古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

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脱衣所で衣服を脱ぎ改めてお風呂場に入ってみればその湿気加減がよくわかる。

肌がすぐにしっとりとしてなんだか心地悪い。

それが嫌だった私は早足で鏡の前に行く。

湿気で曇ってしまっている姿鏡にはなんの人影も映らない。仕方ないとはいえなんだか残念な気分だ。

 

その嫌な気分が心地の悪さと相まって不快感を出す。全てを洗い流そうと鏡の上にあるホースの先からお湯を出す。

鏡の上にあるホースの先からお湯を出す。

さとりによればシャワーというらしいそれで一度体を一気に洗い流す。嫌な気分が多少は良くなったみたいだ。

 

ふと後ろを振り返ると、湯気を出している浴槽が目に入る。さとりによればそこに体を浸して温まるのだとか。本当かどうかは懐疑的。でも興味がないわけではない。

だから思い切って入ってみる事にする。でも少し怖いから足からゆっくりと。

あら、なかなか良いものね。

熱しただけのお湯だというのに、いざ体を入れてみればなんともいえない心地よさがある。

「なかなか良いものじゃない」

 

「そうでしょう」

 

すぐ隣で声がする。

 

「そうね……ってさとり⁉︎なんでいるの⁉︎」

一瞬当たり前のようにそこにいたさとりに普通に話しかけてしまうが思わず声を荒げる。

 

「いちゃダメでした?」

 

向かい合う形で何も見に纏っていない完全な裸体をさらす無表情。私だって身体にちゃんとタオルを巻いているのに…

 

「恥ずかしいじゃないの!」

 

「風呂って普通こういうものですけど?」

 

どこの常識だ!普通裸体を誰かにさらすなんてことないわよ!まさかさとりの地域はそうだったの⁉︎あれ冗談じゃ無かったの⁉︎

私が取り乱していると、背後に気配を感じる。

「わたしも居ますよお嬢様」

あんたもかーい!狐まで裸で入ってきやがった。まさか本当なの?

 

「なんであんたまで入ってきてるのよ!」

 

「お嬢様の体を洗おうかと思いましてね。そしたらさとりがどうせなら一緒に入ったらどうですかって」

 

さとり…あなたね……

 

静かに入ろうと思っていたのに全然ダメじゃない。あと前くらい隠しなさいよ!

「レミリアさん、普通タオルは湯船に入れませんよ」

 

知らないわよそんな常識!ここでは私がルールよ!

ともかく前を隠してほしいわ。はしたない…

「あの…あたい…入って大丈夫ですか?」

 

また別の声がする。今度は入口の方だ。入ってこないでと手で追い払おうとしたがそれを遮るようにさとりが前に出る。

「いいわよお燐」

 

「勝手なことしないの!」

 

「じゃあ…お邪魔します」

ああああ!なんで入ってくるのよ!猫も狐もマイペースね!

なんかもういいわ。突っ込むのも疲れるわ…

さとりの居たところってこんな感じだったのね…生まれなくてよかったと思うわ…1人でゆっくり入りたいわ。

 

 

……ってそうじゃなかった。

せっかくみんな集まったのだしもうここで言っちゃいましょう。少し気が引けるけど黙ったままというのも悪いわ。

 

「……聞いて欲しいことがある」

 

覇気を込めて放った言葉が全員の動きを止める。

ようやく静かになったな…って狐よ…その手はどこに行こうとしていたのだ?すごく気になって仕方がないのだがどうしたら良いのだ。

 

「…重要なことですよね」

 

「さとりは鋭いのだな」

目を瞑ったまま何かを考える彼女の思考はよくわからない。でもまあ…悪いことを考えているわけではないだろう。

 

 

「話すとしよう……」

 

「話すって…性癖のこと?」

おい狐、貴様の思考回路は汚染されているのか?後でしっかり治さないといけないようだな。なに?顔が怖いって?当たり前だろう…私は今ものすごく怒っておるのだからな。

 

「そこの変態狐は処刑だ」

 

「酷いですよ!」

 

なるほど、ギロチンは嫌なのか。なら首折で行こうじゃないか。失敗したら苦しいがな。

 

「はいはい今はおいておきましょう」

 

さとりに諭されては仕方がない。

それにお燐が困惑してしまっているな。悪かった…それじゃあ本題に移ろうじゃないか。

「そうだったな…話と言うのは私の妹のことなのだが…」

 

改めて言おうとするとどうしても言葉が詰まる。本来なら私がどうにかしなければいけない事だし、他人の手を借りるしかない自分が悔しい。それでももう借りると決めたのだ。ここは私が折れる…それがあの子の為でもあるのだから。

 

「すまない。二人の手を貸してくれないか?」

 

片方は癪に障って仕方がない狐だが…

 

「頭をあげてください」

 

「フランさんのことでしたら分かっています。もちろん協力しますよ」

 

