こいしちゃんのパーフェクト殲滅教室
お姉ちゃんとお燐が消えてから1年、今の生活もようやく慣れてきた。
慣れというものは恐ろしいと肌で感じることになるなんてね…
まあ言うてそんなことをたらたらやっている場合じゃないんだけどね。
圧倒的力があるわけじゃないけどお姉ちゃんは山の妖怪達にとって敵に回すと脅威だってことが知れ渡っている。だからずっとこのことは秘匿しておいたのに…
なんでかなあ……どこかから情報が漏れた。
お姉ちゃんが失踪している事実を知っているのは結構限られているから…誰が漏らしたかの検討はつく。
だけど炙り出している暇がないんだよねえ…だってお姉ちゃんへの恐怖が押さえつけていた分、暴れだすのは早いしなんか派手。
その上、賢い。
「もう一度言うけど…お空を離してくれない?」
お姉ちゃんの家族を盾に取れば天狗も言うことを聞かざるおえない…確かに考えたね感心感心。
でも天狗がいうこと聞く可能性は低いと思うよ?利用価値少ないし……まあ、私がさとり妖怪だってバレてないから表立った反発とか迫害が無いだけお世話になっているんだけどね。
目の前でお空の首に爪を立てている妖怪に意識を戻す。
結構な人数で攻め込んだ割に、お空がボコボコにしちゃったから残ってるのは彼を含めて数名。
だけど完全に形勢が逆転しちゃってるのはきついなあ…
うん、余裕そうな思考だけど全然余裕ないや。
「黙って言うことを聞けば解放してあげるぜ」
「ダメです!こんな奴らの言うこと聞いちゃ!」
「あんたは黙っとれい‼︎」
ちょっと怒鳴らないでよ。耳障りを通り越して公害だよ公害!
後でその口縫い合わせてやる…
あ、後お空時間稼ぎありがと。なんとか召喚間に合ったよ。正確には召喚じゃなくて入れておいたものを引っ張り出してるだけなんだよね。
「ともかく、協力しろ。OK?」
「OK‼︎」
手元に出現させた拳銃を迷わずぶっ放す。
お空を押さえつけている…獣人みたいな妖怪の体が吹き飛ぶ。ちょっと威力高すぎたかなあ…でもお空に当たらなかったし良いか。
直ぐに態勢を立て直したお空が残る敵に向かって突進。
でも怖気付いたのか逃げ始めた。
「お空、倒しちゃダメ!」
「でも…」
「増援を送ってくるなら徹底的に叩く。そうじゃなかったら見逃してあげて…もう戦うことの意味は無いから」
今回はあまり被害も出てないしこのくらいで手を引いておかないと引き際がなくなって泥沼になっちゃう。一度振り上げた拳は早いうちにしまえってお姉ちゃんも言っていたし。
「でもあいつら協力しろって…」
「私を利用すれば山の中でも良いところまで行けると思ってるんだよ……」
そんな事は一切ないはずなんだけどねえ……
まあ良いか。帰ろ…
こいしちゃんのパーフェクト殲滅教室その2
やっぱり私を倒せば山で認められるみたいな変な情報が出回ったらしい。
そんな根も葉もない噂に天狗たちは鼻で笑ってるし私もなんだそれってなったよ。なのにこれを真に受ける妖怪は沢山いるんだよね。中には怨霊を使って倒そうとかしてくるし。
勿論普通の妖怪相手ならこれは有効だけど、私達さとり妖怪にとってはむしろ真逆の結果を生みかねない。
だって怨霊を精神的に破壊できる存在だからね。さとり妖怪って…
まあ、元の元を辿って言ったらやっぱり天狗が原因だった。文句言ったら火消しに忙しくなったって愚痴られた。意味がわからないよ。こっちの方が大変なんだよ?
