古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth 81 さとりがキレた中

出せる全ての力を使い距離を詰める。

 

相手がこれ以上なにかする前にこいしを取り返す。

 

体の限界を超えた威力の蹴りで相手の肩を蹴り飛ばす。

私の左足と蹴った先の肩が潰れるような音がした気がする。

だけど気にしない。

 

反動を利用して銃を置いたところまで体を戻す。

潰れた左足を治しながら銃を掴み取り右手で引鉄を引く。

射線上にいた妖精の頭に赤い花が咲く。

すかさずつぎの目標を射線に捉える。

次……次……次…

 

金髪の女性が何か叫んでいるが気にしている暇はない。

ちょっとうるさいのでこいしを掴んでいる手に1発撃ち込む。

痛みは感じなくても神経が破損すればもちろん体は動かない。

 

糸が切れたマリオネットのように崩れる死霊妖精達を見ながら弾幕を周囲に放つ。

レーザーや誘導弾幕が地面をえぐりいくつかが逃げ遅れた妖精を吹き飛ばす。

 

ふとこいしの方を見ると、無事に抜け出せたようで慌てて私の射程内から逃げ出す。

これで手加減する理由は全てなくなった。

 

その場を飛び出し近くの妖精にの首に拳銃の先につけたナイフを立てる。

「…ーー」

 

横に引っ張り動きを停止させる。

次……まだまだ殲滅にはほど遠い。

 

 

「あ……」

迫ってくる弾幕がちらっと見えたのでさっき絶命させた妖精を手ぶらな左手で盾にする。

着弾、爆風で妖精の体が吹き飛び私の腕が脱臼しかける。

 

撃っている妖精に向けて再び銃弾を放つ。

次…迫って来ている奴や周りで弾幕を放とうとするやつ…全てに向けて想起。行動を予測、次に来る手を読みながら攻撃を回避し続け反撃。

地面に捨てた刀とスペルを回収しつつ一気に解き放つ。

出し惜しみなんてしない。

 

「なんなんだよ⁉︎なんで当たらないの⁉︎」

 

当たり前だ。あなたたちの行動は全て見えているのだ。

いちいち喚かないで欲しい。

それでも遠距離での戦闘は数の多い向こうに利がある。

次第に回避できない弾幕が私の体を傷つける。

 

その度に治すのも億劫……近づく事にする。

 

「……え?」

 

金髪女性の足を思いっきり刀で斬り落とす。数メートル分の距離などあってなきに等しい。

悲鳴のようなものを聴きながら近くにいた妖精を拳銃先のナイフで斬りつける。刃渡り50センチもあるのだ。ちょっとした刀だ。

でも私も無傷ではない。体の筋肉が悲鳴をあげ力に耐えきれなくなった部分が破損し内部から壊れる。

 

だからなんだ……今は関係ない。

敵は殲滅するのみ。もっと早く…もっと的確に……

 

斬りつけては撃ち…撃っては斬ってを繰り返す。

 

脚が弾幕で抉れようが、相手が妖力で生み出した剣もどきで斬りつけてこようが止まらない。

体を濡らすのは返り血なのか自分の血なのか…もうわからなかった。

 

ただこいしを傷つけた存在を抹消するために…この体を動かすだけ。

左腕と右腕が同時に弾け飛んだ。

弾幕の命中で吹き飛ばされたようだ。

 

だが運良く拳銃と刀が真上に吹っ飛ばされた刃が外側に来るように上手く両方を咥える。腕が治るまでの応急対応だ。

少しだけ精度は下がるけど…これなら問題ない。

 

高速で動き回り進路上にいた妖精のすぐ近くを通過する。

通過直前に咥えた刀で首元を切り裂くのを忘れずに…

 

左腕の回復が遅い…じゃあ先に右を治した方がいいですね…

まだそんなこと考える理性は残っているようだ。

 

ならもう少し手加減をしたほうが良かっただろうか?でも今更だ。もう止められない。

 

直した腕に拳銃を持ち直し、弾幕を弾幕で迎撃する。

 

もう感覚だ。いちいち考えるのも面倒……

どこが壊れたか、どこを壊せばいいのか…うん。そんくらい考えられればいいや

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん……」

 

