古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.224 輝針城(間奏篇)

一秒間に五十発放たれる鉛弾はその多くが図体の広い彼らに吸い込まれて血飛沫を上げていった。

だけれど効いている気配は全くない。なんだろうこの頭を撃たないと死なないゾンビに胴体攻撃し続けて距離を詰められる警官みたいな感覚は。

あの怨霊を凝縮した呪いの塊のようなものは、生きているものの生半可な攻撃では通用しないのだろう。そうあるべきだと人が想像したのかあれ自体がそうであると想像しそうなってしまったのか。原因は定かではないけれど今はそんなこと気にしている余裕はなかった。

「さとりさま全然効いてないですよね⁈」

 

お空が麻酔銃を放つけれどそれすら効いている様子はない。そもそもあれが麻酔で眠ってくれるような輩だとは思えない。

こちらが鬱陶しくなったのか生き残っている妖怪から私たちの方に意識を向けてきた。恐ろしい悪意と後悔の念が体を貫く。悪霊の類だからかお空も私も体が嫌に重くなってきてしまう。あれを倒すとなれば霊夢の無双封印が必要だろう。だけれどここは旧が付くけれど地獄。ああいったやばい輩への対抗手段は豊富にあるのだよ例えば……

「面倒ね。焼却処分してしまいましょうか」

元々人の魂を焼くために創られた灼熱地獄とかね。血の池地獄も怨霊のような存在を捉えて沈め浄化させるための設備だからそっちに回しても良いかもしれない。

「灼熱地獄に異物入れないでって言ってませんでしたっけ」

確かに言ったわね。でもあれは異物じゃなくて得意分野よ。

「特例よ特例」

さあてうまく誘い込めるかしら。

ゆっくりと私たちの方向に向かってきたそれから後ずさるように少しづつ灼熱地獄の方へ誘導していく。速度は速くない。おそらく精神的に追い詰めるための演出なのだろう。

入り口の鉄扉を開ける時間を含めたら少しばかり距離を詰められすぎているかもしれないけれど……

もう一度射撃。高速回転する砲身から弾が吹き出し、怨念の塊を削り取り拡散させていく。だけれど無尽蔵に湧き出るその怨念は全く衰える様子を見せない。

 

私が弾幕を張っている合間にお空が鉄扉を開けようとしていた。その瞬間を狙って彼らは飛びかかってきた。恐ろしく速い。それだけ向こうも余裕がないということだ。

さてここで回避すると絶対に灼熱地獄までは送り込めない。仕方がない。引き付けますか。

「お空そのまま動かないで」

幸いお空の方には意識は向いていないらしい。それならばいっそのこと好都合だ。私が囮になれば良い。

「なにを…」

 

お空が何かを言う前に後ろに跳躍。灼熱地獄に飛び込む。覆いかぶさろうとしてきた怨念が一緒に灼熱地獄の中に入った。

「今!扉を閉めて!」

叫びながら妖力を使い無理やり体の進む方向とは逆側に跳躍。灼熱地獄から飛び出る。背後で怒り心頭の怨霊の叫び声が聞こえた気がした。

流石にこれには反応できなかったようだ。元々反応が鋭い方ではないみたいで、そのまま灼熱地獄が生み出した炎の渦に飲み込まれた。だけれどあれだけじゃ死なない。

 

私の体が閉まり始めている扉を通過したコンマ数秒後。後ろで金属同士がぶつかる音がして扉が完全に閉められた音がした。お空が素早くロックをかけて厳重に封鎖する。

「灼熱地獄があってよかったわね」

 

「さとり様無茶しないでくださいよ」

無茶じゃないわ。勝算があったからやったことよ。

まだ生きているのか何度も扉に体当たりしているのか衝撃で扉が揺れている。まああの程度じゃ壊れる事はないだろうけれどね。

それでも鬱陶しいし何かの拍子に怨念が出てきてしまうとも限らない。早めに焼却してしまおう。

「お空、灼熱地獄の火力を上げて」

 

「うにゅ。ちょっと待ってて」

近くの制御小屋に向かうお空。これであいつはおしまいだろう。大人しく封印されておけば良かったものを…

さてここまでに得られた情報を整理してみましょうか。

まず暴れているのはどれも弱い部類に当たる妖怪ばかり。それと、何故か意思を持ち始めた一部の道具。これは全ての道具というわけではなく本当に一部だけ。あまり害は無さそうだけど物次第だろう。今の所害がない道具としか出会っていないだけだ。

