古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.60さとり様キレる下

雪が日差しを反射して眩しくてしょうがない。

冬特有の物なので普段は気にしない。ですが今は非常時な上どこから攻撃を受けるかわからない。その状態で視界が使い物にならないのは非常に困る。

 

「眩しくないですか?」

 

「私たち天狗の瞳は光の調整が普通の妖怪より優れているので全然大丈夫です」

 

私の問いに目の前の天狗は平然と答える。

そういえば前に柳君も似たようなことを言っていたような気がしますね。すっかり忘れてしまっていますけど。

 

「それならさ!雪の中から攻撃されても大丈夫だね!」

 

「奇襲攻撃に関してはそうですけど……」

 

隣を飛ぶこいしを見ながらそんな返答。

敵だって当然私やこいしが出てくる事くらい想定しているはずだろう。ただ、さとり妖怪のような種族はもともと奇襲攻撃が効きづらい。

サードアイで全て見えてしまうのだから奇襲を成功させるならそれこそ『無意識』か『予測不能な予想外』から攻撃するしかない。ただしそれを行えるのは…今のところいない。

 

「あ…黒煙」

 

空に黒い煙がいくつか上がっているのが見える。

移動距離からして…天狗の里だろう。

 

かなり大変なことになっているのでしょうね。

 

「……攻撃をかけている奴らの中には…私達の仲間だったやつも混ざってます」

 

裏切りですか…どこの時代でもあることですね。

別に珍しくもなんともないのですが…確かに天狗にとっては珍しいことでしょうね。

「なるほど、じゃあまとめて倒しちゃいましょうか」

 

「いやいや!攻撃して来てはいるが相手はもともと仲間…」

 

「別に殺しはしませんよ?私は倒すだけ。殺すも生かすも貴方達次第です」

何を勘違いしたのか天狗さんが慌てますけど私の一言でホッとした様子になる。

 

でも裏切りは相当重い罰があると思うのですが…別に気にすることでも無かったですね。

 

「あ、お姉ちゃんあれ!天魔さんいるよ!」

 

「……え?あ、本当ですね」

この前手伝わない云々言ってしまった後なのでなんだか気まずい。

 

それでも里から出て誰かを待っているようなそぶりからして私を待っているのでしょうから行かないとダメですよね。

 

視線を前に戻すと天狗さんがこっちを向いて下を指している。やはり降りるらしい。

 

「あ、さとり様!」

私に気づいたのか天魔さんの隣にいる大天狗がこっちと手招きする。

 

「おう、さとりか!よく来てくれたな」

 

いつもの調子で天魔さんが抱きついてくる。

でも今そんなことしてる暇ないと思うのですが……

 

「仕方ないので手助けだけはしてあげます」

 

あまり手伝いすぎると私に依存しようとしてくる天狗が増えちゃうのであまり手伝えないですが…

 

そんなこと思っていると天魔の隣に立っていた大天狗が私の横に片膝をついてしゃがんだ。

 

「要件だけ言う。山の反対側からの攻撃だ。ある程度は抑えたがほとんどは山全体に散らばって奇襲戦をかけて来ている」

 

奇襲戦ですか…かなり厄介ですね。

攻撃を仕掛けているのは種族バラバラの妖怪。多分、連携が重要な集団戦では不利なのを知ってゲリラ戦もどきなことをしているとは。それに誰がリーダーなのかあえて分からなくしているのでしょうね。誰かを打てば解散してくれるということもなさそうです。

それに山全体に散らばってしまえば天狗や河童の使う広範囲攻撃も誤射を恐れて使えない。まさに山全体が人質状態です。

相手は相当な策士を連れて来てますね。

 

「そうなると掃討戦しかなさそうですね。こちら側の状況は?」

 

「侵入して来た敵の9割は終わりましたが、東と北の二箇所から新たに攻撃がありどうしても山全体へ手が回せません」

 

「こいし、北側に行って。ついでなのでそこの天狗さんも一緒に」

 

一人でどうにかできるとは思っていないけどこいしなら出来るはずです。だってこの子は多対一が得意分野ですからね。

 

「さとりはどうするのさ?俺はこれから潜んでる奴らを狩りに行くつもりなんだけど…」

 

「さっさと行ってください!東側の敵は私が対処しますので」

 

こんなところで私なんか待ってないでさっさといってくださいよ!あなたが一番戦力持っているんですからね!

