古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.329輝針城(独奏篇)

化物を倒すのはいつだって人間なんてよく言われる。

であればこうしてあの目標絶対倒すマシン化している元人間は私という化け物を倒すような存在たりえるのだろうか?

 

天狗が持つ道具や鬼が持つ道具には剣や団扇のような道具の他にもちょっと残酷なものもあったりする。その中でもあれは天狗達が生み出した負の遺産のような道具だった。

 

私も天魔から簡単に聞かされただけではあったけれど、鬼の支配から解放された直後、鬼やそれ以上の力のある存在が再び現れたときようにと一部の天狗が複数の人間を利用して作り出したものがあると。完成直後にそれが発覚しすぐに封印されていたらしい。まあ有用性は確かにあったらしいから完全封印ではなく普段使わない特別な道具と一緒に保管しているというものだったけれど。

 

人間の感情というのは時に何者をも凌駕する力を発揮することがある。

それをこちらの任意で発動させ、利用する道具らしい。

道具と言っても実際に母体となっているのは人間だし、一応あれもまだ人間らしい。というか人間じゃなかったら意味ない代物ですし。

でも見た目は阿修羅にでもあやかったのか材料にされた人間を組み合わせてなんと見えない姿にさせられていた。そっちの方が感情を引き出すのにはうってつけだったのだろうか。

三つの顔と何故か十本ある腕、そして三本の足。

なんとまあ気持ちが悪い姿だ。インパクトだけで一部は逃げ出すかもしれない。

まあ私に逃げ場なんてないのですけれど。

しかし面倒ですね……

 

あまり近づくのは得策じゃない。さっき一回接近戦を仕掛けようとして腕をもぎ取られかけた。

別に腕の一本二本あげても良いのだけれど体は大事にと言われているので躊躇してしまう。

 

でもそれ以外で決め手にかけるのも確かなんですよねえ。

十本の腕から放たれる斬撃と殴りの攻撃を素早く避ける。背後にあった壁が崩れ去り、歪んだ太陽の光が入ってきた。

 

体のすぐそばを拳が通り過ぎて風圧でバランスを崩しそうになる。

あんなの当たったら妖怪の体でも粉々確定だ。全くなんて面倒なものを天狗は作り出したのやら。

 

でもまあ……私にとってはあれもまた面白いものと言う認識なのかもしれない。

幸いここではサードアイも使える。なら……

 

「想起。あなたが持つその感情全て見させてもらうわ」

飛んでくる霊弾を回避しながら、奴の思考をのぞいていく。やはり複数の人間の思考が集まって複雑でぐちゃぐちゃのノイズのようなものになっていた。でも一つ一つ解き明かしていけば……

 

途端心に恐ろしいほどの呪詛が流れ込んだ。その多くは私ではなく他の何かに対するものだったからそんなに私自身がダメージを受けるということはなかった。

ああ…久しぶりに闇を見れた気がします。

 

「うふふ、あははは‼︎なるほど。そうでしたかそうでしたか‼︎ああ、天狗もかなりのことをしましたね。同情してしまいますよ」

心底同情してしまう。そして笑いが止まらない。

ああ本当に、私の心を砕くレベルのとんでもない仕打ちと呪詛ですねえ。

ですがそれほどの力となりますと私だって想起すれば出来ちゃうんですよ。化物になりかけの私ならね。

 

どうやら話を聞くという理性くらいはあるらしい。その存在は攻撃を止めて私を観察してるようだった。

「ああこれだから人間は面白いのですよ。もっと楽しませてください!もっと見せてください‼︎その醜悪な感情を、人間の心を‼︎」

 

その力私によこしなさい‼︎

 

 

 

 

 

 

「う…あ?ここどこ」

頭が何かで殴られたみたいに痛い。それに体も関節や筋肉が悲鳴を上げている。う、麻酔の影響かなあ?それとも無理やり意識を起こしたからかな?

「おいおいおい、もう起きたのかよ。象でも一日眠る薬なんだぞ」

すぐ隣で声がした。床に転がされた体でも首くらいは動く。すぐに声の主を見つけることができた。

あーこいつかあ。今になってなにしにきたんだろう。

 

正直ぶん殴りたいけれど手足を縛られてるし無理。せめて手だけでも自由にならないかなあ。

サードアイは…ありゃ布でぐるぐる巻きにされてる。これじゃ使えないや。

「知らないよそんなこと。それより私をさらってどうするつもりなの?脅迫か何か?」

私の問いに正邪は舌を出しながら答えた。

「なんでそんなこと言わなきゃいけないんだよバーカ」

口が悪いなあ。いまに始まったことじゃないけれど。

「ふうん……そっかそっか」

手足だけじゃなくて体も木の棒で固定されちゃっているから無理に動くのは不可能。うーん、困ったねえ魔導書もないし。やっぱり手の縄を切断できる何かが欲しい。うーん…でもほとんどの道具は相手に取られちゃってるし。八方塞がりかあ。

