古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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depth.42さとりと河童 時々弾丸

雪溶けの水が地面を潤し山全体を蘇らせるようにしみていく。

一部の水は山に入らずすぐに川を伝い麓まで流れていきそこにいる生命へ生を運んでいく。

 

まだ雪は少し残っているが、蕗の薹が咲き春の訪れを静かに知らせてきてくれている。

 

いまだに天狗たちの警戒は解けていないが山は昔と変わらず平穏を保っている。もちろん無理に変なところに入ったりすれば哨戒の天狗がすっ飛んできますけどね。

 

服のがもぞもぞと動き出す。どうやらお目覚めのようです。

胸のところの服を押しのけて黒い耳と可愛らしい見慣れた顔が出て来る。

 

「おはよう。安眠していたようですね」

 

(ああ…おはよう。いやあ人肌が丁度良いくらいの暖かさだからねえ)

 

だからといって冬の移動の度に人の服の中に入らないで欲しいのですが…擽ったいですし服がずれるので。

 

私の言いたいことが分かったのか器用に頭だけを出した状態のお燐が服の中から飛び出して雪の上に二本足で着地する。

 

「服の中が一番良いんだけどねえ…」

 

一瞬で人化したお燐が私の方を振り向きながらそう呟く。

 

「毛並みが肌に触れるとどうしても擽ったいんですよ」

 

「舐めまわされるよりマシじゃないか」

 

どうして舐めまわされる事態に…ああそうかこいしか。

いやいや、舐めまわされる状況なんてそうそうないですよ。

 

「それで、今回はどうしたんだい?」

 

私が一人納得しているとお燐が私の顔を覗き込みながら訪ねてきた。

 

「言ってませんでしたっけ?」

 

「言ってないよね!」

 

おっとそうでした。私としたことが言い忘れてました。

 

「貴方の新しい武器を調達しに行くのよ」

私の言葉に目を見開くお燐。そんなに驚くことだっただろうか?

 

「それってあたいのですかい?」

 

そうよと短く返事をし、川を伝って奥へ進んで行く。

私の後ろをお燐が人の姿のまま飛んで追いかける。

 

「あたいは…武器あるのですが…」

 

まあそう言いたくなるのもわからなくはない。ですがお燐、あなたの致命的な弱点がこの前露見しましたからね。それを補う為にも…

 

不思議そうな顔してますね。たしかにお燐は速度も速いし攻撃だってそこそこの精度ではある。

じゃあどこに問題があるか…それは火力です。

 

それを指摘するとお燐は何か納得したように気を落としてしまった。

正直お燐は火力不足です。

 

一対一でも火力で相手に圧倒されてしまう事がほとんど。これではまともに戦うことはできない。

唯一の救いは精度の良さで弱点をピンポイント攻撃出来るところだろうか。

 

そんなことをお燐に説明しながら山を登って行くと、一軒の家が見えてくる。

今日は光学迷彩はつけていないようですね。まあ、事前にアポ取ってますから迷彩つけられても困るだけなのですがね。

「やあ久しぶり!」

 

扉の前に立った途端後ろから声がかけられる。

お燐が瞬時に振り返りSG550を声の発生源に向ける。でもそこには何もない。いや、正確には視認することが出来ないだけで確かにそこにいる。

 

「お久しぶりです…姿見せないのですか?」

 

私がそう言うとようやくにとりさんが姿をあらわす。

いつもの姿とは違い今回は雪と同じ白色の博士服のようなものを着ている。ただし博士服とは違い服のあちらこちらにポケットが追加されておりその全てに工具や機械のようなものが入っている。

 

「これの性能を見て見たくてついね」

 

ついねじゃないですよ。お燐が警戒しちゃったじゃないですか。あれ下手してたら撃ってましたよ。

お燐も私たちの会話で相手が敵じゃないことを知ったのか銃を納めてくれた。

 

「まあ別にいいです。この前はお世話になりました」

 

「いいってことよ。それで…その子がお燐かい?私は河城にとり」

 

「そうだよ。あたいは火焔猫燐…よろしくね!」

 

二人の自己紹介が終わったところで本題に入る。一応にとりさんには事前に言ってはいるけど念のために…

 

