魔法少女RIRIKARUなのは   作:koth3

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STAGE3:戦う覚悟って一体なんなの?

 日差しは高く、照りつける。

 海鳴市の上空五キロメートルを、甲矢は飛んでいた。

 普通ならば上空で人が生存などできない。だが、甲矢もなのはより遙かに劣るとはいえ、魔力を有す。LAST-ARROWをデバイスの代用としたうえで、その僅かな魔力を使いとある魔法を発動して空に滞在していた。大気の流れを僅かに操作する魔法だ。それで呼吸や気温、さらには気圧の問題を解決している。

 とはいえそれもそろそろ限界を迎えようとしていた。現在使用している魔法はそれほど魔力を消費しないとはいえ、甲矢の保有魔力量は少ない。ユーノ曰く、魔導師をギリギリ名乗れる程度だ。その少ない魔力をどうにかやりくりして、魔法を維持しているのだが。

 

【探索開始四時間経過】

 

 腕時計を確認すれば、LAST-ARROWの語ったとおりの時間が過ぎている。早朝からそれだけジュエルシードの探索を行っているが、手がかり一つ見つからない。それどころか、それだけの時間魔法を使い続けたため、魔力がほとんど空だ。

 それでも甲矢は空を飛び続ける。しかし魔力欠乏で胸に痛みが走りだす。胸を握り締め、痛みを誤魔化す。

 このまま空を飛び続ければ、リンカーコアが崩壊するかもしれない。本能がそれを告げても、けして魔法をやめない。空からの方が探索の効率は良いから。

 

「うぅ……」

 

 痛みを堪えながら見下ろす街は排ガスと熱気により僅かに歪んで見える。それでも街角へ目をこらす。裏路地一本見逃さず。ジュエルシードを探す。

 普通ならば五キロメートルも離れた場所から物を探すことなんてできやしない。人間の視力ではそれほど遠くは見ることができない。だというのに、甲矢の目には、道行く人々の服についたゴミすらも視認できていた。

 異様なまでに視力が向上している。それはLAST-ARROWを手にした時から日々強まっていく、甲矢を悩ます異常の一つだ。他にも真夜中壁越しに虫の歩く音が聞こえたり、全速力で走っても息切れがしない等々、悩みの種は消えない。それらの中でも特に際立つのが、視力の異常だった。

 この五感の鋭敏化や身体能力の強化も、全てLAST-ARROWの機能の一つだ。だけれども、その目的は分からない。何故甲矢を、唯の子供にそれだけの力を貸すというのか。軍事兵器であるはずのLAST-ARROWが何故民間人を、いや、それよりも人間の能力を強化できるというのか。

 何も分からないということが、粘ついた闇の中で溺れているかのように息苦しい。あがいても沈んでいくばかりで、だというのにもがくのをやめてしまえば、その瞬間おぼれ死ぬようである。もがく甲矢の耳元で誰かがそっと呟く。墜ちてしまえばもうお終いだと。

 だから甲矢はあがくのをやめられない。

 一刻も早くジュエルシードを全て回収し、LAST-ARROWから離れなければならない。ユーノならば、甲矢の話を信じてくれるだろう。そしてきっとLAST-ARROWが二度と使われないよう封印してくれるはずだ。

 だからジュエルシードを探すのだ。

 これまでにジュエルシードは五個封印した。しかしまだ全てのジュエルシードを封印できたわけではない。あとどれだけ残っているのか。それらはどこに転がっているのか。甲矢には分からない。

 首元からぶら下げているLAST-ARROWを一瞬だけ見た。琥珀色の玉は何も反応を示さず、唯そこにあるだけだ。

 

【E-3地帯、ジュエルシード発見せず】

 

 冷たい音。人のぬくもりの感じられない合成音声。電子的な信号により空気を振るわす機械音声。

 その無機質さに、甲矢は唇を食んだ。

 

「分かった。次の地帯を」

 

 それでもLAST-ARROWのナビゲートに従う。それが一番効率が良いから。忌避している力に頼ることしかできないことに、甲矢は自らの拳を握り締めるしかできない。それがまた無力な自分を突きつけられているようで、気がつけば口の中に血の味が広がっていた。

