古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.84お燐の日常

あたいを見ると不運になるとかなんとかそんな噂を最近よく聞く。

別に人間の噂なんてあたいには関係がないのだけれど、やはりこの身は人間の想いによって作られた身でもある。

あまりへんな噂が立ちそれが固定概念としてしまうとあたいのあり方そのものにも影響が出てしまう。

考えれば考えるだけ嫌になってくる。

あたいと言うものは結局あたい自身ではなく誰かに決められてしまうのだろうか。

こんな悩み…きっとさとりやお空は気にすることでもないとか言うのだろう。

結局あたいの考えすぎ。そう思い起こすのが一番良いかもしれない。

 

晴れた日が続くとふとそんなことを考えてしまう。

結局なんなのだか…後になって考えてみればアホくさい。

昼寝も終わったのだしそろそろ家に戻るかなあと思ったりでも猫故の自由さからかどこかに行こうかなと思ったり。

結局決まることのない思考を引きずって歩いていけば、結局どこかへんなところにたどり着く。

 

森の中というのはわかるのだけどそれ以降が分からない。まあ飛び上がれば場所くらいは分かるだろうと考えて、また歩みを進める。

浅はかといえばそうなるけれど、それは考え方次第。

そんなことを思っていれば。どこからか響く誰かの叫び声。それに流されるように別のものの声。

誰かが襲われているのだろうと思ったけれど、どうも違うらしい。

いや襲っているのは正しいのだけれど何か違う…捕食とか生きるために殺しをしたりするのは仕方がないけれどこれは明らかにそんなものではない。

 

興味の湧いたあたいはすぐに駆け出す。

近づいてみればなんだか感じるようになってくる獣に妖力が混じった同族の匂い。

それと…複数の生き物の匂い。

 

 

視界が開けるとそこには、あたいより小さな…猫又とそれを取り囲む妖怪達の群れができていた。

だけど妖怪の群れにしてはなんだか様子がおかしい。そもそも妖怪が複数で行動するなど希なのだしこんな小さな子を追い詰めて一体何をしようと言うのだか…ただいたぶるだけにしてはそう言うわけでもない。極力傷つけまいとする配慮すらある。

「はて…あたいから見たらかなりヤバそうな現場なんだけどどうしたら良いかな?」

 

あたいの視線に猫又が気づいたところでそう声をかける。

驚いたかのように全員が後ろを向く。

そんなことしたら獲物が逃げちゃうよ。

全員の意識が追い詰めている猫又から離れた瞬間彼女がこっちに向かって飛び出してくる。

周りの奴らが気づいたけれどもう遅い。

あたいの側を通り抜けた彼女が背後に隠れる。

 

「助けて…急に襲ってきて……」

 

「あーあーこりゃまずい事態なんじゃないのかなあ?」

 

あたい1人が増えただけじゃ動じもしない。参ったねえ…あまり戦いたくないんだけど…それにこの距離じゃお気に入りは使えないからなあ…

それにしても向こうはだんまりだねえ…あたい一人が増えたところでどうとか言わないんだ…なんだか拍子抜けだし情報もほとんど聞き取れないや。

 

そんなことを考えていたら彼らの親分的なやつが目線で合図を出していた。

どうやら襲うつもりらしい。

 

「返事くらいしてくれてもいいじゃないか。仕方ないねえ……5分だけだよ」

 

五分だけと言う言葉に後ろに隠れている猫又の顔が真っ青になる。

どう見ても五分じゃ終わらないだろと思ってるようだね。

 

目線を一瞬だけ猫又に向ける。それと同時に向こうが一斉に動き出した。

前衛と後衛…悪くないポジションだね。

 

飛び込んで来た1人目の腕が振り下ろされる。

僅かに右に動いて回避。

すかさず懐から取り出したナイフ付き拳銃で突き出された腕を刺す。

 

