時間がかかってしまい、申し訳ありません。
後、今回は連続投稿させていただきます。最終話まで書き上げさせていただきました。
新たに現れた魔導師は、フェイトたちに逃げられた苛立ちからか、ぶっきらぼうに告げた。
手にしたデバイスは、なのはのレイジングハートに似たもので、黒いバリアジャケットを身にまとっている。
今のところ、何かしかけてくる様子はない。
しかしだからといって警戒を解く理由にはならない。
Last-Arrowを握りしめ、いつでもなのはたちを逃がせるように、そして魔導師に気がつかれないよう、力を蓄える。何らかの魔法を発動すれば、離脱ができるように。
「僕はクロノ・ハラオウン。時空管理局の執務官だ。少し前にこの次元世界から救難信号が発信された。誰が信号を発信したんだ?」
ユーノが前に出る。
魔導師は一つ頷く。
「事情を詳しく聞きたい。アースラに案内する」
その瞬間、歩み出そうとしたなのはを甲矢は制した。
「甲矢君?」
「本当に貴方が時空管理局の人間か信用できない」
クロノが眉根を潜めた。
デバイスを握る手に力がこもっていく。
「僕が嘘をついていると?」
「ロストロギアの貴重性を考えれば、慎重になりすぎることはない。それに初対面の組織の本拠地に乗り込むなんてあり得ない」
一瞬クロノの杖が動いた。甲矢の背からわずかな燐光が漏れ出す。
だが、クロノは再び杖を下ろした。
「君の警戒はロストロギアを扱ううえで正しい。……信用してもらえないのは、少々悲しいけれどね」
見た目とは裏腹の冷静さに、甲矢は内心で警戒をさらに高める。
ここで激高するならば、軍人としての質を窺えた。しかし才能かそれとも経験か、自らを律して任務を優先できるのであれば、それは厄介な存在であることは間違いない。
「ここで話を聞くのならば問題ないか?」
なのはとユーノを制していた腕を下ろす。
相手の腹の中という最悪の状況を抜け出せたのであれば、十分だ。
それに相手が本当に時空管理局の人間であるかは、すでにLast-Arrowが調べきっている。
「ロストロギア、ジュエルシードがこの管理外世界に事故でばらまかれてしまったと聞いたのだが」
「は、はい。全部で21個のジュエルシードがこの海鳴市を中心に……」
「なるほど。艦長」
クロノの眼前に、投影型のディスプレイが現れ、緑髪の女性を映し出す。
女性の肩には階級章があり、星が三つある。艦長と呼ばれていたことから、おそらく地球の軍隊でいう大佐クラスであろう。
「初めまして、リンディ・ハラオウンと申します。時空管理局、巡航L級8番艦・次元空間航行艦船アースラの艦長です。皆さんのお名前を伺っても?」
柔和な笑み。警戒を解きほぐすような表情だ。
実際、元々警戒心などないようななのはであるが、リンディの表情を見て明らかに安堵を覚えているようだ。
「ユーノ・スクライアです」
「高町なのはです」
「九条甲矢です」
一切の気を緩めるな。自らを戒めながら、誰何に答える。
リンディは微笑みを崩さず、一つ頷く。
「そうですか。現状を知りたいのですが」
「あ、それなら僕が話します」
ユーノがこれまでに発見したジュエルシードについて、そしてフェイトについて語り出す。管理局の二人は静かに聞いていた。
「そうですか。これまでのジュエルシードの回収を貴方たちが……。ところで1つお聞きしたいのですが、数日前に発生した次元震について、何かご存知ではないでしょうか」
息をのむ音がする。
なのはとユーノの視線がこちらに向けられる。ことここに至ってごまかすことは不可能だ。
甲矢が一歩前に出る。
「それは俺です」
予想外だったのだろう。管理局二人の表情に、一瞬動揺の色が見て取れた。
当たり前だ。なのはは当然、消耗しきったユーノよりも遙かに魔力の少ない、むしろ魔力を持つと表現して良いのか悩むほどの人間が、高位の魔導師ですら、引き起こすことの難しい現象を発生させたというのだ。信じられないのも仕方がない。
「それは、どのような魔法で……」
ここが分水嶺だ。わずかに上昇した心拍数を、ナノマシンが強制的に通常時へ戻す。
「なぜ教える必要が」
「次元震を起こすほどの魔法ともなれば、その危険性は計り知れません」
