打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

37 / 58
第34話 昔の思い出

 花火を好んだ偉人はだーれだ。せーの? 徳川家康~。きっと家康公は手持ち花火なんかじゃなくて立派な打ち上げ花火が好きだったんだろうけど。

 そういや何年か前に打ち上げ花火って言葉が入ったタイトルのアニメ映画あったよな。主演の声優に俳優起用して死ぬほど叩かれてたやつ。サイトのキャストの部分よくよく見たら結構な人たちで固められてたんだよな。その人等使っておもしろい作品作れるだろってぐらいだった。あれのタイトル、父さんが思い出せなくて「上から下から打ち上げ花火」っつったのは今思い出しても笑える。

 京都の宇治といえば宇治川花火大会が浮かぶ人は多いだろうけど、今年は行ってないんだよなあ。つーかむしろ行った方が少ない。去年と一昨年ぐらいじゃないか。ちっちゃい頃のことは覚えてないのでノーカン。行かなくても家から見えるんだよな、花火。田中家の縁側で見れば情緒はバッチリ。

 打ち上げ花火もいいけど、やったった感で言えばもちろん手持ち花火の方が圧倒的にあるわけで。それに、日本人のDNAに刻み込まれてるんじゃないかってほど、花火というのは非常に高揚感が舞い上がる。

 うだうだと何が言いたいのかってーと、花火っていいよね。

 

 

 

 

「まさか滝先生が許可出すなんてねー」

「ホント、新山先生さまさまだよ」

「あんな優しくて綺麗で気も使えるとかマジ女神」

 

 

 合宿二日目の夜。二泊三日の合宿なので、ここで過ごす夜は今日が最後。遊ぶなら今夜のうちだ。というわけで俺達はキャンプファイヤーを取り囲み、思い思いに過ごしている。参加していないで宿舎で休んでいる生徒もいるようだが、そんなものは人それぞれでいいじゃないか。

 ただあのキャンプファイヤーの真ん前にいる集団にはつっこみたいね。特に主催者。彼らが一体何をしているのかといえば、聞いて驚け、モノマネ大会だ。何故自ら黒歴史を作りに行くんだ。こわ……、近寄らんとこ。

 

 シューと持っていた花火が音をあげて鎮火していく。燃えた後の匂いは案外嫌いじゃない。マッチを擦った後の匂いもどちらかといえば好きだ。なにこれ、俺成人したら愛煙家になっちゃうんじゃないの。

 捨てに行こうと腰を上げ、バケツのところへ向かう。そのとき、やたら激しい光の軌跡が見えた。まあ、いるよな。手持ち花火振り回す人。小学生の頃とかやったわ。そして人に向けんなって怒られるやつ。懐かしいな。

 閑話休題。

 立派な組木の中で揺れる炎。そういえば、海外のテレビ番組では一日中焚火だけを映し続けるというのがあるそうな。ヨウツベで調べてみたけど、あれ確かに何時間でも流してられるわ。志摩リンの懸念したような、焚火臭くなることも火の粉飛んで服に穴空くこともないし、いいよな。あとあれの関連動画で出てくるキャンプジブリ飯の飯テロ力が強すぎる。思い出しただけで口内によだれが出てくるぜ。

 黙々と花火を消化するのもいいが、この部員数もあるからあまり一人で多くやらないほうがいいだろう。いや余らせるぐらいだったらやりますけどね。

 しばらくキャンプファイヤーでも眺めていようか。喧騒から少し離れ、ベンチに辿り着く。おや先客が。

 

 

「どもっす」

「おう篤。座る?」

「お邪魔します」

 

 

 ベンチの左側に座っていたマサさんは、特にズレることもなく勧めてきた。さっきまで誰かいたんだろう。

 互い言葉を交わすことなく、眼前に広がる光景を眺める。

 少年少女たちのはしゃぎ声に花火が燃える音。そこに大きくとも優しく燃え盛る炎が、パチリパチリと火の粉の爆ぜる音を添える。うん、嫌いじゃない。

 モノマネ大会の盛り上がっている様子が伝わってくる。秀一が滝先生の「なんですか、コレ」をやってるな。秀一はラップやってろ。ミケランジェロ。そして滝先生のマネはヒデリがやれよ。あと卓は遊戯王の海馬社長やれ。絶対面白いから。

 

 

「篤はモノマネ大会行かないの?」

「嫌ですよあんな黒歴史生産会」

「ああいったノリ好きじゃない感じ? 得意なレパートリーありそうなのに」

 

 

