異変というのは私たちからしたらいきなりなんの脈絡もなく唐突に始まるものだけれど、その異変は少しだけ違った。
日常のちょっとした違和感が増大されておこったと言った方が良いようなものだった。
最初の違和感は道具の位置がずれているという些細なものだった。それも全部というわけではなく、私が普段使用しているお祓い棒に限って。
最初は付喪神かと思ったもののそういう気配はなかった。でも異変というほどでもなかったしそのまま放置。
その次の違和感は神社の周囲や人里の見回りの時。普段より出くわす妖怪が多いことだった。それも強いやつかと言われたらそういうわけではなく、普段だったら私の姿を見て真っ先に逃げ出すような臆病者ばかりだ。
この辺りで気づいていればよかったの。あの時ならまだ間に合ったかもしれない。深くは考えたくないけれど異変を事前に防ぐのも巫女の役目の一つだったりする。
まあそれは難しいから対応が後手に回っているのだけれどね。
事態が深刻化したのはその2日後。最初の一報は人里からの早馬だった。連絡に馬が使われる事態というのは本当に急な事で、実際その馬に乗っていた男も馬も深手ではないにしろ傷を負っていた。
話を聞くに一部の妖怪達が人里を襲撃しているらしい。今はまだ持ち堪えているものの事態が事態なだけあって巫女を呼んだそうだ。だけれどそれ以上の詳しいことはわからなかった。
そもそもそれとは別にこっちはこっちでちょっと問題が発生していた。
というのも今腰に縛り付けているこのお祓い棒が暴れ出していたのだ。縛り付けているから動きは封じられているものの、さっきまで飛び回ったり勝手に攻撃したりとかなり手を焼いていたのだ。
「まいったわね……」
お祓い棒がこんな感じじゃ使い物にならない。いや使おうと思えば使えるかもしれないけれど私にとっては迷惑極まりない。
男と馬に手当てをしていると、神社の入り口の方で魔理沙の声がした。
「大変だ霊夢‼︎妖怪が暴れて色々と大変な事になってやがる!」
どうやら魔理沙の八卦路も私のお祓い棒と同じで意思があるらしい。怒っているのか腰に装着された状態でも軽く火を拭いていた。熱くないのかしら?
「ねえ魔理沙その八卦路どうしたの?」
「これか?なんかさっきから意識が芽生えたらしくてな。まあ火力が跳ね上がったから全然嬉しいんだけどな」
ふうん…これはやっぱり異変ね。しかしいったいどういった異変なのかしら。まあ勘でどうにかするしかないか。いつもどおりに……
「相手は何?天狗かしら」
組織的に暴れているということはそれなりの数が必要だし協力な指揮が無いと上手くいかないって母さんも言っていた。そこの線からちょっと考えてみましょう。
「いや…弱っちい奴らばっかりだ。むしろ天狗は事態収集に動いているけど」
あらそうなの?
てっきり天狗とかが主導しているのかと思ったら違うのね。だったら……
「さっさとぶっ殺しに行くわよ」
「取り敢えず襲ってくるやつ種絶やしにすれば問題はないでしょう」
「流石にそれは暴論すぎるだろ。まあ襲ってくるやつには資格ないけどな」
じゃあ決まりね。お祓い棒がちょっとうざいけどこれくらいは我慢しましょう。もしかしたら気が変わって助けてくれるかもしれないし。
私がお祓い棒に意識を向けていると、魔理沙もそれに気づいたらしくお祓い棒について聞いてきた。
「ところでお前のお祓い棒大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が?」
「そんなぐるぐる巻きにしちゃって、いざと言う時すぐに取り出せないだろ」
ああ、確かにこれじゃあすぐに取り出せないかもしれないわね。でもお祓い棒がなくても私は戦えるしそんなに問題ではない。まあ多少は力が制限されるかもしれないけれど誤差の範囲よ。
「勝手に暴れだすから仕方がないじゃないの」
「なんだ。それも意識あったのか」
当たり前よ。全部が全部意思を持っているわけじゃないだろうけどね。
「これも異変のひとつなのかしらね……取り敢えずまずは人里にいきましょう」
男も必死に助けてくれと懇願していた。正直人里には寺があるしその寺と意地張っている神なんだか神じゃないんだかよくわからない奴もいるしそれに慧音だっているから平気だと思うんだけどさ。