甲高い悲鳴を後にあたいのそばに飛び込んでくる2人目に銃弾をお見舞いする。お腹に複数発。

体が頑丈なためか貫通はしていないけれど…お腹をハンマーで叩かれたのと同じだから痛そうだねえ……

 

「……おっと!」

すぐそばに弾幕が着弾し爆風で後方に飛ばされる。

地面を転がるように着地したから大してダメージは負っていない。

後衛もしっかり仕事をしているみたいだね…

じゃああたいも……

もう一丁ナイフ付き拳銃を出し二丁体勢になる。

「急所くらいは避けてあげるけど?」

あたいの言葉を挑発と受け取ったのかさっき腕を刺された奴が怒り狂って飛び込んで来た。

 

っち…早いね。

おぞましい爪があたいを捉える。振り下ろされそうになったそれを片方の拳銃で防ぎ、もう片方で足に銃撃。弾丸が当たったところが大きくえぐれる。

「もういっちょ」

 

太ももに何発も撃ち込み。動きを完全に封じる。

激痛に耐えられなくなったのかあたいに爪を振り下ろそうとしたまま気絶してしまう。

それを見ていた全員が一斉に動き出した。

あたいの武器的に複数人を同時に捌けるとは思ってないのだろう。

仕方がない。もう一個使うか。

残るは5体。手っ取り早く済ませてもらおう。

拳銃を真上に放り投げ、新たに銀色の長身銃を取り出す。

円盤のようなところにカードを挟み込み旋回。

後ろから仕掛けて来たやつの顔面をタイミングよく振り回した拳で潰す。

構え…でも左右から来る方が引き金を引くより早い。

体勢を低くして足掛け。左にいた奴はするどいのかすぐに後ろにステップを踏んで回避したけれど右側のやつはそのまま地面に顔面から突っ込む。すかさず起き上がって足で思いっきりお腹を踏みつける。

蛙のような変なうめき声が出てそれっきり動かなくなった。

そろそろ撃たせてもらうよ。

「贖罪『旧地獄の針山』」

トリガーが引かれ銃口からまばゆい光が生まれる。そこから生成された弾幕やレーザーが次々と放たれ、周囲にいた奴らを片っ端から襲っていく。

針のようなレーザーがいくつも突き刺さり、周囲に着弾した弾幕が土煙をあげる。

まだ弾幕たちは暴れているけれどすぐに銃をしまう。

空いた両手で落ちてくる拳銃二丁を回収。

「っと…あ…5分少し前…」

すぐ真後ろで声が聞こえる。それと同時に左腕に鈍い衝撃。

どうやらさっき顔面を強打したやつが起き上がったようだ。でもそこまで痛くはない。ちゃんと力が入りきっていないようだ。

 

「これで…5分っと」

拳銃でそいつの両肩を吹き飛ばし蹴りを入れる。

さっきまでとは打って変わって静寂が訪れる。

「す…すごい」

少し離れたところに退避していた猫又が戻ってくる。

「そうでもないよ。で……訳を話してくれるかい?」

足を突っ込んでしまったからには少しは事情を知っておきたいからね。

「わ…わかりました。でも場所を変えましょう?」

 

 

 

 

 

足を怪我している猫又を背負いのんびりと森の中を歩く。

深く静かな森が、さっきまでの戦いを無かったかことにしようとしているみたいでなんだか落ち着かなくなる。

「助けていただいてありがとうございます」

 

「気にしなくていいよ。どうせ良からぬやつに襲われてなかったら見過ごすつもりだったから」

 

本心なんだけど冗談かと思った少女は軽く笑い飛ばす。

失礼だねえ…あたいも人のこと言えないけれどね。

「それで…あんたはなんで襲われてたんだい?」

 

「それが……よくわからないです」

 

すると向こうが急に襲って来たって感じかねえ…

「何か言ってなかったのかい?」

 

「えっと……よく売れるとかなんとかって……」

 

 

売れる?何か持っているのかねえ…でもだったらどうしてあいつらは少女をなるべく傷つけないようにしようとしていたんだ?

