古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth6.結局さとりは人である

さとりです。

 

寺を監視し始めてから3日ほど経ちました。

 

基本は同じところにずっと隠れ朝から晩まで傍聴を行なっているだけです。

まぁ、普通なら物凄く暇になりやすいものですが常に気が抜けない状態のため暇と感じるより疲労が溜まっていく方が圧倒的に早い。

 

私の前世記憶では、よく潜入任務(スニーキング・ミッション)のステルスゲームをよくやっていたようです。それを本当にすることになるとやはり色々大変です。

 

 

 

私は何処ぞの蛇ではありませんし、バレないように外に放たれる力を押さえつけるだけしか出来ません。と言うかこの時代にダンボールなんてないんです。

 

で…見つかったらガチで終わりな為床下で盗み聞きしながら情報収集を行うしかないのですが…

 

 

《おーい!そっちいたか?》

 

《……いや、……いな…》

 

私が潜り込んでる事がバレかけてまずいです。

人生のベスト3に入るくらい絶望的な状況です。

 

事の発端は数分前…

 

私はいつもと変わらず床下で盗聴を行なっていた。

丁度その日豊郷耳達の事についての話し合いがあったのだ。

盗聴を始めて3日目にして早速お目当の情報が聞けるのだ。

 

最初は都合が良すぎるので罠かと思い危険であったがサードアイでもそれが偽情報ではない事を確認した。

その際に一瞬だけ能力を使用してしまい危うく隠れて視ていることがバレそうになったが…まあなんとかなった。

 

 

結果から言えば罠ではなかった。本当に偶然だったようだ。

そんな好機を逃すわけもなく私は床下で会話を盗聴しようと潜り込んでいた。

 

 

やはり豊郷耳の事はごくわずか…しかも相当な地位にいるものか力を持つ者だけが探っているようだ。

 

その為なのかこの話し合いにもかなり力を持った僧などが数名集まっていたにすぎない。

おかげで盗聴がバレそうで心臓に悪かったです。

 

まあ…本人たちの力が強く流れすぎてるから私の微弱な力など押しつぶされてわからなくなってしまうだろうが…

 

その事を頭でわかっていてもそれを理解するのは難しいものです。

事実床の隙間からサードアイで内部の人の心を読んで見つかりかけたのはいい思い出です。

その時はなんとか乗り切りましたけど

 

 

まあ…いろいろ知りたいこととか分かったから良いと言えば良いのです。作戦実施の事とか封印とか退治とか…

 

えと…超簡単にまとめると…

 

 

 

 

 

 

なんか豊郷耳様怪しいよな。仏教進めてるけどどうやら道教やってるらしいけど。

 

でも証拠ないし無理に詰め寄っても多分返り討ちだぜ

 

そう言えば最近豊郷耳様って病気で長くないよな(・・?)

 

なら亡くなった時に調べれば良いのでは?状況によってはそのまま封印するのも手だし…

 

そうだな。そうしよう…ならいつ動く事になっても良いように準備しよーぜ!

 

わかった。それじゃあいつでも動けるように色々準備に入る解散!

 

だいたいこんな感じ……後で一応霍に伝えておきましょう、

 

ここまでは良かったのです。

 

しかし私が焦りすぎました。失態です。

 

目的の事は聴けたのでそれを知らせようと私が姿勢を動かした瞬間、私の僅かな動きに一人が反応した。どうやら勘の鋭い人だったようです。

 

僅かな気の流れや乱れを察知してこちらの存在に気づいたみたいだ。

 

ただし場所までは特定できず、私がここにいるということはわからないようです。

 

しかし結果的に誰か見ているのではないかと疑い始めました。

 

今はまだこちら側には気付かないようですが、いつ床下に私がいるとバレるか気が気ではありません。

相手とを隔てるのは床板一枚のみ、気の流れや力を遮断するには薄すぎるのです。

 

 

冷や汗が頬を伝い地面に落ちていく。強い法力が体に直撃し精神的に追いやられていく。

数年しか生きていない身にはキツすぎる。重圧に押しつぶされそうなのを必死に堪える。

 

《だいたいこの辺りだったんだがな…》

 

ビクッ…

 

私の真上を人が歩いていく。ギシギシと真上が軋みその度に心拍数が上がり視界が狭まる。

 

本気で死を間近に感じているようです。

 

一瞬のミスが命取りになりかねない。

 

本当は今すぐにでも動きたいです。動いて走って…逃げたいです。いつまでもここにいたら洒落になりませんから。

ええ、そうです逃げます。臆病で弱い者が変な意地を張ってまで残るものでも無いですから。

 

ですが今動いたら確実に見つかりますし…どうしたことか…

 

 

 

 

 

 

(あたいが囮になろうか?)

 

 

え⁉︎猫さんいつのまに!

