古明地さとりは覚り妖怪である   作:ヒジキの木

8 / 249
depth8.続、さとりと鬼と少しの戦い

季節が変わるのは早いもので紅葉の時期ももう終わりに近づいている。

 

宴会が行われてから数日、特になんだと言うことは無く平穏な日々を過ごしている。

と言うより、完全に私が家から出てないだけである。

 

原因は分かっている。

 

異常に寒いのだ。最近一気に気温が下がったせいで寒くて仕方ないのだ。

特に朝晩の冷え込みが酷い。

だからなのか昨日なんて夜通し囲炉裏のところで暖をとりっぱなしでした。

 

「今年は寒波でも来てるんですかねえ…」

 

私の声に反応するかのようにパチパチと囲炉裏の中で火花が跳ねる。

 

少なくとも前まではこんなことは無かった。

そりゃここに来てから日が浅いのでこう言うこともあるのかと最初は思いましたがそう言うわけでも無いみたいです。

 

里の人たちもこの寒波は想定していなかったらしく冬支度が間に合わないだとかなんだとか言って結構ざわついていた。

 

膝の上でもぞもぞと黒い毛玉が動き出した。

二股に別れてきた尻尾がゆっくりと私の腕を撫でる。

結構くすぐったい。

 

(せっかく晴れたんだし外に出たらどうだい?)

 

「そうですね…晴れているのなら、昨日よりはマシでしょうか」

 

うん…せめて山で色々と採取しないと来年が辛いってことだけは言えます。

 

思い立ったら直ぐに動くことにしよう。

囲炉裏の上であっためておいたコートを羽織りサードアイを内側に装備した袋に入れるように隠す。

前回茨木さんに少しだけ見えたと言われたので隠す専用に新たに袋を追加するなど改良を施していた。

まあこれも家から出られなかった原因でもあったのですが…

 

(ふーん…じゃあ留守は守っておくよ)

 

「お願いね」

 

一応の為に火を消しておく。この時代火事なんて起こしたら本当に大変なことになってしまいますから。

 

今度火消し用の消火装置でも作ろうかな…

 

うーん…この時代の装備でできるのもなんて限られるからなあ…河童の技術を頼ろうにも里の人がそれを認めてくれるとは思わないし

 

開発意欲に駆られながら冷気が隙間から放たれる玄関の扉をゆっくりと開けた。

 

ビュゥッと扉で止められていた冷気が流れ込み私の体を包み込む。

 

体が一瞬震える。

まだ日の登り切ってない里の通りは人もまばらで静かであった。

唯一する音と言えば風のなびく音か時より見かける人の足音くらい。完全に別次元のような感覚に陥る。

そんな通りをどんどん進み里の出入り口に行く。

 

 

この里の周囲は一応妖怪避けの結界を張っている。その為ちゃんと正規ルートを通らなければ里に入ることはできない。

 

入ろうとしても同じところをぐるぐる回るだけでものすごい空間が捻れてるのかと思った。

実際には思考の一部が結界に干渉されて方向転換させられているだけだったのだが……

 

まあ正規のルートで入ったなら大暴れしなければ大丈夫と言う、なんとも妖怪に寛容な里なのだと思う。

 

寛容なのと恐れないのは全く別の感情であるのだが…

 

里の出入り口で手続きを済ませ山に向かう。

 

ある程度進んだところで周囲を確認。周りに誰もいないことを確認し飛び上がる。

 

高度を上げていくと山に隠された太陽が顔を覗かせ眩しい光が視界を包む。

 

冷えていた体が少しづつあったまってくる。

 

 

 

こんな寒い時でも天狗は律儀に哨戒を怠らないらしい。

 

下の方から急上昇してくる影を捉える。あれーもしかして私の方に向かっている?

 

「おい!これ以上先は許可がないと入れんぞ!」

 

えー…なんでこの白狼天狗はこんなにプンスカなんですか…

柳君の部下じゃまずこんなことしない…それにどこか幼いように感じる。

まさか新人さんですか…

 

「あの…一応許可は貰っているのですが」

 

「証明は可能か?」

 

懐から木製の判を取り出す。柳君によるとこれが証明がわりになるのだとかなんだとか。前の宴会の帰り際にヒョイっと渡された。

あのヒト優しいんですよね。内心は知りませんし知るつもりはないですけど。

 

「……失礼した」

 

「いえいえ、哨戒任務お疲れ様です」

 

素直に引き下がってくれて助かりました。あれで押し問答されちゃうともう大変なことになりますからね。

あ、そうなったら今度は鬼の名前でも…いや、余計ひどい結果になるな。

 