 

後で数人ほど拘束、連行用の天狗が来てくれれば嬉しいですけど。と伝えて飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん…あいつらなのね」

 

「え、ええそうです」

 

お姉ちゃんに言われた通り、天狗のお姉さんと一緒に里の北側に行ってみればもう弾幕と剣といろんなものが舞う戦場だった。

正直戦場の中でも乱戦って部類に入るね。

「かなり押されてるねえ」

 

「まあ元仲間もいますし…」

 

中には天狗同士で斬り合いしてるところも…裏切ったやつなんだろうけど服装が同じだからどっちが味方なのかわからない。

 

「それじゃあ…暴れちゃっていいよね…鍋の仇」

 

「いやいやまだ鍋死んでませんよね⁉︎」

 

八つ当たりだからいいのいいの!

それに鍋は死なない。これから私達の胃袋に入るために作られるんだから!

 

じゃあなんで怒ってるかって?そりゃ今夜鍋食べれると思ったら食べれなかったんだよ?そりゃ怒るよ。

 

うーん…敵味方ごちゃ混ぜの戦場か。なら広範囲破壊はできないね。一番最初に使った方が効率的にさばけるから便利だったのに…まあいいや。

 

魔導書を開きお目当てのページに魔力を流す。

一瞬だけ魔導書が光り両手に二本の短剣が収まる。

 

「どうして左は片手剣なのに右は両手剣なんですか…」

 

え、そうだったの?長さが若干違うだけかと思ってたんだけどこの剣両方とも違うんだね。

別に片手剣だろうと両手剣だろうと手裏剣だろうと使えれば問題ないからいいや。

 

「それじゃあ、援護できる?」

 

太陽の光を反射した無機質な銀の光が二本の刃から漏れる。

 

「え…ええ。なんとか」

 

怪我人にはあまり激しい戦闘はさせたくないからね。

 

天狗はそこから援護と…それじゃあ始めよっか。

 

隠れていた木の上から飛び出し、戦場の中に飛び込む。

私はお姉ちゃんみたいに器用じゃないから死んじゃっても文句言わないでね。あ、死人に口無しか。じゃあいいや。

 

着地地点にいたおっきな妖怪のお腹を二本の剣で切り裂く。

 

鮮血が飛び散り私の服を汚す。もうちょっと考えた方が良かったね。

まあいいか。もっと、もっと踊りましょ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

里の東側は意外にも戦火は上がっていなかった。

 

襲っていないのかと思いましたけどどうやら、違うらしい。

防衛の天狗が寝返っているのか…物量戦に負けたのか…入り口あたりまで侵攻されてしまって戦闘放棄しちゃっているようです。

一部白狼天狗は捕まえられちゃってますね。

 

やや丘になった地面に体を伏せながら見下ろすように確認する。

 

その瞬間、襲って来ている妖怪と目が合った。そのとたん体に走る電流のような刺激。

体は隠しているし妖力も最小限の放出にしたはず…なのに見つかった。

 

 

 

「5分です」

 

バレてしまっては仕方ない。

立ち上がって大きめの妖力弾を一発だけ撃ち出す。

相手の意識が私の方に向く。

 

まずはこれの性能をさっさと試さないとですね。

構えたミニガンのスイッチを入れる。同時に銃身部分が高速で回転を始めやや遅れて衝撃が伝わる。

 

数発に一回だけ赤色の弾幕のような色をしたものが飛び出す。

射線を確認するための曳光弾だろう。若干弾がバラけますけど弾幕を張ると言った点では好都合ですね。

 

相手の足元に土煙がバシバシと立ち上がり、何発かは足を貫く。

その度に鋭い悲鳴が上がりますがどうせ足なら問題はない。体の向きを変えてミニガンを構え直す。

1秒に10発の速度で大量の弾が撃ち出され一気に妖怪たちが引いていく。

一部は背を向けて必死に逃げようとしている。

だけど簡単に逃がしはしない。

逃げ出そうとする妖怪に向けて展開した弾幕を放つ。

手を使わないで展開させた弾幕では命中精度は悪い。それでもこの距離で背中を向けている相手くらい外しはしない。

それにしても弱い。他の妖怪となんてほとんど戦ってこなかったので分からないのですがこんなにたくさん集まってもこんなに弱いのでしょうか?