詳しい被害はわかっていないけれど旧都とかは内部での反乱にはめっぽう弱い。おそらくゲリラ戦に徹底されたら収拾まで時間がかかるだろう。

原因はなんでしょうね?恨み?それとも革命?共産主義関係の思想が入ってきたなんて噂は聞いていないがあり得なくはない。

 

火力が上げられたのか、中で体当たりを繰り返していた怨念の悲鳴のようなものが聞こえた。この世の声とは思えないほどのおぞましさを含んでいる。

封印なんかせずこうやって燃やし尽くして仕舞えば良かったのに。

 

「さとり様火力上げ終わりました!」

 

「分かったわ。取り敢えずお空はここの防衛ね」

 

「さとり様は?私一人だと守り切るのは難しいかもしれないですよ?」

 

「清掃をしているわ」

何せさっきのアレのせいで妖怪の残骸まみれなのだ。灼熱地獄周辺は温度が高いから放っておけばすぐ腐敗して異臭とうじが湧く。

そんな空間を作りたくないから早めに洗浄しておきたいのだ。

 

飛び散った肉片や内臓を回収して一か所にまとめていく。中にはまだ生きているのか呻き声を上げていたり、死んだ直後だからか筋肉が痙攣してあたかも動いているように見えたりと耐性がなければ地獄のような光景だった。

私だって何も感じないわけではないけれど同情したり気持ち悪くなったりはしない。人としての感情は随分と薄れてしまったようだ。

 

お空が作り出した炎で肉の塊を燃やしていると、背後に気配を感じた。私の背後にわざわざ回ってくるヒトなんて一人しかいない。

「こんなところにいたのね」

 

「紫?」

振り返ればそこには壁に隙間を開け真横を向いた状態で紫が体を出していた。重力大丈夫なのだろうか。まあ空間をねじ曲げるのだから重力くらい一緒にねじ曲げているのだろう。実際髪の毛は真横に引っ張られておるようだし。

 

「こっちも同じような状態なのね」

私達の状態を見て一人納得したのか紫は笑顔を消した。なんだか哀愁が漂ってきそうな悲しさと呆れを含んだ表情だった。

「どういうことですか?まさか地上も妖怪が暴れていると?」

「ええそうよ」

うわこれ異変じゃないですか。それも幻想郷全土を巻き込んだやつ。

「……巫女に任せて良いですか?」

異変解決は巫女の仕事ですよね。でもそんなのは紫が一番よく知っているはず。だとしたら他に何かあったのだろうか。まあ無駄ですけれどサードアイを引っ張り出して心を読もうとする。本来であれば境界を操られて心を読むことはできなくなってしまう。だけれど今日はどうやら違った。

「それは勝手だけれど、本当にいいのかしら?」

口元を扇子で隠しながら含み笑いをする紫。聞きたいわよねえと言わんばかりの態度にお空がきれた。

「お前!どういうことだ!」

私が聞くより先にお空が食いかかった。かなり怒っている。

「落ち着きなさい。私は貴女のところの猫と妹が連れ去られたってことを教えにきただけよ」

嘘は言っていない。むしろ心配している?心の方はそのような結果を読み取っていた。能力を使って気持ちを隠すことすら忘れているあたり焦ってもいるのだろう。

「……そんな!」

平然と裏で何考えているかわからない顔でそんな事を言ったものだからお空が勘違いを引き起こしかけた。素早く私が割って入る。

「随分と親切ですね。ついでだったら助けて欲しかったのですけれどそれは傲慢だったでしょうか?」

私もできれば助けたかった。ですか。そうでなくても紫だったらこいし達が逃げ出せるように手助けくらいはするだろう。まあ実際のところ無条件でそんなことまでするかと言われたら見返りを求めてくるはずだけれど人助けというのは最終的に自らを助けてくれるから紫あたりならやるだろう。それができなかったということは……

「いいえ、私だってできれば助けたかったけれどどうも私の術を弾く特殊な道具を持っているらしくてね」

なるほど、それを使われたと……

「世界を作り替えることすら可能なチート能力なのに?」

お空の言いたいことは分かるけれど時と場合によるわ。

「なんでもできるわけじゃないもの」

……絶対楽しんでますよね?いやそうやって楽しんでいるという感情と思い込みで不安や心配を押さえつけているのだろう。昔から紫はそういうところがありましたからね。

 