 

いつの間にか真横に黒猫がいた。

上の人の動きに夢中で全然気付きませんでした。最近気配を隠して歩くのが上手くなっていますね。誰のせいでしょうか…

 

(いやあ…暇だから様子を見にきたらなんか大変なことになってたからさ)

 

でも良いのでしょうか。かなり危険なことですよ。

 

(あたいなら大丈夫)

 

そう言ってこっちを見てくる。

 

サードアイで見なくてもわかるほど自信に満ちたその目を見ていると先ほどまでの焦りが落ち着いてくる。

 

 

確かに猫なら怪しまれないし気をそらせる…上手くいけば相手が捜索を諦めてくれるかもしれない。

 

 

無言で頷く

(それじゃああたいが上に行ってくるから。タイミング見て逃げてね)

そう言って猫は玄関の方に走っていった。

……心配です。あの子は自分でしか気づかないほど微弱ながらも妖力を持っている。それが気づかれればそれこそ一巻の終わりでしょう。

 

そのようなものを与えてしまったのは私…もし私に絡まなければあの子がここまでする必要は……いいえ。今考えることではないです。

今は脱出して情報をもっち帰る事です。

 

…今度鰻の蒲焼きでも作ってあげましょう。

鰻捕まえるまでいきていられるかは別として……縁起が悪いですね。

 

 

上の方で再びバタバタと音がする。

どうやら猫がうまい感じに引きつけてくれたようです。

 

 

《おいどうした?なんだただの猫か…》

 

《もしか…て此奴だった…じゃないのか?》

 

《そうな……のかもな…そ…かわいいな…》

 

《それじゃあもう行こうぜ。あんまりここに集まってると不審に思われるぞ》

 

《ああ、そうしよう》

再び私の真上の床がギシギシと言い本堂の方へ人々が歩いてくのが嫌でもわかる。

 

ここで迂闊に動いてバレたらそれこそ終わりだ。早く行けと念じる。

 

……どのくらい経ったのだろうか…数分だったか数秒だったか。しかし体は数時間と経った気分だ。足音はもう聞こえず静寂に包まれている。どうやら行ってくれたようです

 

ほっと一息つきたいところですが、すぐに知らせなければならない情報が多いです。

 

伏せたままの姿勢からほふく前進で境内入り口の方に這っていく。

 

だが室内に人がいなくなったものの外にはかなりの人がいるもので…例に漏れず私が出ようとした階段の近くにも人がいました。一人二人なら良かったんですが…ソコソコの力を持った僧が数人となれば迂闊に動けない。また足止めである。

 

……早くどいてください。邪魔です。

思わず悪態をつく。

 

「にゃー」

 

あ…黒猫さん…

 

階段の陰から聞き慣れた鳴き声がした。

そっちの方に視線を向けると、陰に上手く溶け込むように猫が佇んでいた。

 

どうやら無事だったみたいだ。よかったです。

 

(なんか動けてなさそうだけど…)

 

すいません…出られるとこを見られるとやっかいですと言うか一瞬で終わりです。

 

(仕方ないねえ……ちょっと待ってな)

 

ありがとうございます。

 

(ほんと世話がやけるねえ)

 

まぁ、こう言うの慣れないですから

 

(ま、そんなもんかね…)

 

こんな感じに軽くアイコンタクトを交わす。

 

アイコンタクトが終わった直後、猫が近くにいる人たちのところへ駆け出した。

 

え……結構活発に暴れるんですね。

 

結構大胆に集まっていた人に襲いかかっている。正直言ってあの子が大変そうだ。って言うか…あの子ストレス溜めすぎ…

 

 

猫に襲われた人間たちはてんでバラバラにその場を去っていく。一部は猫を捕らえようとしたが素早い猫の身のこなしで逆に転ばされてしまう。

 

……私よりも強い。

 

周辺に人気が無くなったのを見て気配をギリギリまで殺して外に出る。

 

服についた汚れをその場で払い落としそのまま一般人に紛れ込むように門へ歩いていく。

 

なるべく目立たず、普段通りに門を通過する。何度か僧の近くを通ったがなにぶん気にされることもなく平和にすんだ。

 

門を出たところで彼女と合流するため待ちの中心地に行く。

 

合流地点はいつもバラバラである。基本的に一度会った時に次にどこで会うかを毎回指定される。

本当に私は使いっ走りなんだと自覚してしまう。まぁ自分で選んだのだから仕方ないか。

 

 

そうこうしているうちにお目当の建物が見えてくる。

 

やや他の店より大柄であり全体的に開放的な室内。

なにやら名前っぽいものがあるらしいがそれが書かれていないのでなんて名前かはわからない。

 

今回の彼女との連絡はここの店で行う。

 

通称、喫茶とでも言っておきましょうか。

喫茶といっても席がある訳ではなくただ椅子に座って飲むような休憩所に近いものだ。って言うか喫茶っていうのはただ私が呼びやすいようにしているだけで実際は別の呼び名らしいが…

 

そこがなんて名前の店であろうと私はあまり利用しない。どっちかといえばあの骨董品店もどきの方が落ち着くのである。

 

そんなどうでもいいことを考えながらお湯を頼んで近くの椅子に腰をかける。

今になって緊張の糸が切れたのか一気に体が怠くなる。

 

本当はこう言うときはお茶が良いのだが……生憎なことにこの時代にはまだお茶はない。

 

意外かもしれないが飛鳥時代の日本にお茶はない。

 