「なぜ…」

なぜ彼女の名前を…私は一言も妹の名前なんて言った覚えがないぞ。

「名前を知っているか…でしょ」

 

無表情の奥に、彼女の笑顔が見えた気がする。人目にはわからない。だけどなんとなくそう感じた。

「さとり…あまり惑わさないほうがいいと思うけど」

さとりの後ろにいつの間にかいたお燐が呆れ顔でそう言う。よくわからないけれど…いやもしかして彼女の種族に起因することなのだろうか。

 

「ほほう…なんとなく察しはついていたけど…覚り妖怪だったんだね」

 

狐が先に気づいたようだが…覚り妖怪?彼女の名前がそのまま種族名になっているのだろうか?それにしても聞いたことがない。いったいどのような妖怪なのだろうか。

 

「そういうあなたも本当は……いえ、言わないでおきましょう」

 

狐に何か感じ取ったのかなにかを言いかけてやめたさとりに懐疑的な目線で訴える。

狐は確か…父上の時代からのメイドだが…

確かに彼女の素性はよくわからない。だけど一体なんだと言うのだろう…

まあ、この際聞かないでおこう。

 

「さとりと狐がなんであるかはこの際問わないわ。ともかくフランを助けて欲しいの。なんでもするから」

 

「フランの状態を見ていないのでなんともいえませんが…協力します」

「ん?今なんでもするって…」

そう言いかけた狐はさとりの手刀で湯船に沈んで行った。確かになんでもすると言ったしそれを撤回することはしないのだが…なぜさとりはそんな殺気を出したのだ?

 

「それにしても…さとりや彼女が呼ばれた理由がわからないねえ」

 

ずっと黙っていたお燐が否定的な事を言い出す。たしかにあなたの主人に無理なことを強いているのだから強く反論はできない。だがわたしには見えているのだ。この先の運命が…

 

「運命の糸が呼び寄せたのよ」

 

「は…はあ」

まあそう言われても仕方がないわよね。まあこのくらいなら教えてあげてもいいわ。どうせ知ったところで弱点にも欠点にもならないのだからね。

「そういえば言ってなかったわね。私の能力は、『運命を操る程度の能力』なのよ」

 

「運命?」

 

ピンときていないようね。まあこの能力は少々特殊だから分かりづらいのも無理はないわ。

「運命とは定められた行く末。それでも不確定であり常に変わり続ける。それらを常に見てある程度まで操ることができるのがこの能力よ」

 

それでもよくわからないのか首を傾げている。その度にお湯の中でゆらゆらと揺れるあの胸がなんとも羨ましい。一体何をしたらそんなに大きくなるのだろう。

「すぐにわからなくてもいいわ」

 

そういえば何か忘れているような……

そう思っているとすぐ隣に、誰かが浮いてきた。その背中と濡れた髪の毛。

「狐⁉︎」

そういえば気絶して湯船に沈んでいたんだった。これはやばいかも…い…生きてるの?

 

「すぐにお湯から上げて床に寝かせて!」

 

このままじゃまずいと判断したお燐が叫ぶ。そこまで叫ばなくても…このくらいでくたばるほどヤワじゃないわよ。

「全く…完全に伸びちゃってるじゃないかい」

 

「平気よ。そのうち治るわ」

 

気にしすぎよ。そもそもグングニルを腹に食らってピンピンしている狐よ。多少窒息してもなんでもないわ。

「それじゃあそろそろ上がるわ」

 

「はいはい、じゃああたいも出ることにするよ」

 

狐を肩に担いだお燐が付いてくる。

「そういえばその妹がどうのこうのってどう言うことだい?」

 

「話せば長いわ。私の妹、フランドールは…生まれつき体質のせいで外に出せないの」

 

「出せない?出したらどうなるんだい?」

 

「惨劇の始まりよ」

そんなこと、絶対にさせない…彼女の手を無用な血で汚させたくない。

「惨劇……一体どうして…」

 

「あの子は生まれ持っての能力とその代償としてとてつもない狂気をその身に宿しているの」

 

本当の正体はなんなのかはわからない。だがあの狂気は確実にフランの精神を蝕んでいる。このままだと長くは持たないかもしれない。

「狂気……」

 

「思い当たる節があるみたいね」

 

「あたいは猫だからね…生存本能がずっと警告してくるんだよ」

なるほど、そう言うことだったのね。さすが猫。

 

そういえばだれか足りない気がするのだけれど…誰かしらね。

えっと…お燐と、狐と……さとり

「あら?さとりは?」

 

そういえばさっきから妙に静かだと思ったらさとりがいなかった。まだ風呂に入っているのかしら?

「え?そこら辺にいないのかい?」

 

お燐も知らないのかしら?