「まあいいです。それでこいしとお燐を連れ去ったのはどこの誰ですか?……ああちょっと待ってください。当ててみます。正邪ですか」

 

「そいつが正邪と呼ばれているかは兎も角、天邪鬼なのは確かよ」

すでに紫の顔から余裕という文字は消えていた。確かに正邪の能力はうまく使えば紫相手にもそれなりに立ち回れるかもしれない。ふむ考えましたねえ……それに彼女は私と少なからず因縁がある。こいしやお燐を狙ったのも頷ける。

 

「……この事を話したということは私に奴を倒せというのでしょう?霊夢達より先に」

意外なことに紫は首を横に振った。違うのですか……

「そんなんじゃないわよ。私はただ友人の家族が囚われたって伝えにきただけよ」

確かに嘘は言っていない。それに内心すごく私を心配しているのも理解できた。だけれど表面に被ってしまっているのが賢者としてのお面であるから、どうしてもお空には信用されていなさそうだった。

「ならもうちょっと言い方とか表情とか気をつけないと胡散臭いって信用されませんよ?」

まあ彼女の言いたいこともわかる。こんな時だからこそ紫ではなく賢者として振る舞っていなければならないのだ。彼女は他人が思う以上に優しいヒトなのだ。ただ表にそれを出せないだけ。

「知らせてくれてありがとう紫」

ならば内心を知れる私は……その優しさを表に出せるようにしよう。

「貴女も笑えるようになったのね」

意外な言葉だった。私が笑っている?でも嘘は言っていないようだ。だとしたら本当に笑っていたのだろう。意外なものだ。

「笑っていましたか?」

 

「ええ、笑っていたわ」

そっか……どうしてでしょうかね?表情がどうして生まれるのか私にはわからない。もう知ろうという気持ちもない。いつか意味を知れるのだろうか?

「お空、いくわよ」

まあいいや……

「いくって地上ですか?」

 

「当たり前でしょう?見捨てるわけにはいかないもの」

そもそもこいし達を捕らえたのは遠巻きに私を呼び寄せるためだろう。罠を仕掛けているに決まっているけれどその罠にハマりにいかなければこいし達を見捨てたということになる。そんなこと私は絶対にできないのだ。

「はい‼︎」

ここの防衛は……エコーに何人か妖精を回してもらいましょう。

「正邪がどこにいるかわかりますか?」

私が助けに向かうというのは最初からわかりきっているのだろう。ならば正邪がどこにいるかだってわかっているはずだ。

「わかるわよ。隠れるという気はないらしいわ。逆さまのお城を建てているのですから」

ああ…天邪鬼らしいお城だ。壊し甲斐がありそうだ。

 

「ならば、攻城戦と行きましょう」

ド派手な花火をあげよう。建物を木っ端微塵にできる火力を揃えよう。倒すのに弾幕が必要?ならば相手を穴だらけにする弾幕を生み出そう。さあ大戦争だ。私に喧嘩を売ったことを末代まで後悔するがいい。

「さとり様?な、なんだか怖いです」

「そうかしら?お空も気持ちは同じでしょう?」

過剰防衛?上等ですよ。家族を人質に取られて黙って見ているほど私は優しくない。

「一度家に戻るわ。武器を持っていかないといけないから」

出来る限り大量の武器が必要ね。

「サービスで隙間で送っていってあげるわ」

ありがとうございます。ふうん……紫も随分とお怒りのようですね。まあ考えることは皆同じだろう。紫にとってみれば幻想郷を崩壊へ導きかねない危険な異変。異変の中でも悪質なものなのだろう。

ならばやってやろう。悪質なのならもっともっと悪質なもので捻り潰してしまおう。それが妖怪というものだ。

正義?そのようなもので勝てると思っているのであればそれはあまちゃんだ。正義とは勝った方の悪質が名乗れる仮初の姿だ。

 

 

 

 

「あはは‼︎やっと動いてくれた!わたしから動く必要もなかったね!」

 

「良いの?こんなことしちゃって……」

 

「良いんだよ!あいつとはいろいろあったからなあ。決着つけなければいけないと思ってたんだ」

 

「……私達の祈願を優先してくれるなら私は何も言わないよ」

 

「ああ、勿論さ。あんた達だけじゃなく全ての弱者の祈願を達成させることを誓うよ姫さま」




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