早く戦闘に入りたい!
親父はあれから海に出ることはなくずっと滞在している。
今更な気もするがこの島の名前はクライガナ島、シッケアール王国という国の跡地だ。
何でも、五年前まで内乱が続いて滅んでしまったらしい。詳しいことは分からないが、俺と親父がここに越してくる時には酷い惨状だったさ。
辺り一面死体の山。
充満する血生臭さと火薬と鉛の臭い。
誰一人として生きているものはいなかった。
そんな人間の争いを見てヒヒ達は戦いを学習した。ヒューマンドリルは穏和な人間の側で育てば穏和な性格に。と言うことは、その逆もあるということ。
今では俺達の指導で清掃のプロフェッショナルに代わってしまったが、武器を持つよりはマシだろう。
次は料理でも教えてみるか・・・・・。
まあ、追々考えておくことにしよう。
それよりもだ、黒歌と白音・・・・・・頼むから親父を怒らせないようにしてくれ。
「パパ〜、お小遣いがほしいにゃん!」
「父さま、剣技を見せてください」
「小遣いなどやらん、剣技も見せるためにある訳じゃない。それにいつから俺は貴様らの父親になった?」
二人の上目遣いもまるで効果無し。
親父は今朝ニュース・クーから購入した新聞から目を離さずに淡々と答える。
まるで絶対零度だな。
「ヴァーリぃぃ、パパが冷たいにゃん・・・・!」
「父さまのけち・・・・・」
何度も繰り返しねだる黒歌と白音だったが敢えなく撃沈。
親父の反対側の席に座る俺のところまで来て二人はしがみついてくる。
「ははは・・・それは辛かったな。あ、親父、読み終わったら俺にも新聞を見せてくれ」
「わかった」
「ひどい!ヴァーリも対応があっさりしてるにゃ!?」
黒歌はポカポカと俺の頭を叩いてくる。
仕方ないだろう、黒歌。こればかりは俺でもどうにも出来そうにない。
強いて言うなら、せめて親父を『パパ』と呼ぶのは止めた方がいいんじゃないのか?
白音の『父さま』は良いだろうけど、パパって柄ではないだろ。
俺はじゃれてくる黒歌と白音を軽くあしらいつつ、ふと気になった事を思い出す。
「そう言えば、以前親父が言ってた大型ルーキー。結局七武海のメンバーに加わることになったのか?」
「俺の口から聞くよりも自分の目で見てみるといい」
親父はそう言って俺に新聞を投げてきたので受け取る。
パラパラとめくっていくと一人の男の顔写真がでかでかと取り上げられてるページを見つけた。
「スペード海賊団・・・・・“火拳のエース”・・・・・?」
白音はひょいと顔を出して新聞を覗き首を傾げる。
「白音は聞いたことないか?彗星の如く現れ、またたくまに名を馳せた大型ルーキーなんだが・・・・・どうやら七武海の勧誘を受けたらしい」
「じゃあ、そのエースって人もパパと同じくらい強いのかにゃ?」
黒歌も反対側から顔を出して問い掛けてくる。
「うーん、七武海だからって等しく実力が並ぶとも限らないし・・・・・火拳のエースも強いだろうが親父程じゃないと思う」
事実そうなのだろうが、親父がこの場にいるのに『火拳のエースの方が強い』なんて言えるわけがない。
俺は記事を読み進めていくと、ある部分でピタリと目の動きを止めた。
「へえ、勧誘を蹴ったのか」
そこには『海賊“火拳のエース”が王下七武海への勧誘を拒絶』と書かれていた。
七武海に加入すれば指名手配、懸賞金が解除されたり何かと優遇されるものだが、彼には魅力が足りないのかそれとも興味がないのか・・・・・。
まったく、面白いじゃないか。
「親父」
「・・・・・何だ?」
俺は自然に口角が上がるのを感じながら椅子から立ち上がる。
黒歌と白音は驚くが親父は普段通りのポーカーフェイス。
「ちょっと海に出てくる」
「そうか。言っても聞かないだろうが一応言っておく。━━━━問題は起こすな。俺が面倒になる」
流石は親父、俺をよく分かってるな。
こんな面白そうな相手と戦わずしてどうする。
『はぁ、そうだな・・・・・ヴァーリはそう言う性格だった。黒歌と白音が来てから大人しくなったと思えばまたこれか』