折角人里で遊んでたのに妖怪が侵入して来ようとするなんてさ…空気読んでほしいよ。
「ということだから、ちょっと行ってくるね」
「こいし様?無駄な戦いはしないのでは……」
お空が困惑している。まあ言っていたことと私がやろうとしていることが違うからだろうけど…こればかりは大元を叩かないと仕方がないからね。
「そうだよ。だけど人が遊んでいるところに茶々を入れてきた奴らにはちょっとだけお灸を据えても良いと思うんだ」
「こいし様の場合お灸じゃなくて……火炎…火炎なんだっけ?」
「もしかして火炎放射器?」
「そうそれです!」
それですじゃないよお空。お灸って言ったのになんで火炎放射なのさ。私はお姉ちゃんとは違うの。
だから、ちょっと派手に暴れるだけだよ。ほら、お灸くらいじゃん。
「それじゃあ晩御飯までには帰ってくるからね」
「待ってますね!」
というのが、1時間くらい前のこと。
1時間ちょっとで行けちゃう距離に陣地を構えていたなんて思いもよらないよ。
天魔さんからの伝言を持った天狗が来て場所を教えてくれた時は驚いたね。
うん、やばいわ。
人数が多いんだよね……のこのこ入った私も私だけど…まさか囲まれちゃうなんてね。
「まさかのこのこやって来るなんてな。襲撃の手間が省けたぜ」
リーダー格っぽいやつがそんなことを言う。えっとお面かぶってるってことは……もしかして
「のっぺらぼう?」
「なるほど…鋭いようだな」
なんとなくだったけどやっぱりそうだったみたい。それにしてものっぺらぼうかあ…ここら辺じゃ見かけないね。
「本当にこいつが天狗にとって大事なやつ何ですか?」
「うん?違うと思うよ?」
「嘘も大概にしろ」
部下が疑心暗鬼になってるじゃん。ダメだよそれじゃあ…まあ噂に踊らされてる時点でもうどうしようもないんだけどね。
「口だけは達者なトーシローばっかりよく集められたね」
煽りは良くないけどスッキリする。
「おいおい、囲まれている状況が分かってないのか?少しは落ち着く時間を与えるからもう一度よく考えな」
お面をつけたのっぺらぼうが時間をくれる。案外いいやつじゃん。
「へえ!面白いね!最後にぶっ潰してあげる!」
何気なく言ったはずなのにものすごく警戒されてんだけど……私はただ人里でのんびりまったりするのを邪魔されて気が立ってるだけなんだよね。
だから…ちょっと痛いだろうけど許してね。
手に持っていた魔導書を起動。すぐに障壁を展開する。
展開し終わるのとほぼ同時に弾幕やレーザーが周囲に降り注ぐ。
怖い怖い。か弱い女の子なんだか手加減くらいしてよね。
収納からいくつも剣を引っ張り出す。卑怯だとかなんだとか言われるけど知らない。武器に頼ろうが何をしようが結局勝てばいいんでしょ?
手段にしのごの言えるのは強者だけ。弱者は手を選んでたら負けるよ。
弾幕攻撃が止まった一瞬をついて障壁の外に向けて剣をぶん投げる。
当たったのか刺さったのかは知らないけどカエルのような声が聞こえる。
手応えあり…それじゃあどんどん行ってみよう!
長い剣とか大きいやつは専ら投げる。
その度に悲鳴とうめき声が聞こえてくる。
そろそろ走ろうかなあ…
手元に残っている小型の剣を両手に持ちその場を飛び出す。
寝床にしているらしい洞窟からわんさか出てきたよ。え…結構妖怪集まってない?百鬼夜行状態なんだけど…
まあいいや……
なんだか濡れてるなあって思ったら返り血で服が汚れちゃってた。
こりゃ冷たいわけだよ。
それで…結局残っているのはのっぺらぼうの……もうのっぺらさんでいいか。
後は部下らしき妖怪十数人。
結構減ったね。
まあ半分くらい怯えて逃げたんだけど…
「うーん…最後に潰すって言ったよね?」
「あ……ああ」
完全にこんなはずじゃなかった状態だけど…大丈夫かな?
「あれは嘘だよ」
地面を蹴り、のっぺらさんの顔面を折れた剣で殴りつける。バランスを崩したところで蹴りと、残っている剣で急所以外を執拗に斬る。
勿論ボッコボコだよ。
「さてと……残りを仕上げちゃおっか!」
なんでか知らないけどこの日から私を恐れるヒトが増えた。私がやったってことはなるべく秘密になるように天魔さんにお願いしたのになあ……
こいしちゃんが瞳を閉じずに第五次聖杯戦争に参加するようです
「えっと……貴女はだあれ?」
家でご飯を作っていたら急に変な光に包まれ気づいたらどこかの蔵の中だった。一体何を言っているんだろうね私は。そして目の前には腰をついている少年と……なんか怖い雰囲気を出している変なやつ。
想像以上にカオスな空間なんだけど…
「おいおい、なんだこのガキ」
「ん?ガキとは失礼だなぁ青タイツのおにーさん」
かちーんときたよこいしちゃんひさしぶりに怒っちゃったよ!初対面でガキはないよガキは。見た目で人のことを決めちゃダメだよ。
「なんかよく分からないけど…取り敢えずあれ、殴っていいの?」
少しいけ好かないというかムカつく青タイツを殴っていいのか聞いてみる。
「あ…ああ」
そのとたん、見せっぱなしのサードアイからついさっきまでの記憶が蘇る。
あーなるほど青タイツに殺されかけていたのね。よく頑張ったよ少年。
「おっけー!事情は把握したよ!」
まあとりあえず、青タイツをどうにかすればいいんでしょ?
「……あ、武器ないや」
魔導書はあるから…えっと取り敢えず剣引っ張り出さないと……ごめんちょっと待ってくれる?
あ、まっててくれるの⁈ありがと!結構紳士的なんだね!
