古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.42隙間から見た覚もしくはさとり

「それで、今回はどこに連れて行くつもりですか?」

 

隙間を通過する最中は静かだったのに出てからがこれだ。

きっと私が答えることなど薄々分かっているのでしょうけど…

 

「そのうちわかるわよ」

軽い悪戯で答えをはぐらかす。こんな感情になったのはいつぶりだろうか?

 

「教えてくれたっていいじゃないですか」

 

抑揚のない声が後ろから私のことをチクチク刺す。きっと振り返れば無表情でジト目を向けてくるのだろう。

 

「だったら心を読んだら?」

 

「YADA!」

 

全力で否定。何処までも自らの力を否定し続けるのだろうか。それでいて正気を保っていられるのは最早奇跡に近い。

 

協力関係を持つ前から監視していて、わかってはいたことであるが改めて…

遠慮というものを知らない物腰、大妖怪だとか賢者だとかの肩書きに一切惑わされず誰にでも中立的な態度をとる。ただ、肩書きに込められたその強さを知らないだけかと思ったもののそう言うわけではない。むしろ知っていて、あえて変えない。不思議だった。

 

いいえ、不思議と言ったら失礼に当たるわね。

 

圧倒的に強い相手であってもそれに臆することなく相手の本質を見抜いて関係を持って行く。そしてそれを利用しようと言ってきた私に対しても嫌がるどころか肯定してきた。

その言葉が本心から出ていたのは間違いない。それがただ、純粋な理解が嬉しかった。

 

……今思えば、こう言う関係を築く事が出来るこの子に私は惹かれたのでしょうね。

 

 

 

 

 

鬼の四天王や天狗と仲がいい妖怪がいると聞いて興味が湧いたのは偶然だった。でも興味はあったが欲しいとまでは思わなかった。まあどうせ使い魔みたいな感じなのだろうと思いそこまで期待はしていなかったってのもあるでしょうけど…むしろその考えが根底にあったせいで彼女を見誤っていた。

 

すぐに誤りに気づけたのは、噂好きの妖怪が近くにいたから。その妖怪は私の知らないところで人間に退治されていた。別に深く関わりがあったわけでもないので別に関係ないのだけれど…

まあそんなどうでもいいことは置いておく。

 

噂を聞けば聞くほど古明地さとりと言う妖怪がよく分からなくなっていった。

結局好奇心に負けてこの子を観察することにしてみたのが一ヶ月ほど前。

 

最初の印象は…妖怪らしくない。

あの子がなんの種族かは薄々分かっていた。ただ、それであれば誰もいない静かなところで過ごしたいと思うのが普通…少なくとも私が出会ったことのある覚妖怪はそうであった。

だが彼女は自ら妖怪の輪に入っていた。それは、たとえ正体を隠していながらであっても異常なことである。

 

何か企んでいるのかと疑いもしたがそう言う気配は一切ない。ただ純粋に、仲良くしてたいだけだった。

 

もちろん、その後もしばらく傍観し続けた。

 

わかったことといえばこの子の交友関係だけだったけどそれでも普通の妖怪にしては異常な広がりだ。

この子なら私の夢も理解してくれるのではないか。別に理解してくれなくても式にしてしまえばかなり有利に事を進められる。そう思ってさとりの家に押しかけたのが始まりだった。

 

 

 

 

まさか数日で……ここまでスムーズに事が運ぶとは…

振り返り、少し後ろを歩いてくるさとりを見る。

無表情でフードを深くかぶっているから少し不審な感じがするけれど流石に見慣れてくると見ためにそぐわない大人びた雰囲気がミスマッチして可愛さを引き立てる。

 

それにしてもなんだか浮かない表情ね。何かあったのかしら?

