古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.234 さとりは選ぶ

普段通りとはいかないにしても失ったものはもう元には戻らないと皆思っているのか今までの日常というのはそれに近い別の日常という形で戻ってくる。

 

地底の治安を維持する役目を買っている勇儀さん達が正邪を討伐するのに地上に行くことになり、代理で私達が治安の維持として見回りや喧嘩の仲裁。小規模犯罪の鎮圧を行うことになってしまったのはきっと日常が日常じゃないからなのだろうか。

 

正邪の起こした異変から一ヶ月。なんだかんだ言って流れかけてしまっていた異変解決の宴会が昨日開かれ一応の異変終結が宣言された。

宣言と言っても気持ちの切り替えのようなもので、異変後に宴会を開くことで心機一転としているものらしい。

私はあまり参加しないので良くは知りませんが大半は異変関係ない酒飲み達なのでなんとも言えない。

 

誰もいなくて久しぶりに静かな自室でのんびりとしていると、部屋の扉を誰かがノックした。

そのまま私の返事を待たずして扉が開かれた。

「さとり様、見回りいきましょう!」

入ってきたのはお空だった。背中の羽が大きく羽ばたいている。私と一緒に見回りをするのを楽しみにしていたようだ。時計を見れば確かに、もうそろそろ見回りの時間だった。

「あら、もうそんな時間だったのね」

 

 

地底に昼や夜の境は存在しない。だけれど地底に住むもの、訪れる者は地上における昼夜の生活を基本としている。そのため年がら年中夜もどきでもそれなりに時間感覚は狂うことはない。

だからなのか地上における午後7時を回ってくると酔っぱらいによる揉め事が増える増える。

喧嘩っ早いヒト達が多く住んでいるから仕方がないにしても観光できている側からすればたまったものではない。巻き込まれたくもないだろう。だから程々のところで他のヒトが仲裁に入るかしているのですが酔っ払っているとそれすら効果がない時が多い。場合には私達の出番となる。

結果としてこの時間帯の見回りは危険が多いと言うことでエコー達妖精は必然的に外され私達が入ることになっている。

今の今まで一度も揉め事無しに終わったことはないということからも分かるだろう。やっぱりこういうのは喧嘩上等な勇儀さん達にお願いするのが良いに決まっている。

 

必要なものを持ち、部屋の外で待っていたお空と合流。

地霊殿を出発する。

地霊殿周辺は飲み屋が殆どないから比較的静かである。正直地霊殿が近いからか犯罪も少ない。だけれど命知らずか純粋な馬鹿がいるのか犯罪が全くないと言うことはない。

 

 

 

 

 

やっぱり今日も喧嘩が起こっていた。

「やっぱりやっているわね」

それも血の気の多い客が多いこと多いこと…周りも観戦してしまっていてまるで野良レスリングでもやっているんじゃないと言ったところだろうか。

観光できているであろう人とか店員のことも考えなさいよ。

 

このままだと建物に致命的なダメージが入りかねないし第三者が巻き込まれる可能性もある。

最初に動いたのはお空だった。

所詮は酔っ払いの喧嘩。体格がひとまわり小柄なお空であってもうまく体術をかけることができればそんなに難しくはない。

あっさりと2人を床に押さえつけてしまった。

「あまり暴れると迷惑ですし制約をかけますよ?」

お空に押さえつけられていると言うのに全く威勢が衰えていない。お酒に飲まれちゃっていますね。

「んだとゴラア‼︎」

 

話が通じない方々ですね。これは仕方ありません。少し眠っていてもらいましょうか。

 

お酒を飲んでいるとはいえ屈強な妖怪だ。催眠術のような類は私は使えないから眠らせるのは容易ではない。でも容易ではないが出来なくはない。

要は意識を一時的に刈り取ってやれば良いのだ。それくらいなら私の能力の出番だ。

意識が寝ている…睡眠時の状態を想起し、相手の意識を上書きすればいい。

「お酒が回ると寝るのも早いですね。それじゃあこの2人は回収致しましょうか」

眠らせただけでハイさようならと言うわけにはいかない。起きた後も暴れる可能性が残っている状態で後の判断を店側に任せるのは危険極まりない。なのでこの2人はすぐに妖精達に地霊殿まで運んでもらう。

 

「じゃあ行きましょう……」

 

