古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.27 こいしの地底訪問(反転篇)

「へえーここが一番下なんだー」

 

案内人がキスメからヤマメに変わってから丸々1日。

なんかキスメはこれから行くところがあるらしくてこれ以上奥まで付いては行けないみたい。

「お土産待ってるよヤマメ!」

そう言い残して来た道を引き返して行っちゃった。

 

まあとにかく、おしゃべりをしながら進んで……訂正、降りていったおかげで気づいたらやっと足場が見えてきた。

いやー長かったわ。

 

「深度35000ちょっとってところね」

 

35キロか…すごい長かったなあ…っていうか丸一日かかるってどういうことよ。

 

「だいぶ深くまで潜りましたね」

壁を触りながら椛が呟く。確かにここまで深く潜ったのはなかなか無いよね。少しだけ息苦しかったりするけどすぐに慣れちゃうかな⁇

 

ヤマメもここまで潜ったことは無く初めてらしい。ならなんでガイドしてくれたのかなあって思うけど結局興味本位でついてきたいだけだったんだね。

 

 

まあ別にいいや。それにしてもここで終わりなのかなあ…

 

「……変ですね」

 

私が残念そうにしてると椛が変なことを言い出した。いや、変って言われても何が変なのかわからないんですけど…

 

「私も変だと思うのよね」

 

「ヤマメも?」

 

二人ともどういうことなんだろう。私やはたてにもわかるように言ってよね。

 

「ここの穴は水の侵食で出来ているはずなんです」

 

そう言われて私も壁を見てみる。実際侵食で出来た壁なんて見たことないからわからないんだけど…ひんやりした壁を触るだけ触って結局わけがわからなかった。

 

「普通水の侵食で出来てる場合底は湖みたいに水がないといけないのよ」

 

へえ、そうなんだ。地質学なんて専門外だからわからないや。はたてもちんぷんかんぷんな表情浮かべてるし…

 

「じゃあまだ底じゃないってこと?」

 

「おそらく、この床の下にもまだ続いているはずです」

 

そう言って椛が床に剣を刺す。そのまま剣に妖力を流し込んでいく。

ヤマメもこの下が気になるのか弾幕を作り出し地面に向けて発射スタンバイ。

発射。

かなりの振動が伝わってくる。

「ちょ、ちょっと!崩落したらどうするのよ!」

 

「大丈夫ですよ。その時はお二人に任せましたから」

満面の笑顔で見られても…頭上から降ってくる岩を砕き切る自信なんてないよ。

 

「言ってくれるねえ…じゃあ私はそこの窪みにでも隠れてようかなあ」

 

その瞬間ガラスが割れる音を少し低くした音が縦穴中に響き渡る。

ばさりと羽ばたく音が耳に入り、はたてが空中に身を浮かせたことを悟る。

 

椛とヤマメの足元が消失したことに気づいて私も慌てて体を浮かせる。

数秒遅れで私が立っていた地面がガラスのように割れて暗闇に吸い込まれていった。

 

「……あれ土の地面じゃなかったんだ」

 

「刺した感覚から鉱物だとは思ってたんですが…」

 

まさかあんな崩れ方するなんて誰も想像できない。正直、私が人間のままだったら真っ逆さまに落ちてたわ。

 

いやー危ない危ない。

それにしてもあんな割れ方する鉱物っていったいなんなんだろう…お姉ちゃんに聞いてみよっと。

「やっぱり下あったよ。そんじゃいくべ?」

 

ヤマメが一応といった感じに確認してくる。答えは決まっている。少なくとも私はね。はたては…少し不安そうだけどやっぱり知的好奇心には勝てないみたい。

 

 

でも先に行きたい。だってみんなに合わせてたらすごく退屈なんだもん!だからさ……先行って待ってるね。

 

「それじゃあ私は先に行ってるから追いついてきてね」

 

体にかけてる浮力を切り、重力に従って空気を切り裂く。

 

上の方で椛達が叫んでいるけどそんなの聞こえない。私に聞こえるのは空気を切り裂く音だけ。

 

それにしても周りが暗いとどのくらいの速さなのかわからないや。

やっぱり時間測った方が良かったなあ…でも今からじゃわからないや。

そんなこと思っていたら、隣に人影が落ちてきた。誰だろうなあ…

 

「あれ、ヤマメじゃん」

 

てっきりはたてとかかと思った。

 

「あんたが先に行っちゃうから追いかけてきたんだよ。それなのにその反応はないでしょう?」

 

