古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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妖精を視るには妖精の目が必要だ。


depth.47さとりは無意識に世話焼きしてしまう

春の風が桜の花びらを運んでくる。

部屋に入った薄ピンクの花弁が伸ばしていた腕の上に降りる。

 

そういえばそんな季節だったっけと思う。最近地底と地上の往復が多くて季節感が狂ってしまっている。

 

地底との相互不可侵条約は杞憂に終わった。おかげか肩の荷が軽くなった。

まだやらなければならないことはたくさんあるけど季節を気にする余裕は出てきたようだ。

 

鴉の名前を決めようと思い考えに更けてたらいつのまにか昼頃になってたようですね。

まあ今日は珍しく私以外家にいないから良いんですけど…

 

窓から外を見る。隣の家の庭にある桜の木が一面桜色に染まっている。さっきの花弁はここからきたのだろう。

 

「……平穏ですね」

 

そんな独り言も聞く人がいなければただの音。

 

どれくらいそうして桜を見ていただろうか…

少なくとも桜餅とお茶が手元にあるということは10分ほど…家でお花見なんてと思うがまあいいんじゃないかなと思う。

 

そんな事をしていたら窓から身を乗り出す私の体に影がさす。

頭をあげると二人の妖精…いや、奥にもう一人。

 

ひとりは大妖精、もう一人は…白生地に赤い線の入ったワンピース状の服にナイトキャップのような帽子。その背中には三日月を逆さまにしたような形の透明な羽。

記憶を探ると該当する妖精あり。春を伝える妖精リリー・ホワイトですね。

 

奥にいるのは…見えないしわからない。まあ悪いやつではないのだろう。

 

「お久しぶりです」

 

「ご無沙汰してます」

 

「大ちゃん!そいつに用があったのかー?」

 

大妖精の後ろ。丁度、肩のところから青い髪がのぞく。

一瞬、周辺に春らしからぬ冷気が降りてきて、リリーが思わず私の方に逃げてくる。

寒い?と聞いてみるが喋れないのか首を振るだけ。

 

「チルノちゃん…あまり力を出しちゃダメだって」

 

チルノと呼ばれた少女が悪態っぽいものを吐きながら力を納めてくれたようだ。

チルノと言うとあの氷精の……

 

「お前が大ちゃんの言っていたさとりか?」

 

あれ…なんか想像していたのより大人な姿なんですけど。

 

記憶にあるチルノは大ちゃんと同じくらいの子供っぽい姿のはずだ。だが目の前にいるのは服装や見た目は似ているけど…髪の毛は腰まで伸びたロング。身長も160センチあろうか。かなり大きい。背中に生えた翼は一番肩に近い二枚が腕の長さ程はあろうかと言うほど長くなっている。

 

「おーい?無視ですか?」

 

「あ…いえ、大ちゃんがなんて言ってるのか分かりませんがさとりです」

 

「ふうん…」

少し冷たい目線が体を舐め回すように私を包み込む。

いい感情を持っていないのだろうか…まあ覚妖怪に初対面からいい感情持つひとなんていないか。

そう思いチルノへ向けていた目線を落とす。

 

「お前、いい奴そうだな!気に入った、あたいの部下になっていいぞ!」

 

だが帰ってきた声は意外なものだった。あらら?なんか気に入られたようですけど…ってリリーさんはどこに行ったんでしょうか?いつの間にか居なくなってるんですけど…

 

「チルノちゃん!……なんかすいません」

 

「気にしてないですからいいですよ。それで、今日はどう言った要件で?」

 

「あ、リリーずるいぞ負ぶってもらってる」

 

大ちゃんの声を遮るかのようにチルノの声。思わず私の肩に手を回す。重さを感じなかったもののそこには誰かの小さな手。そして白衣服の袖…

 

ああ、後ろにいたのですね。

重さを感じなかったので気付きませんでした。

それにしてもチルノも見た目に反して精神は子供なんですね。ただ体に引っ張られてるところがありますけど…

 