彼女自身も必要?ちがう……彼女が必要。

「人身売買の可能性があるねえ……」

やれやれ、厄介だねえ。

この結論にたどり着いてしまったあたい自身…そして向こうがやっていること。両方とも厄介極まりない。

 

「人身売買ですか?」

 

「ああ…多分そうじゃないかなあ」

 

どちらにしろ向こうはその任務を失敗しているわけだからどうと言うことはない。

まずはこの子をちゃんと送らないとねえ。途中でまた襲われたなんてなったら目も当てられない。

「それで…どこらへんまで行けばいい?」

 

「えっと…じゃあ人里で」

 

 

 

 

 

人里に入ればもうそこは人間が主役。あたいらは人ならざるものとバレないように化けるだけ。

人間の世界は妖怪には少し住み辛い。さとりはこっちの方が好きだと言っていたけれど…

「それにしても活気がなんだかないねえ」

 

「最近人攫いが頻発してますから」

 

なるほど…妖怪だけでなく人間も攫っているのか。これはなかなか大きな組織が動いているみたいだねえ。

それにしても本当に人身売買何だろうか。

ある意味実験の為にとかそういう可能性のある気がする。でもさとりだったらどうするかな?多分人間が必要になったら買い付ける気がする。

やっぱり人身売買の線が大きいねえ。

「あ…あの。お茶しませんか?」

そう言って猫又はお茶屋を指差す。ちょうど営業しているみたいだ。そういえばそろそろ小腹がすいてくる。

悪くはなさそうだねえ。

「そうしようか」

 

決めたら即行動。静かな茶屋に入りすぐに注文を済ませてしまう。

適当な位置の席に座り少しだけ落ち着く。

相手は相当大きな組織…それに喧嘩を売った気がするけれど…そんな負の考えは漂ってくるお茶と茶菓子の香りに乗ってどこかに飛んでいってしまう。

懐から出したパイプを咥え火を入れる。

いつもの癖でやってしまったけれど…目の前の少女はこれ平気だっただろうか?

「あ…匂いきつかったら言ってね」

「あ、大丈夫です。私も偶に吸いますんで」

それは良かった。

 

 

 

 

 

「それじゃああたいはそろそろ帰るよ」

お茶を飲んで少し休んでいたらもう日が暮れそうだよ。全く…早いもんだねえ。

「ええ、助けていただきありがとうございました!」

 

「あたいの気まぐれだからいいんだよ」

 

気まぐれに感謝されてもなんだかむずかゆい。

半分照れ隠しなのも含めて、彼女の元を離れる。

「そういえばまだ名前を聞いていませんでした」

 

「猫同士の会話に名前は要らないんだよ」

実際名前などヒトが勝手につけたものだからねえ。

あたいらには本当は名前なんてないのさ。

 

 

猫又が見えなくなるころには人里を出ていた。

早く帰らないとご飯に間に合わなくなる。

急ぎ足で山を駆け抜ける。

だから足元にあった罠に気づくことができなかった。

気づいたとしても回避できるかどうか怪しいものだけれど…

紐があたいの足に絡みつき、作動した罠があたいの体を宙ずりにする。

 

「うわっ!」

逆さまになってしまいスカートが翻りそうになる。

最悪だ…絶対見られる。

 

予感が当たったのかなんなのか…待ち伏せをしていたであろう奴らがわらわらと出てきた人間と妖怪の匂いが入り混じっている。

距離はまだある。

みられる前に対処しないと……あたいの尊厳が消えそうだよまったく…

 