「だってそれ以外反応しようがないんだけど…」

 

「それはそれで酷い!」

 

冗談だよ冗談。天狗の二人は…あ、追いかけてきてる。やっぱり置き去りにされるのは嫌だったのかなあ。それとも私が心配で降りてきたの⁇

「先に行って情報独占する気でしょ‼︎させないわよ!」

 

あ…結構いつも通りだった。安心安心。

椛は置いてきぼりが嫌だから付いてきたんだね。まあ、そりゃそうだよね。

 

「あはは!そんなことしないよ」

 

やっぱり調査なんて性に合わないや。情報戦はスピード勝負、はたてはこっちの方が合うよね。もちろん文もだけどね。

 

 

「それじゃあ先に行って待ってるわ!」

 

そう言い残して隣を通過していくはたて。流石天狗。あっさりと見えなくなった。でも流石に音速を超えるのは躊躇ってるみたいだね。

 

「全く…はたてさんは…」

 

「ねえ、天狗って普段からあんな感じなの?」

 

「「……」」

 

「あ、そう。わかったわ」

 

わかってくれたみたい。

 

しばらく重力に任せていると頬に冷たい粒が当たった。

それを境に液体のようなものが身体中にパチパチ当たるようになってきた。

もしかして侵食している水かな?

 

 

そろそろ地底みたいだね。それじゃあ……

 

真上に誰もいない事を確認して両手を広げる。同時に浮力を私が出せる最大の出力で出す。

 

体が真下に押し付けられ骨が軋む。

人間なら耐えきれないほどの重力荷重がかかり減速していく。

同時に吐き気がしてくる。ちょっと強くし過ぎたかな。

他のみんなは少し下の方にうっすらと見える。

……視界がレッドアウト。しばらく目を瞑る。

 

 

空気を切り裂く音が聞こえなくなり息苦しさも消える。ゆっくりと視界を確保する。

 

目の前に椛の顔が映り未だに距離感を掴めない頭でも近くにいる事を悟らせる。

 

「全く、そんな無理に止まろうとしたら体がもたないに決まってるじゃないですか」

 

「ごめんね」

 

どうやら私の急制動に少しだけ怒ってるみたいだ。

まあそれもそうか。もうちょっとゆっくり制動かければ良かった。

 

同時に水に何かが落ちる音が聞こえる。真下にはまだ灯をおろしてないからなにが落ちたのかはわからないけど…水音は一回。

ヤマメの姿が見えないから止まり切れずに落ちたみたいだね。大丈夫かなあ…

別に飛べるから助けなくても大丈夫…だよね。あれ?蜘蛛って泳げるっけ…

どっちにしろ下に向かって再び降下。私と椛が照らしている灯りとは別に端っこの方に別の灯りが見える。

はたてが点けてる灯だね。じゃああそこが底の方なのか。

 

降りていくとだんだんキラキラとしたものが下の方で光を反射し始めた。

 

「おおーようやく地底湖に着いたよ」

地底湖と言っていいのかどうかわからないけど…

まあ湖っぽいからいいや!

 

見たことのないほどの透明度を誇る液体が穏やかに波を作っている。

光を向けてみれば底まで一気に光が通る。

本来、風もなにもないところでは波はたたないはずなんだけど…波を作っている本人は……

 

「うう…寒い」

 

ビショビショになって水面の上に浮いていた。

 

「見事なダイブだったわよ」

 

褒めてるのか褒めてないのかわからない言葉が湖の端からかかる。

大笑いした後なのか若干疲れ気味。笑っちゃダメだよ。

 

先におちょくっちゃったら私がおちょくれなくなっちゃうじゃん。

もう……

 

「はい、タオル…足りるかどうかわからないけど」

 

コートの裏側にしまい込んでいる緊急時用のタオルをヤマメに渡す。

重たいし視界遮られるし動きに支障が出やすいコートだけどいざという時に役に立つところが好き。重量とか動き辛さとかは…今度お姉ちゃんに直してもらおっと。

 

「だいたい90キロほど降った感じですね」

 

「そんなに降ったの⁉︎凄い深いね!」

 

実際のんびり降りてきてたらどうなってたことやら…って椛?なにその…ちゃんと測定できなかったんですけどどうするんですか?みたいな目は。やめて!そんな目で見ないでええ‼︎

 

 

「…それにしても…綺麗だね」

 

「そうですね」

 

初めて見た…こんな綺麗な水辺。

今度お姉ちゃんにも見せてあげよっと!

