古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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あけましておめでとうございました。

かなり遅れましたが新話です。


depth.216霊夢にとっての懐かしいもの

春というより少し梅雨に近い湿り気と気温。雨が降りそうな天気なのか月明かりは完全に消え去り周囲は闇に閉ざされている。

そんな日でも見回りはしないといけない。それも、今日は神社で宴会だったから少し念入りにしないと…

 

一向にあたりが見えない暗闇に機嫌を悪くすればそれに合わせて頭を激痛が走る。

やっぱお酒飲みすぎたかしら……

酔いを覚ますために少し寝たのはいいが逆にひどい二日酔いに苛まれた。

 

こんなことならもう少し寝ておくべきだったわ。それにまだ酔いが冷めきっていないのか少しフラフラする。

 

お祓い棒を右手に持ち替えながら休憩を挟もうと地面に降り立つ。雨が降ったわけではないけれどもうすぐ雨が降るからなのかカエルの鳴き声が闇の中に響く。

 

さてどうしましょう……

 

休憩をしようにも地面に座るわけにはいかない。ただ立って周囲を見渡すだけ。それでも頭が叩かれるような痛みが続くので歩き出してしまう。

 

休憩の意味がないわ…

 

しばらく歩いていると額になにかが当たり始めた。

それがきっかけになったのか液体のようなもの…が一斉に落ち始めた。それは周囲の暗闇にもあたり弾けて闇と同化する。

 

「降ってきたわ……」

 

暗い闇の中に赤色の点が浮かび上がった。

それがなんなのか理解した私は早速そこに近づいていく。

強くなってきた雨が体を濡らし水を吸った服が重くなっていく。

 

近づいていけばそれは小さな屋台に吊るされた提灯の灯りだった。

確かこの屋台…飛んでいる時は無視していたから一度も行ったことなかったわ。折角だし行ってみましょう。

暖簾の奥から綺麗な鼻歌が微かに聞こえてきた。

 

「雨なのに屋台なんてやっているのね」

暖簾をくぐれば鼻歌はピタリと止まり、珍しいものを見たと言った表情の女将が私を見つめていた。

「えっと…まだ私悪いことしていないですよ」

唖然としてそう言う女将の背中にある翼が怯えで震え始めている。

「知っているわよ。私だって何も退治するだけじゃないわよ」

失礼ね。退治するのは悪さをしている時だけよ。まあ……弾幕ごっこルールのせいで退治することも出来ないのだけれど。

 

安心したのか女将は心底ホッとしていた。

「それじゃあ……いらっしゃい。飲んでいく?」

飲んでいく…か。私はただ雨宿りをしたかっただけなのだけれどそういえばここは屋台だったわね。じゃあ何か頼むのが礼儀かしら…雨で冷えたからか二日酔いも多少はましになっているし。

 

時間も時間だから一杯だけ行きましょうか。

「お水一杯だけね」

なにその微妙顔は!いいじゃない今はお酒の気分じゃないのよ!

 

「……八目鰻は?」

ああ、そういえばそんな名前が暖簾に書いてあったわね。初めて屋台に入ったからわからなかったわ。

「じゃあ頂こうかしら」

どんな味かは知らないけれど少し食べていきましょう。小腹も空いているし。

 

「はい!八目鰻一丁」

あんた嬉しそうね……余程暇だったのかお客さんが来なくて寂しかったのか…多分寂しかったんだろうね。そういう感情がある辺り人間と変わらないのに……

 

背中の羽を軽く上下に振りながら女将は料理を始めていた。気づけば頼んだお水が目の前に置かれていた。

いつのまにここに置いたのかしら…

 

 

「へえ…蒲焼きにして食べるんだ…」

目の前に出されたそれはどこからどう見ても蒲焼きだった。ただ、普通のウナギの蒲焼とは少し様子が違う。

八目鰻とか言うだけあってやはり違うのだろう。まあ問題は味よね。

 

見た目がどうこう言う前に食べる。だいたい食べられれば私はなんでもいいのよ。

 

早速口に運んでみれば、鰻より硬くて弾力のある歯応えが返ってきた。

「ふうん……初めて食べたけれど鰻というよりモツに近いわね」

少し甘いタレと香ばしい香りに誘われていつのまにか一本食べ終わっていた。

妖怪なのになかなかやるじゃないの。

「不思議でしょう。名前に鰻が付いているのに鰻じゃないみたいで」

嬉しそうに話し始めた女将。これはあれね客とよく話したい女将ね。お酒があれば私もある程度話に付き合うことは出来たけれど生憎気分じゃないから程々に流すとしましょうか。