「まあまあ、これでも見て落ち着こうぜ」

なにかの道具をいじり始めた正邪。見た目は黒い勾玉のようなその道具が光を放ち宙に映像を映し出した。

モノクロの映像だけれどそこに写っていたのは二つの映像だった。

「これは……お空とお姉ちゃん⁈」

 

私達を助けに…ってなにこいつ。化け物?なんかお姉ちゃんの方に阿修羅みたいな化け物がいるんだけど。嘘でしょ…まさかこれ……

「お前らを助けに来た2人がズタボロになる様は最高だぜ」

見下したようなその目が許せなくて、思わず笑顔を消して叫んだ。

「この…お姉ちゃん達に何かあったら許さない‼︎」

今の私の顔は怒りにそまっているのかな?正直わからない。だけれどこいつが許せない存在だっていうのはわかる。どんな目的があったのかは知らないけれど二度もこんなことするのなら……

「まあ言ってろ。何もできず目の前で家族がやられる様でも見てなって」

うう、さっきからこいつ怒りを煽ってきてる。そろそろ怒りが溢れ出しそう。

「あれを天狗から奪うのに天狗の同志を6人も失ったんだ。ぶっ倒してくれよ」

 

 

「……」

深呼吸深呼吸。怒りを覚えるのはいいけれど怒りに飲まれるのはダメ。

落ち着いて…脱出を考えないと。

お姉ちゃん達なら大丈夫だと思いたいけれどでもこいつだからどうせ他の手もいくつかあるんだろうなあ。でも異変と認定されているのならもしかして霊夢たちも来ているかな?だとしたら一歩間違えれば敵認定されて一緒に退治される…いやそれはないかな。

 

灰は灰に、塵は塵にしたところだけどここまで大掛かりな建物を用意したりできているあたり協力者がいるよねえ。それも何か特別な力を持っている……

剣さえ有ればどうにかできるんだけどなあ。

 

あ、そういえばお燐カチューシャつけてるじゃん。ナイス……

まあお燐がカチューシャつけているのって基本お出かけの時くらいだからなあ。まあラッキーなことに変わりはない。カチューシャの裏側は神を固定するためにギザギザになっている。これをうまく使えば……

今あいつの意識は映像のほうに向いている。ほぼ隣のお燐くらいならなんとか取れそう。

 

気づかれないようにカチューシャを咥えて手のある方向へ放り投げる。素早く手で受け取って内側に隠す。

よしばれてない。

手を縛っている縄をゆっくりと確実にカチューシャの裏のギザギザで削っていく。思ったより切れないね。まあ何かを切るためのギザギザじゃないから仕方がないんだけどさ。

ちょっと時間かかるかなあ。

 

 

 

 

 

 

目の前に迫ってきているのはなんかよくわからない液体のような存在だった。お燐が持ってる本に似たような奴が出てきていたなあ。確かスライムとかいうやつ。それによく似ていた。感触は初めて触るからよくわからないけれどきっと水みたいなやつだしスライムもこんな感じなのかな。

「なんかきりがないんだけど‼︎」

一体一体は大したことないのに数が多いし集まって巨大化しようとするから全然倒せない。

 

半幻想的存在か。いやあまた面白いものだな

 

「面白がらないでよ‼︎」

八咫烏様、お力を貸してください‼︎

 

そうは言っても娘よ。此奴らなんぞ私の力を借りるまでもないと思うがなあ?

 

「ああもうやってやる‼︎ここがふっとんでもしーらない‼︎」

八咫烏様が考えてくれないからなんだからね!

あ、ちょっと待て‼︎

 

八咫烏様が何かを言う前に素早く左手にエネルギーを貯める。

排熱で周囲の景色が揺らぎ、足元の畳が燃え始めた。

「メガフレア‼︎」

周囲が真っ白になり、反動で体が後ろに吹っ飛んだ。

 

 

 

 

激しいノイズと共にお空を映していた方の映像が消えた。

「あはは!あいつやりやがった!建物吹っ飛ばしやがったよ!結界壊れるところだったじゃねえかこのやろう‼︎」

結界…ねえ。じゃあお姉ちゃんたちがここに戻ってくるのはまだ時間がかかりそう。もしかしたら霊夢たちが早く到着するかもしれない。

面白いのか怒ってるのかわからない。うーん…どっちもかな?