 

採集というとキノコとか山菜とか木の実とかを取ってくるイメージが基本的なのかも知れない。

 

まあそれもそれでとっておいて問題はない。特にキノコは保存がきく。

ただし今私が求めているのはあまり採られない事が多い。

と言うかこの時代に水晒しによる精製方法があるのかどうか怪しい。

 

 

地面に降りてお目当のものを探す。もちろん周辺の警戒は怠らない。

紅葉で彩られた地面の上にお目当のツルを見つける。

 

枯れかかってはいるがそのツルは10メートル程の木に巻きついて長々と成長していた。

 

ツルの根元を手で探って行き地面を軽く掘り返す。すぐに根茎がチラリと顔を覗かす。

手に妖力を込めて地面から根茎を引き抜く。

地面がめくれ上り腕とほぼ変わらない程度の大きさの根茎が掘り起こされる。

 

葛ゲットだぜなんちゃって

普段たくさん自生していても採集するとすごいかさばるんですよね。その割には精製すると殆ど残らないので貴重な食料です。

 

 

ある程度掘り起こし終わってから手の汚れを払い移動する。一瞬見られているような感じが体を駆け巡る。

 

哨戒の天狗か噂好きの奴か…または…

 

 

気にするまでもないですね。

ある程度木々が開けたところで再び離陸。

周りの紅葉が一斉に舞い上がる。

 

普通に地上を歩いても良かったのだがここら辺の食料は天狗とか河童とかが回収する分がほとんどなのであまり手出ししたくない。葛は完全に例外です。だって向こうが完全に見向きもしない植物ですから

 

後は甘味料…

 

この時代砂糖なんて無い。砂糖はもうちょと後に唐から持ち運ばれたのが最初ですし本土でサトウキビが生産されるようになったのは江戸。

それまではアマズラとか飴とかそう言うので甘味は代用されてました。

 

 

前からちょくちょくとマークしていた場所に来る。マークしているって言っても様子を何回か見に来たってだけですから誰かが採ってたら諦めます。

 

目的の場所はあまり離れていないのですぐに到着した。

 

取り敢えず地上に降りて草木を確認。

やっぱり刈り取られているのか前にきた時よりも数が少ない。と言うか殆どない。

 

「確かここら辺に自生していたはず…」

一応残ってる分を見て見たがあまり成長していないものばかりだ。

 

「ごめんね。その辺りのアマズラはもう採取しちゃったんだ」

 

まあ仕方ないかなと諦めかけ空に飛び上ろうか悩んでいる時だった。

不意に横から声をかけられる。

 

ああ…こんなに接近されるまで気づかないとは…注意がおろそかになってました。

 

同時にほんのりと甘い農作物の香りが漂ってくる。

 

振り向くとちょっと離れたところに金髪の少女が二人こっちを見ていた。

片方は赤色、ただし下に向かうと黄色のグラデーションになっているワンピースのような服。

もう一人は正直言って分からない。欧州の民族衣装に近い服なのだが豊作物の飾りがすごいついてる。

 

「秋姉妹…」

 

 

相対的な二人の姿に思わず口走ってしまった。

 

確かに秋だからいるんじゃないかなとか思いましたよ。今まで八百万の神特有の気配は何回か感じたことはありましたけどお目にかかるのは初めてです。

 

 

そのとたん妹の方がこっちにすっ飛んできた。

 

「なんだ!知ってるのね!やった!やっぱり私達存在感あったってば!」

まさかの握手。どんだけ存在感アピールなんですか。

 

「いやいや…落ち着きなさいよ」

 

ワンピースの方がなだめるように離れた位置から制止を呼びかける。

警戒されているのでしょうか。まあ確かに初対面ですけど…

 

「ええ、落ち着くべきですよ。秋 穰子さん」

 

なんだかちょっとだけ驚く顔を見たくなった。

少しだけ悪戯してもいいですよね。

 

「…マジで⁉︎やったよ!お姉ちゃん!名前まで知ってる人がいたよ!」

 

「……まさか、私達が祀られてた頃を知っているの?」

 

これには姉も驚愕した顔を見せた。

ふむ…

「いえ…私はあなた達が祀られていた頃には生きてませんよ」

 

更に驚愕。姉妹で驚愕するポイントが異なっているのがまた面白い。

姉は私の奇妙な発言に、妹は名を知っていると言う事実…

 

おっと…悪戯し過ぎも良くないですね。

 

 

「まあ、風の噂です」

 

「噂ねえ…まさか私達の噂が…ふふふ…」

 