「ああ、お燐用の奴でしょ。作ってあるけどまずは家の中に入りなよ。ここじゃ寒くてさ」

 

そうでしたね。それじゃあ…入りましょうか。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ一つめ」

 

 

家のような外見からは想像できない工房。その奥にある事務所のような小さな部屋に案内された私達の前ににとりさんが木製の箱を置く。

全体的に横に長いようだ。

その箱の上面が左右に開き

その箱の上面が左右に開きにとりさんが中から銀と赤色が眩しいものを引き出してきた。それは大型のライフル銃の様なものだった。

ストックから銃身までが一直線になったような構造で右側に円盤半球状の水晶、それらに回転する棒のような装置がくっついている。さらに胴体下には青色の液体が入った小さな円柱のパーツが飛び出している。

銃身は先に行くにつれて細くなり先端はラッパのように外側に咲いている。ライフリングはない。

「これは銃のように見えるけど銃じゃないよ。簡単に言うと弾幕を撃ち出すための補助具だね」

 

系統としては妖刀…に近いものでしょうか。お燐に持ってもらったところかなり軽いようだ。素材が金属のように見えるし全体的に大型なので重いと思ったのですが…

 

片手でどこかの魔法少女のように構えるお燐を見てるとなんだか鈍器としても十分使えそうだと思ってしまう。

 

「今現在持っている人の妖力を検知して勝手に調整はしてくれるさ。そこの青いのが赤色に変わったら撃てるよ」

 

そう言ってお燐にレクチャーするにとりさん。心なしかお燐の様子が落ち着かない。どうしたのでしょうか。

そこまで肌が触れているのが苦手なのだろうか?確かに肌同士が触れ合うというのは少々恐ろしいところがある。

 

 

 

 

「二つめはこれだよ」

 

あらかたの説明が終わったのかにとりさんがさっきより小さめの箱を持ってきた。

中から出てきたのは中折れ単装拳銃。さっきの妖術道具とは違い純粋な拳銃それもダブルアクションである。

口径は33…いや45口径だろうか。それでもかなり大型だ。

複雑な装填装置やリボルバーのような装置はなく。あくまでも一発撃つためだけのもの。装飾などもほとんどないけど照準器のアタッチメントがあるので後付けすることはできそうですね。

ライフリングが刻まれていて弾は大型のものを撃ちだせるみたい。

「大型の弾とかを発射する為に作ったんだけどなかなか扱いづらいんだよね。まあそれでも威力は強いし構造も簡単だからさ」

コンテンダーみたいですね。

 

「一応、弾は20ミリが撃ち出せるけど銃身を交換できるようにしてあるから7.65ミリから幅広く対応出来るようにしてある。試しに撃ってみるかい?」

 

完全にコンテンダーじゃないですか。たしかにそんな感じの仕様があるなら面白いと昔こぼした気がしますけど…

それでも20ミリをぶっ放すって…それは構造的に耐え切れるのでしょうか?まあ構造が極端に簡単なのでその分強度を高めているでしょうけど…

 

「良いのですかい?」

 

お燐が銃…というかコンテンダー擬きを弄りながらそう呟く。

 

「いいよいいよ。でも室内ではやめてね。できれば外で」

 

流石に室内じゃダメだった。それもそうですよね。

 

 

 

 

 

 

 

再び外に出て来た私達は家の裏庭…というより実験スペースに近いところに案内された。

正直外見と中身が一致していないように見えますが…にとりさんいわく、認識阻害の結界を張ってるからだそうだ。

光学迷彩より何か凄い気がするのですが…本人曰く別に大したことじゃないらしい。確かに認識阻害はいろんなヒトがやっていましたからね。

 

「それじゃあ…今回は試し撃ちだけどどの弾がいいかな?」

 

「あたいはなんでもいいですけど……強いて言うなら20ミリですかねえ」

 

 

了解と返事が聞こえ、素早くコンテンダーの銃身を交換し始めるにとりさん。

僅か5分後には20ミリが装填された状態の銃ができていた。ちなみにあの20ミリ弾丸はバルカン砲に装填されていたものをそのまま持ってきているらしい。

 

「はい、撃っていいよ」

 

お燐がにとりさんから渡されたそれを近くにあった木に向けて構える。

20ミリ…機関砲クラスの大型銃弾なのですが大丈夫なのでしょうか。特にお燐の腕…

 

私の心配は他所に引金が軽い音を立てて引かれ鉄撃が下される。

 

その瞬間、聴力が一瞬だけ麻痺する。

耳の奥に甲高い音がこだまして頭が割れそう。

少し離れた位置にいる私ですらこれほどの音…ほぼゼロ距離で聞いたお燐は?