 

「初めてきた感じがしないって顔してるわね」

 

「…いいえ、初めてきましたよ」

 

素っ気ない返事が返ってくる。それでも一瞬動揺したのか声が裏返ってた。やはりここにきたことあるのね。なら、彼女のことわかるかしら。

 

「そうね。友人を紹介するわ」

 

いつのまにかあたりは薄暗くなっており、道の両側に置かれた灯篭の明かりがほのかに周囲を照らしている。

 

そろそろ階段が見えてくる。ここまできて少しだけ悪戯心が湧いてきた。危なくなったら助けにはいればいいし…そうね、やってみましょう。

 

思い立ったら直ぐに行動に移る。そうでもしないともうすぐあの剣士が来てしまう。

 

目の前に隙間を開き中にとびうつる。

「それじゃあ、私は先に行ってるからのんびり登ってらっしゃい」

 

「……え?ちょっと待っt」

驚いた返事をするがそれを聴き終わる前に直ぐに隙間を閉じる。

 

同時に別の隙間を二つ開く。

 

一つは和室、もう一つは……

 

「ふふ、危なくなったら助けてあげるから頑張りなさい」

 

そう言って空間から飛び出る。

私の訪問を予期していたのか、私が部屋に入るなりすぐに隣の襖が開いた。

「久しぶりね」

 

「ええ、久しぶりです」

 

髪は黒みがかった桜色のセミショート。服装は髪より明るい桜柄の着物に身を包んだ女性がゆっくりと入ってくる。

 

「それで、面白い子を連れてきたみたいだけど?どこに置いてきちゃったの?」

 

「あら、それまでわかっちゃうの?」

 

「だって見てましたもの」

 

どこで見ていたのやら…あなた、消えたりできるようになったのかしら?

 

そんな疑問が喉から出かかったがそれはそれで一旦置いておきましょう。手元に開いた隙間から、さとりの様子を観察する。

 

「あら?聞いてこないの?」

 

「聞いて欲しかったの?」

 

「もちろんよ!」

いやいや、そんな鼻息荒くして言われても…

あ、そろそろ接触の時間かしら。

 

「あら?新入りの下僕で遊んでるの?」

私の手元を覗き込むように体を寄せてくる。

ちょっと、今隙間を広げるから待ちなさいって…

 

「違うわよ。ただの友達よ」

 

「……へえ、貴方が私以外の友達を作るなんて」

 

なんかすごいバカにされた気分ね。って言うか私が睨んだ途端になにクスクス笑ってるのよ。凄くイラつくんですけど…

 

「張り倒されたいの?」

 

「そう言う展開はご法度よ」

 

「どう言う展開よ‼︎」

 

ああ、調子狂うわ。

 

おっといけない。さとりの様子見ないと。

えーっと…あ、早速何か話してるわね。

 

《……》

 

《………》

 

 

って、二人とも声が小さいから聞き取りづらいじゃないの…

もうちょっと近づけてっと。さすがにこれ以上は気づかれちゃうから無理ね。

《……》

 

ダメね。声が聞こえないわ。音の境目を弄って聞こえるようにしても良いのだけど面倒なのよね。それに苦労して繋げてもわざわざ戻さないといけないし…

 

「えーっと…《貴様が誰だとは問わない。だがここを通るからには、私と一戦交えてからでも良いのではないか?》まあ、妖忌らしいわね」

 

え?なに口パクわかるの?何それ聞いてないんですけど、そう言うのは早く言ってほしいわ。

 

「あなたのお友達さんね…《我が名はさとり。ただの妖怪にして紫の協力者…》」

 

「いやいや!絶対そんなこと言ってない!」

 

「わかったわよ。真面目に訳してあげるから紫も熱くならないの」

 

誰のせいよ!誰の!

 

「続けるわね。《どうしても通してくれないのですか?》《真実は眼では見えない、耳では聞こえない、真実は斬って知るものだ》」

 

ああ、完全にスイッチ入っちゃってるわね。あれはもう…どうしようもないわ。まあ、危なくなったら止めましょう。

 

「ねえ紫、本当にこのまま放っておいていいの?」

 

「面白そうだからいいじゃない」

 

それに貴方も面白がって見てるじゃないの。今更やめるなんて言えないわよ。

 

「えーっと、《じゃあ適当に斬られたら終わりですか?》《斬って死ななければ問題ない》」

 

面白くなってきたわ。さて、貴方はどうするのかしら?さとり。

 

って言うか斬って死ななければって…妖忌もまた随分と出たわね。まあ普通の人がここに来ることは基本できないからなんでしょうけど。

 