あ…静葉さんがなんか笑い始めた。

 

「あの…アマズラがここにもう無いってどうしてですか?」

 

「ああ、それね。私達が刈り取ったの!」

 

え?あなた達が刈り取ったのですか⁉︎

えー……

「だってこれ里とか天狗に売りにいくんだもん」

 

な…なるほど…売り込みに行くのですか…

神様も大変ですね。まあここら辺まで人間はむやみに入ることは出来ませんしそう里の人にとってはありがたいかもしれませんね。

 

天狗側も採集に人員を割らなくて済むって言うメリットがありそうですし。

 

「それにしても葛を取るなんて珍しいねえ。それ美味しい?」

 

穣子だ。

 

どうやらこの時代は粉にする方法は無いようだ。

 

「まあ非常食としてですよ」

 

適当にはぐらかしておくことにしよう。葛粉は作るのに数日以上かかりますから教えるのが大変ですし二人にそんな時間はなさそうですし。

 

「へえ…見てみたかったな…それどうやって食べるのか」

 

穣子さんがっつきがすごい。まあ確かに豊作物ですけど…あーほら静葉さん嫉妬してますやん。

 

「ね…ねえ…食もいいけど景色は楽しんでいるのかしら?」

 

私が見つめていたのに気づいたのか静葉さんが強引に話題を変えてきた。

強引すぎてなんとも言い難いですけど。

 

「ええ、楽しんでますよ」

 

今は寒いのであんまりですけど

 

「そ…そう。ならよかったわ」

 

「それにしても急に寒くなってきましたね。この様子だと雪紅葉でも見れるんじゃないでしょうか?」

 

「多分このままの天候なら雪紅葉見れると思うわよ」

 

私の問いに姉が素早く応じる。

やはり景観は姉の役割なのだろう。

 

「まあ確かに…今年は活動期が短くなりそうで困るわ」

 

「確かにねえ…あ、そろそろ行かないと」

穣子さんが思い出したかのように飛び上がる。

 

「おっと、引き止めて申し訳ないです」

そういえば仕事中でしたっけ。あまり長く引き止めるわけにはいきませんね。引き止める理由もないですし私もまだ採集がおわってないですし。

 

「それじゃまたね。あ!名前聞いてなかった…あなたの名前は?」

 

「古明地さとりと申します。まあ…ただの妖怪ですよ」

 

「へえ…さとりさんね。覚えておくわ」

 

「うん…さとりね。今度会ったら一緒に果物取りに行かない?」

 

「え?ええ…喜んで」

 

まさか穣子さんから誘われるとは…なんか静葉さんイラってなってますよ。

「ねえ?もしよければ今度紅葉狩りでも行かないかしら?綺麗なところに案内するわよ」

 

あはは…対抗心燃やしてますね…

このままだと何だか雰囲気が悪化しそうですので…ここはひとつ

「それでしたら今夜でもいいですよ。このまま二人についていきますんで」

 

「え?」

「いいの?」

 

お二人とも何驚いているんですか?そんなに私人付き合い苦手そうに見えますか?

 

そりゃまあ、無表情なのは認めますけど…

 

「それじゃ行こうか」

 

そう入って穣子さんが私をエスコートし始める。

まあ秋の実りはこの人ですからね。

 

「そういえばそんな沢山葛持っちゃってて重くはないのかしら?」

 

「全然平気ですよ」

 

「……そう」

 

し、静葉さん落ち込まないでください。

重くないのは事実なんです…

 

飛び上がってからしばらくすると下からもう一人上がってきた。

この気配は、柳さんですか。

 

 

「あら?白狼天狗かしら?」

 

静葉さんも気配に気づいたようだ。

 

「なに?お姉ちゃん。白狼天狗がどうしたって?」

穣子さんが反転してきた。まあいきなり警備の人が来たらビビるだろう。

 

案の定こっちに向かってきたのは柳だった。

 

「…おや、大分珍しい組み合わせですね」

なにやら探るような目つきで睨んできた。何か悪いことしましたっけ?前回の宴会の時にそう言えば勇儀さんと飲んでたな…まさかその時のことでしょうか。

 

「珍しいというか初めての組み合わせですよ」

 

本日はどのような要件で合流してきたのか気になるところですが…生憎こちらとて暇ではないので余程の要件は無視しようかと。

 

「えっと…知り合いなの?」

 

「ええ、知り合いです」

 

「……」「……」

 

なに意外みたいな顔してるんですか二人とも。結構心に響くんですからね。

うう…酷いです。

 

「と、ところで…仕事中の白狼天狗がなんで私達のところに来たのかしら?」

 