懐からお気に入りのやつを引っ張り出す。

もはや原型をとどめないほど改装されてしまったけれど……

そんなSG550に初弾を装填。逆さまの体を思いっきり仰け反らせて相手へ向ける。

1発目、肩を貫いたらしくこっちに来る足取りが止まった。

すぐにボルトを引っ張り薬莢を排出。同時に次弾が薬室に装填される。

2発目、脳天をぶち抜いたらしい。

即死っと……

おっといけない。後ろからも来ているんだった。

3発目、お腹に直撃したみたいだね。

相手がこっちに来るのをためらい始めた。今がチャンス。

足に巻きついた紐を長く伸ばした爪で切り裂く。

体が重力につられ地面に落下。

ようやく自由になった。

さて…君達は喧嘩を売る相手を間違えたようだねえ…さとりなら許すだろうけれど……あたいはそこまで優しくはないんだ。

「なんだい、あたいとやろうってのかい?」

 

向こうから返事は来ない。薄暗くなってきてるから相手が誰だかも分からない。

それでも…だいたい見当はつく。

昼間のあいつらだろう…あたいを捕まえにきたってところかな。

 

まあいいや…見逃そうかと思ってたけどもうやめた。こうなったら徹底的に潰してあげるよ。

 

最初は…そこの君かな。

構えた銃から火の手が上がり、小さな悲鳴が響く。一瞬で終わったようだね。来世はもっとマシなことを祈るよ。

「死にたい奴からかかってきな」

銀色の銃を引っ張り出してスペルカードを装填。

容赦はしない。ただ相手を潰すだけ。

 

単初銃も取り出して構える。

例え弾幕を抜けてきても…生きては返さない。

「猫符『キャットウォーク』」

猫型の弾幕が一斉に飛び出して周囲を染め上げる。

それらがさらに分裂し花火が上がった時のように山を照らしていく。

いくつかがヒトの影と重なり太い悲鳴が響き渡る。

その弾幕地獄から逃れた奴もコンテンダーから飛び出した大口径弾に体を粉砕される。

予備弾を再装填。スペルの効果が切れそうになってきたので先にこっちを再度放つ。

「屍霊『食人怨霊』」

セットされたスペルカードが銃本体に取り込まれ、銃口から弾幕の光が飛び出す。

これでもあたいを捕まえようと言うのかい…全く…意地を張るのもいいけれど無謀なことはダメだよ。

何人かが弾幕の雨を突き破って迫ってくる。

すぐに後退。コンテンダーはまだ弾丸を入れていない。

ならば…SG550だね。この距離で使うのことはほとんどないけれど。

手持ちを素早く切り替えて弾丸を撃つ。やっぱり近いと難しい……

拳銃の方が良かったかな。でもあっちはあっちで弾丸が切れてるし…

あ…しまった!距離が近すぎる…!

相手の拳があたいのお腹に向けて放たれる。

体を半回転させて相手の懐に回り込む。

そのまま銃の先で喉を突き声帯を潰す。

動きの止まったそいつを盾にし、他のやつから飛んでくる弾幕を避ける。

隙間から弾丸を撃ち込んで無力化。

残りは……後ろか!

振り向きざまに蹴りを叩き込む。

前のめりに倒れた体に銃床を叩き込み追撃。もう一人に素早く弾丸を叩き込む。残りは10発…大丈夫、足りるね。

 

残りは……また後ろ?後ろから攻めるの好きだねえ……あたいが猫じゃなかったら気づかなかったよ。

素早く装填したコンテンダーを後ろに向けてぶっ放す。

1人目の頭を吹き飛ばした弾丸は勢いを殺すことなく後ろにいたやつの半身にも突っ込む。

全く…気持ちいいものじゃないねえ。

 

気づけば辺りに戦意を持つ奴はいなかった。

もっと大勢いた気がするんだけど…逃げちゃったのかなあ?