「だが、貴方たちに情報共有を強制する権利はない」
時空管理局の定めた法に、管理局員が個人の所有する魔導術式を開示させる権利は認められている。ただしそれはあくまでも、管理世界の人間にだけ認められている権利だ。地球という世界で生まれ、生きてきた甲矢には適用できない。
たとえ、不信感を抱かれようとも、管理局という組織に教えるわけにはいかない。たかが一組織が知るには、Last-Arrowは猛毒過ぎる。
「……分かりました」
「艦長!?」
「クロノ執務官。彼の言うことは事実です。我々に、管理外世界の住人に魔法の提示を強制する権利はありません」
驚愕を示したクロノを切って捨てたリンディは、先ほどと全く同一の微笑みを浮かべる。
「さて、時空管理局から正式な要請となりますが、ジュエルシード回収のご協力をお願いできますか?」
「なぜです! 艦長!」
アースラ艦内ブリッジに、クロノの怒声が響く。
現地人との交渉を終えた後、押っ取り刀で戻ってくるやの一言だ。
「クロノ執務官、エイミィ通信主任。こちらへ」
艦長室に入り、リンディはロックをかけた。
さらには防諜用の魔法を発動した。
そこまでする様子にただならぬ何かを感じ取ったのか、クロノは先ほどの剣幕が嘘のようにおとなしくなっている。
「クロノ執務官。彼は危険です。監視と調査の必要性があるでしょう」
「九条甲矢がでしょうか。確かに危険な魔法を有しているようですが、それでもあの魔力量ならそこまで危険視する必要があるのでしょうか。僕のバインドでも十分に捕縛は可能かと。むしろ、高町なのはの方が、危険ではありませんか? 彼女は僕よりも豊富な魔力を有しています」
「確かにそうでしょう。しかし問題はそこではありません」
リンディはそこで言葉を途切れさせると、指を振った。
先ほどの話し合いが再生される。
「……これが何か?」
クロノの言葉に、リンディは一度まぶたを閉じた。そのときのことを思い出しているのであろうか。
「なのはさんは人を疑うことを知らない子供です。それに誰かのために行動できる正義感を持っています。しかし彼は違います。人を疑い、信じない。警戒し、できる手を打ち続ける。おそらく、必要であれば手を汚すこともためらわないでしょう」
「何らかの犯罪行為を行っていると?」
「なぜ彼が、『管理外世界の住人に対する法律』を知っているのですか? たとえ、管理世界の住人であるユーノ・スクライアが近くにいたとしても、知りすぎています。スクライアは確か考古学の一族。決して法の専門家ではありません」
クロノの額に汗が浮かぶ。
「まさか、そんな、馬鹿な……」
「それらの知識を知るには、管理世界と接触するしかありません。しかし彼らに管理世界と接触する方法はありません。……このアースラ以外。エイミィ通信主任。ただちにアースラのシステムをチェックしなさい。また外部からのアクセス、外部へのアクセスのログを洗いなさい」
「ま、待ってください! 管理外世界の技術で、このアースラのシステムをクラッキングするなんて不可能です! 通信主任としてそれは保証できます!」
「確かにそうです、エイミィ。ですが、彼は次元震をも起こす何かを有しています。それだけの技術力を持っていれば、このアースラのシステムへの侵入すらも不可能ではないでしょう」
エイミィが口をつぐむ。反論は続かなかった。
「すぐに調査をいたします。失礼します」
「ええ、お願い。少しでも不信を覚えたら報告を」
「はッ!」
エイミィが退室する。今頃サーバールームに駆け込んでいるだろう。
それを見送った二人は、額を付き合わせた。
時空管理局がやってきてから、ジュエルシードの回収は大きく変わった。
これまでのジュエルシード探索は三人だけで行っていた、必然負担は大きくなりがちで、効率もあまりよくない。しかしアースラメンバーが回収に加わったことで、人海戦術が可能となった。バックアップ、交代要員、そして甲矢となのはとが学校に通っている間にも探索が続行されている甲斐もあり、ジュエルシードはどんどん集まっている。
その間、フェイトとの遭遇はない。どうやらこちらを避けてジュエルシードの回収を行っているらしい。