それに気づき慌ててお燐の方を見ると、銃を片手に両耳を抑えて悶えていた。

 

「お燐!大丈夫?」

 

「さとり……何か言った?聞こえないんだけど」

涙目のまま私を見て首を傾げる。

ダメだ…これではしばらく耳が使えない。流石に聴力を失うということはないのですが…これは重傷ですね。

 

「あちゃ…流石に減音機をつけるべきだったか」

 

今更ですかい。まあこっちのミスでもありますし……それにしても流石20ミリ。木に大穴開けるどころか…木自体が折れちゃってます。

これを生み出すとてつもない反動すら耐えたお燐も凄いのですけどね。

 

 

 

 

「耳が割れるかと思った…」

 

未だに耳が痛いらしいがだいぶ治まってきたようです。

一応帰ったら耳は検査するつもりです。

「流石にあれはあのままじゃ使えないですね」

 

お燐と一緒に建物の中に戻った私はコンテンダーもどきをにとりさんに戻して減音機をつけてもらっていた。

 

「ごめんよ。改装しているうちにこっちを試していてくれないか?」

 

「…これはナイフですか?」

 

「正確には両刃式短剣。使い道はあると思うよ。ちょっと…天狗の刀より焼きが甘いから折れやすいけど」

 

使えるのだか使えないのだかなんとも言えない。どうして天狗に頼んで刃を作ってもらわなかったのやら…でも使えないわけではないです。刀をお燐に渡し様子を見る。

 

「…軽くて振り回しやすいですね。今の小刀より取り回しは良さそうです」

 

なら、持っていた方が良いですね。何があるか分かりませんからね…

 

「後これね」

 

そう言いながら棚の上から黒く塗られた大型拳銃のようなものを取って来た。

 

見た目は大型拳銃より一回り大きいくらい。

銃身も短く片手で操るのが妥当といったところでしょうか。

弾は銃の上の方に横にして取り付けられた円柱のパーツの中に螺旋状に入っている。空薬莢を出すのは右側となると右利き用。…どれほどの弾が入っているのかはわからないがこのタイプはマガジン交換が大変なやつです。

 

「機関銃…月の設計図から作って見たんだけどどうかな?」

 

「なかなか面白い構造してますね。螺旋マガジンですか…」

 

「それ作るの大変だったんだよ。装填弾数100発なんだけど給弾不良が起こりやすくてさ」

まあ…これは構造が複雑ですからね。

それでもちゃんと撃てるところまで精度を高めたにとりさんは凄いですね。

 

「へえ…機関銃かい?あたいには合わないと思うけどなあ…」

 

「お燐なら使いこなせると思いますよ」

 

接近戦は得意な方ですしこの銃も接近戦を得意としますからね。

 

「それは良かった。ご注文はこれくらいでいいかな?望めば…倉庫の方に眠ってるやつくらいならあるよ」

 

「これ以上は流石に望みませんよ」

 

「そっか、こいしちゃんならそれなりに持って行ってくれそうなんだけどなあ…流石に倉庫がいっぱいになってきたからさ」

 

それは…貴方の開発癖のせいですよね。それに使い道があるのかどうか怪しいものとかそもそも弾幕で事足りる物とか妖術の方が簡単だったりするせいで需要がないだけですから…多分人間受けはするでしょうね。

でも本人は人間に恐れられちゃってるし道具を使って欲しくても人間の方が逃げちゃうようじゃ話にならないとか。

諦めちゃダメだと思うのですが…まあ人間だって妖怪の道具なんて使いたくないでしょうからね。あくまでも妖怪は闇…人間とは対立するものですから…おっと行けない。余計な思考になってしまっていました。