 クオリティが高いの見てる分にはいいんすけどね。ビミョーなの見てサムい空気にいるのは耐えられないんでちょっと遠慮したい。あとこっちに振られるのが嫌。振られたらやれるものあるしやりますけどね。

 たださ、そういうのってやる側と見る側で同じものが同じように思い浮かばないと困るんだよな。細かすぎて伝わらないやつとかがその代表例だろ。え、あ、うん、そうなの。とか超困る。

 つまり俺はあのノリが苦手ってことになるんだろうか。うーむ、そうかもしれないな。だがマサさんの言う通り得意なモノマネはある。

 

 

「サザエさんのアナゴさんとかできますけどね。そういや知ってます? アナゴさんの声優と花沢さんのお父さんの声優同じ人なんすよ。だからAパートで「ふぅーぐたくぅーん」って言ってたかと思えば、CM明けてのBパートで「花子ぉ」ってやってたりするんです」

「似てるなあ!?」

「あざっす」

 

 

 あまり人前でやらないけど、やれと言われたら絶対の自信をもってやれる。サザエさんのキャラなら余程マイナーなキャラじゃない限り大体の人に伝わるからやりやすい。

 他にもいくつかあるけど、伝わりやすいものばかりじゃないからな。自重しまーす。

 

 

「ちなみにマサさんの得意なモノマネってあります?」

「ボク? ボクはね、バトルファイターズ餓狼伝説のジョー・東のマネが得意」

「すんませんまったくわかんないす」

「そうかあ。世代違うもんねえ」

 

 

 これだよモノマネ関連で困るのはさ。マジで知らなかったらわかんねえもん。面白いかどうかは、世代間にもよるからな。正直言って俺は同年代よりも少し上との方が何故か合いやすいんだけども。ホント不思議だわ。

 

 

「世代、か。ボクも年とったな」

 

 

 マサさんが何かぽつりと呟いた。喧騒にまみれて、小さな声は上手く聞こえなかった。けれど気になってふと見たその横顔は、過去を噛み締めているように思えた。

 ずっと見ているわけにもいかないので視線を逸らす。その前にこちらを向いたマサさんと目が合った。優しい声で俺の名が呼ばれた。

 

 

「篤。ちょっと、ボクの思い出話を聞いてくれない?」

「え? はい」

 

 

 思い出話? 内容に皆目見当がつかない。しかも何故俺に話すんだろう。

 視線を前方に戻して彼は話し始めた。

 

 

「ボクね、大学の頃オーケストラサークルに入ってたんだ。あ、滝クンと新山クンも一緒ね。滝クンは同級生で、新山クンは後輩。それでね、サークルの活動で近所の幼稚園の子たちを招いて演奏会をすることがあったんだ。それ自体は別に珍しい活動ではなかった。でも、大学三年の夏休みにやった演奏会。あれだけはちょっと違った。だから今でも凄く覚えてる」

 

 

 おいおいおいおいちょっと待ってくれ。大学のオーケストラサークル、幼稚園生に演奏会、大学三年の夏休み?

 確か滝先生が春の時点で三十四歳だったから多分今年で三十五歳。同級生だからマサさんも同じと考えて、ずっとどっちも浪人とかしてないと仮定するなら、大学三年は二十一歳で十四年前。その頃、俺は四歳。幼い頃の漠然とした記憶でもこれだけは忘れない。はっきりと覚えている。その年、俺は――

 いや、まずは話を聞こう。この人の語る話を。単なる昔話ではない、思い出話を。

 

 

「演奏が終わった後、聞いてもらった子たちとの交流があったんだ。交流そのものは特別じゃないよ。でも、その時は本当に特別だった」

 

 

 大事な思い出。愛おしい記憶。変に飾った言葉で表すのを躊躇うような、そんな話し方。

 心の中の柔らかい部分をぎゅっと掴まれてひかれる感覚がする。

 

 

「小さい子たちだから、わかりやすかったり派手だったりする楽器の所いくだろう? そのおかげでパーカッションは結構人気でさ。何人か来てくれたんだけど、忘れられない男の子がいる。その子はボクを真っ直ぐ見上げてさ、スッゲーって言ったんだ。幼稚園生らしい拙い言葉だったけど、感動したんだってことは凄く伝わってきて、ボクはとても嬉しかった。言われたこと、今でも全部覚えてるんだ」

 

 

 お兄さんすごくて、なんかオレ、グワーってなった。オレもお兄さんみたいに、だれかがグワーってなるようなこと、したい! だから、ねえ、どうやったらお兄さんみたいになれますか?

