古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.221さとりと小悪魔

餅は餅屋と言うように専門家に任せるのが最も良いのは昔からよく言われている事である。

なので悪魔が取り付いている人形も私や霊夢ではなく小悪魔の下で必要な処置をされることとなった。とは言っても私とこいしはそのまま人形を預かって紅魔館へ行って欲しいと御使いを強要されてしまったのだけれど。

理由を聞いても少し寄りたいところがあるからとアリスさんは魔理沙さんを連れてどこかへ行ってしまい、その際に家の外へ出された私とこいしに選択肢はなく人形片手に紅魔館まで向かうこととなった。

 

「急にどうしたんだろうね?」

こいしはアリスさんの行動にずっと疑問符を浮かべていた。その疑問に最適な回答を私は揃えることはできなかった。

「私に聞かれたってわからないわよ」

 

「そうだよねえ……でも途中で何か深刻そうな顔してたし何かあったのは間違いないんだけどなあ……なんだったんだろうトイレかな?」

流石にそれはないでしょう。真面目そうに考えているこいしの頭を軽く叩く。

「魔理沙を連れてトイレ?しかも外に?」

いくらなんでもそれはないでしょ。

「ありえない話じゃないでしょ。トイレが壊れていたとか……」

そう言われるとありえそうに見えてしまうけれどトイレが壊れている様子はなかった。といってもリビングから出ていないから詳しくはわからないけれども。

「確かにありえそうね。トイレが故障している雰囲気はなかったけれど」

まあそこらへんは憶測でしかないから正確なことを言うことは出来ない。

「うーん……」

まあ何かあったのは確かだろうしあとで合流すると言っていたのだから深く考えることはない。合流したときに聞けば良いのだから。

湖の周りはやっぱり今日も霧がかかっていた。水分を含んだ空気のせいか気温に関係なくここら辺は生ぬるい体感温度となる。そのせいか冬場は無駄に豪雪だったりする場所なのだ。そんな場所に紅魔館は建っている。

建物が受けるダメージは大きそうなのだけれど大丈夫だろうかといらぬ心配をしてしまう。

美鈴は今日も寝ていた。だけれど私達が近づいた途端に目を覚ました。

気を張っていたのだろう。なるほどこれなら寝ていても問題はなさそうですね。

でも私達だからってまた眠りに戻るのはちょっとどうかと思うのですけれど。門くらい開けてくださいよ一応門番なんでしょう?

まあ飛べるから良いんですけれど……

 

血のように真っ赤と揶揄される紅魔館だけれど近くで見れば特段真っ赤というわけでもない。赤レンガを使っているから普通の建物よりも赤く見えてしまうだけだろう。特に赤レンガの建物は一時期かなりの数が建築されてはいるけれど幻想郷が結界に囲まれた遥か後だからほとんどの人は赤いレンガの建物を知らない。だから血のように真っ赤と呼ばれるのだ。

「ようこそ紅魔館へ」

まるで私たちが来るのを知っていたかのように玄関の扉が開かれ、銀髪のメイド。咲夜さんが顔を出してきた。

「お出迎えありがとうね咲夜‼︎」

こいしが私の手を引いて玄関の扉をくぐる。私の手の中で人形が大暴れしたような気がしたけれど、力でねじ伏せる。所詮人形が出せる力は大したことないから。

ただ腕に噛み付いてくるのはやめて欲しい。痛いのだ。

 

 

「大図書館に用があるのだけれど案内頼めるかしら」

大図書館は地下一階なのだけれどあそこにいくのはいつもダンジョン経由だから迷いやすいのよね。防犯上仕方がないのだけれどあまり役に立っているとは思えない。まああまりにも複雑怪奇にしてしまうと今度はミイラ取りがミイラになりかねないからほどほどにしないといけない。特にレミリアさんが迷いやすいらしい。当主しっかりしてくださいよ。

「かしこまりました」

 

元から私達を案内しろとレミリアさんに言われていたのかすんなりと咲夜さんは奥に向かって歩き始めた。

咲夜さんに続いて階段をいくつか上り下りし、部屋の扉を開けると、そこには本がぎっしり詰め込まれた棚がいくつも置いてある広い空間に出た。

「パチュリー様に教えてもらったショートカットです」

 

「へえ……ダンジョンコマンドみたいだね」

こいしの例えはよくわからない。まあ裏道ということなのだろう。

 

