打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

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タイトルは米澤穂信『クドリャフカの順番』より拝借しました


第33話 期待っていうのは、諦めから出る言葉

「君はなぁーに盗み聞きしてたのかな? 黄前久美子くん」

「うぁ」

「ここいい?」

「はい、どうぞ……」

 

 

 みぞれと話し終えて、ようやく飯にありつく。いやはやお腹空いた。

 別に一人で食べたっていいのだが、どうせなら今のうちに色々と話しちゃった方が得だ。というわけでユーフォニアムの秘蔵っ子、黄前久美子のところへ。

 霊圧、じゃねえや、気配はさっきからしてたんだよなあ。多分みぞれとの会話聞かれてた。本人が言いふらさないならいいや。

 

 

「いただきます」

 

 

 今日の夕食はエビフライ。ちなみに諸君はエビフライには何を付けて食べるだろうか。俺は何もつけないか、少量の塩を掛けて頂く。昔は何故か苦手で、たっぷりのタルタルソースを掛けないと食べられなかった。今は多分色々と掛けるのもめんどくせえんだよなあ。サラダにドレッシングも掛けなくなったし。

 白飯はおかわり自由だが、おかずはそうもいかない。なるべく多く米を食べ進めるためにちまちまとフライを口に運ぶ。てかエビフライなら身が思いっきり肉感あるからいいんだけどさ、米を食べ進めるためのおかずって考えたら、クリームコロッケとか邪道だと思う。弁当に入ってるメインと思われし揚げ物がクリームコロッケのみの時軽く絶望感じるもん。

 

 久美子の首突っ込みたがりの感じからして何か尋ねてくる予感がしたからこうしてきたんだが、今のところその気配がない。まあ何も無かったら俺から聞くか。

 

 

「先輩、食べる前にちゃんと手、合わせるんですね」

「君は俺を何だと思ってんの?」

 

 

 予想外の方向から球飛んできてびっくりしたよ。チャンスエンカウント仕掛けられたシャドウの気分だよ。

 半目で問い返すと慌てた様子で弁解する。本音という名のボロがいつ出るのか。私、気になります!

 

 

「ああいや、意外といいますか、その、結構フツーだなって」

「ぶっ」

 

 

 あ、危な。丁度口の中何も入ってなくてよかった。漫画的アニメ的表現だったらブーって吹き出してるやつだこれ。

 

 

「な、なんですか」

「ふふ、はははは、ふっ、ふふふっ、あはははは」

「だからなんなんですか!」

「あっはっはっは。ごめんごめん」

 

 

 呼吸を整えるために、一度深呼吸。あー面白かった。

 

 

「悪い悪い。久美子があんまり面白いこと言うもんだから」

「はい?」

 

 

 今度は久美子が怪訝な顔をする。いやいやいや自覚無しか。

 また笑いが零れそうになるが、ぐっと堪えてちょっとだけ真面目に問う。

 

 

「俺が、フツー?」

「先輩が、というか、やってたことが」

「まあそうか。うん。確かにそうだ」

 

 

 食事の前に手を合わせていただきます。幼稚園生だってやることだ。行為は普通だな。ならば何故俺はこの言葉に過剰反応してしまったか。なんて、結構単純。

 俺が自己完結仕掛けているのを見て、質問される。

 

 

「なんであんなに笑ってたんですか?」

「俺、フツーって言われることそうそう無いからさ。新鮮っつーかびっくりしたっつーか。俺にそんなこと言える人がいるとは」

 

 

 存在自体異端だからなあ、俺。それでちやほやされる時もあれば、当然疎まれ弾かれることもある。

 どっちも面倒なことに変わりはないが、後者の方がめんどくさいことこの上ない。だから努力して、フツーとすら感じないくらいの平凡さを身に付けた。しかし過度にセーブすればそれはそれで対人関係における亀裂となりかねない。探り探り適度に素を出した位置づけを確保した。

 だというのにこいつは、ぽけーっとぬぼーっとした様子でついてきやがる。そんなところも非常に面白い。流石ユーフォニアムだ。

 

 

「……そんな目で見ないでくれるか。俺は事実を述べたまでだ。疑問に思うなら、あすかにでも話してみるといい。俺にフツーと言ったら笑われたとな」

「はあ……」

 

 