 

 

「それで…いくらするんです?」

 

流石にただで持っていけというわけではない。これは正式にいえば依頼のようなものだし…ある程度の謝礼は考えている。

でもにとりさんは私の言葉に一瞬思考が停止してしまったのか銃を弄る手が止まる。

 

「え?ああ…そうだねえ。これからも私の実験とかに付き合ってくれるのと……」

 

「それと?」

 

「今度、食事…一緒に食べたいなあ」

 

え…それだけですか?なんかこう…能力の解析をさせろとか色々言って来ると思ってたのですが。

 

「全然大丈夫ですよ。でしたら…今夜夕食どうです?」

 

「え⁈いいのかい!」

 

ものすごいキラキラした目で私を見つめて…あの、顔近いです。

「別に構いませんよ。こいしも人数多い方が楽しいと言ってましたし」

 

「やった!」

 

子供みたいにはしゃぐにとりさん。それほど誰かと食事するというのが嬉しかったのでしょう。

 

「あ、そうそう。お燐ちゃんこれもあげるよ」

 

はしゃいでいたにとりさんが思い出したかのようにポケットから紐で結ばれた巾着を取り出す。

 

「なんですかいこれ?」

 

「お守り…かな?」

 

「どうして疑問形なんですか」

 

なんか前回も似たようなものをこいしに与えていた気がするのですが…

 

「だって秋の神さまは今機嫌悪いから…」

 

あの二人からもらったやつですか。

確かに効果があるかどうか…秋なら絶対ありそうなのですけどね。

 

そういえばあの二人って冬場はどこにいるのでしょうか。探してはいるのですが今まで一度も見つけたことないですし。

 

「あの二人って今どこにいるんですか?」

 

「そうだねえ……多分家にでもいるんじゃない?」

 

家…二人の家とか知らないのですが。今度の秋に聞いてみることにしますか。

「ああ、家なら山の裏側だよ」

 

裏側でしたか。確かあっちは天狗の管轄からずれてたりするのであまり行ったことなかったですね。

なるほど…せっかく幻想郷になるのならここらへん一帯はちゃんと見ておくべきですね。

 

「あの…あたいはこれ全部持って帰るんですか?」

 

「そうよ。今はショルダーベルトとか無いから持ち運びが大変でしょうけど…」

 

なかなか酷な事を言っている自覚はある。でもお燐自身が持つものなのだからそこは察して欲しい。

 

「まあ…長銃身の銃だけは持ちますよ」

 

ふとにとりさんの方を振り向くと、白衣のような作業服はいつのまにか壁にかかっていて、いつもの服装…プラス大型リュックの姿になっていた。

それにしてもその手提げは一体なんでしょうか。

 

私の目線に気づいたのか、手提げを隠すように体の後ろに持っていく。

「これは…さとりの家に着いてからのお楽しみで……」

 

仕方ありませんね。気になりはしますが…家まで我慢しましょうか。

 

「それよりも!早くさとりの家に行こう!」

 

「そうですね。そろそろ帰らないと夕食の準備が遅くなっちゃいますし…」

こいしも家で待ってるでしょうからね。早く帰って安心させてあげたいですし。

それにしても…来客となるとなにを作りましょうか。

せっかく紫から大陸のスパイスをもらっていますし…カレーでも作りますかね。でも具材が少し乏しい気がしますが…いやそこはなんとか代用するしかないですね。

後は口に合うかですが……それはいつも通り賭けですね。

 

「さとり?なに考えてるの?」

 

「夕食のことです…折角ですし奮発して初めての物でも作ってみようかと思いましてね」

 

お燐とにとりさんが何故か目を輝かせる。

いきなりどうしたのでしょうか…

心を読むことをやめた私にとっては首をかしげるしかなかった。

 

 

 

 

 

「それでは、食事の用意をしますのでしばしお待ちください」

 

にとりさんを連れて家に戻る。それ以降はお燐ににとりさんの案内を任せ私は台所に向かう。

その私をこいしが後ろからつけて来る。

 

「こいし、手伝ってくれるの?」

 