 心がどれほど叫んでも、見つからない。海鳴の上空を三度は往復した。それでもジュエルシードは全く見つからない。

 太陽が西の方角に動き出した頃、甲矢は上空からの探索を諦めた。

 しかしジュエルシードの探索を諦めたわけではない。

歩く。人いきれする街を。草いきれする草むらを。かき分けるように歩き続ける。徒労だと理性は分かっている。しかし足を止めることはできない。むしろ、足を速めていく。

 見つかってくれ。それだけが心中を埋め尽くす。

 

【集中力の低下を確認。休憩を推奨します】

「必要ない」

 

 切り捨てる。自分でも疲れを認識している。効率を考えれば休むべきだ。それが理解できてなお、足を止められない。ジュエルシードはまだ存在しているのだから。

 走り出したそのとき、地面が微かに揺れた。ようやく足が止まる。

 

【高エネルギー反応感知】

「ジュエルシードか?」

【そのようです】

 

 次の瞬間、LAST-ARROWの言葉を証明するように、地面が揺れに揺れた。周りにいた通行人は立ち上がることもできず、めいめい何かに捕まるか、その場にしゃがみ込んでしまっている。

 甲矢もまた電信柱に抱きつくように捕まった。そうやって揺さぶられながらも甲矢は見た。ビルの向こうに、ツタを絡ませた大樹が、豆の木の如く天高くそびえるのを。

 揺れが収まるや、甲矢は裏路地へといち早く飛びこんだ。裏路地に入り込んだ後、表通りではパニックになった人々が我先に逃げようと、押し合いへし合いしている。甲矢の背丈では踏みつぶされたかもしれない。

 甲矢はLAST-ARROWを首元から取り出した。

 

「LAST-ARROW、……戦闘状態へ移行開始」

【了解しました】

 

 琥珀色の玉が変化する。表面が波打ち、その琥珀色がすっかり抜け落ちる。銀色の、水銀のような状態へと変わり、その球体を蠢かせ、変化していく。そしてそれは形をなし、色を取り戻す。白みを帯びたロッドへと。

 

【OPERATION-SYSTEM

   FORCE・・・・・・・・・・・・・NG

   WAVE CANNON・・・・OK

   VULCAN・・・・・・・・・・・OK

   ANTI-AIR LSR・・・・・・NG

   REFLEX LSR・・・・・・・・NG

   SEARCH LSR・・・・・・・NG】

 

 甲矢は震える指先でロッドを掴む。すると、僅かな違和感が神経を伝い、五感がさらに研ぎ澄まされていく。

それを認識するや、地を蹴った。

 昼過ぎの河川敷、なのはの父高町士郎がオーナー兼コーチを務めるサッカークラブ、翠屋JFCと、となりの街のクラブとが練習試合を行っていた。

 今は翠屋JFCがパスを回し攻めあがっている。

 

「逆サイドがら空きだぞ! もっと周りを見てみろ!」

 

 手をメガホンにし叫ぶ士郎の側、なのはもベンチに座りながら応援を飛ばす。

 ベンチにはなのはの他に、なのはの友達であるアリサ・バニングス、月村すずかが並んで応援している。

 

「あと一寸よ、頑張りなさい!」

「あっ、後ろから来ている!」

 

 両チームは実力が拮抗していて、手に汗握るゲーム展開だ。だからこそ、自然と応援に熱が籠もる。

 それは、普段物怖じしてしまい、人前で喋れないマネージャーですら、立ち上がって声を張り上げ応援しているほどだ。

 

「ああっ、ダメぇ!」

 

 パス回しの最中、小柄なすばしっこい敵ディフェンスに、カットされてしまう。慌ててボールを取り返そうとする翠屋JFCだったが、敵ディフェンスはすでにロングパスを繰り出し、敵チームのエースにボールが渡ってしまっている。カウンターだ。

 翠屋JFCの選手が急いで自陣に戻ろうとする中、敵チームのエースが、ドリブルで深く潜り込んでくる。カットに入ったディフェンスも、流れるようなボールさばきに翻弄され、簡単にあしらわれてしまう。