こいしちゃんは正体を見破ったようです
「へえ…こいしちゃんは英霊じゃないのね」
遠坂とかいうツインテールに根掘り葉掘りいろんなことを聞かれた。で、結論として私は英霊じゃないってなった。
じゃあなんで聖杯戦争とかいうわけ分からない殺し合いに参戦させられているんだろう…
あ、そういえばお姉ちゃん一時期行方不明になってたっけ。一日だけだったみたいなんだけど…
「英霊の基準が分からないけど…私は英霊じゃないよ。だってそこの赤マントみたいに英雄です感ないでしょ?」
「たしかにそうだな……」
「いや、こいつも英霊感ないんだけど」
そんなことないよ。まあ…青タイツみたいな感じではないけれどそれでも立派に英霊だよ。ちょっと違うかもしれないけど…
あれ?もしかしてこの人って……
「もしかして赤マントさんって……」
「なんだ?」
「なんでもない。正義の味方に憧れていた昔の姿が気になっただけ」
うん、ここで言うのはやめておこう。なんだかここで言う雰囲気じゃないし。
赤マントさんも私が言いたいことを察したのか、鋭いなと言われた。
褒めてるのかなあ?
「……なあこいしちゃん」
「どうしたの?しろー」
「あーそのだな。勝手に召喚しちゃったり大変な事に巻き込んじゃってすまないって思ってる」
「だけど協力してほしい?」
つい種族の癖で士郎の言葉を遮って先の言葉を言ってしまう。いけないいけない…癖が強くなっている。
「あ……ああ」
どうしようかなあって思ったのは一瞬だけ。士郎の心をのぞいたら迷う理由が消えちゃった。
人間にしては…どこまでも純粋に、誰かを救いたいって言う感情が溢れている。
なるほど、「献身と善意の塊」っていうのは正しい表現だね。
こいしちゃんは鋭いけどどこか抜けてる。
「うーん……ねえモジャモジャ」
「僕は間桐 慎二だ!」
知らないよそんなの。もじゃもじゃしてるからモジャモジャね。
「名前なんかどうでもいいけどさ……そのライダー、マスター違うよね?」
目の前にいる目隠しさんを指差しながらそう言ってあげる。
「そ、そんなわけないだろう!令呪だって持ってるんだぞ!」
ものすごい動揺しているんですけど…流石に士郎も私の言ったことにびっくりしていたけどもじゃもじゃの反応を見て事実だと確信したらしい。
逆にライダーの方は私を危険視し始めた。
あー言わないほうが良かったかな?でも言っておかないといけない気がしたし…
「普通妹さんを生贄に使ってまで召喚する?」
私は心が読めるから全部わかっちゃうんだよ。
「どうしてそれをっ!」
認めちゃったよ…というかどんだけ動揺しているのさ。あれじゃあ心読んでくださいって言ってるようなもんだよ?
「まあいいや。それで、シローはどうするの?」
「どうするって……」
「逃げるか…戦うか」
勿論戦うよね。
答えは聞かなくても分かっている。彼女を放っておいたらこの先大変なことになってしまうからね。
「それじゃ、始めようか」
そういえばライダーってなんだっけ?
まあどっちにしろ刺せればいいや。
メリーさんの脅威
「イリヤ様、お電話がつながっております」
アインツベルンに唯一ある黒色の電話が鳴ったらしい。
そもそも電話線なんてものは繋げてないはずなんだけど…でもセラは嘘を言っているわけではなさそうだし…
不気味だったけど、電話が来たら流石に出ないとまずいよね。
黒色の受話器を耳に当て、向こうの音を拾う。何も聞こえない…耳元に何もない虚無が広がっている感じがしてならない。
「もしもし?」
「もしもし、私こいしちゃん、今貴女の城の正面玄関にいるの」
それだけ伝えた電話の主はガチャリと電話を切ってしまった。
私と同じくらいの少女の声…別に怖くはないはずなのに…私の頬を冷たい汗が垂れる。
兎も角入り口にいるということだから近くにいたセラに頼んで見てきてもらう。
「正面玄関には誰もいませんでしたよ」
「そう…じゃあタチの悪いいたずらかしら」
それとも…キャスターが奇襲でもかけてきたのだろうか。
いずれにしても相手の行動が読めない。
策を巡らしていると再び電話が鳴った。
「もしもし。私こいし、今二階の廊下にいるよ」
待ってと叫んだ時には、電話は切れていた。
ここは三階、二階ということは1つ下…
セラと共にすぐに二階に行ってみる。
やっぱりそこには何もいない。
「イリヤ様、震えておりますが…」
セラにそう言われて私は自分の体が震えていることに気がつく。
目に見えない恐怖に怯えていると言うのだろうか?
「ば、バーサーカ!」
直ぐにバーサーカーを呼び寄せる。
そうだ、わたしにはまだバーサーカーがいる。この子なら…守ってくれる。
三階で電話が鳴る音がしている。
私はバーサーカーの肩に乗り電話の元に向かった。
「もしもし、私こいし。いま…三階の階段のところにいるよ」
「嘘言わないで!いないじゃない!」
居るはずがない。だって目と鼻の先にあるのだ。
私の叫びが届いているのかいないのか、通信の切れた受話器からは何も返ってこない。
次の瞬間、バーサーカーが電話を押しつぶした。
そうだ…これで相手はもうかけてこれない。
ありがとうバーサーカー
「もしもし、私こいし。今あなたの後ろ……」
その声は、私の真後ろから聞こえた。