お腹に受けた1発が相当効いているのか私の体はほとんど動かない。

結局あそこから逃げ出してこうして安全なところで見守るしか私にはできそうになかった。

お姉ちゃんがキレた。

殴られたせいで朦朧としていた意識でもそれは十分に感じ取れた。

そんなお姉ちゃんは今、死霊妖精とあの金髪の女性を相手に大戦闘を繰り広げている。

お姉ちゃんが押しているように見えるけどお姉ちゃんの体は攻撃のたびに傷ついていく。

もともと数が多くて一人じゃ相手できないはずなのにお姉ちゃんはそれを一人でこなそうとしている。助けに行きたいけど正直、私が参戦してもお姉ちゃんの足手まといにしかならない。そんな戦闘だった。

 

 

再びお姉ちゃんの左足が弾き飛ばされる。

バランスを崩して倒れそうになるけど、お姉ちゃんは止まらない。崩れた体勢のまま拳銃を撃ち妖精を倒す。

 

気づけばお姉ちゃんの脚は治っていて、また金髪の女性を討ち取ろうと駆け出す。

理性が残っているのか残っていないのか…致命傷以外の被弾を許しすぎだよ…

 

腕が千切れても体がえぐられても、回復できるのであれば止まらない。

キレたお姉ちゃん始めて見たけどいくらダメージを受けても真顔で突っ込んでくるとかもはや恐怖だよね?怒りってなんだっけ。

 

 

 

「このやろお!」

 

金髪の女性が発狂したのかついにやけくそになったのかお姉ちゃんに向かって突っ込んでいく。

その手にはいつのまにか槍のようなものが握られている。

お姉ちゃんからは完全に死角になっちゃってる。

「お姉ちゃん危ない!」

 

慌てて弾幕を撃って牽制しようとするけど間に合わない。もっと早く気付けばよかった……

私の声で気づいたのかお姉ちゃんが拳銃を構えるけど当の拳銃は弾が切れたのかスライドが上がりっぱなしだ。

あれじゃリーチの長い槍の方が有利…

駆け出す。間に合わないだろうけどそれでも放って置けなかった。

 

お姉ちゃん達の斬り合いが始まる。援護したいけど激しく動き回る2人のうち片方を狙うなんて芸当は出来ない。

槍と刀が火花を散らして交差する。

 

でもそれは一瞬の出来事で……

 

「……あ」

 

お姉ちゃんの体に槍が突き刺さる。

貫通した先端がお姉ちゃんの背中から生えて空中に血と肉片を散らした。

 

「お姉ちゃん⁉︎」

 

「……想起…『ーーーー』」

 

お姉ちゃんが何を想起したのか理解できなかった。結局理解できたのは金髪女性が後方に吹き飛び、完全に動かなくなったことだけだった。

お腹に槍を刺されたままのお姉ちゃんに抱きつく。

槍だけでなく回復の間に合っていない傷と、体に無茶をさせたせいで起こっている内出血でお姉ちゃんの体はボロボロだった。

 

「こいし……」

 

完全に目は虚ろで理性が弾け飛んでるのが心を読めなくてもわかる。

お姉ちゃんはもともと誰かを手にかけるなんてこと出来ないほど心は繊細なんだ…なのに…こんな……

 

「お姉ちゃん無茶しすぎ!」

 

頬をなにかが伝う…それが涙だって気づく前に、お姉ちゃんの体がその場に崩れる。

慌てて体を支えてゆっくりと横にさせる。

 

操っていた主がいなくなったからだろうか。生き残っていた死霊妖精は逃げ出していた。

周辺に再び静寂が訪れる。

お腹に刺さった槍を引き抜こうとするけど上手くいかない。

逆に反対側に引っ張ってみるけどなにかが引っかかってうまく抜けない。早くしないと回復が間に合わなくなる。

 

「ちょっと荒いけど…許して!」

 

力任せに引っかかってるものごと一気に槍を引き抜く。

 

なにか臓器っぽいものがくっついていた気がするけど構っていられない。

お姉ちゃんの意識をはっきりさせるために頬を叩く。

ようやく意識が戻って来たのか虚ろだった目に光が戻る。同時に体を無理に起こそうとしたから慌てて抑える。

お姉ちゃんはあるあたりから痛みが感じなくなるらしいからわかっていないだろうけど傷は浅くない。普通なら動かしちゃダメだ。

「う…ゲホゲホ…」

 