 

 

「それにしてもここで穴は終わりですか…」

 

「そうっぽいわよ。他に横穴なんて無いし」

 

はたてのそれはちょっと…見落としてそうだね。

別にはたてが節穴ってわけじゃないんだよ。たださ…やっぱり自分で調べておきたいじゃん?

 

私も探してみようっと…もしかしたら水の下に穴が続いてたりするかもしれないし…

でもそしたら服濡れちゃうし眼が見えちゃいそう……それはそれで嫌だなあ…せっかくヤマメと仲良くなったんだし…

 

クルクルと舞い踊りながら壁を見ていく。ないかなーないかなー

 

 

 

 

……あれ?ここ、壁というより落盤で埋まったみたいな感じなんだけど…

一箇所だけ不自然なところを見つける。長年の風化で表面が他の壁と一体化してるけどこれは…うん…まだ原型が残ってる岩だね。壁じゃなくて。

もしかしてここって壁じゃなくて崩落で埋まったところかな?

だとしたら…

 

妖力で腕を強化。大きく拳を振り上げる。

 

「普通のパンチ」

 

物体同士がぶつかる音がして、少しだけ岩が削れる。

 

すかさず壁に耳を当てて奥の音を聞き取る。

 

音が何回も反響している。距離にしてほんの1メートルちょっと…

すぐ裏側に横穴があるのはわかった。

 

 

「それなら…」

 

 

持ってきていた魔導書を広げページをめくっていく。高速で流れていく頁、その中にある1ページでめくっている手が止まる。

 

狭い地形や距離が取れない場合に使う緩衝撃型攻撃魔法。

なんでも、爆発そのものは大したことないんだけど爆発の時のエネルギーを一方向に固定することで破壊力を高めているのだとか。これなら崩落する可能性も少なくて済むね!

 

「発射!」

 

軽く力を込めてエネルギーを撃ち出す。

それは吸い込まれるように目の前の壁に吸い込まれていき、炸裂。

普通の爆発とは違い独特な音と衝撃が帰ってくる。

壁に当たって反射した衝撃波だ。

 

同時に吹き飛んだ岩が着水し水柱が上がる。土煙でよく見えないけどうまくいったみたいだね。

 

煙が晴れると、丁度私が弾幕を当てたところがぽっかりと穴になっていた。奥まで続いていて、少しだけ向こう側が明るい。

 

ヤマメが隣に飛んでくる。ビショビショのまま体をくっつけられても…うーん…まあいいか。

「すごいじゃないの!」

 

「何と無くだったけど…椛なら気づいてたでしょ?」

 

「ええまあ…違和感だけは感じてましたけど…」

やっぱ椛の方が鋭いんだね。

 

 

「大型ミミズが通った後みたいですね」

 

お!なにその例え面白い。

 

「へえ、気づかなかったわ」

吸い寄せられるように全員が集まってくる。

 

やっぱりみんな興味に惹かれちゃうんだね。私もだけどさ。

 

 

「あの、さすがにこれ以上は調査団を作り直さないと…」

 

椛、言いたいことはわかるけどそんなに尻尾振って言われてもほとんど説得力ないよ。

まずはその尻尾をどうにかしよう?さっきから足に当たって痛いんだけど…いや、くすぐったい。

 

 

 

 

………

 

 

結局、はたてを先頭に横穴の中を進んでいく。二手に分かれていたりとかするかなと思ったけどそう言うこともなくただまっすぐな道が続く。と言うか一方方向から淡い光がさしてるからどう見ても迷うことはない。

 

ただ、足場が悪くて何回か転びそうになる。

 

 

横穴が終わり眩い…地上のような光が瞳に差し込む。

一瞬だけ目を瞑る。

再び開けた視界には、目を疑ったね。

 

……?森だ。川だ。

地上みたいな光景が目の前に広がっていた。いや地上よりも起伏がなくて…平らなところに森があるみたいな感じだね。

山岳地くらいしか知らないから初めてだよ。

 

 

もちろんはたては狂乱してこの光景を早速念写できるようにと行動してる。

生き生きしてるはたてを久しぶりに見たなあ…

 

私の横で呆然としている二人に声をかける。

まあ地底にこんな世界があればそりゃ驚くよね。

 

「……明るいですね」

 

「本当ね…地底なのに…」

だからさヤマメ、感動してるのはいいけど…びしょびしょの服で私の体にもたれかかってこないで…ひんやりして風邪ひきそう。

 

それにしてもなんでこんなに明るいんだろう。どう見ても太陽があるなんて思えない。目線を真上に向ける。

 