 久美子の視線が表していた言葉は、「何言ってんだこいつ」だった。まあ俺も力量知らないやつにいきなりこんなこと言われたらひく。なにこいつ超ナルシストじゃんってなる。

 一応言っておくが、この手の視線で興奮する性分ではない。でも、綺麗でかわいくて基本優しいお姉さんとかだったらいいよね。ぞくぞくしちゃいそう。ラブプラスそういうの導入してくんねえかな。ネネさんにやられてみたいわぁ。

 

 俺より先に食べていた久美子が、最後に味噌汁を飲み干した。それから意を決したように目を見てくる。

 

 

「あの、黒田先輩」

「みぞれのことか? それとも希美?」

「えっ」

「或いは恋の相談とか? 秀一との関係かな? いやぁ見ていて非常におもしろいよな、君らは。俺らなんかとは違ってさ、これぞ初々しい幼馴染カップル! 的な。ああ、まだ付き合ってねえのか。でも付き合う前の段階も結構楽しかったりすんだよな」

「な、なに言ってるんですか。秀一とはそんなんじゃないです。ていうか恋の相談とかないですし」

「なんだ。つまらん」

「ほんっとあすか先輩そっくり」

「聞こえてるぞー」

 

 

 あと俺があすかから影響受けたんじゃなくて、あすかが俺から影響受けてるから。そこんトコロお間違えのないよーに。

 さて、そろそろ本題入りますかね。

 

 

「で、用件は?」

「希美先輩のことです」

「ほぉーお」

 

 

 茶碗に残った白飯をエビフライがなくとも食べきるために、黄色い沢庵を口に放る。当然だが、味が濃いな。

 

 

「あの、なんで黒田先輩は、希美先輩が部活に戻るのを許可しないんですか?」

「さーて何故でしょう?」

 

 

 忍法質問返し。俺忍者じゃねえけど。望月流忍法口寄せの術の詠唱はもうあれ鬼道だよな。「なんじゃこりゃあああ」と「鬼道じゃねえかあああ」が同時に感想で浮かんできた。あ、この部分はまだネタバレOKの部分ですから。

 視線をふらふらと彷徨わせ、ややあってから口を開いた。

 

 

「希美先輩が上手だからかな、と思ってます。香織先輩と麗奈のこともありますし、また先輩と後輩の間で対立が起きるのが嫌なのかな、って。そう思います」

「なるほどね。そうかもしれないなあ」

「先輩」

 

 

 険を乗せた声で呼ばれる。あらら、意外と真剣かな。

 だったら、試させてくれよ。俺が手を出さないに値するかどうか。

 

 

「答え合わせをしてもいいけどなあ。それ知ってどうすんだ?」

「そっそれは」

 

 

 久美子はギクリと身体を固まらせた。

 まあ大方の予想はつくがね。馬鹿正直に話すほど単純な子じゃないか。かといってもっともらしい理由をでっちあげられる程器用でもなさそうだ。

 

 

「ちょっとした興味本位といいますか……」

「ふーん。これは個人の心に踏み込んだ内容だからなあ。それで誤魔化されてあげない」

「誤魔化さなかったらいいんですか?」

「俺の損にならないなら」

「はい?」

 

 

 俺も結構利己的なもんでね。いろんなもん鑑みて、その結果プラスになるなら頑張るさ。それにこの立場があすかのままでも、久美子になら話してもいいという選択肢を取るだろう。

 黄前久美子は脳みそ使えない阿呆じゃない。それに能動的か受動的かわからないが面白いほどの巻き込まれ体質で、なんとかしようとできるほど無自覚に傲慢。

 だったらちょいと託せるかもしんねえ。昼間のマサさんの言葉を聞いて、俺が感じた引っ掛かりを解くことを。

 

 

「まーまー。ちゃんとした理由を話してみなさいな。悪いようにはしないはずだから」

「はずって……。はぁーあ」

 

 

 覚悟を決めたのか、諦めがついたのか。大きく息を吐き出してから言った。

 

 

「希美先輩と約束したんです。先輩方がなんで復帰を認めないのか聞きだすって。ダメですか」

「なるほど。手前の脳みそ使わねえと思ったら今度はやっぱり人頼みか」

 

 

 予想通りか。今度は俺が溜息をついた。

 すると久美子が慌てて両手を振り、否定に入った。

 

 

「違います! 私が勝手にそう言っただけで、希美先輩は何も」

「……そ。じゃ信じる」

 

 