一陣の風が吹き渡り妖忌の手元が霞みがかったようにぶれる。

普通の人には何が起こったのかすらわからないだろう。実際、隣では妖忌の姿を追いかけるのを諦めた人がさとりの方だけを見つめている。

だがそのさとりも妖忌に少しだけ遅れたものの霞みがかったようにぶれる。

「あら、あの子妖怪だったの」

 

「隠すのが上手でしょ」

 

隣で純粋に驚いている彼女にちょっとだけ自慢げに話す。

さとりの隠蔽能力は眼を見張るものがある。まあ、妖忌は雰囲気でわかっていたでしょうけど…

それでも普通にしていれば並みの妖怪退治屋ですら気づかないでしょうね。

一瞬、二人の真ん中で火花が散る。

そのとたん、今度は妖忌の姿が完全に見えなくなる。

どうやら本気で斬りかかるようだ。動体視力をあげて妖忌を追尾する。

 

「…《あの一撃を守りきるとは…》えーっとさとりの方は…《我が爆r…》」

 

「嘘言わないの」

 

軽く頭を扇子で叩く。軽い音がして、扇子が反動で跳ね上がる。

 

「いったぁい!」

 

「大げさよ」

 

そんなことをしているとさとりの肩辺りで鮮血が舞った。

少し遅れて肉が引き裂かれる音と、妖忌が刀を鞘に収めた音が響き渡る。

石段と灯篭が赤く染まって行く。

流石妖忌といったところだろうか。さとりの切り口はほぼ真っ直ぐに…まるでガラス板のような滑らかさを持って斬られていた。

「ちょっと⁉︎連れの子斬られてるけど!」

 

「ああ、そうね。あれくらいなら大丈夫よ」

 

隣で大声を出されても耳に痛いわ。でもここまで困惑してる彼女を見れたのは初めてね。一瞬だけ優越感が湧く。

ぼとりと音がして、意識を隙間に戻す。

 

見れば、斬られた左肩から腕にかけてを捨てたようだ。いとも簡単にそうやって切り捨てて行く…正気なのかどうかこの際置いておくとしましょう。隣でおかしいんじゃないのとか言ってるけど気にしない。

妖怪全部がああいった感じだとは言わないけど実際あんな感じの子が多いのは確かね。

 

流石の妖忌も斬られた腕を棄てるなんて事したさとりの意図が読めず困惑してる。

まああの子のことだから意図なんて無いのかもしれない。あったとしてもどうしようもないことか、理解できないことか。

 

「どちらにせよ妖忌は戦意喪失みたいね」

 

「え、ええ。一回斬れたからだと思うけれど…」

 

多分、さとりの行動がよく分からなくてここで斬り捨てるのはもったいないと思ったのね。

それすらもしかしたらさとりは読んでいたのかしら…だとしたら本当に面白いわ。

肉を斬らせて骨を絶つ。を実際にやっちゃうなんて…

 

二人の前に隙間を開き二人を手招きする。

本来ならこのまま登ってきてほしかったけど怪我人にそれを強要するほど私は鬼ではないわ。

 

「……見ていたな」

 

「悪かったかしら?」

 

なんで妖忌に睨まれるのか分からない。普通睨んでくるならさとりの方でしょうに。当の本人はと言えば……

 

「服の替えってありますよね…」

困惑した目でこっちを見ていた。

確かに言いたいことではあるけど流石にずれすぎでしょ。

 

もっと他に言うべきこととかあるじゃないの。それとも、元々こうなることを分かっていて私を責めてない?

 

「……?紫を責める理由なんてないじゃないですか」

 

「あら?今心読んだ?」

 

「ええ、だって眼、出してますから」

 

そう言われて腕のあったところに目線をやると、確かに赤色の球体がこっちを見つめていた。

ただ、それよりも目を引いたのが傷口だった。

 

「もう回復が始まっているのね…」

 

刀により綺麗に斬られた断面は既に新しい組織が生まれ伸び始めていた。

 

「ほう…流石妖怪と言ったところだな」

 

「半霊さんほどではないですよ」

 

そう言ってさとりは苦笑いする。普段から無表情だからなのかぎこちない笑いになってしまっているがむしろ微笑ましい。

 

「ははは‼︎妖忌で良い」

 

なんかこの二人仲が良くなってないかしら?

