古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

74 / 325
depth.63 さとりは時々食べ損ねる

「それでは、食事の用意をしますのでしばしお待ちください」

 

にとりさんを連れて家に戻る。それ以降はお燐ににとりさんの案内を任せ私は台所に向かう。

その私をこいしが後ろからつけて来る。

 

「こいし、手伝ってくれるの?」

 

「んー半々かな」

 

いや、なにと半々なのかさっぱりわからないのだけれど…それでも一応半分だけは手伝ってくれるらしい。じゃあ残りの半分なにをするのやら。

「邪魔はしないでね」

 

「しないよう。あ、でもちょっと作りたいものがあるから火元片方だけ開けてくれる?」

 

作りたいものですが…こいしが改まってなにかを作るとは珍しいですね。まあ火元の一つくらい潰れたところで支障は起きませんし別にいいか。

「別にいいわよ」

 

「やった!」

 

こいしは早速台所をウロウロしながら準備を始める。

さて、私も始めないと…まずルウ作りですね。

当然この時代にカレー粉なんてものありませんから全てスパイスを入れて調整しながらやっていくしかありません。

 

隣で作業を始めたこいしを横目で確認しながらこちらも料理を始めていく。

姉妹揃ってではあるが特に話すことはなく無言。時々取って欲しいものがあっても無言で会話成立。

別に心が読めているわけではない。なんとなくそうだと感じたらそうするだけ。

 

「……お姉ちゃんそれってカレー?」

 

「よくわかりましたね」

 

今までは香辛料不足で作ったことなどなかったのですが…まさか初見でわかるとは…どれほどの知識をこの子は引き継いだのやら。

 

「だって作り方からしてそうだと思った」

 

まあそれ以外でスパイスを混ぜて炒めてなんてなかなかしないですからね。

それにしても換気が間に合わないですね。ちょっとそこの障子を外しちゃいますか。

今度大型の換気装置つけたほうが良いですね。

 

「そういうこいしは…お菓子?」

 

「うん!あ、でもまだ言っちゃダメだよ。秘密ね!」

 

なにを作っているのか一応はわかった。ただいうなと言われればそれまで。別にいうつもりもないから別にいいのですけどね。

 

「別に言わないわよ」

 

さて、ルウもできて来たので今度は具材作りと……

一旦火からルウを作っていた鍋を離して今度は別の鍋を温める。

もちろん水と…元から少ない芋も入れてしまう。

 

冬の合間保存してあったものと…なるべく家の中で育てていたものを使えばなんとか形にはなりそうですね。

 

 

 

 

 

 

よし、大体は出来ました。後は味ですけど……

「こいし、ちょっと味見してみて」

 

小皿に少しだけ掬ってこいしに渡す。ちなみに良いよとは言われてないが…多分大丈夫なはずである。

 

「ん?なになに…毒味?」

 

失礼な…毒など入れてません。

 

「冗談だよ。うん、美味しいんじゃないかな?」

 

こいしから合格のサインが来る。こいしが良いと言うのなら大丈夫でしょう。時々変なこと言いますけどこういうことろで嘘は言いませんからね。

 

「それじゃあご飯を炊くとしましょうか」

 

こいしが手伝ってくれてればよかったのですがこいしも手が離せないようですから諦めましょう。

 

あ…ご飯を炊く前に漬物くらいは持って行ってあげましょう。流石に長々待たせちゃって悪いですし…確か床下に糠漬けがあったはずですから…

 

「カレーなのに糠漬けって…」

 

だ…大丈夫よ。多分きゅうりだし大丈夫……だよね。

 

小皿に盛り付け火元を再度確認してからにとりさん達の待つ部屋に持っていく。

「あの…よければ先食べていてください」

 

「お、きゅうりじゃん。へえ…漬物かな?」

 

ええ、夏に貴方から貰ったやつですので少なくともきゅうり自体は貴方好みのはずですよ。

 

「あたい…その匂い無理」

 

「ごめんねお燐」

そういえばお燐はこの匂いがダメでしたね。気を使ってなるべく出さないようにしてたのですがすっかり忘れてました。

 

「ええ…美味しそうなのになあ」

 

「まあ漬物ですから…」

 

「好き嫌いしてると大きく…いやごめん何でもない」

 