空気が悪くなったのを感じたのか静葉さんが柳に話題を振る。

別に私は悪くなってはいないのだが…人の考えは人それぞれ。

 

「ただの仕事だ」

 

「お仕事お疲れ様」

 

仕事中にわざわざ声をかけてくるなんて…臨検でもやる気なのでしょうか。それはそれで困るんですけど。

 

「言っとくけど私達は怪しいことは何もしてないわよ」

 

……そこに私は入ってないみたいですね。

まあ会って一時間も経ってない他人ですからしょうがないね。

 

「ああ、まあ…失礼したな」

 

そう言い残してすれ違うように飛び去っていく。

すれ違う一瞬私のフードの中に何かが入り込んだ。

すぐに気付く。何か用があるなら言えば良かったのにと思うがこんな形で渡してくるということはあまり私以外に知られたくないものなのだろうと思い、その場は知らないふりをする事にした。

 

その後も何かあるのではないかとある程度警戒はしていたものの目立ったことは起こらず、夜になって酒が飲めない私の代わりだとか言って秋姉妹が飲みまくって酔潰れるという珍事が起きたりはしたもののそれらを書いていたら長いのでここは省略するとしよう。

 

もちろん秋の神様は色々溜まっていたのかある程度酔いが回ってきた途端めちゃめちゃ荒れた。

 

 

 

「……さて、葛粉の作り方も教えておいたし他にやる事は…無いかな」

 

色々とあって嵩張ってしまった荷物を持ち寝ている二人を起こさないように立ち上がる。

 

 

さて、昼間に渡されたものはなんだったのか…

 

改めてフードから取り出す。

小さな和紙のような物が丁寧に折りたたまれていた。

 

連絡でしょうか。

折りたたまれた紙を丁寧に開いていく。

 

 

『連絡、偶には二人で会いたいと酒呑童子から。二日後、山中で待て』

 

うわ…萃香さんからのトンデモ誘いだ…なんか嫌な予感がするっていうかヤダ行きたくない出たくない。

 

 

 

……そうだ、旅に出よう。

萃香さんには悪いですけど少し遠くに行きましょう。

ええ、その方がいいです。

 

 

『追伸、交際相手が出来ました』

 

………おめでとうごザイマス。

パルパル…

 

……はッ!危ない危ない。思考がトリップしてた。

 

最後の追伸は関係ないでしょ…なんですか彼女って…部下ですか?まさか部下に手を出したんですか⁉︎それなら見損ないました。

 

いや何を期待していたのかとかそういうことじゃなくて…

いやいやむしろそんなことはどうでもいいわけで、私にとっての本題はその前だ。

 

個人的に話したいとは一体どういうことなのだろう。

うーん…思い当たる節は茨木さんですよね。

うん、萃香さんの件は仕方ないので会うとして…その後ですね。

 

あまり長く居座ってボロが出るのは嫌ですし…

茨木さんは気にしなくていいって言ってくれたけど……生き物の感情はそう簡単に変わってはくれないのです。

 

うーん…あ、そういえばそろそろあの時期でしたっけ。なら、この際気分転換も兼ねて旅にでも出ようかな。

 

うん、そうしよう。

 

どんよりと曇って来た夜空。闇が周りを覆い隠して私の帰路は誰にも見られない。

「今年の冬は大変そうですね」

 

 

 

 

 

2

 

 

鉛色にどんよりとした空が地上を圧迫しているような感覚に嫌でもしてくれる。

夜のうちに悪化した天候は好転することもなく今の今までズルズルと続いている。

低気圧のせいか気がのらないのか朝から体が怠い。いやだるいというよりかは鬱に近いかもしれない。

 

私の気分も空模様と同じく重りとなって体を布団の上に留めている。

 

(さとり…そろそろ行かないといけないんじゃないのかい?)

 

「そうは言われましても…気が乗りませんし夕刻に行っても問題はないんじゃないですか?」

 

猫さんが珍しく急かしてくる。なにかあったのでしょうか?それとも動物としての本能なのか……

まあどちらにせよ私にはあまり関係のない話。

内容は関係あっても経緯は関係無い。

 

(そらそうなんだけど…早めに行ったほうがいいと思うよ)

 

それは動物の勘ゆえのものなのか。それとも……

 

「留守中に誰か来たんですか?」

 

昨日帰った時点で猫は既に寝てしまった為私は昨日家での事をまだ知らない。

寝ている者の思考など読めるほどさとりは万能ではないのだ。

 

(まあ…萃香さんが来てね)

 

