食戟のソーマ~もう一人の編入者~ 作:食戟者
「ここが試験会場か・・・・・・・・・でかくね?」
紘汰が前にしているのは、巨大な学園だった。
遠月学園。
そこは日本屈指の料理学校にして、卒業到達率10%以下の超絶エリート校だった。
「なんて言うか、凄い場違い感があるな」
辺りを見渡すと、周りの受験生は育ちの良さそうな子ばかりで、全員に執事や護衛が付いていた。
(ここ・・・・・・・料理学校だよな?)
そんな疑問を持ちながらも、紘汰は敷地内に踏み込むとある光景を目にした。
「ぎゃあああああ!!進級試験落ちたああああ!!」
「もうダメだ………人生終わった……」
「頼む!一千万でも二千万でも寄付するから、息子の退学を取り下げてくれええええ!!」
その光景は到底料理学校の元のは思えず、絶望し、絶叫する者たちがそこにはいた。
「………本当に料理学校かよ………」
紘汰は自分が思っていた料理学校の予想図と違い、驚きを隠せずにいた。
そんなことを思いながら、試験時間まで時間を潰そうと歩き出す。
「遠月学園ねぇ………ただの定食屋の息子の俺には縁が無い所だと思ってたんだけどな。親父は一体なんで俺をここに入学させたんだ?てか、自分探しってなんだよ?」
幸太郎の唐突な行動にぶつぶつと文句を言いながら歩いていると、ベンチを見つけそこに座る。
「ふぅ……しかし、無駄に広くないか、この学校………」
ベンチに座りながら、空を仰ぐ。
「ああ、やばい……眠気が………」
そして、紘汰はいつの間にか眠りこけてしまった。
「………ん?寝ちまったのか………しまった!今何時だ!?」
目が覚めた紘汰は慌てて時間を確認する。
時刻は9:45
試験開始時刻は10:00
残り15分。
「やっべ!早く教室に行かねぇと!」
慌てて立ち上がり、紘汰は試験会場となっている教室を目指す。
だが、学園内が広いことと学園内の事を良く知っていない所為もあり、紘汰は道に迷い、気が付けば試験開始まで残り5分となっていた。
「まずい……このままだと試験も受けずに不合格だ………」
試験案内の紙を読んでも何処の棟の何処の教室が分からず、紘汰は頭を悩ませた。
そんな時、紘汰の視界の端にある影を捕えた。
それは女の子で、紘汰より背が低く、中学生、下手すれば小学生と間違えられてもおかしくない背丈だった。
しかし、その女の子が来ているのは資料で見た遠月学園の高等部の制服だった。
(制服着てるってことは学園の生徒だよな………あんなに小さいのに?飛び級とか?……って今はそんなこと考えてる暇はない!)
紘汰は今考えたことを放棄し、女の子に駆け寄る。
「すみません!」
声を掛けた瞬間、女の子は驚いたのか肩をビクッとさせ、ゆっくりと振り向く。
「………何?」
「いや、編入試験の会場の場所が分からなくて……ここって何処の棟ですか?」
紙を女の子に見せると、女の子はぬいぐるみを抱きしめたまま、内容をじっと見て、そして、ある棟を指差す。
「あの棟の二階。階段を上ってすぐ左の教室」
「そっか。ありがとうございます!」
女の子にお礼を言い、紘汰は慌ててその棟に向かう。
「ここがどんな学園か分かってる?」
急にその女の子が紘汰に向かってそう言う。
紘汰は棟へ向かう足を止め、女の子の方を向く。
「どんなって……日本屈指の料理学校ですよね」
「……そんな認識を持ってる内は生き残れないよ」
女の子は先程の紘汰の声に驚いた様子とは違い、歴戦の
そして、その目が語っていたのは忠告であり、警告であった。
引き返すなら今の内だ。
お前では生き残れない。
そう言われてるのと同じだった
「………ここがどんな所かなんて知らないですけど」
紘汰は女の子の方を向き、そして、不敵に笑った。
「俺は自分の料理を信じて、進むだけですから」
そう言う紘汰に女の子は呆気にとられ、口が半開きとなっていた。
「って、時間が!じゃ、失礼します!」
そこで紘汰は時間に気付き、慌てて棟へと向かった。
「……変わった子」