そして最後のディフェンスが抜かれた。後はキーパーとフォワードの一対一だ。

 

「頑張れ!」

 

 マネージャーの声がひときわ大きくなる。

 他の皆も負けず声を張り上げている。

 敵エースが大きく足を振り上げ、ボールが蹴られる。大砲のような音を立てたボールは、ゴールの右上を狙い鋭く穿つ。大人顔負けの威力だ。これは防げないだろう。なのは達の間に落胆が流れる。

 だけれども、マネージャーだけは手を組み祈るようにゴールキーパーの名前を叫んだ。

 

「ああ!?」

 

 瞬間、キーパーの身体が猫のようにしなやかに飛んだ。信じられないほど軽やかな跳躍。その跳躍で猛烈なシュートに追いついてみせ、キャッチした。そのファインプレーに誰もが歓声をあげた。

 

「ようし! ナイスプレー!」

 

 士郎がガッツポーズをして、ゴールキーパーの子を褒めている。キーパーは照れくさそうに鼻をこすり、ボールを蹴り上げた。

 

「凄い、凄い!」

「うちの猫みたい!」

 

 きゃいきゃいとなのは達が喜ぶ。その間にも試合は進む。どうやら翠屋JFCの選手は、キーパーのファインプレーに感化されたらしく、一人一人がめざましい活躍を遂げて勝利した。

 終わってみれば二対〇。翠屋JFCの勝利だ。

 

「よく頑張ったな、皆! 今日は祝勝会だ!」

 

 士郎が満面の笑みで頑張った選手たちを労う。

 そしてなのはの家が経営している喫茶、翠屋へ祝勝会へなだれ込んだ。

 翠屋では、試合後お腹の空いた選手たちにシュークリームが振る舞われていた。選手たちは頬にクリームをつけながら、翠屋自慢のシュークリームを幾つでもほおばっている。その姿にくすくす微笑みながら、なのはもアリサやすずかと一緒にシュークリームやジュースを肴に話を弾ませていた。

 

「今日は凄かったわね!」

「そうだね、アリサちゃん。特にあのシュートを止めたのは凄かったね」

 

 興奮したアリサが、身を乗り出して話し込んでいる。なのはとすずかはそれに相づちを打つ。

 

「でも、本当凄かったね。私だったら、絶対キャッチできなかったよ」

「なのはならジャンプもできなかったでしょう」

「そんなことないよ! 私だって、ジャンプぐらいはできるよ」

「なのはちゃん、あのシュートに合わせてだよ? たぶんうまくいかないんじゃないかな?」

「すずかちゃんも酷い!」

 

 怒るなのはだが、二人は笑うだけで取り合ってはくれない。それに頬を膨らませていると、視界の隅に見覚えのある“青”が見えた。青の見えた方へ視線をやれば、ゴールキーパーの子がその掌に何かを持っているだけで、ジュエルシードの姿はなかった。

 見間違いだったのだろうか。気になってゴールキーパーの後ろ姿を目で追う。

 

「な……のは……なのは!

「ふぇ。な、なに、アリサちゃん」

「なのはったら! 話聞いてなかったでしょう?」

「ご、ごめんね」

 

 アリサは頬を膨らます。けれどもすぐに機嫌良くまた元の話に花を咲かした。なのはももうゴールキーパーを目で追ったりしなかった。

 夕方に近づいた頃、盛り上がっていた祝勝会もお開きとなった。士郎と一緒に皆を翠屋の入り口まで送りだした。士郎が先に店内へ入った後、なのはの身体はとある感覚を嗅ぎ取った。身体の奥底を突き抜けるこの感覚は、以前神社の近くで感じた感覚だ。

 

『ユーノ君、これって!』

『間違いない、ジュエルシードだ!』

 

 なのはが駆け出す。魔力を感知した場所はそう遠くない。息を切らして走っていると、その足下にユーノがやって来た。

 

「ユーノ君!」

『なのは、あとちょっとだ、頑張れ』

 