あらまあ珍しいこと。まさか萃香さんが猫さんの方とコンタクトを取るなんて。

へえ…それで私の正体を言ったと……

 

「まあ向こうも確信を持って来たんでしょうね。理由はなんであれ、無事でよかったです」

 

鬼の機嫌を損ねればそれこそ大変なことになる。

私の大切な飼い猫だと分かっていても突発的感情で手を出してしまっていたかもしれない。

無事でいてくれるだけありがたいです。

 

お腹の上に乗って来た猫を撫でて続きを尋ねる。

 

(うん…なんかいろいろ聞いた後帰ってった)

 

ああ…今までのこと全部言ったのですね。まあ別に隠すことでも無いですからいいですけどね。

え?普段喋らないだろって?そりゃ私の過去話なんて武勇伝でもないただ見捨てたり逃げたりしてきたものじゃないですか。

言うようなものでもないです。

 

「気にしなくていいんですよ。私は別に隠してなんてないんですから」

でもまあ…知らない方が楽だったかもしれない事ですけどね。

 

さて、あまり乗り気ではない思考のままですが、いくとしましょうか。

 

体を起こしゆっくりと支度をする。

とは言っても昨日採ってきた物を保存用に加工するだけですけど。

 

これが終わらない限り旅に出ようにも萃香に会いにいくのも出来ないです。

 

(呑気なもんだねえ…もしかしたら明日はないかもしれないのに)

 

「人ごとのように言いますね…結構傷つきましたよ」

 

(まあ、生きて帰ってこれるって採算があるんだろ?そうじゃなきゃ今頃逃げ出してるはずだからさ)

 

よくわかってますねえ…

流石、伊達に何年も一緒に過ごしてる訳じゃない。

今だって私なら大丈夫だって本心から信頼しきっている。

 

「ふふ…今日は葛切りでも作って上げましょうか」

 

(お!本当かい)

 

意外にも猫は葛切りや葛餅などを好んで食べる。

この時代では少し味付けが濃いためあまり好まれないって言うのが印象的なのだが…猫にとっては好みだったのだ。

 

思えばちゃんと心を読めばそういうのも分かったはずなんですが……あまり困らなかったからそういうことをしていなかったのです。

まあ、能力はいざというときかこうやって会話する程度しか使わないんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大体の事も終わり改めて外を見る。

朝というよりもう夕方なのだろうか、今にも降り出しそうな空模様が一段と暗く立ち込めている。

 

「さて、行きますか」

 

(行ってらっしゃい。早めに帰ってきておくれよ)

 

あはは…早く帰らないと葛切り食べられないですからね。

そんな会話を繰り広げているせいか重い気持ちは多少楽になった。

うん、早めに帰れるようにしよう。

 

そう決意して引き戸に手をかける。

そして夕方でも賑わう人通りにその身を投げ出す。

 

 

 

 

「やあ、さとり」

 

萃香さんは私が山に入った瞬間から私の前に現れた。

文字通り、霧化していた体を戻してきたのだ。

 

「萃香さん」

いきなりすぎて心臓に悪い。

こうして山の入り口まで迎えに来てくれるということは相当なことなのだろう。

ついて来いと手招きした萃香さんの後に続きながらいろんなことを考える。

途中から無意識になっていたかもしれない。萃香の声でようやく我に帰ることが多々あった。

 

まあそんなアクシデントなどいざ知らず、萃香が現在この山に所有している家に着いたわけだ。

 

トラップなどが無いかこっそりと探ろうとする。

もし私を捕らえたり殺す気ならここではなくもっと手前で実行するはずだし鬼は卑怯な手を嫌う。

それを知っていてなお確認しようというのは、鬼以外の者…天狗とかそっちなどがこっそりと罠を仕掛ているかもしれないからだ。

 

「あー大丈夫大丈夫。罠なんか無いよ」

 

萃香さんに大丈夫と言われてしまうともう何もできない。

手間が省けて良いといえばいいのですけど…

 

「まあ入って入って」

 

急かすように私を家に招き入れる。玄関に入っただけでもほんのりと酒の香りが漂う。

流石鬼である。

 

「それで、どうして家になんて招いたんですか?」

 

案内された居間に入るや否や萃香に訪ねる。今のうちに聞いておかないと酒飲まれてややこしい事になってしまうはずだ。

 

「ん?ちょっと待っててな」

 

そう言って台所の方に向かっていく萃香さん。なにやら色々と出してきてる。

ダメだ…酒飲みながらお話し合いになる。

うん、鬼と酒が出たら次は喧嘩か勝負だからなあ……

 