そう言って女の子、茜ヶ久保ももはお気に入りのぬいぐるみ“ブッチー”を抱きしめ直す。
「でも……おもしろい」
もも自身、何故そう思ったのか分からなかった。
だが、その顔には笑みが僅かに浮かんでいた。
その笑みは、他人から見れば特に変わってないように見えるが、彼女の事を良く知る者たちからすれば、珍しい表情であった。
ももはそれに気付かず、再び学園内を歩き出す。
「ふぅ……ギリギリセーフ………」
なんとか開始一分前に試験会場に滑り込む事の出来た紘汰は肩で息をし、呼吸を整える。
「お前、大丈夫か?」
そんな紘汰に、赤髪と左眉に切り傷のある少年が声を掛ける。
「ああ、大丈夫。ちょっと時間が無くて走っただけだから」
「そっか。あ、俺、幸平創真な」
「そうか、俺は碓氷紘汰。互いに試験頑張ろうぜ」
「おう!」
互いに握手をし、笑い合う紘汰と創真。
そんな二人を見て、他の受験生たちは鼻で笑っていた。
「馴れ合いやがって……」
「そんな甘っちょろい考え方じゃ落ちたな……」
「ライバルが減って助かるぜ」
受験生たちがそう言う中、教室の扉が開き、誰かが入って来た。
(あれ?あの服って………)
紘汰が見たのは、先程、紘汰が声を掛けた女生徒、つまりももと同じ制服を着た二人の女性だった。
「本日の編入試験を一任された薙切えりなと申します」
腕組みをして、金髪でスタイル抜群の少女、えりなはそう言う。
(まさか生徒が試験官をするのか?てことは、あの薙切って生徒は余程優秀なんだな………)
紘汰は呑気にそんなことを考えていると、えりなは隣に居た生徒に、入試の内容を聞いていた。
「試験はまず、申込書類をもとに10人単位で集団面接。その後、三品ほど調理実技、その通過者をさらに「下らない」
話の途中で、えりなはそう言って遮る。
「調理台をここに!」
そう言うと、その生徒はすぐに様々な食材が載せられた調理台を持ってくる。
その中からえりなはある食材を手に取り、見せる。
「メインの食材は卵。一品作りなさい。私の下を唸らせた者に、遠月学園への編入を許可します!なお………今から一分間だけ受験の取りやめを認めましょう」
えりながそう言った瞬間、大勢の受験生たちは我先にと教室を飛び出していく。
「お、オイ!?なんで逃げてんだよ!?」
創真は逃げ出そうとした受験生の一人を捕まえ、訳を聞く。
「あ、あのお方を知らないのか!?」
「知らん」
「俺も知らねぇから教えてくんねぇ?」
紘汰も丁度いいと言わんばかりに、尋ねる。
「彼女は中等部から内部進学首席合格者なんだよ!」
「へー、そんなに優秀なのか」
「優秀なんてもんじゃない!彼女は、あの“遠月十傑評議会”と言う学園の最高決定機関に所属してる天才だ!」
「「だから?」」
「彼女は人類最高の神の味覚の持ち主……!彼女は幼少期から日本中の有名店に味見役を依頼されてきた。料理界の重鎮たちは皆、薙切えりなの顧客なんだ!彼女が下した評価は業界全体に知れ渡る!もしも、彼女に不出来な品を出して“才能無し”と烙印を押されでもしたら、もう業界では生きていけなくなる……!料理人としての人生が閉ざされるってことなんだよぉ!」
少年はそう言って創真の腕を振り払い、逃げ出す。
そして、教室には紘汰と創真の二人だけが残った。
「よろしいのですか?これでは恐らく一人も……」
「見たでしょ?見込みの無いクズばかりよ。こんな連中に私の時間を割くわけにはいかないわ」
そう言って溜息を吐くえりなに対して、紘汰は少し眉を寄せた。
(こいつ………一体何様のつもりだよ………)
「さて、上に報告しなくてはね。合格者0だと」
「なぁ、作る品は何でもいいの?」
創真がえりなにそう話し掛けると、えりなは少し驚いたそぶりを見せ、そして頷いた。
「ええ、卵さえ使用していれば自由よ?でも、本当にやる気?辞退するなら今の内に「やーホント焦ったわー!料理もしねーで落されたらどうしようって思ってさー!」
えりなの言葉も聞かず、創真はそう言ってえりなの肩に手を置く。