あ、にとりさんの武器が強いからですね。

でもこれ、重いですからみんな使わないでしょうね。私も機動力を犠牲にしてまで欲しいとは思いませんし。それに照準が無いのは致命的です。

使い道さえ間違えなければ強いんですけどね。

 

そうやって半数ほどを戦闘不能にしたところでミニガンのモーター音が止まる。

弾幕を絶えず出して牽制しながらミニガンの様子を見る。ベルトの中が空っぽになっている…弾切れですか。

 

両手を開けるためにミニガンを地面に下ろす。そして今度は背中に引っ掛けていた単射グレネードを構える。

装填機能を無くしたことでシンプルかつ簡単に生産することができるようになったとか言ってましたけどそんなことはどうでもいい。

 

右手で構え左手は新たにレーザーや誘導弾幕を展開、発射する。

何発か妖怪達に当たり吹き飛ばされた身体が動かなくなっている。

 

こんな状況でも向かってこようとしてくる阿呆に右手に構えたガンの照準を合わせ引き金を引く。

弾丸の大きさにしては小さい反動で40ミリ榴弾が飛び出す。

 

地面に着弾すると同時に中に入っていた多数の粒子と外枠の破片が向かってくる妖怪に襲いかかる。音速を超えた破片たちに体がズタズタに切り裂かれた奴らが倒れる。

重傷ですけど死んではないので大丈夫だろう。これで懲りてくれなければ後は天狗に頼みますか。

 

右手に構えたままのグレネードの安全ロックをかけ素早く次弾を装填。上に振り上げる力で中折れ式の本体を元に戻し安全ロックを解除する。

 

目の前に迫って来ていた巨体を持つ妖怪に向けて躊躇いなく引き金を引く。

近かったせいもあり弾丸は安全装置がかかり爆発はしない。ただ、その鉛玉が持つ運動エネルギーは巨体を後方に吹き飛ばす程度の威力はある。

 

再度装填。装填の合間に捕らえられている天狗を縛る縄を妖力弾で狙撃する。

 

奥の方から高速で近づく人影……かなり早いですね。

多分天狗でしょうか。あっちからくるってことは多分裏切ったヒト達でしょうか。

あ、やっぱりそうですね。

 

空からもですか…面倒ですね。

向かってくる天狗の羽に向かって弾幕の嵐。もちろん刀のようなものや障壁で防がれる。ただ、少しタイミングを遅らせて発射させたグレネード弾はしっかりと起爆してくれた。

爆風で吹き飛ばされる。体勢が崩れたその瞬間に剣状にした弾幕をいくつも突き刺す。

 

再起不能…っと、あまり強くない相手にしてはちょっと時間かけすぎちゃってますね。このままだと不利になってしまいますしもう終わらせましょう。

鍋の怒りも収まって来ましたし。

 

「想起『二重黒死蝶』」

 

誰かの弾幕かは忘れたものの自らの昔の記憶を想起。

綺麗な弾幕が敵も味方も例外なく魅了する。

 

気づけばほとんどの妖怪は戦闘不能になり雪の上に赤い斑点をつくりながら倒れていた。

痛みに悶えながらの私のことをにらみながら何かを叫んでいる。

自業自得なのですが…

 

「あ、5分…1秒すぎちゃいました」

 

…ここまでやっておけば大丈夫でしょう。

地面に降ろしたミニガンを抱え直しその場から歩き去る。

時々後ろから生き残りか威勢がいいやつが残っているのか弾幕が襲いかかる。ですが狙いが甘いのか全く当たらない。

 

そうしているうちに駆けつけてきた天狗達が拘束したのか弾幕の攻撃も止んだ。

 

「お姉ちゃん!こっち終わったよ」

 

こいしが駆け寄ってくる。服のいたるところが血で汚れてしまっている。かなり激しく戦ったのだろう。

 

「そう、じゃあ後はどこかしら?」

 

「今のところはないです…ね」

こいしの後ろから追いかけて来ていた天狗さんが息を切らしながらそう答える。

 

「それじゃあ人里の方に行くわよ」

 

「え…ですが……」

 

妖怪さんは山全体に散らばっているのではという彼女の言葉を遮るように言葉を続ける。

 

「おそらく人里の方に一番集まるはずです」

 