「まあ美味しいからなんでもいいわ」

 

「あはは……巫女さんらしいですね」

失礼ね。美味しく食べられるなら調理法なんてどうだっていいだけよ。それこそ生だって美味しければ食べるわよ。大抵の場合生じゃ美味しくないけれどね。

 

 

「それにしても妖怪がこんな屋台を持っているなんてねえ…」

追加で鰻を頼んで食べていればふとそんなことを考えてしまう。あらかた自分で作ったか誰かに作ってもらったかなんだけれど…それでもなんとなく口に出してしまう。

「作ってもらったんです」

 

「へえー」

 

誰に作ってもらったのかしらねえ……まあ物作りが上手い妖怪は結構いるからきっとそういう類の妖怪かもしれない。

だけれど注意しないといけないのはそういう妖怪が何か異変を起こす時ね。変なものを作らないと良いんだけれど。

「家の建築に使う木材の余りを使ったとかで結構安く作ってくれました」

もの付きな妖怪もいたものねえ…

 

「あんた夜雀なのによくそんな繋がりもてたわね」

 

「夜雀だって鳥目にするだけで直接襲いはしませんよ」

余計にタチが悪いわ。現行犯じゃないから見逃すけれど流石に退治案件よ。

 

「それに鳥目にした後この店に来てくれれば売り上げも伸びますし」

あんたかなりの策士ね…そんなことしたら誰だって目に良いと言われている八目鰻を食べるに決まっているじゃないの。

 

ああ…考えていたらなんだか頭痛くなってきたわ……元々二日酔いだったけれど…あーくそこれぶり返してきたやつね……

 

少し寝ようかしら……

「しじみの味噌汁です。二日酔いに効きますよ」

 

おまけしておきますと私の前にお椀を置いた。気づいているからこその気遣い…余計なお節介だと思いながらも二日酔いが完全に抜けたわけではないのだから素直に受け取っておくことにする。

「ありがと……あら、なんだか懐かしい味ね」

礼を言いながら一口飲めば、なんだかよく食べていた味と似た風味というかなんというか…そんな感じがした。

「そうですか?」

キョトンとしているけれどそれをしたいのはこっちよ。

「ええ…昔に食べたようなそんな味よ」

でも少し似ているってだけで考えすぎかしら……

でもねえ…勘は言っているのよこれは確信していいわ。

「それさとりさんに教えてもらったんです」

 

「さとりに?」

さとりってあのさとりよね…

一応さとり妖怪についての伝承は後で確認したけれど結構嫌われ者だったんじゃ……それともさとりは例外だったのかしら…まあ私をずっと騙してきていたのだから他の妖怪とも友好的関係が保てていたとは思えないのだけれど。

「ええ…屋台を開くずっと前ですけれどね」

ってことは随分と昔になるのかしら…屋台の年季から考えれば十年くらい前といったところかしらね?

「色んな料理を作れるのはさとりさんだけでした。一応これでも中華とか洋食とか言う奴も作れるんですよ」

 

「そう……」

だから似ていたのね。でもさとりは私が退治してしまった……あの味ももう食べれなくしてしまった…でもそれは私は悪くない…そうじゃなきゃいけないのよ。だってそうじゃなきゃ…

 

「あの霊夢さん?どうかしましたか?」

おっといけない…この記憶は封印しておかないといけないものだったわ……

「なんでもないわ……」

 

「なら良いんですけれど……」

あーあ…湿っぽくなっちゃった。全くダメね…退治した妖怪に情を持つなんて……私もまだまだだわ。

 

「……雨止みませんね」

話題を変えようとしたのか女将が外を覗く。釣られて外を覗いてみれば暗闇が流れ出すかのように大量の墨汁が降っていた。こりゃダメだわ…

「そうね……これじゃあ帰れないわ」

一応濡れ鼠になる覚悟があるなら帰れるのだけれど流石にそれをやったら風邪引くわ。いくら春陽気でも無理ね。一応二日酔いは軽くなってきたから良いけれど…それでも頭が痛いのには変わらない。

「どうします?今夜はここで明かします?」

 

「見回りがあったのだけれど雨まで降っているんじゃ無理ね」

暗闇だけならまだしも雨まで降っちゃ聴覚と嗅覚が使い物にならないわ。その状態じゃ危険ね。

 

あら…誰か来たわ。

「よう霊夢。ここにいたか」

暖簾を開けて入ってきたのは親友だった。それも傘を二本持ってである。

「魔理沙じゃない。どうしたのよ」

 