「そっちに異変の主がいるのか?」
「いいえ、ただの巫女の仕事よ」
でも顔出しくらいはしないとお賽銭入れてくれなくなっちゃうわ。
思った以上に人里は苦戦を強いられていた。
全包囲されてしまっているというのもあるけれど普通だったらそんなことすれば戦力の分散を引き起こして各個撃破されると思うんだけど。
どうやら数が多すぎるらしい。各方面での処理能力がパンクしているみたいだ。結構な数で攻めてきているのねえ。
「あーらら随分と苦戦してるみたいだな」
でも空を飛んでいる妖怪は少ない。大半が飛べない妖怪なのだろう。おかげでこちらの方までは意識が回っていないらしい。まあ…寺とかあるし大丈夫な方は大丈夫なのだろう。
「そうね……あ、まずいわ東側が抜かれたわ」
だけれど綻びというのは結構簡単に生まれてしまう。私たちの目の前で東側の門が破壊され、妖怪たちが流れ込んだ。
中には鬼なども交ざっている。
あれじゃ人に被害が出るわね。それだけは防がないと。
「じゃあ援護行ってくるぜ。霊夢はそこで見てなって‼︎」
そう言って魔理沙が人里に流れ込んできた妖怪達に頭上からマスタースパークをお見舞いした。
あれは一方的ね…
ほぼ奇襲という形になった為か一撃でほとんど吹っ飛んだ。大通りで固まっていたというのもあるのだろう。空から魔理沙が攻撃してきたことで妖怪の大半は怖気づいたのか慌てて逃げ出した。
根性ないわね……天狗だったらもうちょっと組織的に動いて的確に対処するわ。って事はこいつらは大した奴に操られているわけでもなく。半分烏合の衆な訳ね。
「……圧倒的ね」
「弾幕はパワーだ‼︎」
違いないわ。
じゃあ私も仕事しますか。めんどくさいけれどこれもお賽銭のため!
妖怪退治のお札はたくさん持ってきた。余すことなく持って行きなさい‼︎
人里を取り囲んでいる妖怪たちの頭上から撃ち下ろすように大量のお札を投擲。
下で悲鳴や怒号が聞こえてきた。
一匹一枚で動きを封じ、力が弱い妖怪はそのまま退治ができるお札なのだ。今ここにいる妖怪の大半はあっさりと力尽き消失が始まっていった。
持ってきたお札の半分も投擲していないにもかかわらず近くの妖怪はほとんどいなくなっていた。
一部の飛べる妖怪が空に飛び上がろうとしてきた。お祓い棒がそれに反応したのか激しく暴れ始めた。
「もしかして戦いたいのかしら?」
私の問いかけに反応することはなくただ腰から抜け出そうと必死に動き回っている。仕方がない。鬱陶しいから解放してあげましょう。ただしあくまでも私が使うんだからね。
縛っていた紐を引きちぎりお祓い棒を握る。
相変わらずの暴れっぷりだけれど攻撃性はない。むしろこれは……
力が余っている?
目の前に迫った猿のような妖怪に向かってお祓い棒を突き出す。
放たれた霊力が束となってお祓い棒の先端を包み、光の線が妖怪の体を貫いた。
力が抜けたように猿のような妖怪は地面に向けて自由落下。
随分と威力があるのね。使い方によってはまあ有用かしら……でも加減が難しいのが難点ね。それさえなければ……
「なーんかあっけないな」
「あっけないというか…戦い慣れしてないのかしら」
一部は先に気付いて回避していたけれどほとんどは回避するどころか気付く前に全部終わった。
「烏合の衆でもここまでひどくはならないだろ。これじゃ射撃練習だ」
「違いないわ。まあ仕事はしたから私たちは他を当りましょう」
「なあ霊夢、あれはなんだ?」
魔理沙がそう指を指す方向には、モヤのかかった山肌に何か変なものが出来ていた。
「あれ?ふうん……逆三角形の何かみたいね。ちょっと遠すぎてよく分からないわ」
ここからでは影になってしまっていて見えないし変に霧も出てきているせいで視界がよくない。勘はどうやらあそこに何かがあると言ってきている。だとすればあそこが今回の異変の元凶なのだろうか。
「ここらへんの妖怪片付けたらあそこに行ってみましょう」
まあ、どうせあそこに行くのは確定しそうだし先に周りの妖怪を片付けてから行っても問題はないだろう。文句は言わせない。
「別に私はここの妖怪なんかどうでも良いんだがな」
だけれど魔理沙は乗り気じゃないらしい。まあ勝手にしなさい。あんたに強制させるつもりはないから。
「じゃあ一人でいってらっしゃい」
「いいのか?じゃあ遠慮なく行ってくる‼︎」