「んー半々かな」

 

いや、なにと半々なのかさっぱりわからないのだけれど…それでも一応半分だけは手伝ってくれるらしい。じゃあ残りの半分なにをするのやら。

「邪魔はしないでね」

 

「しないよう。あ、でもちょっと作りたいものがあるから火元片方だけ開けてくれる?」

 

作りたいものですが…こいしが改まってなにかを作るとは珍しいですね。まあ火元の一つくらい潰れたところで支障は起きませんし別にいいか。

「別にいいわよ」

 

「やった!」

 

こいしは早速台所をウロウロしながら準備を始める。

さて、私も始めないと…まずルウ作りですね。

当然この時代にカレー粉なんてものありませんから全てスパイスを入れて調整しながらやっていくしかありません。

 

隣で作業を始めたこいしを横目で確認しながらこちらも料理を始めていく。

姉妹揃ってではあるが特に話すことはなく無言。時々取って欲しいものがあっても無言で会話成立。

別に心が読めているわけではない。なんとなくそうだと感じたらそうするだけ。

 

「……お姉ちゃんそれってカレー?」

 

「よくわかりましたね」

 

今までは香辛料不足で作ったことなどなかったのですが…まさか初見でわかるとは…どれほどの知識をこの子は引き継いだのやら。

 

「だって作り方からしてそうだと思った」

 

まあそれ以外でスパイスを混ぜて炒めてなんてなかなかしないですからね。

それにしても換気が間に合わないですね。ちょっとそこの障子を外しちゃいますか。

今度大型の換気装置つけたほうが良いですね。

 

「そういうこいしは…お菓子?」

 

「うん!あ、でもまだ言っちゃダメだよ。秘密ね!」

 

なにを作っているのか一応はわかった。ただいうなと言われればそれまで。別にいうつもりもないから別にいいのですけどね。

 

「別に言わないわよ」

 

さて、ルウもできて来たので今度は具材作りと……

一旦火からルウを作っていた鍋を離して今度は別の鍋を温める。

もちろん水と…元から少ない芋も入れてしまう。

 

冬の合間保存してあったものと…なるべく家の中で育てていたものを使えばなんとか形にはなりそうですね。

 

 

 

 

 

 

よし、大体は出来ました。後は味ですけど……

「こいし、ちょっと味見してみて」

 

小皿に少しだけ掬ってこいしに渡す。ちなみに良いよとは言われてないが…多分大丈夫なはずである。

 

「ん?なになに…毒味?」

 

失礼な…毒など入れてません。

 

「冗談だよ。うん、美味しいんじゃないかな?」

 

こいしから合格のサインが来る。こいしが良いと言うのなら大丈夫でしょう。時々変なこと言いますけどこういうことろで嘘は言いませんからね。

 

「それじゃあご飯を炊くとしましょうか」

 

こいしが手伝ってくれてればよかったのですがこいしも手が離せないようですから諦めましょう。

 

あ…ご飯を炊く前に漬物くらいは持って行ってあげましょう。流石に長々待たせちゃって悪いですし…確か床下に糠漬けがあったはずですから…

 

「カレーなのに糠漬けって…」

 

だ…大丈夫よ。多分きゅうりだし大丈夫……だよね。

 

小皿に盛り付け火元を再度確認してからにとりさん達の待つ部屋に持っていく。

「あの…よければ先食べていてください」

 

「お、きゅうりじゃん。へえ…漬物かな?」

 

ええ、夏に貴方から貰ったやつですので少なくともきゅうり自体は貴方好みのはずですよ。

 

「あたい…その匂い無理」

 

「ごめんねお燐」

そういえばお燐はこの匂いがダメでしたね。気を使ってなるべく出さないようにしてたのですがすっかり忘れてました。

 

「ええ…美味しそうなのになあ」

 

「まあ漬物ですから…」

 

「好き嫌いしてると大きく…いやごめん何でもない」

 

「今どこ見て言いました⁉︎」

 

「え?もちろん……」

 

そういえばお燐って結構スタイルいいですよね。

にとりさんもそうですけど…

 

「私は料理に戻りますのでもう少し待っててくださいね」

 