「分かりました」

外套を被っているとはいえそれでも周囲からの目線は気になる。内心何を考えているのかは知らないけれど、良いものではないように思えてしまう。実際そうなのだろう。目を見れば不満そうですし。

でも治安維持には必要なのだ。だけれど今日はやけに荒事が多い気がする。

お店を出て数分もしないうちに今度は通りで喧嘩が発生しているからどうにかして欲しいと1つ目の鬼が駆けてきた。

聞けば酒の飲み過ぎで大柄な妖怪が暴れているらしいが元々かなりやばい思考の持ち主だったらしく正義のためだと喚きながら周囲のものに八つ当たりしているそうだ。

やばい薬でも使っちゃっているんじゃないんですかねそれ。保護した後に検査しましょう。

知らせに来てくれた一つ目の鬼の案内で現場に行けば確かに道の真ん中で大暴れをしている陰摩羅鬼がいた。その攻撃は周囲の建物にも及んでいる。このまま放っておくと人的被害が出かねない。

 

「おやまあ随分と血気盛んですね。感心しますがもっと他の事に使ってくださいよ」

破壊された建物の残骸などを振り回していて近づくのは難しそうだ。

「警告です。すぐに暴力行為を停止して身柄を拘束されなさい。沈黙は否定とします」

 

返ってきたの沈黙。というよりガン無視。だめだこれ。全く止まる気がない。

 

投げ飛ばされてきた薪割り用の斧を咄嗟に避けようとして踏みとどまる。

背後には案内してきた妖怪や遠巻きに見ている野次馬がいる。ここれこれを避けたら薄路に被害が行くのは確実。仕方がない。防ぎますか。

結界を張って変な方向に飛んでいくのも困るので取る方法は一つ。想起するのは力において私の知る限り最強の存在。

振り上げた拳を、タイミングに合わせて振り下ろす。

真横に向けですっ飛んでいくその運動エネルギーの全てを打ち消し真下に向かわせる。

当然斧はその胴体全てを地面にめり込ませ、止まった。

 

さて正当防衛追加で行きましょうか。

まずは動きを止めること。既にお空が飛び出したけれどこの距離では接敵まで時間がかかる。まずは彼の動きを止める。

放つのは1発。周囲への被害が出ないように慎重に。その胴体へお見舞い……

あれ?

今一瞬下半身が動かなかった。それどころか片足から変に力が抜けかけた。だけれどほぼ同時に彼へ向けて弾幕を撃ってしまった。

完全にずれてしまった妖弾は彼の足を貫いた。

胴体に当てるはずがそっちに当たるとは…まあいいか。

痛みで転げ回っている鬼をお空が素早く押さえつけた。腕の関節を逆側に曲げてしまえばいくら力があってももう動けない。

先ほどのようにして無理やり意識を昏睡させる。次に目覚めるのは朝方だろうか。

 

 

近くにいた妖精さんが鬼を抱えて地霊殿の方へ飛んでいくのを見ながら私は体の不調を探っていた。

動かなかったのは腰から下。となると体の一部に負荷がかかりすぎた?でも今までそんなことはなかったし……

「どうしたんですかさとり様」

 

「……なんでもないわ」

今問題ないのならまだ大丈夫だろう。終わったらすぐに永遠亭に行った方がいいかもしれないわ。

でも今からでは夜遅くになってしまうだろうか?一応彼女たちは昼夜の概念くらいあるだろうしそっちの常識の中で生きているはずだから考えないといけない。

 

その後も一瞬だけ下半身が動かなくなるというのは何度か発生した。だけれど致命的なミスになったのはこの一回だけだった。

 

 

私が珍しく永遠亭に足を運んだことに永琳は素直に喜んでいた。やっと研究される気になったのねと。別にそういうわけではないのですけれど。

いつもと変わらない表情で研究されに来たわけではなく体の不調のため来たということを伝える。

「体の一部が動かなくなった?」

怪訝な顔をされてしまう。まあ仕方がないだろう。

「正確には下半身ですね。今はなんとも無いのですが目の一件もありますし」

その時と同じだろうか……

「そういえばそれ見えてなかったのね」

片目だけですけれどね。

「でも貴女の体は特殊だから見てもわからないかもしれないわよ」

渋い顔をしながら、永琳さんは私の頭に手を置いた。

「構いません」

 