別に良いのだけれど…

 

「行くわよさとり」

 

なかなか隙間の方に来てくれないので少しだけ急かす。

 

「再生が終わるまで待ってくださいよ。後服用意してください」

 

そう言いながらその場で上着を脱ぎ始めた。

 

こらこら、いくら下に服を着ているからって…こんなところで着替えなんて始めちゃダメよ。血生臭いのなんて誰も気にしないんだから

 

「ねえ、妖忌。どこへ行くのかしら?」

 

「これはこれは紫殿。このような場所に男は不要でありますゆえ、お暇させてもらいます」

 

そう言い残して走り去ってしまう。

なんだったのかしら?時々妖忌の行動がよくわからない。彼女に聞いて見てもやはり、時々ああなってしまうことがあるのだとか。不思議ね…

 

「……色々思うところがあるのですよ」

 

「ふうん……やっぱり半霊はわからないものね」

 

さて、いい加減そんなところに突っ立ってるのもあれよ。早く入るわよ。

無事だったもう片方の手を掴み強引に隙間に引き込む。

一瞬の浮遊感。さとりが通過する僅か数秒だけ引っ張っている感覚が消え去り、再び戻る。

 

 

「あら、やっと連れてきたのね」

 

部屋に戻るなり早速さとりに近寄っていく。

それを片手で必死に追い払おうとするさとりが妙に可笑しい。

 

そんなに近づかれたくないのかしら?

 

 

「やめてください。幽々子さん。色々見えちゃいますから!」

 

あら?この子……幽々子のこと知っていたのかしら?波長的に能力を施行した感じはしなかったしそもそもサードアイは服で上手く隠れちゃってて見えないはず…

 

ならなんでこの子は幽々子の事を?

私の考えは読めないように境界をいじっているのだけれど…まさか妖忌から?

 

「あら、私のこと知ってたの?」

 

「ええ、だって西行さんの娘でしょ。知らない方がおかしいですよ。後いい加減離して…」

 

西行の事を知っているのかしら?でもそこまであの人は有名じゃないはずよ。

一体この子は…どうして西行が有名人であるかのように話すのかしら?

 

「ならよかったわ。早速だけどちょっと隣の部屋に行かない?着替えさせてあげるからさ」

 

「やめてくださいって!後で水饅頭作りますから勘弁してください」

 

水饅頭?なんか聞きなれないものね。食べ物みたいだけれど…

と言うかどうして幽々子が食べ物好きな事を知っているのだろう…いくらあの場で心を読んでも妖忌が食事のことを考えていたはずはない。覚妖怪の力は相手通常状態であれば考えていることしか読み取れないはずだ。あの時妖忌に対して能力をフルで使った形跡はない……謎ね。

 

「水饅頭?何かしらそれ」

 

それでも彼女はブレない。私があれこれ考えているのがアホらしくなってくるわ。

 

「そうですね……饅頭です」

 

「そりゃわかるわよ」

 

まあ悪気とかこの世を壊そうとしているわけではないし、根は優しいのでしょうから大丈夫ね。いざとなれば、私が手をかける前に妹さん達がどうにかするでしょうしね。

そうと決まれば、私はさとりをちゃんと見ていかないといけないわね。

だって、折角出来た妖怪の友達なのですものね。

 

 

 

 

「本当に行くのかい?」

 

「うん!行ってくる!」

 

心配しているあたいとは反対に元気な声が戻ってくる。

確かに椛さんとはたてが随伴するから大丈夫なはずなんだけど……

 

「やっぱあたいも行った方がいいんじゃ…」

 

「お燐まで来ちゃったらお姉ちゃんどうするのさ」

 

「いや、そうだけど…」

 

だとしてもやっぱり不安だわ。主にこいしの行動が原因で起きそうなトラブルが…

 

「大丈夫だって!すぐに帰ってくるから」

 

そう言って親指を立ててくるこいし。

 

「フラグ立っちゃってるから‼︎」

 

「気にしない気にしない」

 

少しは気にしてよ!こいしに何かあったらさとりが大変なことになっちゃうんだから…

でもまあ、少しはこいしの事も信じてみるとしますか!


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