なにか怪しげな手の動かし方をしてお燐を壁まで追い詰めようとしているにとりさんを横目に部屋をでる。

 

奥で猫の鳴き声がしてましたけど気にしない事にする。

 

「なんか叫び声が聞こえたけど…」

 

「気にしちゃダメよこいし。彼女、途中で少しだけだけどお酒買って呑んでたのよ。だから仕方ないわ」

 

 

 

そんなこんなでやっと料理ができた。ちなみにこいしの方も完成したらしく途中から私の手伝いをしてくれた。ほんと天使です。

 

「おまたせしました」

 

今この場にいる全員分を乗せてこいしと一緒に運ぶ。

両者ともに両手がふさがってしまっているものの内側からお燐が襖を開けてくれる。

 

「へえ…これがカレー?結構スパイスが効いてるしかなりとろみがあるけど」

 

「ええ、温かいうちにどうぞ」

 

円卓の上にお皿を素早く下ろしていく。

あ、こいし…スタンバイ早いわよ。もう少し落ち着いて…

あ、水は各自で取って行ってくださいね。

 

揃ったみたいですね…それじゃあ行きましょうか。

 

「「いただきます」」

 

 

 

「熱っ!熱い熱い!」

 

一気に口に入れたせいでお燐が悶え始めた。

 

「お燐…気をつけて…水は持って来てるから…」

 

水すら用意せず食べ始めてしまったお燐のために水用意。その瞬間奪い取られるようにして手から水の入った湯呑みが奪い取られる。

 

「お燐大丈夫?」

 

「死ぬかと思いました…」

 

猫舌には地獄だったかしら?

お燐の分はもう少し冷ましてから持ってくるべきでしたね。

 

そんなお燐を尻目に私も食べ始める。

少しだけ辛かったですね……もう少し甘めでもよかったでしょうか。

 

「スパイスが効いてて辛いね…でも美味しい」

 

「それは良かったです」

 

最初は少しだけ不安そうでしたけど…気に入ってもらえたようです。

もう少し時間を置けばコクが出たんですけどあまり待たせてしまっても失礼でしたから…

「それに寒い時期だしちょうどいいかも」

 

「ふふふ、それをいうなら鍋の方がいいんじゃないかしら?」

 

「え?これ鍋じゃないのかい?」

 

「鍋に近いけど鍋とは違うかなあ…一応スパイスで野菜とかお肉とかを煮込んだものだから鍋って括りには入るけど…お姉ちゃんはどっち?」

 

「どっちと言われても…ものによるんじゃないかしら?」

 

少なくとも私はカレーは鍋の一種だしスープカレーとかになるとスープ系だし、どちらも鍋料理であることに代わりはないのですけどね。あ…でもカレーだと鍋じゃなくてフライパンでも作れるのか…じゃあどうなるのでしょうか。

 

「とりあえず鍋で作ったので鍋料理で」

 

「適当だね」

 

案外そんなもんですよ?

後、にとりさん…頬にカレー付いてますよ。

ほら取ってあげるのでその場を動かないでくださいね。動いたらお燐、撃っていいわよ。

 

いやいや、冗談ですって。

 

「冗談に聞こえなかったんだけどなあ」

 

だって冗談言う時は冗談って分からないように言わないといけないんじゃないんですか?

なんだか分かり会えませんね。

 

 

 

 

「あ、そろそろ出て来た方がいいと思いますよ。隙間の紫」

 

食事も終わりお皿を一旦片付けひと段落したタイミングで、そう背後の壁に向かって声をかける。すると、私の目線の先の場所に真っ黒な亀裂が生まれる。亀裂の両端は綺麗にリボンは結んである。そして中を埋め尽くす無数の眼。

 

そこから金髪の女性……寝起きだからなのか普段のナイトキャップは被っておらず服装も白色の和服を一枚着ているだけ。それでいて普段より腰回りが強く締め付けられているからか胸周りが強調されている。

一部のヒトは嫉妬しそうですね。

あ、私じゃなくてこいしとかですよ。

 

「あら、バレてた?」

 

「だって空間に亀裂が起こってましたから…」

 