なんて言ってるのか分かりませんが……どうやらリリーが拒否したらしくチルノがあたいもと言いながら私の首に手を回してきた。

ひんやりした腕が体を包み込む。だけどチルノ程の体格差だとおんぶも抱っこも出来るはずがない。むしろ私がされる側だろう。

 

勿論チルノの体は運動エネルギーが伴っているわけで、なんの防御姿勢すらしていない私はそのまま部屋の奥に倒れこむ。

 

「もう、ふたりとも!」

 

これではいつまでも本題に入れないと思ったのか大ちゃんが片腕でチルノとリリーを部屋の外に放り投げる。

 

「すいません。悪気はないんです」

 

「気にしてませんよ。むしろ妖精らしくて良いじゃないですか」

 

あははと苦笑する大ちゃん。彼女ももう少し素直になってもいいと思うのですが……まあ大ちゃんがそうしていたいというのであればなにも言いません。

 

そうしていると、外に放り出された二人が窓脇に置いてある桜餅に目をつけたようだ。

やはり気になるのだろう…

 

「ああ、それ食べちゃっていいですよ」

 

「ほんと⁉︎お前いいやつだな!」

 

二人の顔が花開く。

言葉にはしないがリリーも喜んでいるようだ。

 

「さて、大ちゃんの用は……義腕の事ですよね」

 

「そうです。腕がないとやっぱりきついので…」

 

彼女が失ったのは利き腕の方だ。本当はもっと早く対処したかったのですが色々と立て込んでしまっていて先延ばしにしてしまっていましたね。

 

ただ、彼女の義腕はそう簡単にはいと作れるようなものではない。

 

大妖精は名の通り妖精であり妖精とは自然やそれらに準するものの化身。人工物とはすこぶる相性が悪い。

その上彼女の能力は悪戯する程度の能力。これは文字通りカラクリとかの人工物に悪戯をするもの。触れていないと発動しないらしいですが触れていればほぼ確実に発動する。

どのような現象が起こるかは様々です。

例えば時計を持っていたとすれば、歯車が悪戯されて破損したりゼンマイが壊れたりパーツが外れたり螺子が外れたりと致命的なものばかり。

下手に義腕を作ろうものならこの能力の影響ですぐに壊れてしまうだろう。

正直一回冥界に行って魂をしっかりと直してもらった方がいいと思うのですが、魂の修復は40年ほどかかるらしい。大変な話だ。

 

「……これから河童のところに行って交渉してきます」

 

「あ、私もついていきます」

 

「ん?だひちゃんどほはいふの?」

 

「チルノちゃん……」

 

ちゃんと口に入れたものを飲み込んでから言いなさい。なに言ってるかわかりませんよ。いや言いたいことは分かりますけど…

 

「慌てて飲み込んで喉に詰まらせても嫌なのでゆっくりでいいですよ。お茶持ってくるわ」

 

まあ、格別急ぐことではないだろう。それに妖精がこうも集まってしまっては直ぐに動くことなどできるはずもないです。

 

「あ、大ちゃんもそこの桜餅食べちゃっていいですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、ついていくって聞かない妖精を連れてきちゃったと」

 

あの後お茶を差し出して落ち着いてきたところで大ちゃんを連れて行こうとしたのですが、チルノ達も来ると言い出してしまい断るに断れなかった。

にとりさんのところに無事つけたのはよかったのですが結局チルノ達におとなしく待つなんて事出来るはずもなく、工房の中を飛び回ってしまっている。

 

「すいません…」

 

「いや、いいよいいよ」

 

にとりさんは笑って許してくれましたけど大丈夫なのか心配です。特にリリーの方。チルノはまだ会話による意思疎通が可能ですけどあの子は言葉を話せない。知識では春ですよと言っているような気がしたのですが当てにならないものです。

 

 

「リリーそれなに?」

 

 

なにやら不穏な声が工房から聞こえてくる。

大ちゃんも同じ考えだったらしく二人揃って様子を見に行く。後にとりさんそこで笑ってないで貴方もきてくださいよ。

 

「なにしてるんですか?」

 

工房の一角に鎮座するカバーに包まれたそれに頭を突っ込んでいたリリーとチルノの元に行く。

 

「あ、さとりんと大ちゃん!これ面白そうだな!」

 