「今どこ見て言いました⁉︎」

 

「え?もちろん……」

 

そういえばお燐って結構スタイルいいですよね。

にとりさんもそうですけど…

 

「私は料理に戻りますのでもう少し待っててくださいね」

 

なにか怪しげな手の動かし方をしてお燐を壁まで追い詰めようとしているにとりさんを横目に部屋をでる。

 

奥で猫の鳴き声がしてましたけど気にしない事にする。

 

「なんか叫び声が聞こえたけど…」

 

「気にしちゃダメよこいし。彼女、途中で少しだけだけどお酒買って呑んでたのよ。だから仕方ないわ」

 

 

 

そんなこんなでやっと料理ができた。ちなみにこいしの方も完成したらしく途中から私の手伝いをしてくれた。ほんと天使です。

 

「おまたせしました」

 

今この場にいる全員分を乗せてこいしと一緒に運ぶ。

両者ともに両手がふさがってしまっているものの内側からお燐が襖を開けてくれる。

 

「へえ…これがカレー?結構スパイスが効いてるしかなりとろみがあるけど」

 

「ええ、温かいうちにどうぞ」

 

円卓の上にお皿を素早く下ろしていく。

あ、こいし…スタンバイ早いわよ。もう少し落ち着いて…

あ、水は各自で取って行ってくださいね。

 

揃ったみたいですね…それじゃあ行きましょうか。

 

「「いただきます」」

 

 

 

「熱っ!熱い熱い!」

 

一気に口に入れたせいでお燐が悶え始めた。

 

「お燐…気をつけて…水は持って来てるから…」

 

水すら用意せず食べ始めてしまったお燐のために水用意。その瞬間奪い取られるようにして手から水の入った湯呑みが奪い取られる。

 

「お燐大丈夫?」

 

「死ぬかと思いました…」

 

猫舌には地獄だったかしら?

お燐の分はもう少し冷ましてから持ってくるべきでしたね。

 

そんなお燐を尻目に私も食べ始める。

少しだけ辛かったですね……もう少し甘めでもよかったでしょうか。

 

「スパイスが効いてて辛いね…でも美味しい」

 

「それは良かったです」

 

最初は少しだけ不安そうでしたけど…気に入ってもらえたようです。

もう少し時間を置けばコクが出たんですけどあまり待たせてしまっても失礼でしたから…

「それに寒い時期だしちょうどいいかも」

 

「ふふふ、それをいうなら鍋の方がいいんじゃないかしら?」

 

「え?これ鍋じゃないのかい?」

 

「鍋に近いけど鍋とは違うかなあ…一応スパイスで野菜とかお肉とかを煮込んだものだから鍋って括りには入るけど…お姉ちゃんはどっち?」

 

「どっちと言われても…ものによるんじゃないかしら?」

 

少なくとも私はカレーは鍋の一種だしスープカレーとかになるとスープ系だし、どちらも鍋料理であることに代わりはないのですけどね。あ…でもカレーだと鍋じゃなくてフライパンでも作れるのか…じゃあどうなるのでしょうか。

 

「とりあえず鍋で作ったので鍋料理で」

 

「適当だね」

 

案外そんなもんですよ?

後、にとりさん…頬にカレー付いてますよ。

ほら取ってあげるのでその場を動かないでくださいね。動いたらお燐、撃っていいわよ。

 

いやいや、冗談ですって。

 

「冗談に聞こえなかったんだけどなあ」

 

だって冗談言う時は冗談って分からないように言わないといけないんじゃないんですか?

なんだか分かり会えませんね。

 

 

 

 

「あ、そろそろ出て来た方がいいと思いますよ。隙間の紫」

 

食事も終わりお皿を一旦片付けひと段落したタイミングで、そう背後の壁に向かって声をかける。すると、私の目線の先の場所に真っ黒な亀裂が生まれる。亀裂の両端は綺麗にリボンは結んである。そして中を埋め尽くす無数の眼。

 

そこから金髪の女性……寝起きだからなのか普段のナイトキャップは被っておらず服装も白色の和服を一枚着ているだけ。それでいて普段より腰回りが強く締め付けられているからか胸周りが強調されている。