「お姉ちゃん!」

 

「こいし…大丈夫よ……治すからちょっとまってて…」

 

そう言って笑いかけてくるお姉ちゃんが痛々しい…それでも傷の回復はしっかりと行えているみたいで、みるみるうちに傷口が塞がれていく。

「ちょっとは見てるだけだった私の身にもなってよ……」

 

思わず言ってしまう。

本当はありがとうって言いたかったけど…素直に言えなかった。

 

「服がボロボロです……」

 

そうだった。あれだけの被弾で来ていた服は腕のところが丸々なくなっているしちぎれたり焦げたりしているせいでもう大事な部分しか隠すことができない状態だった。

少しだけ私の頬が赤くなる。

 

「こ、こんなんじゃサードアイ隠せないじゃん!私の上着着ててよ!」

 

嫌がるだろうけど無理無理着せる。じゃないとなんか犯罪っぽい感じがしてしまう。なんで私がこんなこと心配しなきゃいけないんだろう。

 

「そういえばあのヒトは?」

 

お姉ちゃんが言ってるのはあの金髪の女性のこと。

そういえばさっきから一向に反応がないね。まさか吹っ飛ばされて逃げちゃった?でも気配はそこにいるって示してくれてるし…

 

「あっちで伸びてるやつそうじゃないの?」

 

治りきってないお姉ちゃんの体を支えて金髪女性のところに行く。

 

なんだかものすごいガタガタ震えてるけど……確か最後にお姉ちゃん想起してたし何かトラウマでも引っ張り出しちゃったのかな?

 

「……心が壊れてる」

見えるようになったサードアイで心を読んでみたけど完全に壊れてる。

少しだけ感度を上げて心の奥を見てみるけどそっちもダメ。完全にこれはオーバーキルだね…心が壊れて廃人になっちゃってるよ。

 

「やりすぎました」

 

「仕方ないと思うよ?」

 

多分お姉ちゃんが想起したのは特大級のトラウマかあるいは心を完全に壊すほどの情報量のどっちか。多分トラウマの方だと思うんだけどお姉ちゃんのことだからもしかしたら後者の方の可能性も捨てきれない。

 

「……連れて帰りましょうか」

 

「いいの?」

 

お姉ちゃんを殺そうとしたやつだよ?って言葉を寸前で飲み込む。

お姉ちゃんの性格からして言っても聞かない。

今までだってそうだったし変わる気は無いんだろうね。

お人好しって言っちゃえばそれまでだけど……

 

「連れて帰って……どうするの?」

 

「さあ?この子のことは萃香さん達に任せます」

 

あの二人なら多分悪いようにはしないかもね……まあ、廃人になっちゃってるからまた心を作り直さないといけないけど。

それは結局私かお姉ちゃんの仕事になるのかな?

でもお姉ちゃんはトラウマの元凶になってるかもしれないしなあ。

 

 

あ、そうだ。心が壊れていても記憶は残ってるはずだからちょっと除いてみよっと。

確か無意識の記憶なら意識と連動してる心は関係ないはずだから読めると思うけど……

 

意識を眼に集中させて奥底を除く。

お姉ちゃんによって壊されてぐちゃぐちゃになり、精神を削られそうになる表層心理を超えて深層心理の情報を覗き見る。

 

うんと…もう少し前…どうやらこの子は鬼の一種みたい…でも純粋な鬼というよりかは元忌子…

えっともうちょっと飛ばして最近のものと……あれ?誰かと会ってる…妖怪かなあ?ボサボサの黒い髪と所々に混ざる白い髪…Tシャツっぽい感じの服装。

うーん…誰だろうこの人。なんかこの子に吹き込んでるけど何を吹き込んだのかな?……深層心理だけじゃうまく記憶できてないや。

 

 

でもあの妖怪が今回の黒幕っぽいね。それか黒幕に繋がる妖怪……

そういえばお姉ちゃんが静かだなあ…何かあったのかな?

 

沈めていた意識を戻し肩にもたれかかってるお姉ちゃんの頬を指でつつく。

「お姉ちゃん?」

 

「あ…こいし?もしかしてあなたもみてたの?」

 

なんだろう?急に話しかけちゃったから驚いたのかな?それにしてはなんだか驚きすぎだけど…あ、そうか。お姉ちゃんも想起してたからか。

 

「お姉ちゃんもみてたっぽいね」

 

「え…ええ。そうよ」

 

そっか。なら話は早いや!