 誰かさんのするように蛇のような目を向けてもぶれる様子は見えなかった。ならこのまま話を進めてみるか。

 

 

「そしたら話そうかね。ただ、ちょっとつらいことになるかもしれねえよ?」

「つらいって、どういうことですか」

「言葉通りの意味。どうする?」

「教えて下さい」

「おお即答。だと思ったよ。それじゃあ言おうか」

 

 

 グラスに入った水で少し唇を濡らす。広めたいことなはずないから、少しでも口を滑らかに。

 

 

「みぞれがさ、駄目なんだよ。希美のこと」

「はい? どういう意味ですか」

 

 

 素で返しやがったなこいつぅ。今まである情報が希美側だけだったらこうもなるか。反対側の景色も少しずつ見てもらおう。

 本人はその覚悟を示したんだし。

 

 

「そのままの意味だ。みぞれは希美のことがトラウマみたいで、見ただけで気持ち悪くなるんだと。だから希美にはコンクール終わるまで部活に戻せない。うちの大事なオーボエ奏者壊すわけにいかない」

「トラウマってどういうことですか? だって、希美先輩とみぞれ先輩って同じ中学の仲良しだったんですよね? みぞれ先輩が部活に入ったきっかけだって、希美先輩が誘ったからって聞いたんですけど」

「それだよ黄前くん」

「どれです黒田先輩」

 

 

 やっぱこれじゃわかりずらいか。簡単な説明方法はある。

 

 

「自分で人のこと誘っといてさ、何にも言わねえで相手だけ勝手にやめるって、やられたらどうよ」

「うーん。内容にもよりますけど、嫌ですかね。それが部活とか大事なことだったら結構トラウマ……。……あっ」

 

 

 おー気付いた。すごく簡単かつ残酷にトラウマの原因を述べるとすれば、みぞれが希美に捨てられた、ということだ。希美は捨てた自覚なんて一切ないようだが。

 さて、これがわかればあとは説明しなくてもわかるだろう。何故復帰させないのか、なんてことは。

 

 答えが見えた久美子はしばらく黙っている。考えて、悩んで。

 俺だって希美の気持ちは知っている。部に戻りたい。本気で全国目指したい。その想いが今の北宇治吹部の悪影響にならないなら、逆の立場で尽力してるはずだ。

 でもな、仕方がねえんだよ。俺は、俺の夢を犠牲にしてまで他人の夢を叶えようなんてつもりはない。それに、希美は来年だってあるだろ。今年戻れなくても、邪魔する俺達がいなくなった後にでも戻ればいいじゃねえか。そんな風に、好きにしろよ。俺達には今年しかないんだ。今しかないんだ。あいつがあの人に演奏を聴いてもらえるかもしれないことも、俺が憧れを追い越す結果を出せる機会も。

 だから、邪魔されるわけにいかねえんだ。

 

 少々不貞腐れた様子の久美子に声を掛ける。

 

 

「そんな格好すんな。俺らがいなくなってからなら好きにしていいから。それに、巻き込まれただけじゃねえにしても久美子が気にする必要ねえよ」

「……はい」

 

 

 返事は呻き声の様だった。現実を認めたくないような子供のような。

 そんな姿を見たらこう言わざるを得ない。

 

 

「悪いな。上級生の勝手な都合に付き合わせて」

「先輩、」

「ん、なんだい?」

「希美先輩が辞めるって言ったとき、なんであすか先輩が引き留めたのか知ってます?」

 

 

 知らねえけどわかる。つかなんであすかだけなの?

 

 

「俺も引き留めたんですけど」

「そうなんですか?」

「あいつほんっと俺のこと眼中にねえな」

 

 

 だから俺にとっちゃよくわからん理由であすかにブチ切れられるんだよ。

 話す価値もないと思ったのか、はたまた記憶から消え去っていたのか。どっちでもいいや。

 

 

「単純な理由だよ。希美の演奏、上手いからな」

 

 

 

 

 

 はてさてこの話が俺の期待にどう作用してくれるのやら。

 タスクが一つ増えたというよりは、サブクエストが一つ増えた感覚。

 俺やあすかみたいなやつじゃこれをどうにかすることはできなさそうだ。そっち側に動くことは、ちょっとした賭けでもあるからな。気楽に、といえば失礼だが、動きやすい人がいればなんとかなるかもしれねえな。

 つーことで、期待してるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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