 息を切らしてたどり着いたのは、見晴らしの良い場所にある公園だった。公園の中央、噴水の前。そこで翠屋JFCのゴールキーパーが、マネージャーに何かを手渡していた。それは、青い菱形の宝石、ジュエルシードだ。

 

「ダメ!」

 

 止めなければ。

 なのはが近づく前に、ジュエルシードから感じられる魔力が急激に上昇した。

 

「まずい! 暴走する!」

 

 ジュエルシードからは目映い光が放たれた。咄嗟に腕で目をかばった。昂ぶる魔力に目を開けば、なのはの眼前には、巨大な大樹がそびえ立っていた。

 

「ふ、二人は?」

 

 見当たらない。どこを探しても見当たらない。まさかと思い大樹を見上げれば、その大きな幹に二人が手を組み合いながら、包みこまれようとしている、二人の姿があった。なのはが助けるよりも早く、ツタに飲み込まれ、見えなくなってしまった。

 なのはの膝が崩れる。震えた声で呟いた。

 

「私の、せいだ。私があのときちゃんとジュエルシードか確認しなかったから……」

「なのはのせいじゃないよ!」

 

 ユーノの擁護する声も、今のなのはには届かなかった。レイジングハートを起動させることもなく、夢遊病患者の如く、生気なくフラフラ大樹へ近づいていくなのは。

 その後ろで青い光が瞬いた。

 海鳴の上空、十キロメートル。先程甲矢がジュエルシードを探索していた地点よりもさらに五キロメートルは上空。大気はより薄く、呼吸すら困難。されど吹き付ける風は颶風。そして外気は冷たさを通り越し、凍て付く痛みしかもたらさない。極寒の生命を拒絶する空域。それでも甲矢は、牙をむき出しにする空気に身を浸す。睫毛は凍り、呼吸の間隔は短くなる。そんな状態で絶対なる座に漂う。

 空には氷のように透明な空気だけが存在しているというのに、視界に映る世界は、霞んでいる。酸素と水分が絶対的に足りないのだ。眼球が空気にさらされるだけで、とがったガラスを目に入れられ、揉まれたような激痛が走る。痛みから逃れようにも、甲矢の魔法では出力が絶対的に足りない。だからこそ、魔法は殆ど使わない。魔力を温存するために。その分痛みはよりダイレクトに、強烈に伝わる。発狂しそうになる痛みが襲う。

 それでもなお、甲矢は目を閉じない。視界が赤く染まりだすが、それでもジュエルシードの暴走体である大樹を見据える。

 

「高高度から一気に近づく。身体保護を」

【保護フィールド起動準備。リンカーコアの魔力量から稼働時間を換算。維持限界は五秒です】

「一秒もあれば十分だ」

 

 一秒。それだけあれば、LAST-ARROWの力を借り受けている甲矢はトップスピードに到達できる。

 魔力とは違うエネルギーが足下から放出される。それは青い光を纏っていた。その光は、なのはのように魔力をもって空を飛ぶためのシステムではない。それは翼なき人間が、それでも空を飛ぶために、力尽くで空を、重力を蹂躙するための力だ。

 はき出されるエネルギーの音が変わる。出力が高まり、耳を劈く高音へと。もう抑えることは不可能だ。

 

「フィールド展開!」

【展開】

 

 甲矢を中心に、鉛色に光る円状の魔方陣が広がっていく。そしてその魔方陣から半球状に光が形成された。その魔法の光が展開された瞬間、吹き付ける風が遮られた。一種の風防だ。風が遮られる中、甲矢は身を投げ出すように前へ進んだ。

 そして放たれた。最後の矢が。

 青い光だけが残滓となってその場に残る。

 超音速。音を置き去りに飛び続ける。展開した魔方陣が摩擦熱で溶け出していく。リンカーコアを振り絞り、魔力を捻出する。鉛色の光は赤熱しているが、それでも完全に溶けることなく甲矢を護り続けている。

 そして言葉通り、甲矢は一秒も経たずに、大樹のそばまで近づいた。急停止。同時に魔法が限界を迎え砕け散る。魔力の残滓が空気中に溶けて消えていく最中、甲矢は大樹を睨み続けた。