まあいいや、生きているやつは何人か残しているつもりだから…手元が狂って死んでなければ情報くらいなら聞きだせるはず。

 

「お、いたいた。そこのおにーさん生きているよね」

たっぷり情報吐いてもらうからね。

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、外道たちを潰しに行く途中のお燐でございます。

あの後何をしても口を割らないおにーさんにちょっと物をあげると言ったら快く話してくれた。

いやあ嬉しいねえ…無駄に血を流さなくて済んだよ。

でもあまり有益な情報は得られなかった。分かったのは拠点にしている場所だけ。それも日本全国にあるらしいやつのひとつだけだ。こればかりは仕方がないかなあ。簡単に言えば彼は下っ端の方のやつだったしそれくらい知っていたらまあいい方だろう。

それくらいなら見逃してもいいし与えたものもスペアはいくらでもある。一着くらいなんてことはない。

 

でも手持ちの武器で攻めるには少し心ともないから、一度家に戻り装備を補充する。

特に弾丸。普段は装備が重くなるから予備の弾丸はコンテンダー用のやつを数発持ってるだけ。

だけど今回はそうもいかないから…かなりの量を持っていくことにした。

こいしに預けているガトリングガンを出してもらい背中に背負う。少しよろめくけどまあ問題はない。ただ、これに大型のマシンガンを追加で持つとなるとちょっときついかな。

 

まあ持って行くけど。何だかんだ狭いところじゃガトリングガンより効率良いし。

 

「お燐、行くんだったら明日の昼までには帰って来なさい」

 

さとりがあたいにサングラスをかけてきた。

視界が少しだけ暗くなるけれど…光を見るときには丁度良い。

「……抹殺マシーン」

 

さとりが変なことをつぶやく。

なんだいまっさつマシーンって…意味がわからないよ。

「まあいいわ。死んじゃダメよ」

 

「さとりも心配性だねえ」

 

「心配はしていないわ。ちゃんと帰ってくるか怪しいだけよ」

それを心配しているというんだけどなあ…

まあ仕方がないか。いまに始まったことでもないからねえ。

 

 

「それじゃあ…ちょっとやってくるよ」

 

「あーあ…喧嘩売った相手間違えちゃってるね」

こいしがあたいの体に乗ってきた。

重いですからやめて…あ、体重じゃなくて装備の重さでバランス取りにくいだけだから。

 

「紫とかに喧嘩売るよりマシよ」

 

「あ…確かにね」

紫様なら…かなりやばいね。

「結局お姉ちゃんよりマシじゃないの?」

 

ああ…言えてますね。さとりの場合組織ごと全部消し去りますからね。それも徹底的に…

「そこまで酷いことしませんよ」

いや、あんたは一番方法がえげつないし全く手加減しないんだよ。

 

 

 

 

 

奴らが根城にしているのは一軒家のようなところ。

人里に近くて…でも山の管轄に入ってない丁度良いところにある。

でもこういうところは山に入れない妖怪とかが溜まってしまうから人間側の警備はほぼ無理。それに山の妖怪だって縄張りじゃないから踏み切ったことはできない。悪さするならここは最適ってわけだ。

だからこういう場所を選んだのだろうかねえ。

別に悪さする分には問題はないんだけれど……あたいはなんだか気に入らない。

 

一軒家を一望できる位置に陣取り様子を伺う。

見張りは見えないし見た目は空き家のようだね。でも…ここって言ってた。あれが嘘だと言うのならあたいはおびき寄せられただけのカモだろうけれど…どうやらあのおにーさんの言っていたことは正しいようだねえ。

わずかだけどあたいの耳が物音を捉える。

同時に複数人の足音。

さっきまでそんなものはしていなかった。となれば…家の中に地下室のようなところがあると……

 

じゃあ…ある程度の人数をおびき出す必要があるわけだ。うーんどうすれば良いかねえ。

まあ…正面突破でいいかなあ。

 

数は三人…でも他の出口を探しておかないと…そこから逃げられる可能性があるからなあ…

えっと…どこにあるかなあ…もう一つの出入り口。

 

あたいだったらどうする?そうだねえ……なるべく家の近くからは離して…それでいて目立たないところ。こういう草原があると視界が開けすぎてるからやっぱり林か草木でカモフラージュしていてくれた方がいい。

この条件に合う場所は…

家の後方にある小さな林だね。

 

思いついたらすぐに確認する。

相手にバレないようなるべく風下を気配を消して駆け抜ける。

 