一部のヒトは嫉妬しそうですね。

あ、私じゃなくてこいしとかですよ。

 

「あら、バレてた?」

 

「だって空間に亀裂が起こってましたから…」

 

それにそろそろ貴方が起きる時期ですからね。なんとなくですが分かりますよ。

 

 

「げ…隙間妖怪」

 

「なによ。やましいことでもあるの?河城にとり」

 

紫…そんなに強く威圧しなくても……まあ今は賢者としての顔なのはわかりますけど…

 

「まあいいわ。私達もご一緒しましょうかしら。ちょっと大事な話もあるわけだし」

 

私達…その言葉に一瞬思考が引っかかる。

だが、紫に続いて隙間からこちらを覗く面々を見つけて納得する。

「ふむ…大事な話とは紫の後ろにいる天魔さんと四季映姫さん込みの話で?」

 

「ええ、そうよ。ダメかしら?」

 

「……大丈夫ですよ」

 

別に話すだけならいいのですが料理が足りるかどうか…多めに作ってはいましたけどギリギリですかね。

 

「それじゃあお邪魔するわね」

改めてそう言った紫が隙間から飛び出す。

「それじゃあお邪魔します」

 

「よっと!」

それに続いて四季映姫さん、天魔さんが隙間から飛び出す。全員準備していたのか靴は脱いでいる。

これで靴脱いでなかったらその場で靴だけ撃たれてたでしょうね…私の視線の横で機関銃を構えるお燐がですけど。

 

「お燐、落ち着いて」

 

「へえ…ここがさとりの家なのですね」

 

さらにもう一人の声が聞こえる。妖怪ではない。でも人間からは逸脱した力を持つ少女。

 

「廻霊さんまで登場ですか…これはこれは」

 

かなり大事な話なのでしょうね。ふむ…私を混ぜるまでもないようななんだか場違いな気になるのですが…

そんなことを思って身構えていたら映姫さんが早速にとりさんに説教をし始めた。

元々の性格もありますけど閻魔になってから強くなってるのでしょうかね。

地獄に彼女が行ってから一度もあったことないので分かりませんけど噂では説教する地獄からの使者がなんとか…

 

「あの、紫…かなり重要なことのようですけどこんなところで話してもいいんですか?」

 

「ええ、問題はないわ。それにこの家の外と中の境界をいじらせてもらったから音は漏れないし視認することもできないわよ」

 

あ…無策というわけではないのですね。

やはりこういう時は能力を使いたくなりますけど…能力を使うのに恐怖している私ですからそんな簡単に使えるわけではない。

自分の能力に恐怖してる妖怪って妖怪失格な気がしますけど…

 

おっと今はそんなことどうでもいいことでした。

「それじゃあ…全員カレー食べます?」

 

「押しかけた身で申し訳ないのですがお願いします」

 

「あ、俺もいる!」

 

「それじゃあ私も…」

 

えっと巫女さんは…

 

「言わなくても分かるでしょ?もう二日も食べてないのです」

 

ちょっと!どうしてそんな貧乏な生活してるのですか!っていうかだからさっきから静かに過ごしてたのですか⁈

 

冬の備蓄くらいして欲しかった…あ、でもあの閑古鳥が鳴く神社じゃ無理か。

 

「だって…娘に食べさせたら私の分ないのですよ」

 

「あれ、もう産んでたんですか?」

 

「違うのです!この前狐が連れてきた子を養子で引き取ったのですよ!」

 

なるほどそういうことでしたか。あの子を養子で引き取るとは…でもどうして弟子にしなかったのでしょうね。

まあ、廻霊さんの考えることですから何かあるんでしょうね。

 

 

 

「あ、そろそろあれが出来てたかな」

 

話を遮るようにこいしが台所の方に駆け出す。話と一緒に空気すら壊していった気がしますが気にしない気にしない。

 

みんながしばらく無言になってしまってますけど私はどうしようもないです。

 

「じゃじゃーん!プリンだよ!」

 

悪びれもせず戻ってきたこいし。でもその手にあるカップを見て何人かの目の色が変わった。

 

「これはお姉ちゃんの分ね。それで…数が足りないんだけどどうしようかな」

 

こいしがもって来てるやつで全てらしい。その言葉に後から来た妖怪さん達が悲しい顔をする。

 