あれ?本当にどこ行ったのよ。

「風呂にはいないの?」

 

「あたいが確認したときにはいなかったけど」

 

……まさか…嫌な予感がするわ。

「さとり⁉︎どこに行ったの!」

 

さとりを呼ぶが、どこからも返事は来ない。

本当にどこに行ったのよ!

「美鈴!さとりがどこに行ったか知らない⁉︎」

 

美鈴が脱衣所に入ってくるがさとりの行き先を知っている様子はなさそうだ。

「さとり様ですか?でて来たところは見ていませんが」

 

く…一体どこ⁉︎まさか……フランの部屋⁉︎

不安が焦りに変わる。いてもたってもいられずその場から走り出す。行き先はわかった。おそらく彼女はなんらかの方法で彼女の場所を知ったのね。追いかけなきゃ!今日は特にやばい日なのに!

「ちょっとお嬢様お待ちください!」

 

「ええい!さとりがフランのとこに行ったのよ!」

 

「まず服を着てください!」

 

……え?あ…焦りが急速に羞恥に変わる。

早く服着なきゃ…

 

「あの…あたいらの服はどこに」

 

「それでしたら洗濯にだしましたけど」

 

ちょっと美鈴!早く変えをもって来なさいよ!いつまでも裸でいさせないで!

 

 

 

 

「さてと…確かこっちですね」

 

大図書館に続くあのダンジョン。その中に分岐点はある。

奥へ進む足取りが止まる。

巡回中のクリーチャーがそろそろ来るはずだ…一旦横道に逸れる。

こんな感じにダンジョンを進むこと数分。半乾きだった髪の毛ももうほとんど乾いた頃に目的の場所が見えてきた。

レミリアの記憶が正しいままであればこの先…右側の扉の先が地下の部屋に続く扉だ。

 

「さて、行きますか」

 

今更後には引けない。

扉を開けてその奥に体を進める。

 

扉の先は手すりのない螺旋階段。下の方は暗くてよく見えないがかなりの深さだ。

全く…危ない構造ですね。

それにしてもここは他と違って赤いレンガじゃなくて石造りになってるんですね。なんだか暗い印象だと思ったらそういうことですか。

いちいち階段を降るのも面倒なので真ん中の吹き抜け部分から降下していく。

 

変わり映えの無い景色が延々と続く。まるで奈落…いつまでも続いて終わりの無い心の穴のようなそんな感じ。

でもここは現実だ。必ず終わりはくる。

 

床が見えてくると、周辺に設置された蝋燭台に自動で明かりが灯る。蝋燭のものでは無い……魔法特有の揺らめきがない無機質な明かりだ。

 

その明かりに照らされてぼんやりと一枚の扉が見える。

重厚な作りの周辺とは裏腹に、そこだけがまるで城の一室であるかのような綺麗に飾られた扉。

こんな凝った作りであるならほぼ間違いない。それにさっきから放たれるこの狂気の渦…扉一枚隔てていてもこんなに強く感じ取れるからお燐が地上で感じ取れたのだろう。

それはさておき、ノープランノーアタックだけれど…大丈夫だよね、今になって少しだけ心配になってきた。

原作知識なんて捨てていこう。とは最初の決意の時にしていたのだが、やはり知識も少しはアテにしようかと思い直す。特に意味はないけれど…

 

それに完全にノープランというわけでもない。ある程度の予測は立っているし狂気に対抗する目処も立ててある。ただ、パチュリーの大図書館で心理学に関する本に目を通しておけばよかったのですが……まあ今更悔やんでも仕方がないです。さてこんな扉の前でうじうじ悩んでいる暇も残ってないです。

扉に手をかけゆっくりと木の板を押す。

 

「失礼します」

 

入り込んだ部屋は、外側とは180度変わって綺麗な壁紙と、ふかふかの絨毯によって暖かみのある世界だった。

幼い少女の部屋。部屋の隅にはクッションと沢山のぬいぐるみ。

「だあれ?」

それらとは反対側…かなり大きなベッドがある方から声がする。

視線をそっちに向ければ、金髪の髪に白いシャツ、赤色のスカート着た少女がこっちを見つめていた。

 

見た目は普通の少女…だけどその赤い瞳と背中に生えた棒のような独特の羽…そこからぶら下がる七色の宝石のようなもの。

それが人ではない事を静かに示している。

そしてその体から溢れんばかりのその狂気の渦…少し気を抜けば一瞬にして飲み込まれ、精神を破壊しかねないものだ。

これからアレをどうにかしなければならないとなると少し気が重い。それでも……助けを求めているのであれば…

「はじめまして…」

吸血鬼の妹……助けに来ましたよ。

 

 

 

 

「あれ?すいません。ナイフがいくつか無くなってるんですけど…」

 

「洗浄台のところにないの?」

 

「いえ…ありませんけど…」

 

「おかしいわね。一体どこに行ったのかしら」

 

この後地下で何が起こるか彼女たちは想像すらできないであろう。

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