 彼が件の男の子を真似て言った言葉に、俺はひどく覚えがあった。言葉を知っていたとか覚えていたとかじゃない。それでもわかった。記憶が繋がったとかそんな大層なものではなく、ただの感覚。でも疑いようがない、確固としたもの。

 その男の子は大きくなってから憧れたお兄さんに逢っても気付かなかっただろう。お兄さんとの出来事は確実な記憶ではなく、印象的なエピソードとしての思い出だから。他に覚えていることはぐしゃぐしゃと頭を掻きまわされたこと。でもお兄さんは大学生。しっかり覚えていたって何の不思議もない。

 マサさんは俺を見て一瞬頬を緩め、思い出話を続けた。

 

 

「キミとあの時の男の子が重なって、前に滝クンに少し聞いてみたんだ。そうしたら、今話したのの逆側の話を聞いた。滝クンがさ、言うんだよ。憧れの人を追い越すために北宇治に来たそうですよって。ボクの話も昔からしてて知ってるから、彼はボクらより先にわかってたんだね。あの態度で確信した」

 

 

 話が現代に飛んだのは、俺の反応を見たからだろう。気づいたって、わかったから。

 鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。何か言わなくてはと思いながらも、今声を発せば涙と嗚咽が零れそうになる。

 

 

「よくここまで続けてきたね。素敵な演奏だよ」

「……あ…………、ありがとう、ございます……」

 

 

 上手く声が出ない。今のは彼に届いただろうか。

 憧れの人の正体が知りたかったわけじゃない。逢って俺の演奏を届けたかったんでも、認めてもらいたかったわけでもない。それでも、この人から貰えた言葉がこんなにも嬉しい。

 少し声を出しただけで喉が熱くなる。じわじわと視界が滲んでいく様子をみせたくなくて、左手で顔を覆う。

 

 

「泣くなよ。男だろ」

「男だって、泣きますよ」

 

 

 しゃっくりと鼻を啜る音を挟みながらなんとか話す。でもすぐに限界になる。

 俺がパーカッションを始めるきっかけになった、憧れの大学生。彼の影を追いかけて、その時点で一番濃密な日々を過ごしたという北宇治高校に進学した。その間に一奏者として橋本真博に憧れ、目標とした。目標としてきた二人が同じ人で、俺のことを覚えていてくれて、素敵な演奏だと言ってくれた。それは想像したことはなかったけれど、きっと想像以上に嬉しいことなんだ。

 マサさんは昔のようにぐしゃぐしゃと俺の頭をかき混ぜる。

 

 

「ボクの方こそ、ありがとう。ずっと憧れでいさせてくれて」

 

 

 なんだそれ。なんで俺があんたにお礼を言われなきゃならないんだよ。

 

 

「もうひと踏ん張りしなきゃいけないのに気力が湧いてこないときや、何のために演奏するのかわからなくなりそうなとき、君の顔が浮かんだ。キラキラした瞳で、スッゲーって言ってくれた君を思い出した。その男の子に恥じないようにって、いつも勇気をくれたんだ。だから、ありがとう」

「いえ、そんな……」

 

 

 彼の支えに、俺が? はっは、なんてこった。

 俺はずっとこの人のようになりたくて憧れて、そのことがモチベーションに大きく作用している。こっち側だけだと考えるだろう? 誰だって。でも違った。昔俺が感じたことが、それを伝えたことが、マサさんの心にもずっといた。

 驚いて、嬉しくて、笑っちまう。

 俺の笑い声に触発されたのか、マサさんも一緒に笑いだす。届いたことが嬉しくて、二人で暫く笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全国を目指すのはボクのため?」

 

 

 マサさんが尋ねてきた。彼の雪辱を果たすために俺は全国に行きたいのか?

 否。そんなわけない。もっと自分勝手でわがままな理由。関係はあるけど、彼の為じゃない。

 

 

「過去の事であっても、俺はあなたを追い越したいんです。あなたが見れなかった景色を見たい。だから俺は全国大会に出て金賞を獲る」

 

 

 俺が初めて憧れた人。超えたいと思った人。そう思ったからには彼の背後にのみ甘んじているのは性に合わない。それに、超えんとすることが俺なりの礼儀。

 マサさんは愉快そうに肩を揺らした。それから不敵な目で俺を射抜く。

 

 

「過去のボクを超える手伝いは大いにしてやる。でも今のボクは、そうそう超えられてあげないよ」

「上等! それでこそ追いがいがあります」

 

 

 こんな気概がある人を追える。しかもすぐ近くでなんて、最高じゃねえか。

 目が離せないようにしてやる。だからマサさん、俺のこと見とけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。