「私は確定で…にとりさんも確定で…お燐は…「欲しいです」そっか、じゃあ遅れ組は無しね」

 

さらりと死刑宣告のようなことを言ってのける。

残酷過ぎる…まあ自業自得ですけど。

天魔さんも紫も絶望のどん底みたいな顔しちゃってる。

 

あの…プリンでしたら今度作りますし必要があるなら作り方も教えますから…

 

「……なんで悲しんでいるのです?」

 

廻霊さんだけ状況を理解できず固まってしまっている。

一応軽く説明だけしておく。

初めは何のことだという表情だったけど途中から私も欲しいみたいな表情が出てくる。

 

あ?でもあげませんからね。遅れたあなたたちが悪いんですからね。

遅れたというか…覗き見してたって言った方が正確ですけど。

 

あ…泣き出しそう…天魔さんは…すでに泣いてるし。

 

「ま…まあ……カレーならまだありますから…」

急に罪悪感が出て来てしまい逃げるように部屋から出る。

カレーで機嫌を直してくれるといいんですけど……

 

 

 

カレーを用意している合間なにかバタンバタンと妙に煩かった。

なにを全員で騒いでいるのでしょうか?全く…近所迷惑ですよ。

 

「あ…お姉ちゃん」

 

お盆に料理を乗せて運んでいると廊下の角でこちらをチラチラとみるこいしの顔が見える。一体何をしているのでしょうか。

 

「こいし?廊下でどうしたの?」

 

「えっと……その、なんでもない」

 

「……なにがあったの?」

 

挙動が不審すぎる。何かを隠しているのは明らかです。一体何をしでかしたのでしょうか。

 

「なんでもないよ!」

 

私の追及から逃げ出したこいしを追いかけ部屋に行く。

 

「あ…さとり…早かったわね」

 

扉の近くにいた廻霊さんが私が入ってきたのに気づいた。

だけどなんだか挙動不審。

部屋にいる面々を見てみるが…みんなして私から目を逸らす。

一体どうしたのでしょうか?

ってこれ隠す気ないですよね?絶対何かやらかしましたよね。

 

「あの…」

 

「……あ、言わなくていいです。今から当ててみせますので」

 

何か言おうとした天魔さんの言葉を止める。

せっかくですしちょっと頭の体操になにを隠しているのか当てて見ましょうか。あまり変わったところはなさそうですけど…

 

それにしても全員静かになっちゃってますねえ。

それと閻魔なのになに変なことに足突っ込んでるんですか?

それほどまでに大事…いや突っ込まざるをえなかったこと…

そのまま思考と観察を繰り返すこと5分。

やっぱり足りない。

 

ああ…そういえばあれがなかったんですね。

 

「もしかして…紫と天魔さん…後廻霊さん私のプリン食べました?」

 

「えっと……はい」

 

なんだそんなことでしたか。別にあんな挙動不審にならなくても良かったのに…なにがあったのかと勘ぐってしまったじゃないですか。

 

「蓋までつけて隠しておいたのに…」

 

「隠蔽するのは良かったのですが…目線に流されてますよ。天魔さんは私がプリンに目線がいったときだけ瞬きを3回してますから」

 

「それだけで分かるのかしら?」

 

「紫は…口元を扇子で隠すのは良いですけどその分手持ちぶたさの手をどうにかしてください。プリンに意識を動かした途端中指をしまうのはクセですか?」

 

「まさかそこまで見られてたとは…」

 

だって全員わかりやすいんですもん。

もう少し態度に出さない方がいいと思いますよ?

少なくとも挙動不審なせいで何かを隠していたという事実すらバレてしまってますからね。

ほとんどこいしですけどね。

 

「多分映姫さんは口封じで食べさせられた…ですよね?」

 

「そ…そうです」

 

この人だけ凄い気まずそうな顔してましたからね。絶対これ巻き込まれたなというのは分かってました。

 

「お姉ちゃんごめんね。止められなかった」

 

「気にしてないからいいわよ」

 

謝ってくる妹の頭を撫でて慰める。

 

あ…言っておきますけど泣かせたらギルティですからね。今回は泣かなかったので許しますけど…

 

 

 

こいし泣かせたら許しませんからね。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。