だが、残りのジュエルシードは少ない。パイを奪い合うのであれば同じテーブルに着く必要がある。そろそろフェイトとかち合うことだろう。
なのはもそれを理解しているのか、最近は妙に張り切っている。
だが、意気込みに反し、ジュエルシードは見つからなかった。どこに隠れているのやら、アースラの人海戦術でも、Last-Arrowの探索能力でも発見できていない。
今までは海鳴市を探索していた。となると市内にはもうないだろうと、市外、あるいは海中の探索を実施することにした翌日、事態は急変した。
朝早くから、膨大な魔力が海鳴市を横殴りにした。その魔力量はジュエルシードが一二個発動してもまかなえる量ではない。いったいいくつのジュエルシードが励起しているというのか。
「Last-Arrow」
すぐさま魔力の放たれている震源地へ向かう。
そこでは六つの竜巻が海水を巻き上げ暴れていた。それぞれの竜巻は、中心地にジュエルシードの反応があり、連鎖反応でも起こしているのか、一つ一つの観測される魔力値が普段より増大している。
竜巻の切れ間に金色が覗く。
何らかの魔法が幾度も竜巻を打つ。しかし、フェイトの魔法は電気の特性を有しているためか、ジュエルシードの周囲を囲う海水によって遮られてしまっている。
それでもフェイト本来の魔力ならば、海水を突破してジュエルシードを封印するのも可能だろうが。
『フェイト・テスタロッサの魔力量、最大値の二十二パーセントを確認。ジュエルシードの同時励起を実行したと推測します』
魔力がほとんどないのであれば、苦戦しているのも納得だ。ミッドチルダ式魔法の威力は結局のところ魔力量に左右されるのだから。
このままでは、フェイトはジュエルシードに破れるだろう。残存魔力値を元にした試算では。
だがそれは、あくまで外部要因がないのであればの話だ。
「フェイトちゃん!」
アースラから転移してきたのだろう。なのはがフェイトを襲う竜巻を防いだ。
二人が協力してジュエルシードを封印していく。先ほどまでの苦戦が嘘のように竜巻はその威力を失い、消滅していく。
そしてなのはの魔法により、すべてのジュエルシードが封印された。
なのはとフェイトがお互い顔を見合わせる。
「半分ずつだね」
「……それで良いの?」
「うん、もちろん!」
屈託のない笑顔に邪気を削がれたのか、フェイトは首を縦に振った。
二人同時にジュエルシードの回収へ向かう。
刹那、Last-Arrowの警告が響き渡る。
『魔素の流入を確認。警戒を推奨』
二人が振り返ると同時に、天高くからジュエルシードめがけ、雷が降り注ぐ。
まばゆい閃光がはじけ、視界が一瞬潰される。それはナノマシンで強化された甲矢も例外ではない。
いち早く視力を回復した甲矢の前で、ジュエルシードとフェイト達とが、陽炎のようにその姿を消していく。
それを認識するや、飛び出してジュエルシードに手を伸ばす。
届いたのは半分。残り半分はフェイト共に消えてしまった。
フェイト達の逃走を許してしまった後、甲矢となのはとはリンディの要請を受け、アースラへ転移した。
そのまま作戦会議室に通されると、そこにはリンディとクロノとがいた。
二人の顔色はあまりよくない。当然だ。最後のジュエルシードを回収されたのだ。
時空管理局として、ロストロギアであるジュエルシードはすべて回収する義務がある。だというのに眼前で3つも奪われてしまったのでは、失態も同然なのだろう。
「つい先ほど、アースラの秘匿通信回線を通じ、こんなものが届けられた」
クロノが操作すると、ホログラムが投射され、何かの文面が表示された。
その内容は果たし状そのものだった。
「高町との一騎打ち……」
「そうだ。現状では後手に回るが受けるしかない。すまないが、なのは、頼めるかい?」
なのはは一も二もなく頷いた。
「となれば、決闘までの間になのはさんには対魔導師戦の基礎を教え込まないといけません。クロノ」
「訓練室の予約はすでに取ってあります」
時間が惜しいとばかりに、クロノがなのはを引き連れていく。
ホログラムが閉じられる。
「問題は先の魔法を放った黒幕の存在です」
「探知は成功したのですか?」
リンディは黙って首を振る。
「次元跳躍魔法が使用されていました。あの短時間ではどこの次元から攻撃されたのか判別するのは困難です。現在もデータを解析中です」