不思議そうな顔をしていますが…心理的な問題です。

天魔さんが山中を駆け巡って暴れているのであれば妖怪達が集まる場所などだいたい決まるようなものです。

だって山の中でも人間が近くて迂闊な攻撃は出来ない。それにいざとなれば人間を盾にすることすら出来る…まあ、現実味は無いですけど…

集まる場所が分かっていればそこに先回りして決着つけた方が早いですし。

それに先程の仮定が正しければお燐が戦っているでしょうから様子を見たいです。

 

「あやや、もう戦闘終わってるじゃないですか」

行く場所が決まって移動しようとしたら近くの木の上から声がかけられる。

声のした方を見れば文さんが団扇を構えて枝の上でこちらを撮影していた。

繰り返します。撮影してました。

 

「……文さんそれ」

文さんの手には見慣れない装置が握られている。

表面はこげ茶の皮。正面中央よりやや右側に円形のガラスレンズが埋め込まれた筒が付いている。

 

「ああ、ここにくる途中でにとりさんに渡されましてね。なんでも映像を写すための装置だそうです」

 

やはりそれも月の技術で作ったものなのだろうか。

一枚づつ取るたびに装置右側のゼンマイを巻いているところを見れば…かなり古い型の一眼に見える。

 

「それにしてもさすがさとりさんですねえ」

 

どうしてなのかこいしの真後ろに降りたった文さん。

 

「河童のこの道具が良かっただけですよ」

 

ほとんど道具のおかげなんでそんなに私自身がどうとかってわけじゃないですよ。だって相手が今回強くなかっただけですから。

そもそも相手に迎撃限界距離内まで来られたらそれこそ終わりでしたよ。たまたま、見慣れない飛び道具に怯えて後退してくれたからよかったですけど…

 

「あ、そうだ。人里まで送ってくれる?」

 

こいしが文さんの肩に乗っかりながらそう聞く。

 

「いいですよ?こいしちゃんとさとりさんの二人ですね」

そう言いながらこいしと私の手を握り翼を大きくはためかせ始める。

「あれ?私は…」

 

天狗さんが困惑。まあ、いきなり文さんが私達を連れて行こうとするのですから仕方ないでしょうね。

 

「もちろん付いてきてください。ただし、ついてこれるならですが…」

 

そういえば文さんって鴉天狗最速だったんでしたっけ。

記憶力が無いわけではないが普段気にしないことは忘れやすいです。

 

周辺の音が消え去り前後にかかる衝撃で体が振り回される。

前回よりもやや荒い飛行で身体中が痛い。

 

「到着です」

 

「うわー!はやーい!」

 

「なんか…今回荒れてましたけど」

 

こいしはなんともないのだろうか。それとも気にならないだけなのか…

「障害物を回避してましたからね」

 

障害物とはなんだったのか…さらに聞こうとしたもののなんだか恐ろしい答えしか返ってきそうにないのでやめておく。

 

 

「にぎゃーー!」

 

すぐ近くで見知った者の叫ぶ声が響く。

 

「お燐⁉︎」

 

こいしが最初に駆け出す。少し遅れて私も声のした方向に向かう。

同時に聞こえる爆発音と木がなぎ倒される音。

 

急に視界が開ける。木々の一部が根元の地面ごとえぐられるようになぎ倒されていた。

 

そんな足場の悪い広場のようになった場所でお燐が追いかけ回されていた。

かなり大柄の妖怪と小柄な奴と種族はバラバラ…あれは鬼?珍しいですね。

 

逃げながらも後ろに向かって弾幕を放っているあたりただ逃げ回るだけってわけでもないですね。

 

「恨霊『スプリーンイーター』!」

 

スペルカード…お燐が使ってるところは初めてみました。

それにしてもお燐もだいぶ強くなりましたね。逃げ回ってても確実に妖怪を戦闘不能にしてますし。

それでも次から次へとどこからか出てくる妖怪さんたち。

 

「それじゃあ加勢しますか」

 

「うん!」

 

こいしの手に剣が現れる。

 

私も近くにあった石や木の枝を拾って手に握る。

今度剣でも作ってもらおうかなあ…

 

「大丈夫なんですか?じわじわ数が集まってきているように思えるのですが…」

 

「大丈夫です。必ず帰ってきますから」

 

「そういう時はさ、I‘ll be Bac○って言うんだよ」

 

それは何か違うような気がするのですが…

まあ、文さんはそこで待っていてくださいね。さっさと片付けて今度こそ柳君の家で鍋を食べたいですから。

 


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