まあどうでもいいかなあ。

まだ半分しか削りきれてない。気づかれるわけにはいかないからもう少しだけあっちに意識飛ばしておいてね。

 

そうこうしていると、不意に建物全体が揺れた。なんだろう?お空の爆破にしては時間が開きすぎているから違うし……

正邪の方もなんの音かわかっていないみたいでどこかに指示を出していた。へえ、それって遠くとの会話もできるんだ。確か霊夢とかが地霊殿にきたときに似たようなの使っていたっけなあ。

「んー?また誰かきやがったよ。しかも巫女いるじゃねえか」

巫女。その言葉に顔を上げる。

「巫女いたらまずいの?」

 

「当たり前だろう?」

えーそうかなあ。異変の首謀者っていうのも大変だねえ。

「じゃあ土下座すればいいんじゃないかな」

 

「やなこった‼︎」

 

そう叫んであいつは部屋の奥に行ってしまった。あれえ?置き去りにしちゃっていいのかな?下手したら逃げ出せちゃうけど……ううん。まあ向こうがそうしてくれるなら別に私としては構わないんだけどさ。

それにしても奥の部屋でなにしているんだろうね?もしかして協力者と相談かなあ……

正邪1人じゃこんな大きな施設用意するのは難しいし。それこそかなりの実力者が必要だ。そういえば少し前に鬼の宝物庫からいくつか道具が無くなったって言っていたっけ。その道具だって多くは鬼が何処からか略奪してきたものばかりだからなんとも言えないんだけどさ。

 

もしかしてそれも正邪の仕業だったのかな?

 

 

 

 

「あはは‼︎どうしたんですか?そんな程度ですか‼︎」

 

サードアイが流した血が宙に舞って私の肌に付着した。私に直接向けられたものではないにしろ憎悪と怒りを長時間見続けると言うのは相当な負担である。

だけれど心を妖として認識してしまっていればなにも問題はなかった。

痛くはない。いや、痛みなど忘れた。

腕を六本もぎ取られたそいつはまだ諦めないらしい。大量の血で城の中を汚しながら私に向かって槍を投げてきた。そのような攻撃はもう当たらないというのに。

虚しく空を切った槍が見晴らしの良くなった部屋に飛び込み瓦礫を吹き飛ばして城の外に落ちていった。

 

大きく振りかぶった事でできてしまった隙を突いてお腹に回し蹴りを叩き込む。ついでに足に妖力を集中させて内臓部分があるであろうところへ直接攻撃を叩き込む。

表情の変わらないお面のような顔から血が吹き出た。

もう潮時だろうか。

動きは完全に鈍っている。攻撃力は強かったのですが人間の体を組み合わせているだけなので正直脆い。当たらなければどうということはないのだろうけれど私とは相性よくなかったみたいですね。

 

「残念ですね。でもあなたは悪くないですよ。こんなことになったのも結局は天狗が原因ですしあなた達は悪くない運がなかっただけです」

なのでさっさと死んでください。あの世でなら多少は報われるんじゃないんですかね?まあそれも今までの善の積み上げがどのくらいあったかによりますけれど。

「……化け物ですか」

 

「なにを今更そんなことを。私は覚妖怪。化物の中でも忌み嫌われた最悪の化け物じゃないですか‼︎知らなかったとは言わせませんよ。私を倒せば悪を倒したことになり少しでも善行になるのではないかと考えていたあなた達にはねえ‼︎」

確かに彼らは人間だろう。それも人里で犯罪を犯し死罪になる予定だった者共を天狗が裏で買い取った存在だ。既に彼らはそれなりの存在だったというわけだ。

「だけれど貴方達に降伏という選択肢はない。さあこちらにきなさい。まだ体は残されているのですよ!その身が朽ち果てるその時まで戦い続けるのです‼︎」

 

……どうやら通じたらしい。半分やけになっているけれど。

まあいいです。これで私も心置き無くトドメを刺すことができます。

 

今までの動きはなんだったのかという速度で奴等が飛びかかってきた。普通に回避するのは間に合わないし狭い室内だから無理だ。

普通に回避するのであれば……

「想起……」

視界が切り替わり、目の前に奴らの背中が現れた。

流石大ちゃんの能力ですね。こりゃ奇襲にも使えそうです。私では一回か二回の想起が限界ですけれど。

 

「永遠の眠りが良い夢でありますように。想起『恐怖催眠術』」




一人称視点書く時って大体その人物の心境は作者の心境に左右されやすい
少なくとも妾はそうなのです。
と…胃が痛い今日この頃


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