あれえ?やばいですね。

ピンチ路線まっしぐらでしょうか。

 

しばらくして戻ってきた萃香さんは…

「酒臭…まさかもうですか」

 

「そうだけど?」

 

すでに飲んでしまっていた。

 

 

「えっとねえ…色々とあるんだけど…先ずは飲めや」

そう言って酒器を押し付けてくる。

お酒がこぼれそうになっているが、うまい具合にこぼさないようにバランスを取っている。

 

「いえ、私は酒飲めないので」

 

やんわりと否定。この前も言った気がしますけど…

 

「ちぇ…美味しいのに」

 

「すいません。本当に酒は飲めないんです。一部を除いてですけど」

 

「まあいいさ。そんでなんだっけな…ああ、お前さん、私ら妖怪も含めてヒトが怖いのか?」

 

いきなり突っ込んだ話題ですね。

出来ればこういう話はして欲しくなかったのですけど…

 

「ええ、まあ……怖いです」

 

「そっか…裏表がない私ら鬼すら信用できない程なのか」

 

それ自分で言います?

 

「会ってまだ時間経ってないですし」

 

悪い人たちじゃないって事は分かっている。

少なくとも普通に接している面ではむしろ親しくなりたいとまで思った。

だが、そうであればあるほど、この目が捉えるもう一つの姿を見てしまうのが怖くなる。

この目を持ち、知られたくないところまでズカズカと入り込めるこの力に…皆どう思うのか。

 

「拳で語っただろ?」

 

「生憎、拳で語り合っても鬼同士みたいに分かり合えないのです…」

 

もし私がさとりで無いのならば…もしかしたら分かり合えたかもしれない。見たくない現実を見ないで済んだのかもしれない。だが、なってしまったからにはもうしょうがない。

今となってはIf話でしかないのだ。

 

「どうして私がさとり妖怪だと分かったんですか?」

 

「そりゃ、見てたからね」

 

ん、見ていた?

 

見ていたってどういうことでしょう。一応水浴び以外ではフードを被ってるはずなのですが…

「え…まさか…」

 

「水浴びの時に注意を行うまではいいんだけど少し詰めが甘いんだね。今度からは板とかで隠したほうがいいよ」

 

み…見られてた⁉︎そんな…

 

みるみるうちに顔が赤くなっていくのが分かる。同性に見られただけだと落ち着かせようにも、逆に体温が上がって来てしまう。

 

恥ずかしくてなんか逃げたい……待て待て…問題はそこじゃなくて…サードアイがその時からバレてたのか⁉︎

 

「いやー無表情じゃなきゃ可愛いのにな」

 

 

「………」

 

「別に今無理に目を出さなくてもいいよ。あんたが悪い奴だったり性格の歪んだ捻くれ野郎だったら問答無用でしめてたけど」

 

さらっと恐ろしいこと言ってませんかね!茨木さんより怖いんですけど。

 

「えっと…話って結局私がさとり妖怪だってことを確認するだけですか?」

かなり逸れたり戻ったり色々だったが端的に言えばそういうことだろう。そして私がとてつもなく臆病であるということも…

 

「まあそれもあったけど…相手が能力を封印し全力じゃない状態で戦って勝ってもなんだかパッとしなくてね」

 

「もしかして…」

 

こんなもの心を読まなくてもわかる。

 

「そ、もう一度、今度は全力で」

 

そう萃香さんが言った直後、周辺に結界が展開される気配がした。

 

妖怪除けの結界を張ったみたいだ。なるほど、これで思う存分私の能力を使えるようにと…

 

「……分かりました。どうあがいても逃げられないですし帰してくれなさそうですから」

 

 

「そんじゃ、いつでもかかってきな」

のんびりと座ったまま酒を煽っている。

一見すれば簡単に倒せそうだが、全く攻め入る隙が見つからない。

それどころかいつでも攻撃態勢に移れるように準備しているのがよく分かる。

 

「勝負方法は…前回と同じで良いですよね?」

 

「ああ、構わんさ」

 

ルール無用の喧嘩なんかふっかけられたって勝てるはずはない。

全力だろうが本気だろうが相手はあの鬼なのだ。

 

フードの中からサードアイを取り出し、管も全て出す。

 

「……ようやく出したかって?ええ、全力で来て欲しくてここまで大掛かりなことをしてくれたのですから」

 

「お!本当に心を読めるのか。すげーな!これなら嘘とか一発で見分けられるじゃねえか」

 

「まあ、そうなんですけどね…」

 

使い方次第じゃ身を滅ぼすとんでもないものですよ。

 

