魔法少女RIRIKARUなのは   作:koth3

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投稿遅くなり申し訳ありません。


STAGE6:飛べなかった日なの

 甲矢は夕食後の自由時間に、誰にも見付からぬよう、孤児院の廊下を忍び足でひっそりと歩いていた。

 この時間帯廊下は使われない。が、トイレか何かで廊下を使う者もいる。誰かに出くわす可能性はなきにしも非ずだ。

 ちらりと手元に目をやる。スタッフルームから拝借した大振りの鋏がそこにある。危ないので勝手に持ち出すことが禁止されているものだ。こんなものを持って歩いているのが見付かれば、騒動になってしまう。それは避けたかった。なぜ持ち出したのか根掘り葉掘り聞かれるのもそうだが、周りに余計な心配を掛けてしまう。それは何としてでも避けたかった。

 悠長にしていると、誰かに出合う可能性が高まる。自然と足が速くなっていく。急ぎ足のまま、自室へ向かう。が、自室へはまだ多少距離がある。曲がり角に着いたところで、幾度目かになるが、人の気配を探る。

 Last-Arrowに投与されたナノマシンにより強化された甲矢の五感が力を発揮する。嗅覚は体臭を、触覚は風のうねりを、聴覚は微かな音もあまさず感知する。

 どうやらここいらには甲矢以外誰もいないようだ。息を吐き出す。ここを越えれば後は少しだ。

 角を曲がり少し進む。自室の前まで辿り着いたとき、甲矢の額からひとしずくの汗が流れ落ちた。それを拭い去り、自室に入ると後ろ手に扉の鍵を閉める。こうすれば、作業中に誰も入ってこれない。だが甲矢は念には念を入れる。扉に耳を押し当て、もう一度周囲の人気を探ってみる。扉越しであるが、物音一つせず、静かなものだ。頭の中でゆっくり十秒数えるが、何も変化はない。そこまでしてようやく部屋の近くにひとがいないと、肩の荷を下ろすことができた。

 Last-Arrowに尋ねれば、こんなことをする必要はないだろう。その優秀極まるレーダー群からすれば、街の孤児院程度丸裸も同然だ。が、甲矢は不必要にLast-Arrowの力を使いたくはなかった。どれだけ便利であろうとも、その力の源泉は兵器なのだから。

 甲矢は鋏を一旦机に置くと、ベッドの下を漁った。見付からないよう奥に隠していたので、なかなか目的のものが探り出せない。それでも腕を伸ばし、探していると、指先にごわごわした感触が掠めた。掠めた付近を重点的に漁ると、目的のものに指が引っ掛かった。引っ張り出したのは、血塗れのシャツだった。思わず肩を触ってしまう。そこに風穴はもうないというのに。

 このシャツは、数日前月村亭でジュエルシードを回収したとき着ていたものだ。肩に傷を負い、血塗れになってしまった。

 どうにか人目に付かぬうちに処分しなければいけないものだ。が、今日までそのチャンスは巡ってこなかった。

 持ってきた鋏を取上げ、シャツにあてる。手に力を込めるが、シャツはなかなか切れない。四苦八苦していると、Last-Arrowが話しかけてきた。

 

『あなたの筋力はナノマシンで強化されております。シャツ一枚の裁断程度、苦労するはずもありません』

 

 ぴたりと刃が止まる。

 

「黙ってろ、Last-Arrow」

『命令、承諾しました』

 

 再び鋏に力を込めようとしたが、甲矢はやめた。代わりに鋏を脇に置く。作業はしなければならない。だが、もうそんな気分ではなくなってしまった。

 膝にシャツをかける。おさがりで貰ったシャツはすり切れて、黄ばみが酷く、元の白い色合いなど全く見えない。もうそろそろ着るのも限界で、買い換え時だ。

 そんなシャツでも、なくなれば保育士達は困るかもしれない。そう思うと、鋏にこめる力が入らなくなってしまった。

 

「やらなきゃいけないことなのに、どうしてやりきれないんだ」

 

 こうなったら他の方法を考えるべきか。そう甲矢が思案していたときだ。

 突如世界が揺らいだ。すべてが波打ち、極彩色に縁取られたように見える。いや、それは甲矢の認識が歪んだに過ぎない。

 膨大な魔力が一挙に押し寄せたために、甲矢の魔法的な処理能力がオーバーフローを熾し、誤認したのだ。

 

「Last-arrow!」

 

 打てば響くように求めた情報が返ってくる。

 

『空間中の魔力濃度の上昇を確認。魔力波のパターン照合中。照合終了。ジュエルシードの暴走に間違いありません』

 

 Last-Arrowから送られたデータが、ナノマシンを通じ、瞳孔に投射される。そこにはサーモグラフィのように、魔力濃度を測ったグラフが表示されている。部屋中真っ赤だ。データを切り替える。先程までのグラフが表へと変換された。表の数値を見れば、普段の一万倍もの魔力がここらを満たしている。

 状態を把握してからのは行動は素早かった。

 甲矢はシャツで鋏を包むと、再びベッドの下に押し込んだ。鍵をもう一度確認し、窓から外へ抜け出す。

 月明かりに照らされる中、魔力が放たれている場所をサーチする。

 