さらに案内を続ける咲夜さんに続いていけば、パチュリーさんが普段座っているカウンターが見えてきたちょうど本人は不在なのだろうか。なんだかカウンターの後ろに本の山が生まれているのだけれどまさかそこに埋まっているなんてことは……

とか思っていたら本の山の中に埋まっていた。こいしが期待を裏切らなくて面白いと爆笑していた。

「珍しいじゃない。貴女が来るなんて」

そういえばここに来るのは珍しいのかもしれない。実際これで3回目のはずだ。まだ3回しか来ていないと言うべきか3回もここに来ていると言うべきかなんとも悩ましい。

「今日は小悪魔に用がありましてね」

パチュリーさんでも多分悪魔祓いはできるはずなのですけれど……

「こあに?まあいいけれど…」

 

「ところで貴女は悪魔祓い出来ますか?」

 

「悪魔祓い?無理に決まっているでしょ。あんなの教会の神父くらいしか出来ないわよ」

ダメなのか…七曜の魔女でも出来ないのか。

まあ…ありえない話ではない。

「こあに悪魔祓いでもさせたいの?やめておいた方がいいわよ」

忠告ですか…でも神父以外で頼れそうなのって小悪魔くらいしかいないんですよ。

彼女の正体は召喚主であるパチュリーもよく分かっていない。というのも彼女が本気で正体を隠してしまっているから仕方がないのだ。多分彼女の正体に気づいているのはレミリアさんくらいだろう。

まあ教える義理ないですし。教えたら小悪魔に地獄の底まで追いかけられそう。

 

本を取りに行っていた小悪魔が戻ってきた。また随分と大量の書物を持ってきていますね。何か実験でもやろうって言うのでしょうか?

あ、私を見ていま超面倒な奴が来たって思いましたね?わかるんですよそういうの表情で!

でも確かにこの場で悪魔祓いが出来るかどうか聞くのはまずいかもしれない。だって小悪魔って低級悪魔ってことで通しているみたいですしそんな小悪魔がなんで上級悪魔をお祓い出来るのだとかパチュリーさんあたりに疑問をもたれたら最終的に私が抹殺されかねない。

さてどうしたものか……

「ねえねえ本見に行っていいかな?」

 

「構わないけど…大事に扱って頂戴」

 

「じゃあ一緒に行こうよ!パチュリーのおすすめも知りたいし!」

こいしが本を見たいと言い出しパチュリーさんが珍しくそれについていくことになり私と小悪魔だけが残された。多分こいしが気を使ってくれたのだろう。半分強引に連れ出していたし。あるいは面倒事を私に丸投げしたとも言える。

でも、あとでこいしには何かお礼をしておこう。

 

偽る必要が無くなった小悪魔の目つきが変わった。さっきまでの穏やかな雰囲気とは打って変わって、こちらを警戒するように威圧をかけてきていた。同じ人物だというのにこうも変化出来るとは……

「私に何かご用ですか?」

でもこれくらい裏表のあるヒトの方が、信頼できる。

「ちょっとこれに取り付いているものを取って欲しいのですけれど」

手の中で逃げられないように強く握られていたからかどことなくやつれた表情になってしまっている人形を小悪魔さんに渡す。

その間も必死に逃げ出そうと手に噛み付いてきた。なんだか生気を吸い取られるような感じがする。ちょっと危険ですね。

「……悪魔に悪魔祓いさせるつもりですか?」

1発でそれの正体を見破った小悪魔が睨みつけてきた。部屋の温度が氷点下まで下がり霜が降りてもおかしくないように思えてしまう。

「こちらでやったらろくな事にならなさそうですし。アリスさんもそうして欲しいと」

霊夢に任せたら余計事態を拗れさせそうで怖いですし。彼女、妖怪と悪霊が専門だから。そう伝えると絶対零度の眼差しはいくらかマシになり、こいつにはいい思い出なかったので協力しますと言ってくれた。それが本心からのものだと言うのはサードアイがシッカリと読み取っている。まあ同時に私への純粋な殺意も読み取れてしまって心が折れそうになったのですけれどね。