 

 

…そんじゃ始めようかね

 

サードアイが思考を読むのと萃香さんの体がほぼ同時に動く。

 

私の体もそれに合わせて後ろに仰け反る。

目の前を弾幕が通過していく。

 

「外に出ようとか思いましょうよ」

 

「すまんね。勝負は待てないんだ」

 

そう言ってさらに弾幕を展開する。ほぼゼロ距離、体を捻って後ろに飛ぶ。

弾幕が壁や床を破壊する。

 

こんな狭いところじゃ不利なのは明らかである。

こっちも弾幕を放ち壊れた壁から外に体を投げ出す。

 

一瞬の浮遊感、同時に萃香さんの行動を先読み。

 

私が抜け出した穴に向けて弾幕を放つ。

同時に飛び出したばかりの体に向かってレーザーがすっ飛んでくる。

もちろん放った弾幕とぶつかり中間地点で爆発が起こる。

 

「へえ!やっぱ動きが違うねえ」

 

まあ…僅かでも先読みで動ける分早めに対処出来ますからね。

 

追いかけて来ようとしているみたいですが…そう簡単に来させません。

回避しようとした方向に弾幕を放ち動きを封じていく。

 

「……お、そこで真っ直ぐですか」

 

だが途中からだんだんと先読みが効かなくなってくる。

 

どうやら思考するより先に本能的に回避と攻撃を行うようになったみたいだ。

 

「さすが…鬼です」

 

「なめてもらっちゃ困るよ」

 

 

 

何十発も同時に発射。

同時に萃香自身も突っ込んでくる。

 

背を向けて逃げたいのが本音だが、そんなこと出来るはずもない。

目の前に萃香の拳が迫る。と思った時には体が先に動き拳を回避する。

 

「あの…殴ったりは本来ダメな気が…」

 

「これなら大丈夫だろ?」

 

まあ、妖力を手に纏わせて派手に演出するのはいいんですけど…

 

もう弾幕ごっこじゃないですよねそれ。

 

蹴りを飛ばしてくるのがサードアイ経由で脳に伝わる。

回避不能。

咄嗟に左腕を前に出し蹴りつけてきた足を掴む。

 

ゴリッっと音がして左手が変な方向に曲がる。

 

気にせずこっちも負けじとレーザーを放つ。

 

蹴りを入れた直後で無防備になっていた萃香さんはもろに命中。

畳み掛けたい私はさらにレーザーを撃ち込むが……

 

目の前から萃香さんは消えた。

 

「その能力も随分強いですね」

 

サードアイで空間を探る。

全体的に意識が散らばっているが、園内で一番意識がまとまっているところに向けて弾幕を放つ。

 

当たりはしなかったが動揺は誘えた。

実体化した萃香さんが攻勢にでる。

 

有利なように戦闘が展開しているように見えるが実際はそうではない。

事実萃香さんはまだ内心余裕だ。

こっちはジリ貧に近い。あまり戦闘経験が無いっていうのがネックになってるみたいです。

 

再び接近してくる。

やはり近接戦闘のぞみですか。私は嫌ですよ。

距離を取ろうと後ろに下がる。

その時サードアイが変なものを捉える。

「…え?もう一人?」

 

心を読んだ瞬間後ろから誰かに両脇を固定される。

 

慌てて後ろを振り向くと、そこにも萃香さんがいた。

 

「はは!分裂する事も一応できるのさ!」

 

成る程、そういうこともできるのですね。

脱け出そうと試みるも鬼の力に敵うわけもない。

 

「降参します」

 

目の前に萃香さん。後ろにも萃香さんじゃもう勝ち目なし。チェックメイトだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ…やっぱり強いですね」

 

目をフードの中に隠しゆっくりと地上に降りる。

 

「鬼をなめちゃあかんよ」

 

いや、なめてないですよ。あれで本気なんですよ。

結界が解かれ辺りに風が吹き荒れる。

 

「あー!スッキリした。宴会やろー!」

 

いやいやいや、貴方はただ飲んで食べてをしたいだけでしょ!