最近アルビオンがため息をつく回数が増えた気がする。気のせいだといいが。
いいじゃないかアルビオン。
日々を平和で過ごすのも捨てがたいが、俺はやはり戦いに身を投じる方がいい。
俺は必要最低限の準備をしようとすると、黒歌に手を掴まれた。
「もしかして、その子の所に行くのかにゃ?」
「ああ、勧誘を受けるほどの実力をこの手で確かめてみたくてね。暫くまともに戦っていなかったから疼いて仕方ない」
「急ですね・・・・。場所は特定しているんですか?」
そう言って白音も俺の服の裾を握る。
火拳のエースは海賊。二人にとって海賊は恐怖の対象に他ならない。
俺はなるべく安心させるように笑顔で答える。
「まだ新世界には入ってないそうだから
「そ、そんなの時間がいくらあっても足りないにゃん・・・・・・・って、言いたいけどヴァーリなら出来るもんね」
「姉さま、諦めましょう。だってヴァーリ兄さまですから」
黒歌と白音はふぅ、と息を小さく吐いてから手の力を緩める。どうやら二人も俺の事を随分理解してきてるらしい。
流石は自慢の妹たちだ。
よし、そうと決まれば荷造りを始めよう。
▽▼▽
城から約徒歩二十分にある寂れた港。
そこでゆらゆらと揺られているのは二つの舟。
一つは棺桶を模したような小舟で通称“棺船”、これは親父が航海に出るときに使用するものだ。
その隣にある船は親父の船に比べてかなり大きく白を基調としていて、形が普通の船と異なる部分がある。
それはなんと言っても、右舷と左舷に取り付けられている白い翼だろう。
形は俺の『白龍皇の光翼』に酷似している。
何故翼があるのか、それは当然空を飛ぶためだ。
動きとしては、船底に設置されている四つの
以前は全てを魔力でコントロールしていたが、宝物庫に一つ、とある商人から二つ、見知らぬ海賊から一つ頂いた噴風貝のお陰で大分楽になった。
この貝殻は非常に珍しいらしいが、偶然が重なって四つも手に入れられたんだ。
天候次第で速度は落ちることもあるが、それでも帆船よりも断然速い。
丸一日掛かる航海も少し本気を出せばこの船なら数時間で到着できる。特殊な加工を施したこの船体にも多少の負荷がかかるため、滅多に本気は出さないが。
「これで最後だな・・・・・・なあ二人とも、本当に着いて来る気か?」
食料や着替え、それなりの額の金をヒヒ達と一緒に運んだ俺は黒歌と白音に確認をとる。
「勿論にゃ。海に出るのも久しぶりだし、何しろ楽しそうにゃん」
「姉さまと兄さまが行くのに私が行かないわけにいきません。お留守番はヒヒ達と父さまに任せましょう」
「けど、大丈夫なのか・・・・・?」
二人はそう言っているがあまり納得は出来ない。
海賊にトラウマを持っている黒歌と白音を海賊に会わせるのは気が引ける。それに、危険な目に合わせたくない。
「私たちだって強くなったにゃん。もし襲われても返り討ちにしてあげるにゃ。・・・・・それに、ピンチになったらヴァーリが助けてくれるでしょ?」
悪戯な笑みを浮かべて言う黒歌に俺は頭を悩ませる。
俺とアルビオン、途中から親父も混ざって二人を鍛えたんだ、強くなったのは確実。
でも、戦う術を身に付けさせたとしても怪我はさせたくないんだよ。
まあ、黒歌の言うとおり俺が全力で守ればいいのだが・・・・・。どうするべきなんだ?
━━━━━脳内で思案すること数分。
ふむ、結局二人も同伴することになってしまった。
ハイタッチをしている黒歌と白音の横で俺は海から錨を引き上げる。
一息着いてからヒヒ達のいる港の方に向いて手を上げた。
「それじゃあ、親父の身の回りと城の事は任せた」
『ウキッ!!』
ヒヒ達も同じように手を上げて元気に返事をする。
それにしても、いつの間にかヒヒの数が増えているような・・・・・。初めは十匹だったのに今では三十匹はいるぞ。
城は広いから人手・・・・・ヒヒ手は多いに越したことはないけど、君たちの長はどうした長は?
そんな簡単に住み処を抜け出して城に住み着いてもいいのか。怒られても俺は責任をとらないからな?