林の中に入り込んだ。

さて、ここからは本格的に探索三昧だね。

あまり広いところじゃないけれど視界が悪い。

 

でもあっさり見つかった。

こんな大胆に窪んでいたら何かあると思わないとね。

少しだけ窪んだ地面を掘ってみると木の板が見えてくる。

なるほど…これは扉ってわけだね。

 

それじゃあ向こう側から攻めたらこっち側に出てくると…ほかの出口もないか調べたいけれどあまり時間はない。

仕方がないか。さっさと突入しよっと。扉をなるべく音は立てずにこじ開け中の様子を見る。何も見えない真っ暗な縦穴。

敵がいてもわからないね。

いてもいなくても良いけれど。

背負ったガトリングガンを下ろし構える。

そのままゆっくり中を進んでいく。

相手は…結構いるねえ。

それに少し酔ってるのかなあ……お酒くさい。

 

少し進むと穴は別の穴に合流した。

こっちの方が広くて2、3人が並んで通れそうな広さがある。

周囲に敵影なし。でもかなり近くにいるようだね。

広い穴に出て周囲を確認する。両方の通路の先に灯りが灯っている。どっちを狙ってもどっちかから増援が来ると考えた方がいいから…

じゃああたいは右側から始末しよっと。

 

再び歩みを進める。

するようやく灯の灯る部屋に到着した。

こっそり顔をのぞかせてみれば溜まっているのは複数人。うーん…どれも強面だねえ。

それじゃあ…行きますか。

 

奇襲戦。影から飛び出し構えたガトリングガンの引き金を引く。

モーターが銃身を回転させる音が地下の穴に響く。

その音をかき消すように轟音と弾丸が飛び出す。

1秒間に50発の勢いで飛び出すそれらは…最初の数発を地面に叩き込むだけだったがすぐに目標の1人目を吹き飛ばす。

引き金には手をつけたまま2人目。若干対処する時間を与えてしまったけれど何発も撃ち込まれたら対処なんて出来ない。

後ろから迫ってくる奴らのこともあるから直ぐに3人目に照準を合わせる。何か叫んでいるけれど何にも聞こえない。多分命乞いだったと思うけれど…まあ死なないだろうからさ。

すごく痛いし腕とかなくなるかもしれないし下手したらやばいけどあたいの知ったこっちゃない。

ガトリングガンの弾丸が切れたのか急に引き金が軽くなる。同時に唸りを上げていた砲身の動きが止まる。

気づけば部屋の中に敵はいなくなっていた。

同時に後ろから駆けてくる足音。

 

ガトリングガンを床におろしマシンガンに切り替える。

種類は忘れたけれどあまり長距離で使うやつではなかったのは確かだ。

どっちにしてもこの距離じゃもう長距離戦は出来ない。

迫ってくる奴らに向けて何発も撃ち込む。暗くても動物であるあたいにはしっかり見えている。

 

あ…そういえばこいし…家出る直前にあたいのポケットに何か入れてきたような……

何を入れたんだろうねえ。

ポケットを探ってみるとそこから出てきたのはパイプだった。

置いていくって言ったのにねえ…まあ、こいしからの差し入れって事でいいか。

 

妖力で着火し点火を確認して口に咥える。

それにしても数が多いねえ…このままじゃ弾切れしちゃうよ。

仕方ないけどこれ使うかねえ…昼間も使ってるから数が少なくなってるんだけど…

銀色の銃を空いている左手で構える。

あ、装填してないや。

このままじゃ使えないから今回は使わないで撃つ。

銀色の銃を真上に投げ、空いた手でスペルを2枚出す。

 

「猫符『怨霊猫乱歩』」

 

1枚はその場で詠唱。カードが輝き光から飛び出した弾幕が吹き荒れ、狭い坑道の壁を抉ったり乱反射したりもうこっちすら想定できない事になる。でも出力が不安定だねえ…弾幕が途中で消えちゃってる。

