で阻止している。気分は……メタルギ◯の敵役。

「にとりさんいます?」

 

しばらく応答がなかったけれど、光学迷彩が解除され中で室内灯が点灯したのか急に光が扉の隙間から漏れてきた。

三分後にようやく扉が開いた。

「何さこんな夜中に」

髪を完全に下ろしているにとりさんはどうやら就寝中だったらしい。下着姿で出てきた。目も微睡んでいる。

「妖怪って夜がメインじゃないの?」

完全に寝ていたであろう状態であるにとりに魔理沙が食いかかった。

「あいにく私は例外でね。昼に活動するタイプなんだよ」

髪を下ろしているとなんだか別人に見えますね。でも今は置いておこう。今度文あたりに相談すれば写真撮ってくれそうですし。

 

「飛行機を借りたいのですけれど」

あまり回りくどいとにとりさん寝ちゃいそうだから単刀直入に言う。その途端にとりさんの目が変わった。技術者として……河童としての本気の目玉。目が覚めたらしい。

「借りるって……あの飛行機を?でもこの前は渋ったじゃん」

渋ったというか試作状態のアレに乗せられるのにちょっと抵抗があっただけです。でもちゃんと乗ったじゃないですか。でもそれを言い出すと機嫌損ねそうだからやめておく。

「事情が変わりまして……あの飛行機の出せる速度と高度にこの2人を送る必要があるんです」

私と大して変わらない身長のにとりさんが狂気の笑みを浮かべた。

「そりゃ面白いねえ……」

 

「どうですか?」

 

「四十秒時間をくれ。すぐに用意するさ!」

そう言って一回扉を閉めた。ガタガタと扉の向こうで動き回る音がして、本当にきっかり四十秒でにとりさんは戻ってきた。いつもの水色の作業着を着て小さなカバンのようなものを腰に巻きつけて。

「お待たせ。付いてきてくれるかい」

にとりさんに続いて私達も建物の中に入る。少し前まで手前はがらんどうだったけれど今はいろんなものが無造作に置かれていた。

「前より発明品増えたわね…」

霊夢がぼやく。どうやら少し前に来ていたらしい。

「そりゃ作るからに決まっているだろう」

作るからと言ってもこれは一気に増えすぎかもしれない。いや……奥の方のスペースを空けるために前の方に出したというべきなのだろうか。

「ろくな事に使わなそうだけどね」

それは失礼ですよ。ちゃんと役に立つものも開発しているじゃないですか。例えば掘削ドリルとか。あれは結構便利でしたよ。直ぐ壊れましたけれど。

 

着いたよと倉庫を仕切るシャッターを開けるにとりさん。

同時に屋根に取り付けられている蛍光灯が点灯した。

目の前に鎮座した飛行機は、翼の上面と下面に筒のようなものが六つづつ合計24個くっついていた。胴体もショックコーンが鋭利になり、翼の端っこは丸まっていたものが切り落とされたかのように角ばっていた。塗装はされておらず蛍光灯の明かりの下で銀色に鈍く光っていた。前に見たときよりも随分と様変わりしている。

「あれからちょっとだけ手を加えたんだけどどうかな?」

手を加えたというか……色々と変わってしまっていてなんだか違う機体に見える。

「速度試験機ですか?」

 

「違うよただの短距離離陸試験機だよ。副次的に速度が上がっているけれどさ」

そのかわり飛行時間は1時間になっちゃったんだけど。と付け加えた。どれほど速度が上がったのだろう……どこかの人型兵器みたいに暴走して木っ端微塵とかにならないと良いけれど。

「へえ……これが空を飛べる機械?」

私の心配をよそに二人は初めて見るその鉄の鳥に興味津々だった。こっちに興味を引っ張れば船に行くのを諦めてくれますかね?うーん……なさそうです。

「そう、月の技術をどうにか解明して作り上げたものさ」

良くあれを解析できましたよねえ……まあ5世紀近くかかっているような気もしなくはないですけれど。それでいていまだに電子機器の製作は叶わないという。あれを再現するには材料がないから無理でしょうね。

「はへえ……なんだか欲しいけどこの大きさじゃ盗めないな」

盗まないでくださいよ。

そもそもこんなものなくても二人は飛べるでしょうに……

翼の上に登り乗員スペースを確認。あれ?一席足りない。

「座席数足りなくないですか?」

前に見たときは四人乗りだったのだけれどこれは後席左がなくなっていた。

「ああ、ちょっと道具を載せたかったから三人乗りにしてるんだ」

あっけらかんと言うにとりさん。

「じゃあ私はお留守番ですね」

操縦はにとりさんしかできないからこの人数では定員オーバーになる。当然二人のうちどちらかが降りるという選択肢もない。そうなれば私が降りるというのは明白だ。

「ちょっとそれはないんじゃないの?」

霊夢が帰ろうとした私の腕を掴んだ。地味に握る力強くないですか?いやしまってるんですけれど…結構ギチギチ行ってますよこれ。私だって痛みは感じなくても体は壊れるんですよ。