「分かったわ。でも期待しないでね」

永琳さんはそう言って私にベッドで寝るよう指示をしてきた。勝手に解剖でもされないかと思ったものの彼女のことだから無断でそんなことはしないと判断し横になった。

 

しばらく体の至る所を押したり引っ張ったり何かの機械を取りつけられたり写真を撮られたりしていると、独り言が聞こえてきた。異常は殆ど見られないとか新陳代謝がどうのこうのとか。しれっと私を研究しているようだ。別に構わないけれど……

 

「そうね…だいたいわかってきたわ」

上半身だけを引き起こして、永琳さんの方を向く。副次的にいろんな情報が手に入ったとかなり満足そうにしている。でもちゃんと診断してくれたのだから文句を言うことはできない。

「急速な破壊と再生。本来なら破壊された部分は時間をかけて自然回復するけれど貴女の場合それが何らかの作用で急速なものにされているの」

へえ?あの回復ってそういうものだったのですね。

「根本的な原因はわからないですか」

まあそこがわからなくても今は問題ない。根本的なところを知ったとしてもだからどうするのかと言えば多分私は何もしないだろうから。

「さあね。吸血鬼がこれに近いけれどあれは再生時間が早いのと体の一部が物理的に不安定だからできることよ。貴女の場合はそうじゃない」

 

「急速な回復による弊害はいくつかあるけれど細胞が不完全な再生をしてしまう可能性は貴女に限って言えばないわ。問題は……」

 

 

 

 

 

ああ…そういうことでしたか。

彼女の説明は私の限界を伝えていた。薄々理解はしていたけれどこうも体に響いてくるとは……

正邪もとんでもないものを私の体に植えつけましたね。嫌がらせでしょうか…或いは天邪鬼だから?

「ちなみに目の方は…」

ついでだから聞いてみることにした。半分は永琳さんの話を忘れたかったから。

「そっちは代償みたいなものだし概念自体食われている可能性があるわ」

やっぱりこちらは代償として持って行かれてしまっているから無理か。まあ仕方がないか。

ってことはもう治らないのですね。まあ仕方がありません。それは諦めましょう。

 

「このことは誰にも話さないでください」

 

「…一応医者だし守秘義務は守るけれど……貴女のためにはならないわよ」

 

それでも良いんです。私は本来否定されるべき存在。その否定が早くきてしまっただけなのだろうから。

 

「分かったわ。こちらもどうにかしてみるから耐えなさい。いいわね」

 

 

私に苦手意識を持っている優曇華は顔には出さなくても内心びくびくしながら私を玄関まで案内してくれた。本当なら迷いの竹林の外まで送ってもらって欲しかったけれど彼女に与えたトラウマを考えたらそれは無理そうだ。

去り際に謝ってみたら無表情を貫こうとしていたその顔が驚愕に染まった。

謝られるとは思っていなかったのだろう。

 

永遠亭が見えなくなるところまで歩いていけば、完全に方向感覚はあてにできなくなった。

普通の竹林ではない特殊な空間。

たまには迷ってのんびり歩くというのも悪くはない。不思議とこの奇妙な居心地の悪さが心をくすぐって楽しいのだ。

風のざわめきがするけれど私の肌に風は当たらない。

 

 

そんな人を惑わす幻想を楽しんでいれば、目の前に竹林とは合わない奇抜な色が飛び込んできた。

それは字面に横たわる大木のように見えた。近づいていけばそれは人の形をとって行き、いやでもだれかが倒れているということに気がつかされる。

「……」

それは少し前まで敵対していて、散々紫達幻想郷の賢者が見世物として弄んでいた存在だった。

 

「……正邪?」

なんでこんなところに倒れているんですかね?あれですか?激戦繰り広げて力尽きたんですか?でも生きてはいるようだから別に力尽きたわけではないか。

しかし道具が入ったバッグを抱き抱えているあたり気絶中でもずいぶんと警戒しているようですね。もしかして敵意を感知したら起きるんじゃないんですかね?それはないか……

少し見ただけでも至る所に切り傷、打撲痕、腕に関しては裂傷していた。これ放っておいたら感染症になりそう。

 

 

このまま放っておこうかと思ったけれどなんだかそれは後味が悪い気がしてきた。だけれど個人的にも幻想郷としても彼女を許すことはできない。相反する感情が渦巻き始めた。

……よし決めました。

 

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