なんださとりんって…そのあだ名はダメですよ。

まあ私のあだ名とか呼び名云々は置いておきまして…

こっちを振り向いたリリーはなぜか体に弾丸のセットされたベルトを巻きつけていた。

弾丸の大きさと体の大きさがあっていないからものすごく不自然だけれど。

「あの…リリーちゃん、それは…」

 

大ちゃんの困惑した声に純粋な笑みを浮かべてジャスチャーがてらに説明し出す。

「お!これに繋がってるのか!じゃあこれが固定具で…」

 

再びカバーの下に潜り込んでなにやら弄りだしたチルノを引っ張り出す。

だがゴロゴロと台車が転がるような音。

チルノと一緒に台車に乗っかった30バルカン砲が姿をあらわす。

 

「……二人とも」

長銃にこれから取り付けるためのものなのだろう全く、危ない危ない。

一歩間違えればとんでもないことになるものなんですからね。いくら興味があってもいじっちゃダメですよ。

「なんだか頼れるお姉ちゃんみたいで眼福だね」

 

入り口でやり取りを見ていたにとりさんから声がかけられる。

それはいいことなのだろうか?むしろチルノの方が見た目としては一番お姉さんっぽいのですが……いかんせん中身が子供なのだ。

 

大ちゃん曰く冬場とか氷がたくさんあるところだと性格も大人びて物凄く強いらしい。

というか戦闘狂に近いのだとか。

いっそのこと見た目も変わってくれればいいのに…

 

あ、でもそうなれば天狗に目をつけられるか。

あの人たち幼子が好みですからね…

 

「はーなーしーて!」

 

チルノが暴れるが妖精の力じゃ私の腕から抜け出すことはできないだろう。まあ妖怪だったら大体抜け出せちゃいますけど…

 

「そうですね…じゃあリリーと外で遊んできてください」

 

「後で何か奢ってくれる?」

 

「そうですね…お菓子でもあげますから」

 

「よっしゃ!約束だからね、行くよリリー!」

 

そう言ってリリーの手を引っ張って外に飛び出していくチルノ。やっぱり見た目くらい子供になれば違和感ないんですけど…

まあこれ以上なんかされると…にとりさんはいいですけど大ちゃんの胃が心配ですからね。

 

二人が外に飛び出して行きようやく落ち着く。

引っ張り出されている弾丸とバルカン砲を元に戻し一息つく。

 

「それで、そこの妖精の義腕だっけ?」

 

そうですと肯定。同時に大ちゃんが腕の無いそこを片手で抑える。

一瞬どうしたのだろうと思いましたが、表情を見てすぐに察する。

腕の無いその場所が痛むのだろう。みんなの前では平気なように振舞っていたようですけどその痛さは誤魔化しきれない。

 

「…大丈夫かい?」

 

「えっと…気にしないでください」

 

そう言って無理に笑顔を作る大ちゃんが痛々しい。

 

幻肢痛。

脳が処理できずそこに無いはずの失った体の部位が痛む現象は…大ちゃんにも起きていたようだ。

今はまだその概念はありませんが私だけは知っている。

腕のないその痛みを、あるはずのところに無いその恐怖を…

多分、ずっと痛がっていたのでしょう。辛い思いをさせてしまっていたのだと思わず私自身を責めてしまう。

どうして気がつかなかったのだろう。

 

「痛いですか?」

 

「え…ええ」

 

痛み止めなどは多分効かない。だってその痛みはあるはずのものが無いことで起こる幻影の痛み。逃げようとしてもずっと付きまとってくる。

 

義腕ができればある程度マシになるのでしょうが今はそういうわけにはいかない。応急処置的なものでしかないけど気を紛らわせるしかないだろう。

 

コートのポケットから小さな紙袋を取り出す。

中身はこいしがこの前作ってくれたもの。

それを袋から一つ取り出して大ちゃんに渡す。

 

「飴です。舐めててください」

 

飴がなんなのかはいまいち分かっていないようでしたけど口に入れた瞬間幸せそうな顔していたので…まあ気に入ってくれただろう。

これで痛みを紛らわしてくれるとありがたいです。

 