一応それに近いものはあるけど不味くて仕方なく私は飲めませんでした。

 

だいたい…800年代でしょうか…中国経由でお茶が伝来したはずですのでお茶が飲めるのはもう少し後の時代です。ああ、庶民も飲むようになったのは江戸時代までいかないといけませんね。

 

思考が枝道にそれていると一瞬周りの空気が変わった。

いや、なんとなくだが空気というより気の流れが変わった。

風が止み周りが無風無音空間になる。

 

意識を阻害する結界が張られたようだ。

 

周囲の人の感覚が変わる。まるで背景のように歩いているのに何も感じ取れない。…本当に原理が分かりません。今度発動時を見せてもらいたいです。

 

「時間より少し遅い気がするけど……」

 

「こっちだって色々あったんですよ」

 

視界の横に青色の髪が見え隠れする。

振り向くのも億劫なので目を瞑りながら適当に返事をする。

 

「ふーん…まあいいや。それで、なにかわかったんでしょう?」

 

「ええまあ……単刀直入に言って、豊郷耳さんが生存している合間は仕掛けてきません」

 

あまり長々と話す気も起きないのでストレートに言う。別に悪くはないはずだ。

 

少しの合間静寂が店を包み込む。なにやら考えているようだ。

 

 

 

 

……無性になにを考えているのか気になってしまう。

 

 

ああ…覚りとしての感情がこんなところで出てくるとは……いささか早い。

 

「生存している合間……」

 

「ええ、行動は人としての死後となります」

 

 

「……そっか。じゃあ私が頑張らないといけないのかな…」

 

……どう言うべきだろうか。原作を知っている私はここで封印されても幻想郷で再び復活するのを知っている。

だが、私と言うイレギュラーな存在がいる時点でこの世界が原作通りになるとは限らない。もしかしたらと言うこともある。

 

それに…目の前で深刻そうに考え事をしている霍青娥を見ていると放っておけそうにもありません。

 

お節介ではありますけど…ここは手伝っても損はないのではないだろうか。

今でも使い捨て感覚で使われているのは承知してます。

 

それでもどうやら私の良心は見捨てる気が無いようです。

 

「……まぁ、私も全力で手伝います。なんでも言ってください」

 

結局、モヤモヤして仕方ないのでその場を後にする。

別に向こうが頼んで来なくてもこっちはこっちで動くことにしているから返答を待つ意味は無いのですが……

 

それにこっちは向こうに絶対服従…とまではいきませんが、絶対的力の差ですから変に刺激すると本気で走馬灯を見てしまいます。

 

痛いのは嫌いですから。

嫌いなことはなるべく避ける主義です。

 

「……それじゃあ…頼んでいいかしら?」

 

店から出ればそこは術の効果の範囲外…私が出ようとした直後に引き止めに来た。

正直意外である。私は引き止められることはないと思っていたのだが……思った以上に優しいですね。

 

 

「ねえ…なんでもって言ったけど…あの寺の人とかを少しだけ引きつけておくことはできるの?あ、いや…なるべく貴方に危険がないようにでいいから」

 

 

意外です。こんな弱小に頼みを持ちかけるなんて…

 

私が知らない合間に状況は変わってきているのかもしれません。

 

サードアイで全て見てしまえば楽なのですが、それをやってしまったが最後私は戻れないかもしれない。

未だに残る人間の感覚は私を完全に妖怪にするのを妨げる。

 

ただでさえ人間の荒んだ心が視えてしまう種族なのだ。

脆い人間の感覚などひとたまりもなく壊れる。

 

だからこそ私は力を使いたくない。

 

その上私の中の人間がお人好しだ。

ここまで付き合ってしまったのもそのお人好しが原因だ。妖怪があの程度で協力するなんてことほぼありえないのだ。

 

こんな思考をするあたりそろそろどっちか決めなければならない。

 

さて、私に渡された選択権は二つ。ここで人を捨てて妖怪となるか、はたまた人として生きるか。

 

楽な方は圧倒的に妖怪であろう。

なら…私はどっちを選ぶのだろう。

 

 

 

 

……いや、ここまできた時点で大体わかり切ってることだ。

 

 

 

 

「……出来ますよ。寺どころかこの街全体の注意を引くことも可能です」

 

だから私は振り返らずにそう答える。

 

 

かなり博打的ではありますけど…

 

その一言は心の中に留めておく。そんな情報は教える必要がない。

もしもの時は私がやられるだけだ。実質彼女達への注意は外らせる。

 

「なら…お願いできるかしら」

 

「ええ、任せてください」

 

彼女の安堵した感情が背中に当たる。

それを受け止めながら私はその店を出る。

 

 

 

 

結局私は人を捨てることが出来なかった。おそらくこの先も何があろうと私の中の人が殺されない限りずっと私は人でありたい。

 

それこそ自分勝手なエゴであろう。ただ、今はまだそのエゴを押し通しても良いのかもしれない。

 

少なくともいつか出来る幻想郷までは…人でありたい。

 

 

行き交う人々にまぎれ込みながら私はいつも通りに自分の寝床に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えばお湯頼んだのに結局もらわなかったな。

 




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