止めようと思ったもののもう既に宴会ムードに入ってしまった萃香さん。

それじゃ私は家で待ってくれている子がいるので早めに帰りましょーっと。

 

「おいおい、ちょっとくらい付き合ってくれよ。飲めなくてもいいからさ」

 

「あの…家で待たせてる子がいるんですけど…」

 

「じゃあその子も連れて一緒に飲もうよ。人数が多い方が楽しめるだろう!」

 

うわ、この人天狗達も巻き込むつもりだ。

 

「天狗さんも予定あるでしょうし…程々にしてあげましょう…」

 

道連れが減ると思うとちょっと気が進まないが、天狗さん達を誘うのを諦めさせる。

まあその代わりに鬼が沢山来そうですけど…

 

「それじゃあ…ちょっと用意したり連れて来たりがありますので一旦帰りますね」

 

「ちゃんと来るんだぞ!」

 

そこまで念押しをしなくても大丈夫ですよ。鬼との約束事を破ったら地獄が待ってるといっても過言では無いですから。

 

 

 

 

 

 

「と言うわけでして、40秒で支度して下さい」

 

(ちょちょ!何がと言うわけでしてなんだい!)

 

え?そのまんまの意味ですよ。

必要な物は風呂敷に包んで…ほら、いきますよ。

 

(ちょ!ま!)

 

まだ飛べない猫を抱きかかえて家の外に出る。

門番さんに変な目で見られましたけど…旅に出ると伝えたらまあ普通に通してくれた。

この時間から旅に出るって時点でアウトなんですけどね本当は…

 

 

まあ兎にも角にも、萃香さんのところに向かう。

 

既に数人の白狼天狗が巻き込まれている。あんだけ天狗は巻き込むなと言ったのに…

 

「あ、猫さんは葛切りとか食べてゆったりしていていいですよ。朝日とともにここを出ますんでそこんとこだけ気を付けて下さいね」

 

にゃーんと不機嫌そうな返事が返ってくる。

 

「勝手に連れて来ちゃってすいません」

 

再び返事が来る。不機嫌さはなくなったもののめんどくさそうだ。

 

猫に持って来た葛きりと荷物を渡し萃香さんのところに行く。

 

 

「おうおう、主役二号登場!」

 

「なんですか主役二号って…」

 

早速意味のわからない会話が繰り広げられる。

咄嗟に茨木さんを探そうとしてしまった私は悪くない。

 

「えと…天狗さんが犠牲になってますけど…」

 

どうみても酒に弱い人達としか思えないものの…鬼にとっちゃ関係なかったかと思い直す。この様子だと私も飲まされる可能性が…

 

「あの…夜明けには旅立ちたいので…あまり無茶をさせないでくださいね」

釘をさすつもりで言ったのだが…逆にみんな驚愕した。

 

「え⁉︎なにここから離れるの?初耳なんだけど!」

 

そりゃ言ってませんから。初耳もなにもありませんよ。

 

「今から行くのか?春まで待てばいいじゃないか」

 

まあそうなんですけど…正確な時期が読めないのでなるべく早いうちに出たいんです。

 

口々に行かないでほしいと反論してくる。

なんで私なんかを引き留めようとするのか全くわかりません。そこまで私は皆さんに好かれるような事もなにもしてないですし、なにもしないでいれば勝手に周りは避けていくような天性の嫌われ者ですよ。

 

「こんな時期に旅に出るなんて珍しいね。……都で何かあるのかい?」

 

酔いが回ってフラフラとしているもののその鋭さは健在ですか…

 

「まあ、ちょっとした用事です」

 

「なるほど…じゃあ旅出を祝って飲むぞ!」

 

あはは…萃香さんらしいですね。

下手をすれば数年単位でいないかもしれないですから…今のうちに楽しんでおくのも悪くはないでしょう。

私の内心をしってか知らないのか萃香さんが食べ物を用意する。

 

はて…さっきまで家は半壊してたはずなのですが…いつの間に直したのでしょう。

気にしないことにしましょう。

 

 

不意に私の膝下に何かが乗って来た。

 

「あら…猫さん」

 

「お、猫じゃん。かわいいな」

 

どうやら食べ終わって眠くなったのでしょう。だからと言って膝の上に乗ってくるのもどうかと思いますけど…

 

「名前つけてないのか?」

 

「まだ名前はつけてないです」

 

周りの喧騒を無視するかのように丸まって寝た猫を撫でる。

いつかこの子の名前をつけてあげないといけないですね…まあまだ先でいいか。

 

「じゃあ名前つけようか!」

 

「……え?」

 

萃香さんの声に茨木さんや勇儀さんが集まってくる。

 

「んーー?黒猫の…妖怪?」

 

ざわざわとし始める。あの…私が決めるんで…え?火焔猫?冗談でしょ?

 

 

 

 

 

え?冗談じゃなくて?いやいやいや決めたじゃなくて。

 

あの…猫さんもあっさり肯定しないでくれます?

ええ…まあいいですけど。

 




再びかラーユさんに描いていただきました!

【挿絵表示】


例のシーンのものとなります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。