どこまでもどんよりとした雲が天井付近を覆っていてわからないけど…あの先に光源があるのかなあ…

 

飛んで行って確かめてみようとしたけど雲の隙間から雷のような放電現象が見えるからやめておく。

 

「もしかして電気現象が起こってるおかげで明るいんでしょうかね」

 

じっと雲を睨んでいる椛がそう呟く。千里眼で中を見ていたみたい。千里眼すごいね。

 

「そうかもね」

 

まあ詳しい事は他の妖怪に任せて…この発見を喜ばなくちゃ!お姉ちゃんに自慢できるよ!それに新しいものが沢山!

 

少しづつ奥に歩いてみる。地上と変わらない…植物や虫によって作られた柔らかい土。

でも植物は見たことないや。って言うかはたてどこに行った?さっきから姿が見えないんだけど…

まあ、視力が8あるとか言ってたしなんかあったら直ぐにこっちを見つけてくれるでしょ。私は…そこまでハイスペックな身体じゃ無いからヤマメと椛と一緒にいよっと。

お姉ちゃんから共有した記憶に似たようなものがあったなあ…なんだっけ?

確か小説だった気がするけどあれは火山がどうとかだったし…ここら辺に火山帯なんてあったっけ?まあここまで地下深くなら普通に溶岩とかありそうだけど…そしたら高温高圧って大丈夫なのかなあ…

近くに火山活動はないと思うんだけどこんなに深いと溶岩の流れとかにぶち当たったりしないのかなあ…当たってたら私たち生きてないしここは特殊な事象なんだろうね。

そんなことを思っていたら僅かに地面が波打った。

今までどこにいたんだろうと思わんばかりに森から鳥が一斉に飛び立つ。

 

「じ、地震⁉︎」

勘の鋭い椛がそう叫ぶ。

数秒遅れで本震が到達。

地面が軽く揺れている。同時に地響きのようなものもあたりに響き渡る。

 

 

「まあ地下深くならこのくらいは起こるだろうね」

 

あんまり大きいわけではない。

まあ地上では震度すらないような小さな揺れだろうけど…

 

でもこの程度の揺れでも…耐えられないものはある。例えば、落石していた場所とか。

 

 

揺れが収まった直後、後方で何かが崩れる音が響いた。振り向くと、さっき私たちが入ってきていた洞窟が土煙を上げていた。

 

……あ、これやばいやつだ。元々崩れて埋まってたところだったから脆いのには変わりない。

当然、さっきの揺れで崩れるだろうね。

 

 

「………」

 

「……」

 

すぐ近くに風が舞い降りる。突風で色々と軽いものが飛んだりはためいたりする。

 

「ねえ、どうして3人とも黙っちゃうのよ!地震よ‼︎」

 

あ、はたて戻ってきてたんだね。

 

「キスメ…助けて……」

 

それここからキスメまで届くのかな?

 

「……完全に塞がっちゃったみたいですね」

 

通ってる時点でだいぶ脆い感じはしてたんだけど…やっぱりダメだったかあ……残念。

私達が中にいる状態で崩落しなくてよかったと思うべきかタイミング悪いよアホと思うべきか悩ましいところだねえ…どちらにせよ運がないことなんの…

別の出口を探さないとここから出られない?この空間にはまさかの四人だけ?なにこの……いや、私の趣味じゃないや。

っていうか現実逃避してる場合じゃないや。なんか全員パニック状態になってるし…なんでこういう時にそうなっちゃうかなあ…

 

 

「どうにかして出口を探すしかないけど…」

 

これは本格的に困ったね。

異変に気付いて地上から救助部隊が来てくれるのを待つか…そっちの方が確実だけどすぐに来てくれるかなあ?お姉ちゃんなら気づいてくれるかもしれないけど…今お姉ちゃんいないし…すぐにここまでたどり着けないだろうし…

 

「よし、ここをキャンプ地とする!」

 

「こいしが壊れたあああ‼︎」

失礼だね!私はいつも通りだよ!

野営道具は持ってない!持ってても使い方知らない。だからここは他の3人にパラサイトする!

 

「野営道具なんて持ってきてる?」

 

「一応、保存食なら4週間分持ってきてますけど…」

 

それ以外持ってきてないと…

 

「野営?なにそれおいしいの?」

 

ヤマメは…蜘蛛の糸で寝床確保出来るから確かにそうなっちゃうよね。

あれーこれ本格的にやばくない?

 


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