食戟のソーマ~もう一人の編入者~ 作:食戟者
始業式が終わるとすぐに授業が始まった。
一般科目の授業の後に料理の実技授業が行われ、紘汰は自分が受ける授業の教室に向かうと、生徒たちからまるで親の仇のごとく、睨まれる。
そんなことを意に返さずのんきに調理台の前に立っていた。
合格が決まった時、どこで知ったのか幸太郎から入学祝として届いたコックコート(何故か胸元にデフォルメされた熊のアップリケ付)を身に纏いながら授業が始まるのを待っていた。
そして、その時がきた。
教室に教師が入ってくる……………はずだった。
入ってきた者の姿に全員がどよめく。
「あれ?あの人……」
それは紘汰が編入試験の日に出会った人、茜ヶ久保ももだった。
「お、おい……あの人って……」
「な、なんで茜ヶ久保先輩が……」
ももを見た瞬間、生徒たちは小声で話し出し、動揺する。
(ん?どうしたんだ?)
そんな中、紘汰は何が起きてるのか分からず、首を傾げていた。
「今日の授業はももが担当する」
その言葉と同時に、ざわめきは大きくなり全員が絶望しきった顔になる。
「なぁなぁ、あの人ってそんな凄いのか?」
紘汰は隣の生徒の肩を突っついて尋ねる。
「お前、知らないのか?」
銀髪を束ねた褐色の肌の青年、葉山アキラは紘汰に向かってため息を吐く。
「三年の茜ヶ久保もも。遠月十傑の一人で席次は第四席、遠月学園当代きっての
「何が?」
「あの人が臨時で担当した授業じゃ、一人も合格者は出ない。それだけ、あの人はスイーツに厳しい。遠月での最初の授業で、最低評価のEを取っちまうんだ。運が悪かったとしか言い様がないだろ」
そう言って葉山はももの方を向きなおす。
「お題は焼き菓子。制限時間は二時間。始め」
ももはそれだけ言うと、椅子に座り手にしたぬいぐるみを弄り始める。
生徒たちは慌てながらも、焼き菓子を作り始める。
「全然だめ。E」
ももは出されたクッキーを一口齧るとそう言い捨てて評価を下す。
評価を下された生徒は絶望した表情になり、トボトボと席に戻る。
殆どの生徒がお菓子を提出し、全員が評価Eを下される中、葉山は堂々と自身の焼き菓子を出す。
「普通のマフィンね。こんなので受かると思うの?」
「まさか。こちらのハニーバターをかけて食べてください」
そう言い、葉山はマフィンの上にハニーバターをかける。
ハニーバターのかけられたマフィンをナイフで切り、そして、一口食べる。
すると、ももは僅かに身震いした。
「このマフィン……数種類のスパイスが使われてる」
「はい。シナモンをベースに、生姜、カルダモン、クローブ、胡椒のミックススパイスを生地に混ぜ込んでます」
「なるほど。スパイスの効いたマフィンがハニーバターの甘さを引き立ててる。そして、ハニーバターは甘すぎずくどくない………スパイスの配合もよくできてる。スパイスのことを知り尽くしてるからこそ出来る技」
フォークを置き、口元を拭き、ももは言う。
「合格。評価はA」
「ありがとうございます」
葉山は当然と言わんばかりに調理台に戻る。
周りの生徒たちは葉山がAの評価をもらったことに驚き、小声で騒ぎ出す。
そして、とうとう紘汰の番となった。
「どうぞ。アップルマフィンです」
出されたアップルマフィンに、ももはしばらく手をつけずじっと見る。
そして、手をつけた。
ナイフで切り、一口食べる。
その瞬間、ももの口の中でりんごの甘みが広がり、その直後ピリッっとした感触が襲った。
そして、ももは再びマフィンを口に入れた。
ももが次に言葉を出したのは、紘汰の作ったマフィンを全て食べた後だった。
「マフィンはしっとりとしていて、しっかりとした甘みがある」
「生地にアップルフィリングを入れてます。
りんごをサイコロ状に切って、砂糖、バター、コニャック、カルダモンと一緒に煮詰め生地と一緒に入てあります。
それを生地と交互に入れ、りんごの甘みが全体に行き渡るようにしてます。
そして、生地にチリペッパ-が少々含まれてます」
「あの感じはチリペッパーだったんだ」
「はい
甘いものに辛いものは結構合うので。
それに果物にチリペッパーを付けて食べるのはメキシコでは一般的に食されてるので、りんごにも合うと思ってました」
「うん……合格。評価A」
一日の授業を終え、紘汰は一人学園内のベンチにいた。
「ふぅ……なんとか一日が終わった」
紘汰は少し休憩したら、今日からお世話になる学生寮に向かおうとしていた。
「ねぇ」
突然話しかけられ、紘汰は声がした方を振り向く。
そこにはももがいた。
「あ、茜ヶ久保先輩!?」
「ももでいい。ちょっと話がある。隣いい?」
「ど、どうぞ」
ぬいぐるみを抱きしめたまま、隣にちょこんと座るももを見ながら、紘汰は一人内心焦っていた。
「あ、あの~………それで話ってのは一体………」
「君はお菓子作りが好き?」
聞かれたのは普通のことだった。
「え、ええ……お菓子作りは好きな方です。親父にも、お菓子作りだけは認められてるし、何より作ると妹が喜ぶんで」
「そう………ねぇ、もっとお菓子作りが上達したいって思う?」
「………それは思います。まぁ、お菓子作り以外も上達したいと思ってますけど」
「君のお菓子はもっと上にいける。でも、学園の授業じゃそれも無理。だからももがお菓子作りを教える」
「え?」
紘汰は思わず耳を疑った。
十傑の第四席で、しかも遠月学園当代きっての
「それは嬉しいですけど、何で俺なんですか?」
「君は”自分の料理を信じて、進む”って言ってた」
初めて出会った時の言葉をももが言う。
「それが面白いって思ったのと、貴方にならももの技術を教えてもいいと思ったから」
そう言うももの目に嘘偽りはなかった。
紘汰は頭を掻き、笑った。
「じゃあ、お願いします」
「うん。じゃあ、今から早速」
「………え?」
「すぐ近くにもも専用の調理棟がある。そこですぐに始める」
「いや、俺今から寮の方に」
「来て」
「ちょ、話してくださいよ!もも先輩!?」
袖を捕まれ、ぐいぐいと引っ張られながら紘汰は調理棟に連れてから、夜遅くまでお菓子作りの練習をさせられたのは言うまでもなかった。
なんやかんやでもも先輩とお菓子作りの特訓をすることになりました。
それと地味に葉山と合いました。