『回収目標の現在地、海鳴温泉街』

「距離および方角は」

『距離は168.25678キローメートル。方角は北北東』

 

 舌打ちがもれる。距離が遠すぎる。

 Last-Arrowのおかげで甲矢は魔導士でも追いつけない超高速移動ができる。が、それは甲矢自身の身を守るバリアが存在するのが前提条件だ。魔力さえあれば、超音速でいくらでも移動できる。

 が、それだけの能力に反し、甲矢の魔力は少ない。なのははもちろん、消耗しきっているというユーノですら甲矢より豊富な魔力を有しているほどだ。

 そんな甲矢ではLast-Arrow最大の利点である速度を生かし切れない。

 奥歯を噛みしめる。歯がゆさばかりが募る。が、ここで悔しさからいくら歯軋りしていても意味がない。

 青い光を発しながら、甲矢は孤児院上空に飛んだ。

 

「うまくできればいいんだが」

 

 北北東へ飛びながら、なのはとユーノへの念話を試みる。ジュエルシードの魔力が空中に大量に霧散された状態で、念話が届くか。さしもの甲矢も見当が付かない。

 

【聞こえるか、高町、ユーノ】

 

 伝わらない。が、わずかに繋がりを感じる。めげずに幾度も繰り返す。

 

【甲矢君!】

 

 なのはだ。ノイズまみれで聞き取りづらい。が、確かに繋がった。

 

【今、どこにいる】

【今? 海鳴温泉にいるの。そこでジュエルシードが暴走して……】

【わかった。すぐに向かう。ただ、時間がかかりそうだ】

 

 現在時速1020キロメートル。あと少しでマッハとなるほどの速度。しかしそれでも海鳴温泉街に付くには十分もかかるだろう。いや、途中で魔力が不足するだろう。だとすれば速度はぐんと低下する。それをかんがみれば、一時間弱はかかるだろう。

 それだけの間、なのはとユーノが無事ジュエルシードを封印できれば良い。が、甲矢は金髪の少女達のことを考え、楽観視することはできずにいた。一刻も早く合流しなければならない。

 少しでも早くと、アフターバーナーをさらにふかす。周囲の風景が、甲矢の強化された五感ですらほとんど何も認識できない領域になっていく。もはやLast-Arrowのセンサー群が知覚する情報だけが頼りだ。

 周囲に張ったバリアが赤熱していく。みるみる残存魔力が減っていき、バリアの強度が失われていく。バリアが破れてしまえば、甲矢など刹那の間に燃え尽きるだろう。

 それでもなお、甲矢は速度を弛めなかった。

 

【甲矢君……バリアジャケット、着ているよね?】

 

 甲矢の魔力では、バリアジャケットを纏えば、それだけで魔力が枯渇しかける。身を守るために使いたくとも、使うわけにはいかなかった。使ってしまえば、さらに時間がかかってしまう。

 なのはをごまかそうと、無難な返事をしようとしたとき、リンカーコアのある胸が痛み出す。

 苦悶に顔を歪ませ、胸に爪を突き立てる。魔力が不足しだしたのだ。視界に風景が飛び込む。いや、甲矢が飛行つづけることができなくなり、急停止したに過ぎない。

 

【ああ】

 

 それでもなのはをごまかすために言葉を絞り出す。多少受け答えに不自然さがでてしまった。が、なのはも甲矢よりジュエルシードのことを優先するだろう。

 そんな甲矢の予想は裏切られた。

 突如送られてくる念が膨れ上がる。あまりの出力に、受け取るだけで魔力ダメージをくらいそうなほどだ。

 

【嘘つき!】

 

 突然の大声に驚いたのは甲矢だけじゃなかったようだ。ユーノの念話が甲矢にまで届いた。

 

【な、なのは? いきなり何を?】

【だって、甲矢君?吐いてるもの。それくらい私にだってわかる】

【どうして嘘を吐かなきゃゃいけないんだ】

 

 返す言葉が震えていなかったのは、奇跡だろう。

 

【……甲矢……】

【高町? おい、高町!】

 

 なのはの声がノイズにかき消えていく。

 

『魔力障害の発生を確認』

 

 どうやらジュエルシードが原因らしい。ジュエルシードから発せられた膨大な魔力が、念話の魔力に干渉しているようだ。

 ぐずぐずしている暇はない。甲矢はとにかく目的地へ向かうのを優先した。

 が、その飛行速度は先程よりもはるかに遅い。風景はなかなか変わらない、可能な限り早く飛んでも。それでいて風圧に息はつまってしまう。

 まったく思い通りにいかない。甲矢は嫌な予感ばかりが募っていく。そしてそれは現実となった。

 甲矢がようやく海鳴温泉街に辿り着いたとき、すでにジュエルシードは奪われていた。

 

「甲矢……君。ごめん、ね。取られちゃった」

 

 力なく崩折れるなのはを前に、甲矢は掌から血がしたたり落ちるほど、拳を握り締めた。




文章量といい、中身といい、なんだかなぁ。時間が合ったらもう一度再考したい気持です。
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