 巨大という言葉が相応しかった大樹だが、それでもそれは甲矢が認識していたそれよりも遙かに大きい。たった一秒で駆けつけたというのに、大樹は未だ成長し大きくなっている。

 大樹の近くにある五階建てビル。それの何倍も全高。海鳴の建物という建物に影を落とすそれは、もはやセルロースで構成された植物とは思えない。妖樹と呼ぶべき存在だろう。

 地揺れを引き起こしながらどんどん成長していく妖樹。これ以上被害が広がる前にどうにかしなければならない。

 超高速電磁レールキャノン(バルカン)の発射を用意する。尤も効果の発揮するであろう箇所の選定。その最中、妖樹の根元に近づいていくなのはを見つけた。

 だが様子がおかしかった。身を守るバリアジャケットを装着することなく、引き寄せられるように、妖樹へふらふらと近づいている。

 なのはの眼前に下り立つ。

 

「何やっている、なのは」

 

 しかしなのはは甲矢の横をすり抜けた。そして妖樹へと近づいていく。レイジングハートを起動させることもなく、暴走しているジュエルシードの近くへと。

 通り過ぎようとしたなのはの手を後ろから掴み取る。

 

「甲矢……君。放して、私が止めないと……」

 

 なのはの視線は、妖樹にだけ注がれている。

 今も甲矢の顔を見ることなく。後ろから追ってきているユーノのことも、眼中にはないようだ。

 甲矢は口を開きかけ、そして閉ざした。そして。

 

「えっ?」

 

 なのはの頬をはたいた。

 なのはが頬を抑えながら、ようやく甲矢の顔を見た。

 今ならば伝わるだろう。

 

「俺にはお前がどうしてそこまで執着するか分からない。部外者の俺に言われるのも癪だろう。だけれども、それで言わなくちゃならない。お前一人で何になる。ユーノすら置き去りにするほど周りの見えていないお前に、アレを止められるのか? 周りに被害をもたらさないように」

「でも、私が止めないと! 私がジュエルシードを見つけていたのに見逃したから……。それに私だけがジュエルシードを封印できるんだから!」

 

 身体を震わすなのはの瞳には、先程までなかった涙がこぼれていた。力弱く見詰めるその瞳が、甲矢は何故か見ていたくなかった。それはなのはの瞳ではない。なぜだかそう思う。

 何を言えば良いのだろうか。何を言えばなのはが止まってくれるのだろうか。甲矢には止めるための言葉が見つけられない。

 

「それは違うよ、なのは」

 

 ようやく追いついたユーノが息を切らしながら、なのはへ語りかけた。

 

「ユーノ君……」

「確かに僕も甲矢もジュエルシードの封印はできない。でもね、なのはを手伝うことはできるんだよ。だから一人で抱え込まないで」

「でも」

「なのは。全部一人で背負う必要はないんだ。一人で背負ったらどんなに強い人でもいつかは折れちゃうよ。そうならないように、手を助け合うんじゃないか。僕は知っているよ、スクライアは協力して生きてきたから。なのはは違うのかい?」

「ううん。そんなことない。知っている、知っているよ」

「じゃあ、僕たちにも手伝わせて。なのはが僕を助けてくれているんだから。今度は僕になのはを助けさせて」

「うん、うん。ありがとう、ユーノ君」

 

 なのはが目元を一度拭う。拭い去った後は、赤く染まっている。だが、先程とは比べようもないほど強く輝いた瞳が甲矢たちを見詰めていた。

 その瞳の輝きに甲矢は、なのははもう大丈夫だと確信した。

 

「それで、アレは何だ、ユーノ?」

 

 指差す先にジュエルシードの暴走体が存在する。しかし今までの暴走体と比べると、遙かに暴走の規模が大きい。ユーノならばその理由も分かるだろう。フェレットとはいえ、ロストロギアの専門家なのだから。

 

「ジュエルシードが二人の子供を吸収したんだ。ジュエルシードには願いを叶える機構があるんだ。たぶんその機能が働いて、ジュエルシードが二人の願いを曲解して叶えようと、暴走したんだと思う」