「となると」
「決闘にも手を出す可能性があります。クロノを派遣しますが、貴方にも警戒していただきたいのです」
「承知しました」
そして二人は決闘に向けて作戦を詰めていく。
決闘までの時間、なのははクロノの手によって、魔導士戦のいろはをたたき込まれていた。
その甲斐あり、これまでは豊富な魔力量に頼った、言ってしまえば力任せな戦い方だったそれが、体系化された戦闘技法を砂が水を吸うかのごとく、取り込んだ。
今ではアースラの武装隊員相手に、魔力量を制限した状態でも互角に戦えるほど。
これならば、たとえフェイトが相手であろうとも、勝ち目はある。
決闘当日、アースラから戦場へと赴くなのはの表情は、緊張を含んでいたが、それ以上に自信と決意に満ちあふれていた。
「いいかい、君が無理をする必要はない。いざとなれば僕らがなんとでもする」
戦いへ赴くなのはへ、クロノが語りかける。
なのははこくりと頷くと、レイジングハートを天高く掲げる。バリアジャケットが展開され、その足に魔法の翼が生える。
「準備はできたようだな。では、行こう。ユーノ、それに甲矢。協力を申し出た上で言うのはあれだが、君たちは民間人だ。危険を感じたら、撤退してくれ」
クロノが甲矢とユーノを見据える。その瞳には警察機構として民間人を巻き込んでいる現状への苛立ちと、不甲斐なさに対する怒りと、そして何より二人へと向けられた掛け値ない心配が込められていた。
「問題ない。危険を感じることはない」
「う、うん。大丈夫、なのはなら、きっと」
「……そうか。そうだな、あの子は強い。きっと勝つだろう。一時的とはいえ、師であった僕が信じなくてはどうしようもないな」
浮かべた苦笑いをかき消し、クロノはエイミィへと転移の指示を出す。
転移装置に魔力が注ぎ込まれ、徐々に発行していく。光が最高潮に達した瞬間、転移の魔方陣に包まれる。
頬に風が当たる。残光が消え去ると、甲矢たちは海鳴の海浜公園へ立っていた。
しばらく待っていると、フェイトたちが橋の方からやってきた。牙をむいてうなっているアルフは敵意をむき出しにし、ぶつけている。だが、それに対しフェイトは、どこか悲痛な面持ちをさらしていた。
クロノがホログラムから通知された果たし状を見せる。
「君となのはの一騎打ち。これに間違いはないな」
フェイトが指定してきた条件を突きつければ、彼女は無言で頷いた。
クロノの合図に甲矢とユーノ、それにアルフが下がる。クロノが合図の魔法弾を打ち上げた。上空でパンと破裂音が響く。
なのはとフェイトが飛び上がる。それを黙って見送る。
二人は上空でおおよそ十五メートル程度の距離を保っている。相手がどんな動きをしても対応できる距離であり、同時に一息で間合いを詰めることもできる距離だ。
同時に金と桜の魔方陣が展開される。
「アクセル・シュート!」
「アークセイバー!」
両者の魔法が激突し、煙が立ちこめる。初手はお互いに牽制。
「アクセル・シュート!」
次いでなのはが同じ魔法を放つ。
フェイトのアークセイバーは単発の威力ならば、アクセル・シュートよりも強力な攻撃だ。しかし、なのはのアクセル・シュートと違い、連射はきかない。
フェイトは上へ逃げ、アクセル・シュートをやり過ごす。そしてそのまま踵を返すと、なのはへ鎌を振るう。
なのはは落ち着いた様子で片手を掲げると、そこを起点に魔力を巡らす。術式に沿って魔力は強固な壁へと変貌する。金色の刃と桜色の盾が激突し、火花を散らす。
パワー勝負は不利と感じたのか、フェイトは身を翻す。
「ディバインバスター!」
その背に向けて放たれる桜色の光線。偏差射撃であるが的確に狙い撃たれた魔法を、フェイトも砲撃魔法を放ち、相殺した。
それを予期していたのか、なのはが煙を切り裂き、フェイトの眼前に迫る。
「なっ!?」
驚愕に目を見張るフェイト。その顔にレイジングハートを突きつける。
「アクセル・シュート」
桜が散る。移動魔法を駆使して距離をとったフェイトのバリアジャケットは、肩口のあたりが引き裂けていた。
なのはの一撃によるダメージだ。
初撃を与えたことで勢いに乗ったのか、なのはが猛烈な攻めに打って出る。どっしりと腰を据えて、フェイトの回避動作に惑わされず、的確に、そして大量に砲撃の雨を降らす。