 

「それであの妖怪が怪しいと思うんだけど…」

 

「そうね…多分そうなんじゃないかしら?でもあの妖怪は多分ここにはいないわ」

 

「そうなの?っていうかなんでわかるの?」

 

私よりも深く見ていたのかな…お姉ちゃんの方が能力強いからなあ……

でも彼女の記憶からあの妖怪がここにいないってどうして判断つくんだろう?

「まずここにこの女性を配置しているからかしら。この子は多分囮、私達の注意を引きつけるだけよ」

 

「そうと仮定すれば…」

 

「他の場所が本命。多分、あの妖怪は戦力が欲しいんじゃないのかしら?」

 

戦力……なんだか百鬼夜行とか妖怪大戦争とか思い出しちゃいそう。特にここに封印されてる妖怪とか化け物とか片っ端から封印解いたら絶対百鬼夜行だよね。

あ、でもぬらりひょんいないからちゃんと一列で歩いてくれなさそう。

 

「まあ、まずは街に戻るわ…」

 

そう言ってお姉ちゃんがわたしから離れようとする。まだ足元がおぼつかないはずなのに……

 

「その女性はどうするの?」

 

「背負って行くわ」

 

そう言ってお姉ちゃんは背中に女性を背おる…けど相当お姉ちゃんがトラウマなのか触れられるたびにすごい反応してる。

 

って足引きずってる!お姉ちゃんそれ地味に痛いやつ!

 

だめだお姉ちゃん……飛んでいけばいいのにそれすらしないって事は体力を消耗しすぎてる…

 

「私がおぶっていくからかして」

 

返事は待ちません。だってお姉ちゃん絶対遠慮するもん。

 

強引に女性を奪い取って肩に担ぐ。おんぶじゃないじゃんって突っ込みが聞こえた気がしたけど知らない。だって肩に平行になるようにおぶった方が負担が少ないんだもん。

どこかのボスみたいな背負い方だってお姉ちゃんが呟いてたけどボスって誰だろう?

 

私もお姉ちゃんの知識のうち一部は共有してるけどボスのことまでは共有してないなあ……

 

上着をお姉ちゃんに渡したからか無駄に周りの声がよく聞こえる……これはこれで新鮮だけど、だいたいが死霊か怨霊の呪詛ばかりだからすぐに飽きちゃった。

やっぱり心なんて読める時に読めるのが一番いいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……全然足止めできてないじゃん」

 

どれほど時間が経ったのだろう……

 

「さとり様を足止めできるなんて思わないほうがいいよ!」

 

お空の声…もうちょっと刺激しないようにしてくれないかねえ。

 

なんとか周囲の音を聞きとるまでに回復したところで意識だけを起こす。思ったより疲労が蓄積してるから体はまだ休眠させておく。

 

「うるさい鴉だな……」

 

ふん、あんたがお空に手を上げられないのはもうとっくに見破られてるんだよ。

とは言ってもあたいらには何もできない。

お空は比較的傷が少ないからなんとかなるかもしれないけどあたいはもうしばらく動けないし動けるようになっても体の自由は奪われたまま。

 

しばらくは聞き耳を立てておくことにする。

 

「……まずいな…」

 

「諦めたらどうなの!」

 

多分映像を見ながら何かやってるみたいだけど…聞こえている声から察するに、さとりを足止め…または撃破するのに失敗したみたいだねえ。

でもさとりだって無傷じゃないはず…

さとり…ごめんなさい。本当はあたいらがそばにいてあげないといけないのに…

 

「やなこった!それにお前らはまだ利用価値があるから残してるんだぞ!あまり大口叩くと後で痛い目にあうからな」

 

後悔してももう遅い…あの時ちゃんとあたいがとどめをさせていればこんなことにはならなかった。少なくとも現状をさとりに伝えるためにお空を逃がすことくらいはできたはず…

多分こいつはさとりや、勇儀さん達を足止めするためにあたいらを……

 

 

それがわかっていながらもあたいにできる事は祈るくらいしか無かった。

 

 







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