「仕方がないでしょう」

 

「手すりならついているからそこにつかまっていたらどうだい?」

気休めにしかならないような事をにとりさんが言った。手すりってあのキャノピーの下にあるあの手すりですよね。どう考えても飛行中は収納される手すりですよね?ナイスジョークって言った方が良かったのでしょうか?

「良いわ。私の膝に乗って」

霊夢が先に操縦席隣に座り込み膝の上に私を乗せようと引っ張ってきた。

そこまでして乗せたいんですか!それ地味に私のプライドが傷つくんですよ。存在が乏しいゴミのようなプライドですけれど!

「乗って」

……分かりました。

何も威圧しなくても良いじゃないですか。

「さとりが巫女の膝の上に……面白いねえ」

にとりさん絶対噂にするでしょ……天狗あたりは公然の秘密だから良いとしてもその他にまで私と霊夢との距離が近いと危険視されているのだ。

「……」

もう黙っておきましょう。黙っておけばどうにかなるはず……

無表情でじっとにとりさんを見つめていたら顔を青くしてエンジンかけるねと主翼の下に潜っていった。いきなりどうしたのでしょうか?まあ良いや。

 

しばらくしていると胴体にホースが接続され、轟音とともに機体になにかが送り込まれた。おそらく圧縮空気だろう。

しばらくしていると圧縮空気を取り込んだタービンファンが回転し始める。特有の甲高い音が少しづつ大きくなり始める。

計器を見ながら二人を確認すると外から響く騒音に二人とも嫌な顔をしていた。

霊夢の膝の上から隣の操縦席に移動し回転数が十分上がったところで燃料供給パイプを開く。点火プラグにつながるスイッチを入れれば、何度かエンジンから爆発音が響き渡り、やがてエンジン自体が燃料と空気を勢いよく延焼させて後ろに吹き出し始めた。途端にエンジンの回転数が跳ね上がる。

後ろは大丈夫なのかとバックミラーを使って確認すると、床の一部が跳ね上がってエンジンのブラストを拡散していた。

 

にとりさんが空気を送っていたホースを引き抜いてハッチを閉じ、コクピットに乗り込んだ。それと同時に機体の置いてあった床が斜め上に向かって傾き始める。

気づけば屋根も切り取られたかのように開かれ、星がきらめく夜空が広がっていた。

「This is Tower runway23、Go around」

 

「日本語でお願いします」

しかもタワーじゃないですよね。ここ助手席ですよね。

「それで、どこまで送っていけば良いんだい?」

 

「空に浮かぶ船まで」

 

「そりゃ好都合だ!私もその噂を確かめてみたいところだったんだよ!」

ゴーグルをつけたにとりさんがエンジンのスロットルレバーを一気に奥まで押し込み、いくつかのスイッチを入れ始めた。

「まあいいや離陸するから注意してね」

直後、衝撃で体が吹っ飛ばされそうになった。

視界が一気に切り替わり、気づけば月明かりに照らされた夜空を機体は舞っていた。

 

「へへ、どうだい?ちょっとしたアトラクションだと思わないかい?」

 

「思いたくありませんよ…」

二人はいきなりの加速に完全に目を回していた。無事なのは私とにとりさんだけだった。こりゃ人間が扱って良いものじゃないですね。

「イタタ…頭ぶつけたぜ」

 

「ちゃんとシートベルトしておいてくれよ」

今更すぎますよねその警告。

 

「それじゃあ……ブースターさっさと使っちゃうかな!」

操縦席の中央にあるボタンが押され、左右の翼についていた筒が火を吹いた。再び体が霊夢に押し付けられる。痛くないですかね?

「痛いわ…」

やっぱ痛かったんですね。

 

雲を一気に突き抜け、あっという間に雲の上に出た。速いのなんのってレベルではない。さっきソニックブームが発生した気がするんですけれど。

「見えた見えた!あれだなあ空飛ぶ船って」

 

外を観察していたにとりさんが真っ先にそれを見つけた。

「なんだい!ボロボロになってるじゃないか!」

何かあったのでしょうか?まあ今はボロボロの方が好都合なんですけれどね。

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