いくつかが誤作動を起こしたのか誘爆が多発する。

それと同時に、落下してくる銃をキャッチし2枚目をセットする。

グリップを掴んで半回転。しっかり奥まで入る。

「恨霊『スプリーンイーター』」

引き金を引きさらにスペルを宣言。

 

あちこちで悲鳴が上がる。

後で死体回収しに戻ってくるかなあ…

ちゃんと残っていればだけど。

粗方片付いたのか声が聞こえなくなる。

一度攻撃をやめて耳を澄ます。

 

生きているやつは一人か二人…どっちも虫の息だから置いておくとして…後は近くにいないようだね。

少し進むと持って帰りたくなるほどの死体がわんさか出てきた。

妖怪もだけと思いきや人間までいる。

すごいねえ…人間と妖怪が共闘戦線を作っていたんて。

こりゃ持って帰りたいなあ…

でも死体なんて持って帰っても良い顔しないし…

そうだ!先に骨にしてから持って帰ればいいんだ。

じゃあ早速焼き払うかねえ…

 

妖力で内部から直接燃やす。酸素がもったいないけどすぐに焼け落ちるから大丈夫……だよね。

他にめぼしいものはない。ここはいいとして…他のところを探すかねえ…

あっちの部屋もきになるし…

あたいが奇襲をかけた方とは反対側の部屋に入ると、そこも同じような構造になっている。だけど奥にもう一枚扉がある。

その扉を蹴破って中に入り込む。

廊下のようだけれどさっきより長くはない。だけど沢山の生き物の匂いが充満している。

それと同時に漂ってくる…脳裏に焼きつくような匂い。死臭だ。

奥に進むと廊下には二枚の扉があり1枚は中が見えるように格子状になっていた。

死臭や生きている者の匂いはここからする。

「誰かいるのかい?」

 

「ヒッ……」

複数のヒト…いや人間と妖怪とが混ざっているねえ。

扉の鍵を銃尻で叩き壊す。

中に足を踏み入れてみれば、何人かが動く気配がする。

その中の1人があたいに飛びかかってきた。

一瞬だけ構えたけれど敵意は感じられない。そのまま受け止めてあげれば、なんだか最近会ったことのある子の匂い。

「……またあんたかい」

正体は昼間出会った猫又少女だった。

「怖かったよお…」

あたいに抱きついて泣き始めてしまう少女。怖い思いをしたんだということは容易に想像がつく。

「はいはい、泣くのは後にして…ここから全員出るよ」

 

泣く前にやることがあるだろと言い聞かせて落ち着かせる。

頭を軽く叩いて再起させる。

 

奥の方にいたのは人間と妖怪…まだ幼かったり小柄で弱い妖怪を中心に狙っていたようだねえ…まあそっちの方が精神も壊しやすいし運びやすいしと色々便利なのだろう。

一番しっかりしてそうな子に出口の方向を伝える。

ただ、まだ外に誰かいるかもしれないからあたいもついていく。

助ける側もこれは大変だねえ…

 

 

人間以外の妖怪を先に外に出し散らせる。

あのまま一緒にいさせたら人間に何かするんじゃないかという不安があったからだけれどね。

でも人間の子は少ないねえ…

取り敢えずこの子達はあたいが安全に運んでいくかねえ…

 

「私も手伝います!」

 

猫又が手伝うって攻め寄ってきた。

まあ断る理由はないからいいか。

「それじゃあ…そこで怯えている子を抱えていくよ」

あたいらが妖怪だからかかなり怯えちゃってるねえ…まあそれがあたいらの運命だけれど。

 

結局二人で人里に運び……また戻ってきてしまった。

少しきになる部分があったからだ。

「この扉って……」

彼女たちが閉じ込められていた扉とは反対側のドア。木造ではあるけれどかなり頑丈に作られている。

あの家につながっているのかねえ…でも位置的に合わない。まだ続いているようだね。

「もうちょっとこっちを見ていくよ」

 

「私も行きます!」

 