好きにしなさい。もしかしたら魔理沙が先に解決してくれて私の仕事が減るかもしれない。そうなったらさっさと帰ってのんびりできる時間が増える。
魔理沙一人では少し不安だけれど実力がないわけじゃないから大丈夫だろう。万が一があってもあいつはあいつなりになんとかするはずだ。
「じゃあ一仕事しますか」
寝ているときに無理やり起こされると、私にとっては気分が悪くなるからとても嫌なもの。それでもたまに私の気分を害しにきているのか寝ているところへ無理に起こしてくるヒトっていうのは存在する。なんでだろうね?私はわざわざ起こさないでって立て看板を立てているのにさ。
しかもそういう時はむすっとした表情になるから良い顔取ろうとか思っている記者とかも流石にそんなことはしないよ。
しかも今回叩き起こしてきたのは複数人。うーん妖精の悪戯かなあ。だったら追いかけっこして遊びながら鬱憤を晴らすんだけどね。お姉ちゃんは良い顔しないけれど楽しいから仕方がない。
「私の眠りを邪魔するのはだあれ?」
「あんたがこいしだな?」
「知らないヒトにあんた呼ばわりと呼び捨てはないんじゃないかなあ…」
嫌な気配だなあこの人たち。でもサードアイ出して本心を覗こうにもなんか嫌な気分になりそうだから嫌なんだよなあ……
「黙ってきてもらおうか」
「それは人攫いかな?それとも遊びのおさそい?」
家の屋根の上で仰向けになっていた体を起こし改めて彼らを見る。
ふうん…狼の半妖とまだ人の形を取れない妖怪二人かあ。
「人攫いに決まっているだろ!」
声を荒げて言わなくたって聞こえるよもう…耳に悪いから怒鳴らないでよ。工事現場じゃないんだし。
「じゃあ断る。私は攫われるほど安くはないの」
「良いのかあ?今動いたらこれが突き刺さるぜ」
背中に押し当てられたそれはまごうことなく刃物類。金属特有の冷たさが布越しに染みてきた。
「うーんそれはそれで困るなあ……」
お姉ちゃんみたいに傷の治りが早いとか痛くなくなっちゃうとかそういうのは私には無い。物が刺さったら痛いし斬られても痛い。そして痛いのは大っ嫌いなの。
じゃあ素直に従うかって?それだって嫌だよだって私は何者にも縛られたくはないからね!
「だったら……」
「だったらここで全員倒せば良いんだよ‼︎」
後ろで刃物を突きつけていた妖怪に肘打ち。後ろにいる時は頭とかそういうのを不用意に近づけちゃダメだよ。
顔に肘打ちが決まったようで、背中に当てられていた刃物が離れた。
そのうちに体を前に押し出し半妖の子のお腹に頭突き。
お腹はねえいくら鍛えても弱点なんだよ内臓が色々集まってるのに肋骨みたいなのが無いからさ。衝撃がもろに内臓揺さぶるのよ。私もお姉ちゃんにやられた時は痛くて立てなかったわ。
もう一人が少し離れた位置から攻撃しようとしてきたら素早く妖弾を1発お見舞い。派手な爆発と一緒に屋根から吹き飛ばされて落ちていった。
受け身取れたかな。まあ良いや気にしない気にしない。
「こいし‼︎屋根の上かい⁈」
此の子たちどうしようかなあとか考えてたら家の中からお燐の声が聞こえてきた。
「あ、お燐。そうそう屋根の上だよ」
「今そっちに行くから待ってておくれ」
お燐の声を聞いて安心しちゃったのか周囲の警戒を怠ってしまったのが間違いだった。
一瞬空を裂く音がして、振り返ろうとする前に首筋に何かが刺さった。
その瞬間体から力が抜けたような……急にだるくなり始めた。意識も朦朧とし始めて体の上下感覚が狂う。
それでもその場から離れようとお燐の声のする方向に体を動かした。もうめちゃめちゃだった。
「こいし?こいし‼︎」
お燐の声が聞こえていたけれどそれもだんだん鈍くなってきた。
気づけば目の前が真っ暗になっていて、駆け寄ってきたお燐に抱き抱えられたって感覚を最後に意識が途切れた。
「おいおい、天狗でも数秒で眠る劇薬だぞ。あいつ一分も行動してやがった」
さとりの流儀
殺さず無効化するには腹パンが便利。お腹は弱点が多く面積も広いから比較的容易に狙える。困ったらまずお腹を殴ろう。
逆にここをやられないようにするには体を相手に向かって縦にする事で投影面積を減らしなるべく弱点を相手に見せつけないようにすること。
此のため山で警戒する天狗達は侵入者への対処の時はよく腹パンをするそうだ。
特に魔理沙相手に。