「見回りに行ったあと雨が降ってきたからな。持ってきてやったぜ」

誇らしげに言っているけれどあんた持ってきている傘壊れているやつよ。まあ言わないでおくわ。それに、よくここにいるってわかったわね。

「よくここがわかったじゃない」

 

「ふふふ、私の勘も捨てたもんじゃないだろう」

やっぱり自慢する魔理沙だったけれどそんな魔理沙の横から文字通り横槍が入った。

「私が教えたんだけれど…」

そう言ったのは…私の隣の席に乗っかった一匹の猫だった。妖気を孕んでいるあたり妖怪猫ね。鳥といい猫といい動物園ね。

「あんたは…」

 

「ネコですよろしくお願いします」

そんなの見ればわかるわよ。ほら女将だって困惑気味じゃないの。

 

「S██-███-jp…………って何を言っているのかしら」

何よそれわけわからない事言わないで。

 

「まあ確かに猫だな…名前あっただろ」

完全に機嫌を悪くした魔理沙が突っかかる。

名前あったのね。

「千珠です」

そう言うなり猫だったその姿はいつのまにか女性の姿になっていた。私と同じくらいの見た目…だけれどなんで燕尾服着ているのかしら…

まあいいか……

「私が霊夢の匂いを探り当てたから来れたんだよ」

今度はこっちが得意げに話すのね。

「へえ……」

 

「そう頼んだのは私だぜ」

猫に犬まがいの事させないの。無理にさせたって猫は言うこと聞かないわよ。

「それは犬の仕事だって言ったのに出来なくはないだろの一点張りなんだもん」

あんたは根負けしているんじゃないわよ他の猫がかわいそうでしょ。主に原因は魔理沙だけれど…

「一応聞くけれど食べていく?」

 

「焼き鳥くれ」

あんた鳥相手にそれはダメよ。

「表に出なさい」

ほーら怒っちゃった。知らないわよどうなっても。

「冗談だぜ。八目鰻一つ…もちろんツケな」

 

「私は八目鰻…丼で行けるかしら」

ちょっとそこの猫妖怪…あんた鰻重ならともかくなんで鰻丼なのよ。

「…一応居酒屋なんだけれど」

 

「ごめん私これが夕食なの」

 

随分と遅い夕食ね……妖怪に人間の常識は通用しないから仕方ないか。

 

「わかりました。丼を頼まれたのなんて久しぶりですよ」

あ、一応需要はあるんだ…

「前は確か鴉さんでしたね」

鴉ねえ…やっぱトリ頭だったんじゃない?それにしても鴉が丼を頼むなんてね。

 

「連れの方も呆れてました。居酒屋で頼むものとは少しずれてますから」

 

「でも作れるんだ」

 

「白米はありますからね。出来なくはないんです。作らないだけで……」

 

まあ居酒屋まで行って丼で鰻を食べる人はそうそういないわよ。

まあ…それはそれで面白いのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

「なあさとりちょっといいか?」

書類仕事を片付けているとノックもなしに勇儀さんが入ってきた。さっき渡した資料に何かあっただろうか?

「どうかしましたか勇儀さん」

言いたいことはある程度わかってはいるのだけれど……それでもあえて何も言わない。

「どうして灼熱地獄に冷却設備を増設しようとしているんだ?今の設備でも十分だろ」

ああ…やっぱりその件ですか。なんといいますか…自己満足のようなものですよ。

「備えあれば憂いなし…万が一ですよ」

今だって十分冷却設備は整っている。ただ、それらの対応温度は決して高くない。

「だが対応温度が10000度って…幾ら何でもそりゃ高すぎだろ」

正確には10000超えてもある程度までは冷却が可能なようになっています。

「それですら…足りないかもしれないので」

実際気休めにしかなりませんけれどね。

「何かあるのか?」

 

「確証はありませんけれど……ですが下手をすれば灼熱地獄が吹っ飛びます」

うん…どうにかしてこれは回避をしようと考えているけれど…どうもうまくいかない。お空自身も力が欲しいという思いが潜在的に眠っていますし日に日にそれが強くなってきているように思える。原因が私なのだからなんとも言えないのですけれど。

 

「まあ詳しく言えねえ事情でもあるのかも知れねえが…なるべく隠さないようにしておけよ」

勇儀さん…詳しいこと言えなくてほんとごめんなさい…でも言えないですよ……

「ありがとうございます」

 

「あたしが言わないとあんたは全部溜め込んで潰れちまうからなあ」

 

「そうですか?」

 

「自覚ないから余計にな」


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