「まあ……いいよ」

少し不安だけどいいか。

 

頑丈な作りの扉をこじ開けて奥に足を踏み入れる。

当然あたいが銃を構えて先行する。

 

 

暗闇に目が慣れているおかげかよく見える。

いい眺めだねえ…

何もないまっすぐな道だよ。

奥に進むにつれてなんだか空気が重くなってくるしなんだか死臭が濃くなっているけれどね。

通路の奥にはさらに別の部屋があった。酷い死臭はここからしている。

「……帰った方がいいんじゃないかな?」

「大丈夫ですよ」

そっか…なら大丈夫だねえ…

ドアを蹴破り中に入る。

それと同時に何かが動き出す気配がする。

 

生き物じゃない…なんだろうこの感覚…

生きている気配はないけれど……そこに何かいる。

妖力で作った灯りを放り投げる。

その明かりに照らされるように何かのシルエットが浮かび上がり…それがゆっくりと動き出す。

なんだいありゃ?

こっちに向かって歩いてきているのは大男だった。いや男かどうかすらわからない。

鬼のようにでかいけれど…全身筋肉質…いや、筋肉がむき出しになっている。

それに両手の爪も異常に長くなっている。

あれじゃあ刺されたら1発でやられるね。

頭にはお札のようなものが貼ってある。字は読めないけれど…あんな感じに体にお札を貼っているやつで生きている匂いがしない奴はキョンシーとかさとり言っていたっけ?

「な…なんですかあれ⁈」

 

「さあ?でも…キョンシーみたいだね」

 

しかし参ったなあ…キョンシーなんて戦った事ないや。

 

「やばいですよお…どうにかしないと!」

 

「承知」

指を鳴らしてみる。咥えていたパイプから火の粉を吹き上げそれを使い術を描く。

あまり使い物になるもんじゃないけれど護身用にってさとりが教えてくれたやつだ。

相手のお腹のあたりから火が吹き出し全身を燃やす。

だけど足を止めることはない。

 

「あちゃー…やっぱりダメか」

効き目がないと分かったら逃げるに限る。

「ここは逃げるよ」

 

「逃げるんですか⁉︎」

 

「そうがならないでほしいねえ。人間大の物体の破壊は難しいんだ。生きているなら心臓を燃やせば終わる。だけど死者はそういうわけにはいかないんだよ。死んでいるから、腕がなくなろうと頭がなくなろうとおかまいなしだ。アレを止めたければ火葬場なみの火力をもってくるか……徳の高い坊主でも連れてくるしかあるまいよ」

まあ坊主なんて連れてきたらこっちまで退治されてしまうけれどねえ。

「でもどう見ても逃がしてくれませんよ!」

奴が突進してきた。

猫又の首を引っ張りながら横に飛び退いて避ける。

勢いがついたやつはそのまま壁に衝突。穴全体が大きく振動する。崩れないか心配だ…

それに厄介なのは突進だけじゃない…あの爪でやられたら不味い。

なんでこんな奴がここに放置されているんだい全く…無茶苦茶もいいところだよ。

術者はどこに逃げたんだい!

「こっちだってあれを倒せる武器や技は持ってないんだから逃げる以外選択肢はないよ」

手榴弾か…あの大男を粉々にできる火力…ああさっきのガトリングガン残しておけばよかった。

 

「じゃあ私の出番ですね」

後ろで鈴を鳴らしたような声が聞こえる。

「「……え?」」

それと同時にあたいらの真横を何かがすり抜けていき…

気付いた時には目の前の大男はバラバラに刻まれていた。

血飛沫が周囲を赤く染めその真ん中に肉片が転がる。

 

「さとりさんからお願いされちゃったのでずっと監視してました」

緑色の髪の毛が風もないのになびく。

「ああ…まあさとりのお節介に巻き込んで済まないねえ」

 

「気にしないでください」

 

刀についた血を拭き取りながら大妖精はあたいにいつもと変わらない笑顔を向けていた。

 


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