それにそろそろ貴方が起きる時期ですからね。なんとなくですが分かりますよ。

 

 

「げ…隙間妖怪」

 

「なによ。やましいことでもあるの?河城にとり」

 

紫…そんなに強く威圧しなくても……まあ今は賢者としての顔なのはわかりますけど…

 

「まあいいわ。私達もご一緒しましょうかしら。ちょっと大事な話もあるわけだし」

 

私達…その言葉に一瞬思考が引っかかる。

だが、紫に続いて隙間からこちらを覗く面々を見つけて納得する。

「ふむ…大事な話とは紫の後ろにいる天魔さんと四季映姫さん込みの話で?」

 

「ええ、そうよ。ダメかしら?」

 

「……大丈夫ですよ」

 

別に話すだけならいいのですが料理が足りるかどうか…多めに作ってはいましたけどギリギリですかね。

 

「それじゃあお邪魔するわね」

改めてそう言った紫が隙間から飛び出す。

「それじゃあお邪魔します」

 

「よっと!」

それに続いて四季映姫さん、天魔さんが隙間から飛び出す。全員準備していたのか靴は脱いでいる。

これで靴脱いでなかったらその場で靴だけ撃たれてたでしょうね…私の視線の横で機関銃を構えるお燐がですけど。

 

「お燐、落ち着いて」

 

「へえ…ここがさとりの家なのですね」

 

さらにもう一人の声が聞こえる。妖怪ではない。でも人間からは逸脱した力を持つ少女。

 

「廻霊さんまで登場ですか…これはこれは」

 

かなり大事な話なのでしょうね。ふむ…私を混ぜるまでもないようななんだか場違いな気になるのですが…

そんなことを思って身構えていたら映姫さんが早速にとりさんに説教をし始めた。

元々の性格もありますけど閻魔になってから強くなってるのでしょうかね。

地獄に彼女が行ってから一度もあったことないので分かりませんけど噂では説教する地獄からの使者がなんとか…

 

「あの、紫…かなり重要なことのようですけどこんなところで話してもいいんですか?」

 

「ええ、問題はないわ。それにこの家の外と中の境界をいじらせてもらったから音は漏れないし視認することもできないわよ」

 

あ…無策というわけではないのですね。

やはりこういう時は能力を使いたくなりますけど…能力を使うのに恐怖している私ですからそんな簡単に使えるわけではない。

自分の能力に恐怖してる妖怪って妖怪失格な気がしますけど…

 

おっと今はそんなことどうでもいいことでした。

「それじゃあ…全員カレー食べます?」

 

「押しかけた身で申し訳ないのですがお願いします」

 

「あ、俺もいる!」

 

「それじゃあ私も…」

 

えっと巫女さんは…

 

「言わなくても分かるでしょ?もう二日も食べてないのです」

 

ちょっと!どうしてそんな貧乏な生活してるのですか!っていうかだからさっきから静かに過ごしてたのですか⁈

 

冬の備蓄くらいして欲しかった…あ、でもあの閑古鳥が鳴く神社じゃ無理か。

 

「だって…娘に食べさせたら私の分ないのですよ」

 

「あれ、もう産んでたんですか?」

 

「違うのです!この前狐が連れてきた子を養子で引き取ったのですよ!」

 

なるほどそういうことでしたか。あの子を養子で引き取るとは…でもどうして弟子にしなかったのでしょうね。

まあ、廻霊さんの考えることですから何かあるんでしょうね。

 

 

 

「あ、そろそろあれが出来てたかな」

 

話を遮るようにこいしが台所の方に駆け出す。話と一緒に空気すら壊していった気がしますが気にしない気にしない。

 

みんながしばらく無言になってしまってますけど私はどうしようもないです。

 

「じゃじゃーん!プリンだよ!」

 

悪びれもせず戻ってきたこいし。でもその手にあるカップを見て何人かの目の色が変わった。

 

「これはお姉ちゃんの分ね。それで…数が足りないんだけどどうしようかな」

 

こいしがもって来てるやつで全てらしい。その言葉に後から来た妖怪さん達が悲しい顔をする。

 

