食戟のソーマ~もう一人の編入者~ 作:食戟者
編入試験からひと月程経った四月。
この日、遠月学園では入学式兼始業式が行われた。
紘汰は編入生が座る席に座っていた。
だが、その席は二つしか用意されておらずもう片方には、編入試験で一緒だった創真が座っていた。
「しかし、幸平も受かってよかったな」
「薙切の奴に、涙目で顔真っ赤にしながら不味いって言われたからてっきり落ちたと思ってたんだけどな」
「ま、何はともあれ知り合いが居て助かるよ」
そう言って紘汰は手を差し出す。
「改めて、碓氷紘汰だ。呼ぶ時は紘汰でいいぞ。実家は定食屋だ。よろしくな」
「おう!じゃ、俺も創真でいいぜ。同じく実家は定食屋だ。よろしくな」
握手をし、親交を深めていると一人の男性が壇上に立ち、生徒たちの前に立つ。
薙切仙左衛門。
遠月学園の総帥にして、日本の料理業界を牛耳る美食の権化。
またの名を食の魔王と呼ばれる男だ。
「諸君、高等部進学おめでとう」
仙左衛門の第一声はそれだった。
何を言われるのかと身構えていた生徒たちは普通の言葉に呆気を取られる。
「諸君は中等部での三年間で調理の基礎技術と食材への理解を深めた。そして今、高等部の入り口に立ったわけだが、これから試されるのは技巧や知識ではない。料理人として生きる気概そのもの」
そこで言葉を切り、ゆっくり指を生徒たちに向ける。
「諸君の99%は1%の玉を磨くための捨て石である」
はっきりとそう言われ、全員が何も言えなくなり、呼吸音だけが聞こえる。
「昨年の新一年生812名の内、二年生に進級できたのは76名。無能と凡夫は切り捨てられ、千人の一年生が進級する頃には100人になり、卒業にまで辿り着く者は片手で数える程度になるだろうその一握りの料理人に君が成るのだ!」
その言葉に、さっきとは違う緊張感が生徒を襲う。
「研鑽せよ」
その言葉を最後に、生徒たちは声を上げ威勢の良さを見せる。
「なんか凄いところに着ちまったな」
「812名の内、進級できたのが一割程度かよ……かなりヤバイな」
「では最後に、高等部より編入する生徒を二名紹介します」
教師にそう言われ紘汰と創真が立ち上がる。
「なぁ、創真。所信表明の言葉考えたか?」
「いや、全然。ま、思ってること言えばいいだろ」
そう言って創馬が壇上に立つ。
「えっと……幸平創真って言います。この学園のことは正直、踏み台としか思ってないです思いがけず編入することになったんですけど、客の前に立ったこともない連中に負けるつもりは無いっす。入ったからにはてっぺん獲るんで。三年間よろしくお願いしまーす」
最後に頭を下げ、創真は退場する。
すると、生徒たちは創真の態度に激怒し、物を投げ出す。
「創真、後の俺のことも考えてくれよ」
「悪ぃ悪ぃ!思ったことそのまま言っちまってさ!」
「たっく………」
教師が生徒たちを落ち着かせ終えるのを見てから、紘汰は壇上に立つ。
「碓氷紘汰です。この遠月学園に編入できたことを心からうれしく思います」
創真と違い、まともかつまっとうな台詞に生徒たちは当然だと言わんばかりに頷く。
「入学したからにはしっかりと卒業したいです……………なんて甘いことは言いません」
その瞬間、生徒たちの表情がまたしても変わる。
「料理人である以上、俺は妥協しません。この学園に入学した以上、必ず結果を残すつもりです。なので、手始めにこの学園のてっぺんを目指します。そういう訳で、三年間よろしくお願いします」
紘汰もまた最後に頭を下げ、壇上を去る。
「ふざけんな編入生共が!」
「ぶっ○すぞ!」
「表出やがれ!」
再び激怒し、暴言と物を投げ飛ばす。
「どうよ、俺の所信表明?」
「凄い勢いで喧嘩売りに行ってたな」
「創真もだろ」
自分たちが言った言葉の意味を理解せずに笑い合う二人に、えりなは近づく。
「幸平君!何故君がここに……!?」
「何故ってお前……合格通知が届いたらそりゃ来るだろ」
創真はそう言って、えりなに合格通知の紙を見せる。
「あの時はビビッたぜ。不味いとか言うんだもんよ。美味いなら美味いって素直に言えよ」
「………言っておきます。私は認めてないわ。君も、君の料理もね!」
「は?」
「手違いよ!君は手違いで遠月に来たのよ!」
声を荒げそう言うえりなに、紘汰も創真も呆気に取られる。
「碓氷君にも言うけど、てっぺんを取るですって?笑わせないで!中等部から来た内部進学者たちは皆、最先端ガストロノミーの英才教育を受けてきたの!外様の編入せいなんて上を見上げるまでも無い。彼らにも勝てやしないわ。碓氷君、高望みせずに、身の丈にあった生活を送ることね。貴方の料理は遠月でも通用するだろうけど、あくまで通用するだけ。てっぺんに行けるなんて思わないことね」
そう言いえりなは去ろうとする。
「三年間ねぇ……」
「笑えるな……」
「……何ですって?」
二人のつぶやいた言葉にえりなは振り向く。
「俺が包丁を始めて手にしたのは三つの時だ」
「俺も同じだ。物心着く前から包丁を握ってた」
「俺たちは十二年間調理場で生きてきたんだぜ?」
「十二年間の現場仕込みが三年間の英才教育に絶対勝てないなんて常識、俺たちが変えてやるよ」
「それに”不味い”って言われたままで、店の名に泥を塗るわけにもいかねーしな。楽しみにしてな。アンタの口からはっきり”美味い”って言わせてやるよ!」
「俺も、次に出すのはあんな基本料理なんかじゃない、俺の本気の料理を出す。楽しみにしててくれよ」
紘汰と創真はえりなにそう言い、始業式を後にした。
紘汰の学園生活は、生徒たちの激怒の声をBGMにして始まった。
「あの子………受かったんだ。ふ~ん………本当に面白い」