打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

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◇Wish not to change

 今日はタイミングがあったので晴香と帰っていたら、ちょうど俺の家の近所にある町内会のセンターに人が集まっているのが見えた。

 この時期に何かやっていたかと記憶を掘り起こす。そうか、今日は七夕か。

 

 

「行ってみるか? 確か短冊に願い事書いたりとかあったはずだけど」

「うん。しばらくそういうのしたことなかったし、やりたいな」

 

 

 お目当ての場所を探しながらキョロキョロしてセンターの辺りを彷徨う。

 小学生の頃までは子供会の行事に結構参加していたこともあって、知った顔のおじちゃんおばちゃんがちらほらいた。声を掛けられるたび体育会系っぽい挨拶をする。そのうち一人が短冊記入コーナーの場所を教えてくれたので、足を向ける。

 

 そこには願い事を書く際の注意事項が書かれていた紙があったので、要約しつつなんとなく読み上げた。

 

 

「ええと……、《短冊に願い事を。一人二枚。十六年後へと二十五年後へ。願い事を叶えてくれるのは織姫と彦星(ベガとアルタイル)。それぞれ地球からの距離が十六光年と二十五光年だから。》」

「私、篤に借りた本で似たようなの見たことある」

「絶対それから引っ張ってきてるよな」

 

 

 俺はここに書かれているようなことを『涼宮ハルヒの退屈――笹の葉ラプソディー――』で知ったのだが、この張り紙書いた人も絶対俺と同じだろ。

 だって紙の余白には織姫と彦星に扮したハルヒとキョンが書かれているんだもん。ご丁寧に原作を踏襲したようなセリフまで言わせている。

 

キョン「往復だったら三十二年と五十年掛かるんじゃないか?」

ハルヒ「神様だもの。それぐらいなんとかしてくれるわ。半額サマーバーゲンセールよ」

 

 

「まあハルヒが書かれてることを気にしてもしゃあねえさ。とっとと書こうぜ」

「十六年後と二十五年後だから、三十四歳と四十三歳か。なんかまだずっと先に思えるね」

「もう十七年以上生きてるんだから、十六年なんてあっという間だろ。十六年経っちまえば二十五年まであと九年だ。そんな遠くないんじゃないか」

「そっか。もう十七年も……篤は十八だよね?」

「だから以上っつったろ。晴香だってあと三ヶ月と三週間だろうが」

 

 

 話しながらボールペンを回しつつ、書きたいことを考える。

 俺が応援している女性声優さんの一人は、願いを自力で叶える力が欲しい、なんて書いていたらしいがそもそもの願いが下りてこない。

 未来のことだからなあ。言い方は悪いが、身近なサンプルで考えてみるか。

 父さんも母さんも同い年だから、三十四ったら俺が五歳。で、四十三だったら俺は十四歳か。ああ、子供いてもおかしくないんだ。

 ちらと、隣で頭を悩ませている、一緒に親になりたい人を見た。

 そうか。俺の願いは、俺の望みは、これだ。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 遠い、ある夏の日を思い出した。

 そういえば今年は、織姫があの日の願いを叶えてくれる頃だ。片道分サービスしてくれていればだが。

 きっとサービスしてくれてるんだろう。俺の願いは叶えられているはずだから。確証はないけれど、そうだと信ずるに足るものを貰っている。

 

 あのころとは変わったこともあるけど、変わっていないことだってある。

 あの日俺が願ったことの対象が増えていることが大きく変わったことだろう。

 正直、変わることも込みで若干ふわっとしたことをベガにもアルタイルにも願ったのだけれど。

 

 

 あと九年経ったら、十六年前にはぐらかした問いの答えを、変わらずに傍にいてくれている人に告げてみようか。

 今はまだ照れ臭さが勝って言えないから、ちょっとだけ先延ばし。

 

 聞かれるのが恥ずかしいから、心の中でまた願おう。まだ彦星分は届いていないけど、今願ったのだってまだ届かないんだから良いよな。

 今からだと、今度は五十歳と五十九歳。自力だけだとちょっと厳しくなってくるかもしれない。

 

 

 

 それでも全力を尽くそう。

 

 ずっと変わらない願いが一つ。

 

 

 

 

――――――愛する人が幸せでありますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




訳は『変わらない願い』でした。

私にとって七夕は今日ですから(北海道民)。しかし彼らにとっての七夕は七月七日ですので、作中は八月ではなく七月です。ややこしくて申し訳ありません。
短いお話となってしまいましたが、書きたいことが入れられたのでこれで。
日曜日にお逢いしましょう。それでは、また。

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