「は……離れろ!」
すると、えりなの隣の少女が創馬をえりなから遠ざける。
「この方をどなたと心得る!首席生徒にして遠月十傑評議会のメンバー。薙切えりな様だ!」
「ほー、こりゃ中々な業物ですね」
「うろうろするな!」
少女の渾身の台詞を無視し、創真は置いてあった包丁を鑑賞していた。
「もう一度聞くわ。本当に私の試験を受ける気なの?」
「さっきからごちゃごちゃうるせぇな」
すると、さっきまで静かにしていた紘汰が口を開く。
「俺と幸平は試験を受けるって言ってるだろ。あ、俺は言ってねぇか……ま、そんなことは重要じゃない」
紘汰はそう言って学ランを脱ぎ、ワイシャツの袖を捲る。
「とにかく、俺と幸平は料理を作る。だから、それ以上何も言わず座して待ってろよ」
苛立ちを言葉に含めながらも、冷静に紘汰はそう言う。
「ま、そう言う訳だからさ。俺も碓氷も受ける。美味いって言わせればいいんだろ?」
そう言う紘汰と創真に、えりなは横目で二人の書類を確認する。
(幸平創真……実家は定食屋……そして碓氷紘汰……こちらも実家は定食屋。見るからに二流の料理人。私の高貴さが分からないのね。野良犬に宝石の価値が分からないように………)
二人の書類を確認し終えると、えりなは相手を馬鹿にするかのように笑う。
「そこまで言うなら味わって差し上げるわ。料理業界底辺の味をね……!」
「喜んで。ウチの店のとっておきを出してやるよ」
「本当に底辺なのかどうか……その舌で味わって確かめな」
紘汰はタオルを、創真は手拭いを鉢巻代わりに占めながらそう言い、調理場へと向かった。
「よし!完成だ!」
先に料理を完成させたのは紘汰だった。
紘汰は出来たものを更に盛り、えりなの元に向かう。
「貴方が先ね。で、作ったのは何かしら?」
「俺が作ったのは………オムレツだ」
「……は?」
紘汰の言った言葉に、えりなは思わずそう聞き返した。
そして、目の前に出されたのはごく普通のオムレツだった。
「ごく普通のオムレツね……見た目だけは及第点って所かしら」
「口を動かすなら、喋るんじゃなくて食ってくれよ。話はそれからだ」
「ふん……まぁ、いいでしょう」
そう言ってえりなはナイフとフォークを手に、オムレツを手に付ける。
そして、一口口に入れる。
その瞬間、えりなの表情は驚きに変わった。
「こ、これは………!」
「凄いふわふわなオムレツだろ?ポイントは卵の白身と黄身を分けてかき混ぜることだ。
かき混ぜることで、白身はふわふわのメレンゲ状になる。
それがオムレツをふっくらとさせるポイントだ。
メレンゲ状になったら、黄身を投入して、白身と黄身が全体的に混ざるまでかき混ぜる。
そうすることで、全体的にふわふわした溶き卵が出来上がる。
最初から白身と黄身を同時に混ぜるよりも、かなりふわふわした溶き卵となっている。
そこに、マヨネーズも少々加える。
卵にマヨネーズを加えると、乳化された植物油や酢が、加熱によるたんぱく質の結合をソフトにし、よりふわふわに。
しかもこの乳化された植物油は冷めてもかたまらないから、やわらかいまま。
さらに、酢のはたらきにより仕上がりもきれいなたまご色になる」
「それだけじゃない、このオムレツに入っているこの食材……この触感は……!」
「沢庵だ」
「沢庵!?」
「台湾に沢庵を入れた卵焼きがあるって話聞いたこと無いか?これが結構うまくてさ。卵焼きに合うならオムレツにもって考えた結果出来たのがこれさ。ボリボリとした触感に加えて、沢庵の塩気で卵にも味が付く。どうよ?」
(………確かに台湾には沢庵の入った卵焼きがあると言う話は聞いたことがある。それをオムレツでもやって見せるなんて………それにオムレツは洋食の基本料理……それをこれだけふわふわに作り上げる手際…………)
えりなは無言でフォークとナイフを置き、口元を拭う。
「……碓氷紘汰。貴方の編入を認めます。合格です」
もも先輩との出会いでした。
次回は入学式と初授業になります