「つまり、あの樹の中にジュエルシードと、それを願った二人がいるっていうことか」

「うん。だからまずはジュエルシードを見つけないと……」

 

 下手に手を出せば、二人の命が危ないということか。甲矢は幹の部分へ攻撃をするわけにいかなくなり、舌打ちを漏らす。

 

「しかしどうする? 俺には探知なんてできやしないぞ。ジュエルシードの暴走した結果、これだけの魔力が溢れ出しているんだ。魔力での探知は不可能だろう」

 

 ユーノは何か手段を考えているのだろう。黙り込んでしまった。

 甲矢も組んだ腕を指先で叩き始める。LAST-ARROWの機能にそういった機能はないだろうか。それを訊ねようとしたとき。

 

「私が見つける。レイジングハート、手伝って」

【Of course.Area Search】

 

 なのはを中心に、桜色に輝くピンボール大の光球が放射状に放たれた。

 それらは妖樹へ纏わり付くように、その周囲を旋回している。

 なのはの目が見開かれる。

 

「見つけた」

 

 なのはの呟きに呼応したかのように、あるいは覚醒したかのように、妖樹がその枝を、根を駆使して襲いかかる。先端の鋭さは、人程度やすやす貫くだろう。それ以外の箇所も人程度簡単に砕くだけの堅さと威力はある。封印作業に入ろうとしているなのはの邪魔をさせない。

 

「甲矢!」

「分かっている!」

 

 ロッドを妖樹へ突きつける。突きつけたロッドの先を照準に、一射、二射。超高速電磁レールキャノンが火を噴く。

 射線上にある全てを燃やし、穿つ。滅びの光。滅びの弾丸。一つ放つたびに、ソニックブームと摩擦により拡散した空気が澱んだ臭いを運んでくる。火薬の、荒んだ香り。鼻が曲がる、いや、鼻が麻痺するような臭い。

 それが分かっているというのに、超高速電磁レールキャノンをばらまくのはけしてやめない。

 

「チェーンバインド!」

 

 ユーノも又、なのはを守ろうと魔法を駆使して戦っている。

 緑色の魔方陣が展開される。そしてその魔方陣から光と同色の鎖が飛び出し、なのはを狙う触手を捕らえる。よほど強固に捕らえているのだろう。建物すらなぎ払えそうな触手を身動き一つ許さず拘束しきっている。

 

【Shooting Mode】

 

 その間にも、なのはの封印は進んでいく。

 レイジングハートが変形していく。コアを半月のように覆っていた杖先が二叉に別れる。その間から魔力が迸る。

 

「いっけぇええええ!」

 

 なのはの声と共に放たれた桜色の光が妖樹の中心を貫いた。

 

【Stand by Ready】

「リリカルマジカル ジュエルシードシリアル10 封印!!」

【Sealing.Receipt Number X.Mode Release】

 

 妖樹は消え去り、公園の中央、噴水前に二人の子供がお互いの手を握り締め、気を失って座り込んでいた。それを見たなのはがほっと息を吐いた。

 そして封印したジュエルシードがレンジングハートに取り込まれていく。

 夕焼けが地平線に沈んでいく。その様を甲矢たちは無事だったビルの屋上から見ていた。

 なのはが屋上の縁に近づいていく。そして辺りを見渡している。

 辺りには崩れた建物が幾つもある。道路は壊れ、人々は途方に暮れた面持ちで、街を見詰めている。それを見たなのはが、屋上の転落防止用の柵を握り締めた。

 

「私ね、ユーノ君の手伝いができたら良い。そんな気持ちで手伝うって言ったんだ。でも、今は違う。こんな光景もう二度と見たくない。だから、ジュエルシードを集めたい」

 

 何かを口にしようとして、甲矢は結局やめた。

 もう一度辺りを見渡す。見える光景、それら全てはジュエルシードでもなく甲矢とLAST-ARROWであれば簡単に引き起こせる。そんな輩がなのはにわかりきったような言葉を吐く権利はない。

 なのは達に背を向け、夕日を眺める。夕日は琥珀色に染まり、壊れた街を優しく包んでいた。

 なぜだか無性に叫び出したくなった。

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