「まあそっちの事情は置いといて…それじゃあまずはこれを持ってみて……持てるかい?」

 

そう言って棚の上から箱を下ろしてくる。その箱の中に入っていたのは機械仕掛けの義腕だ。

外装は生き物と同じように見えますが中に入っているのは金属フレームと丸い稼働パーツ。

 

「な…なんとか」

 

「無理そうなら触れるだけで十分だよ」

 

 

そう言いながらにとりさんは両手で抱えたそれを大ちゃんの手に軽く載せる。その瞬間大ちゃんの周囲で空気が一瞬だけ変わった。どこがどうとかそういうのではなく、なんだか一瞬だけ何かが流れたような感覚だ。

 

「うーん……人工物だと壊れちゃって使い物にならないか」

触れさせただけなのだがにとりさんには故障したことが分かったらしい。

直ぐに壊れた義腕を作業台に戻す。

 

「参ったなあ…あれが一番自然体に近いものだったんだけど…あれでも能力の認知範囲内に組み込まれちゃうか」

 

「難しいですか?」

 

流石にこの発明家でも無理だっただろうか。

 

「……出来なくはないかな」

 

「本当ですか⁉︎」

 

大ちゃんが驚く。さっきの義腕の状態を見ればそのような答えは出てこないだろうと踏んでいたのでしょう。私も同じでした。

 

「私を誰だと思ってるんだい?河童の中でも天才発明家って呼ばれる河城にとりだよ」

 

天災発明家の間違いなんじゃないですかね?まあ技術的なノウハウはそうですけど…

 

「出来るんですね…」

 

「まあね。要は能力が感知できないレベルまで自然物をそのまま使って後は霊術を入れたりで思った通りに動いてくれるようにすればなんとかなるかな。まあちょっと大変だしこれだと道具というより妖具…それか概念礼装に近いものになっちゃうかな」

 

しれっと言ってますけどそれものすごい大変な事なんじゃないでしょうか。もはやそれってクローンとか妖刀のような特殊なものを作ってるのと同じような……

 

「それ本当に……可能なんでしょうか?概念礼装とかって色々とややこしいんじゃなかったんでしたっけ」

 

「私に発明で出来ないことは無いね。ただちょっと難しいだけさ。あと設備が足りないから増設しないといけないねえ」

 

そうなるとやはり時間がかかるのだろう。設備から手をいれないとなると最悪二ヶ月…いやもっとかかるか。

 

「あの……よくわからないのですが…どれくらいで出来ます?」

 

「そうだねえ…どのくらいか…最低でも一ヶ月。どっかで不備が起こればさらにもう一ヶ月かかる事を覚悟して欲しいな。まあ、すぐに作ってくれって言うなら今から作り始めちゃうけど?」

 

にとりさんの目の色が変わる。これは科学者のスイッチが入ってしまっただろうか…

気配が変わったのに気づいた大ちゃんが首を傾げる。

 

「さて、生命工学の知り合いに話通さないと…」

 

ブツブツ言い出したにとりさん。あ、これは完全にスイッチが入っちゃってるようですね。

 

「あの…ありがとうございます!お礼は…絶対します!」

 

「え?ああ…いや、いいよいいよ。こんな機会滅多にないし、面白そうだからね。お礼だけで十分だよ」

 

照れているのか顔を背けながら手を振る。素直になればいいのにと思うけど…スイッチが入ってるせいか聞き入れてはくれないだろう。普段でも聞き入れてはくれないのは変わりませんけど。

 

「そう言えばさ、さとりには手伝って欲しいことがあるから、義腕の受け渡しの時に一緒に来てくれ」

 

「え…まあいいですよ」

 

命令口調だったので拒否権はない。別に拒否する気もないのでいいですけど。

 

 

「あ、そこに積まれてる資料取ってきて。後そこの妖精の腕の諸元値も教えてから帰って」

 

人使い荒いですね…

まあこうなることはあらかた予想していたのでいいんですけど。

 

 

窓からこっちを覗く二人の視線に気づく。

 

……ちょっと家に帰るのは遅くなりそうですね。

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