魔法少女RIRIKARUなのは   作:koth3

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短くて申し訳ありませんが、なんとかクリスマスに間に合いました。
そろそろ佳境へいたるところ。頑張っていきます。


STAGE8:それが戦う理由なの?

 全身を麻痺が蝕む。力を込めようとも入らず、崩折れそうになる身体をLast-arrowで支える。

 一度(ひとたび)気を抜けば、そのまま倒れ伏すだろう。

 身動ぐことすら、億劫だ。

 それでも気力を振り絞る。まだ戦いは終わっていない。であれば、戦わなければならない。

 振り向けば、魔導師たちは肩を震わせていた。

 痺れる足を叱咤し、一歩踏み出す。息をのむ音がした。

 

「何だよ、それ……」

「答える義理はない」

 

 問いを切って捨てる。敵との馴れ合いなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 弱っている姿などみせるものか。自らに活を入れ、Last-Arrowを構えてみせる。

 もはや戦闘に身体が耐えられない。その証左に、杖先の震動を止められない。こうしているだけで限界が近づいていく。

 このまま引いてくれ。脂汗を垂れ流し、そう願う。

 

「っ、逃げるよ、フェイト!」

「あ、アルフ!」

 

 アルフがフェイトを抱きかかえ跳び退り、ビルの影へと消えていった。

 生体反応が遠のいていくのを確認し、甲矢は前のめりに倒れた。

 頭蓋で鈍い音が反響する。折れた(、、、)。視界の右側が暗くなる。どうやら額を切ったらしい。

 

「甲矢君!!」

 

 なのはが甲矢を抱き起こす。

 甲矢の瞳は虚ろで、濁っていた。

 額の傷にハンカチをあて止血する。幸い見た目ほど酷い傷ではなかったらしく、すぐに血が止まった。

 

「どうしてこんな無茶を!」

 

 涙ながらに問いただすが、甲矢は何も答えない。

 瞳をなのはへと向けただけだ。

 人形のような眼に、なのはの胸が膿んだように痛む。

 

「甲矢、いまのは一体」

 

 戦くユーノが、甲矢とLast-Arrowとに目を瞠っている。

 怖気を含んだ視線を浴びながら、待機状態へと移行したデバイスを甲矢はふらつく手で鷲掴む。琥珀色の輝きが指の隙間からこぼれ落ち、その光が顔に影を落とす。

 

「ひっ!?」

「それを知って、どうする? ユーノ、お前に何ができる? ちっぽけな一人に。既に矢は放たれた。放たれた矢は二度と戻らない」

 

 そう告げると、甲矢は口を固く閉ざした。

 それ以降は、なのはとユーノとがどんな言葉で語り掛けても沈黙を守ったままだった。

 そして立ち上がると、繁華街のネオンへと消えていった。

 

 

 

 夜の闇も一層深まりだした頃、アルフとフェイトは拠点としているマンションへと辿り着いた。追っ手を撒くために短距離転移を繰り返したため、二人とも魔力を使い切ってしまっている。

 額から大粒の汗を流し、アルフは叫ぶ。

 

「何なんだよ、アイツ! それにあの光!?」

 

 魔法は奥が深い。様々な世界でその世界特有の魔法だってある。故に、とても造詣が深いとは口にできないが、それでも二人の知識はそこいらの魔導師なぞ凌駕している。その上で、九条甲矢の放った魔法は未知の魔法だった。

 既存の魔法と文字通り桁の違う破壊力。それでいて、大規模魔法と比べて短すぎるエネルギーの収縮時間。初見では対応が不可能だ。

 戦っている最中にあんなものを放たれていたら、間違いなく死んでいた。

 背筋が寒くなる。アルフに気が付かれないよう、そっと二の腕を掴んだ。かすかに感じられる脈拍はあまりに頼りない。

 あの男と戦えば、ふとした拍子に死の臥所に囚われるのではないかと思うと、気が気ではいられない。

 

「フェイト、もう無理だよ!」

 

 アルフの瞳は恐れで満たされている。自らの眼も似たような脅えが出ているのではないだろうか。

 だが、それでも戦わないわけにはいかない。

 ジュエルシードを集める理由がある。今更逃げ帰ることなどできやしない。

 

「ううん。大丈夫。あの攻撃は多少のチャージ時間がある。私とアルフならその時間で十分射線から退避できる」

 

 白々しい嘘だ。

 アルフもそれは分かっているのだろう。渋面のままだ。

 だけれども、フェイトの気持ちを、想いを汲み取ってくれたのか、それ以上言うことはなかった。

 

「母さんのためだから」

「フェイト……」

 

 アルフが狼形態ですり寄ってきた。

 そっと抱き寄せる。温もりが伝わる。

 二人はずっと抱きしめ合っていた。

 どれほどそうしていただろうか。カーテン越しに白々とした曙光が差した。

 

 

 

 道場の明かり取りから、日の目が覗く。

 場に満ちる厳粛な空気に当てられたのか、なのはが正座をして座っていると、入り口の開く音がした。

 振り返れば、姉の美由紀が立っていた。

 きょとんとした顔をしていたが、すぐに微笑みが浮かぶ。

 

「どうしたの、なのは。珍しいわね」

「うん。ちょっとね」

 

 話をしながらも、美由紀は小太刀をもした木刀を二振り掴んできた。

 姉の邪魔にならないよう、なのはは道場の隅に移動する。

 

「偶には見ていく?」

「……うん」

 

 しばし迷ったが、肯定のことばを返す。

 小太刀が宙を舞う。

 武術のことなぞ何等分からないなのはだが、姉の振るう一太刀一太刀がとても美しいことだけは分かった。

 

「……何かあった?」

 

 美由紀が演武の合間に息を整えながら尋ねてきた。

 話して良いのだろうか。迷いが一瞬過ぎった。だが、自分だけでいまの状況をどうにかできるのか分からず、結局ある程度誤魔化して姉に相談することにした。

 

「ねえ、お姉ちゃんは痛いのが怖くないの?」

 

 美由紀が収めているのは永全不動八門一派・御神真刀流と呼ばれる小太刀二刀流の武術だ。それも実戦を前提とした流派で、荒行なども平然と行う。例えば組み手だ。竹刀こそ用いるが、防具などは身に着けない。一歩間違えれば怪我をしてもおかしくはない。それを毎日繰り返している。

 当然、なのはが覚えている限り、青あざなどはしょっちゅう拵えている。だが、それでも姉は一度も修行を止めたいと言ったことはなかった。

 

「そりゃあ、怖いよ。人間誰だって痛いのは嫌いだし、怖いに決まっている」

「じゃあ、どうして続けるの?」

「ううん、難しいなぁ。そうして怖い思いをしたとしても、やりたいこと、したいことがあるからかな」

「やりたいこと?」

「色々理由はあるよ。人によっては戦うのが楽しいという人だっているだろうし。でも、私がこうやって剣を振るうのは、やっぱりいざというとき大切な人を、家族を守れるようにかな」

 

 はにかみながら告げると美由紀は再び小太刀を振るった。

 

「守るため……」

 

 その言葉は、なのはの胸にしみこんだ。

 ファイトも、そして甲矢も痛々しいほど戦う。その理由の一端が、垣間見えた気がする。

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 姉の邪魔にならないよう静かに立ち上がると、なのはは道場を立ち去った。

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