こうなってはいくら速度に優れたフェイトであろうとも、窮地から脱するのは難しい。
徐々に追い込まれていく。
だが、敵もさるもの。逃げるだけではどうしようもないと、一転して攻勢へと打って出た。
攻撃をかいくぐり、時には魔法で相殺し、時にはダメージを覚悟で強引に突っ切ってくる。
なのはの表情がゆがむ。火線を集中してなお、押しとどめられない。
「ぁあああああ!」
「キャ!?」
鎌の一振りがなのはを襲う。シールドで身を守ったとはいえ、衝撃までは殺しきれない。後退りながら、フェイトから目をそらさない。
「後ろ!」
スピードに乗ったフェイトがヒットアンドアウェイで襲い来る。四方八方から縦横無尽に斬りかかってくる。
なのははそれらすべてをシールドで防ぎきる。だがいくら強固な護りでも、強烈な攻撃を幾度も浴びせられては、耐えきれない。一筋の亀裂が走り、そこから細かな亀裂が幾筋も増えていく。そして最後には砕け散った。
瞬間、なのはの四肢を光輪が捕らえる。
「こ、これ、バインド!」
クロノの手で幾度もたたき込まれた記憶がなのはの脳裏によみがえる。身動きを封じ、大規模な攻撃を行うのは常套句。必死に身をよじり拘束から脱出しようとあがく。
それを嘲笑うかのごとく、下方から紫電が迸る。
目線だけをそちらに向ければ、フェイトが巨大な魔方陣を展開し、怖気が走るほどの魔力を注ぎ込め続けている。時間と共に光は強く、スパーク音は高まっていく。
「――サンダーレイジ!!」
雷火が空を埋め尽くす。
雷が細まり、なのはの姿が見える。
なのはの全身はボロボロで、火傷の跡も見える。さらには身体がしびれているのか、動きが鈍い。
それでも、その目だけは全く死んでいなかった。
「こんどは、こっちの番だよ」
「なにを――!? バインド!?」
自らの魔法を耐えられたことに衝撃を受けていたフェイトだが、いつの間にかかけられていたバインドのせいで身動き一つとれなくなっていた。
「これがディバインバスターのバリエーション。集え、星の光。不屈の輝きですべての困難をうち貫け!」
なのはの頭上に魔力が集まる。それはなのはの魔力だけではなく、フェイトが放出した魔力すらも貪欲に取り込み、巨大な日輪と化す。
離れている甲矢たちですら、その魔力の強大さが肌で感じられるほど。
「ま、まずい! えい、スフィアプロテクション!」
ユーノの魔法が甲矢たちを囲み、守ろうとする。
その間にも魔力の収束は留まらず、収束しきれず漏れ出した魔力だけで結界がきしみ出す。
「スターライト・ブレイカー!」
桜色の光線が、フェイトを飲み込み、眼下の大海を圧力だけで押しひらいていく。
収束されていた魔力が解放されきると、意識を失ったフェイトが海面に漂っていた。
「私の勝ちだよ、フェイトちゃん」
その言葉を証明するかのように、フェイトのデバイスからジュエルシードが放出される。なのはがそれに手を伸ばした瞬間、あたりがふっと暗くなった。
見上げれば、先ほどまで晴天だった空が、暗雲に覆われている。ゴロゴロと雷鳴が響くや、視界を白く塗りつぶすほどの雷が降り注いできた。
「「スフィアプロテクション!」」
ユーノと、そしてクロノの魔法により、降り注ぐ次元跳躍魔法を防ぐことができた。
あたりを警戒しながらなのはの元へ合流する。
ユーノがなのはにけがはないか尋ねている最中、クロノが自らの太ももをたたく。
「やられた……っ!」
クロノの目線の先には、あるはずのジュエルシードが一つもなかった。
なのはを襲った魔法はただの目くらましだった。本命は、ジュエルシードをかすめ取った魔法だ。
別次元越しに強力無比な魔法を放ちながら、誰にも他の魔法を使用していたことを気づかせないほどの繊細な技術力。クロノの言う通り、向こうの方が上手だった。
「これ以上ここにいても収穫はない」
「分かっている!」
甲矢が告げれば、クロノは一度大きく息を吸うと、アースラへ通信を行う。
これ以上の追撃を避けるために、この場にいる全員は、一度アースラへ帰還することになった。
転移の光に包まれる中、甲矢は空を見上げ、そしてLast-Arrowを握りしめた。