全ての準備が整い、いつでも舵輪の隣にある噴風貝の作動レバーを動かせる状態でいる。
すると、ヒヒの群れを二分して歩いてくる人影が一つ。
あれは・・・・・親父?
見送りに来てくれるなんて珍しいな。
「ヴァーリ、これを持っていけ」
親父が俺に向かって一本の刀を放り投げる。
「おっと」
危なげなく受け取ってまじまじと見つめる。
柄と鞘は一切の穢れを感じさせない純白さだ・・・・・。
自分で言うのも何だが、俺の鎧といい勝負が出来そうなくらいに白い。
すっ、と鞘から刃を全て出すと一瞬吸い込まれそうな錯覚に襲われる。
それほどまでにこの刀は美しい。
暗いこの島を照らし尽くしてくれそうにも思える。白龍皇にピッタリの刀だな。
「凄く綺麗にゃん・・・・」
「キラキラしてます・・・・・」
黒歌と白音はうっとりした表情でこの刀を見つめる。既に虜になってしまっているが、それも頷ける話だ。
試しに刀を振るってみようと柄をしっかり握る。
不思議としっくりきて相性は悪くない、というかむしろ良い。
ヒュンッ!ヒュンッ!
適当に二振りしてみたけど、見た目と違って結構重量があるが・・・・・。
俺にはこれくらいが丁度いい。
刀のチェックを終えた俺は鞘に納めて帯刀する。
「━━━━━その刀は大業物21工の内の一つ。名は“
「大業物・・・・・!そんな珍しい代物を俺の為に手に入れてくれたのか?」
まさか、親父が一ヶ月以上も帰ってこなかったのは白火を入手するため・・・・・だったのか。
俺の問いかけに親父は口元に笑みを浮かべながら答える。
「仮にも俺の子を名乗るなら刀の一つでも携えてなければな。要らなければ受け取らなくてもいいぞ?」
「いや、ありがたく使わせてもらうよ!」
親父は満足そうに小さく頷くと、何も言わずそのまま踵を返して城へと戻っていく。
『行ってらっしゃい』の一言でもくれれば文句無しだったんだが・・・・・・・相変わらず不器用な人だ。
小さくなっていく親父の背中を見て苦笑を浮かべる。
そんな俺の後ろで黒歌と白音がプンスカと怒りの声を上げていた。
「何で私達には冷たかったのにヴァーリには優しくするのか納得いかないにゃん!!」
「全くです。これはヴァーリ兄さまに膝枕してもらうしかなさそうですね」
「あと頭なでなでも追加にゃ!」
何故そこに考えがいくのかわからん。
俺はただ親父から刀を貰っただけなのに・・・・・。
まあいい、そろそろ出航するか。
何時までも駄弁る訳にもいかないし、何より早く白火を実践導入したい。
俺は元気に騒いでいる妹達をスルーして作動レバーを引く。
ガゴン!という音の直後に海面から次々と泡が出て来て、次第にその量も増えていく。
噴風貝の風圧を少しずつ強めて、船底が海面から完全に離れたことを確認したら━━━━
一気に風圧を高める!
ゴオオオォォォォオオオオッ!!
凄まじい音と共に船体が急上昇。
その高度はみるみる上がっていき、雲の一歩手前まで浮かび上がる。
もう少し出力を上げれば雲の上まで行けるが今はそこまで必要ないだろう。
「にゃ〜〜!空を飛ぶなんてやっぱり夢みたいにゃん」
「姉さま、そんなに体を出したら海に落ちちゃいますよ!」
手摺から身を乗り出す黒歌に慌てて止めさせる白音。
黒歌・・・・・・能力者何だから気を付けてくれ。落ちても速攻で助けに行くけど、それでも心臓に悪い。
「ふぅ、よし、それじゃあ出発しようか」
俺は船尾周辺を魔力で進行方向に押すようにコントロールする。
簡単そうに見えて意外と神経を使うが、慣れれば造作もない。多少魔力も消費するけど戦闘に支障が出るほどのものでもない。
天候は良好、お陰でコントロールもしやすいな。
さあ、目指すは火拳のエース。
見つけるのは一体いつになるのかな・・・・・?
噴風貝四つで船を飛ばせるのか疑問ですが、とにかく飛ばせたかったんです・・・・・。
他にも疑問に思う人もいるかもしれませんがご了承下さい!
それと、ヴァーリの船の名前をどうしようか迷い中ですので良ければアドバイスを頂ければ嬉しいです。