「……じゃあ対価」

少し悩んで小悪魔は手を出した。金を載せてと言ってもなんだか過言ではないその手に思わずお手をしてしまう。弾かれた。

「何がいいかしらね対価」

うーん…悪魔との取引って魂のイメージがあるのですけれど。

「それは貴女が決めること。悪魔は何が欲しいとは言わないのよ。むしろ魂と交換の取引なんて低俗か野蛮な奴がやることよ」

そうなんですか……なるほどだから悪魔払いと。賢い悪魔はそんな無茶苦茶な要求はしないし相手を襲うこともないと……

 

「では何か美味しいものでもどうですか」

どんなものと言われたらちょっと迷ってしまうけれど、要は食事に招待すると言うことだ。人数も言っていないから何人で来ても構わない。まあ宴会みたいになるのはちょっと勘弁して欲しいけれど。

「悪くないわね……」

 

「じゃあそれで契約よろしいですか?」

 

「ええ、構わないわ」

悪魔との契約ってなんだかもうちょっと形式的にも硬いものかと思っていたら全然そんなことはなかった。古今東西契約の儀式なんてこんなものなのだろうか。

「悪魔は契約を裏切ることはできないからなあ。さあて……そこで隠れているやつ出てきやがれ」

口調が変わった。

ついでに雰囲気も凶暴になった。さっきまでの威圧がナイフだとしたらこっちは安全ピンを外した手榴弾。放り投げられたらもう爆発である。

でもそれも数秒の事で、気がつけば何事もなかったかのように人形を片手にいつもの柔らかい雰囲気をした小悪魔がいた。一瞬の出来事すぎて何があったのかわからなかった。叶辞典人形から何か変なものが引き出されたのは確認できましたけれど。あれが悪魔だったのでしょうか?まあ終わってしまったので確認のしようがないですけれど。

「やばい悪魔と超やばい悪魔が戦っている構図が出来上がってたのかな?」

丁度そこに本をいくつか抱えたこいしが戻ってきた。なんというかタイミングが絶妙ですね。

でもあんなあっさりと悪魔がお祓いされてしまうなんてなんだか拍子抜けのような…

「それはどうなのかわかりませんがこちらの感覚では数秒しか経っていませんね。何があったのかは不明ですけれど」

魔界なのかあるいは特殊な結界なのかこちらがそれを認識するときにはすでに集結していた。

「何かあったの?」

 

「なんでもありません!パチュリー様」

もう既に何もいなくなった人形を私に押し付け、小悪魔は本の整理に戻った。

それを横目に少しだけパチュリーさんが私の方を観察。

用事はもう済んだと言えばああそうと興味なさそうな返事が戻ってきた。彼女にとってはどうでも良いことなのだろう。

さて私たちも戻りましょうか。アリスさん達を待たなくて良いのかって?良いんですよ別に……

この人形はここに置いておけばアリスさん勝手に持って帰るでしょうし。

 

「あらそっちはもう終わったのね」

タイミングが良いのかどうかはわからないけれど私達がさて帰ろうかと言うところで今度はアリスさん達が咲夜さんに連れられてやってきた。ああもう面倒な……もう私は帰りますね。

「アリスちゃんだ!なにその荷物!」

袋いっぱいに入れられていたのは桶とか農具とか…いろんなものだった。

「ちょっと気になって人里周辺を見回りしたら見つけたのよ。全部に召喚の痕跡が出てきたわ」

袋の中のもの全てが……そういえばなんだか空気が悪いですね。殺意が束になっているからだろうけれど。

「おーう…これは随分と……」

これほどの量の悪魔召喚…しかも召喚したらしっぱなしですか。一体何をしたいのやら……

「計画的ですね。異変でも起こそうとしていたのでしょうか?」

だとしたらかなり悪質というか…弾幕ごっこで収まるようなものにはならない大惨事だろう。悪魔がどれほど人を襲うのかは不明だけれど。

「異変にしてはちょっと悪質だよなあ。まあ弾幕ごっこができるんならなんでもいいんだけどな」

物騒ですね……

でもこの問題は私には関係ない。紫達がどうにか探るでしょうしその必要がないと判断されて闇に葬られたとしてもそれをどうこういう必要もない。

 

「ねえそれどうしてここにもって来たの?」

あ、パチュリーさんいるの忘れてました。

「え?だって小悪魔に……」

私とこいしは逃げ出した。修羅場に好き好んで巻き込まれては堪らないです。

何やら後ろで言い合いのようなものが発生していましたけれどそれもおかげで意識を逸らすことができた。いやあ危ない危ない。




そろそろシリアス書きたい

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