「私は確定で…にとりさんも確定で…お燐は…「欲しいです」そっか、じゃあ遅れ組は無しね」

 

さらりと死刑宣告のようなことを言ってのける。

残酷過ぎる…まあ自業自得ですけど。

天魔さんも紫も絶望のどん底みたいな顔しちゃってる。

 

あの…プリンでしたら今度作りますし必要があるなら作り方も教えますから…

 

「……なんで悲しんでいるのです?」

 

廻霊さんだけ状況を理解できず固まってしまっている。

一応軽く説明だけしておく。

初めは何のことだという表情だったけど途中から私も欲しいみたいな表情が出てくる。

 

あ?でもあげませんからね。遅れたあなたたちが悪いんですからね。

遅れたというか…覗き見してたって言った方が正確ですけど。

 

あ…泣き出しそう…天魔さんは…すでに泣いてるし。

 

「ま…まあ……カレーならまだありますから…」

急に罪悪感が出て来てしまい逃げるように部屋から出る。

カレーで機嫌を直してくれるといいんですけど……

 

 

 

カレーを用意している合間なにかバタンバタンと妙に煩かった。

なにを全員で騒いでいるのでしょうか?全く…近所迷惑ですよ。

 

「あ…お姉ちゃん」

 

お盆に料理を乗せて運んでいると廊下の角でこちらをチラチラとみるこいしの顔が見える。一体何をしているのでしょうか。

 

「こいし?廊下でどうしたの?」

 

「えっと……その、なんでもない」

 

「……なにがあったの?」

 

挙動が不審すぎる。何かを隠しているのは明らかです。一体何をしでかしたのでしょうか。

 

「なんでもないよ!」

 

私の追及から逃げ出したこいしを追いかけ部屋に行く。

 

「あ…さとり…早かったわね」

 

扉の近くにいた廻霊さんが私が入ってきたのに気づいた。

だけどなんだか挙動不審。

部屋にいる面々を見てみるが…みんなして私から目を逸らす。

一体どうしたのでしょうか?

ってこれ隠す気ないですよね?絶対何かやらかしましたよね。

 

「あの…」

 

「……あ、言わなくていいです。今から当ててみせますので」

 

何か言おうとした天魔さんの言葉を止める。

せっかくですしちょっと頭の体操になにを隠しているのか当てて見ましょうか。あまり変わったところはなさそうですけど…

 

それにしても全員静かになっちゃってますねえ。

それと閻魔なのになに変なことに足突っ込んでるんですか?

それほどまでに大事…いや突っ込まざるをえなかったこと…

そのまま思考と観察を繰り返すこと5分。

やっぱり足りない。

 

ああ…そういえばあれがなかったんですね。

 

「もしかして…紫と天魔さん…後廻霊さん私のプリン食べました?」

 

「えっと……はい」

 

なんだそんなことでしたか。別にあんな挙動不審にならなくても良かったのに…なにがあったのかと勘ぐってしまったじゃないですか。

 

「蓋までつけて隠しておいたのに…」

 

「隠蔽するのは良かったのですが…目線に流されてますよ。天魔さんは私がプリンに目線がいったときだけ瞬きを3回してますから」

 

「それだけで分かるのかしら?」

 

「紫は…口元を扇子で隠すのは良いですけどその分手持ちぶたさの手をどうにかしてください。プリンに意識を動かした途端中指をしまうのはクセですか?」

 

「まさかそこまで見られてたとは…」

 

だって全員わかりやすいんですもん。

もう少し態度に出さない方がいいと思いますよ?

少なくとも挙動不審なせいで何かを隠していたという事実すらバレてしまってますからね。

ほとんどこいしですけどね。

 

「多分映姫さんは口封じで食べさせられた…ですよね?」

 

「そ…そうです」

 

この人だけ凄い気まずそうな顔してましたからね。絶対これ巻き込まれたなというのは分かってました。

 

「お姉ちゃんごめんね。止められなかった」

 

「気にしてないからいいわよ」

 

謝ってくる妹の頭を撫でて慰める。

 

あ…言っておきますけど泣かせたらギルティですからね。今回は泣かなかったので許しますけど…

 

 

 

こいし泣かせたら許しませんからね。

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