無限の精霊契約者   作:ラギアz

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第二十九話「隼人」

 鷹野の胸板を蹴って、後ろへの推進力を得た俺は直ぐに足の裏を背後へ向けた。

 後ろにあるのは、壁。白いコンクリートの壁が存在している。

 そこに足裏を付けて、膝を曲げて力を溜める。姿勢を崩した鷹野へ、俺は壁を強く蹴り飛ばして突撃。強く強く握りしめた右拳を、がら空きの鳩尾へと撃ち抜いた。

 ドオン! と、鷹野は大きく吹き飛ぶ。そのまま地面に背中を打ち付けて、跳ねてから床に落ちて動かなくなった。ポゼッション・リンクが解けて、鷹野から翼と鉤爪が消滅する。俺もステイ・リンクを解いてから一礼し、大きく息を吸い込んだ。

 最後の、ギリギリの行動。ぶっつけ本番の技だったが、不格好ながらも何とか成功した事に安堵する。

 勝ちはしたが、決して自慢できるような勝ち方ではない。隅っこの壁際まで追い詰められたのだ。

 それに俺はまだポゼッション・リンクが使えない。まだまだ未熟者だという事が、勝ちを通じて心と体に染み渡る。

 観客席へと戻った俺は、涼花の隣へと腰を下ろした。

 夕張先生が次の指示を飛ばす中で、涼花は俺に向けて口を開く。

「さっき、助けてくれてありがとう。……あと、最後カッコ良かったよ」

「いやいや、涼花こそ皆を止めてくれてありがとう。涼花に殴りかかったのは鷹野と一番仲の良さそうな奴だったし……。それこそ、俺がポゼッション・リンク出来ないのが問題だよな」

「でも、式はステイ・リンクでポゼッション・リンクの相手に勝ったでしょ?」

「うん」

「それなら、式はポゼッション・リンクにも負けていない。大丈夫、いつかは出来るようになるよ」

 珍しく語気を強めて、涼花は微笑を湛えて俺を元気づけてくれた。

 さっきの非難の嵐を止めてくれたし、今もこうして言葉をかけてくれる。そんな涼花の姿に俺も自然と笑みを零していた。

 その日は、もう俺が戦う事は無かった。精霊実技は終わり、そのあとに数学と英語。昼食を食べた後に、精霊学と社会。それでこの日の授業は全て終わり、帰りのHRも終わり、俺は涼花と一緒に寮へと帰り始めた。

 道中で、今まで黙っていた涼花が何かに気づいたようにあっ、と声を上げる。

「……畑、お世話しないと」

 そういえばそうだった。

 最近そんな暇も無くて、全然畑に行けていない。今日は時間もあるし、丁度良い機会だ。涼花に畑仕事を一通り教えてみよう。

 思い立った俺は、早速その旨を涼花に話した。すぐに了承してくれた涼花に、ジャージで来てねと言ってから女子寮と男子寮の場所で別れる。最上階の端っこまで俺は行き、自室で手早くジャージに着替えると俺は入り口に行き、そのまま裏手の畑へ。そこにはもうジャージに着替えた涼花が目を輝かせながら立っていて、俺は一つずつ仕事を教えていった。

 もしかしたら畑仕事を嫌がるかもしれない。泥まみれの肉体仕事だし、女子にはキツイだろう。

 ……そう思っていたら。

「涼花、ねえ涼花!? 豪快すぎるよ泥が付くからー!」

「楽しい」

「楽しいのは分かったから落ち着いて!? お願い!」

 杞憂だった。

 涼花は俺よりもノリノリで、泥まみれになるのも構わずに自ら重たい物を持ちジャージを汚し、頬を土で汚して畑仕事をこなしていく。そのまま仕事が終わったのはもう夕暮れ。そろそろ夕食の時間に成るというところで、やっと俺たちは寮へと戻り始める。

 と言っても畑は寮の裏手。戻るのには一分程度しかかからない。

 寮に入ってすぐの所で、俺と涼花は別れた。もう食堂は開いているし、流石に泥まみれのジャージで他のみんなに混ざっての食事は迷惑だから着替えに行くのだ。

 体についた泥を水で濡らしたタオルで軽く拭い、制服を着る。金色の校章の角度を直し、俺は部屋を出た。

 そのまま食堂へ向かい、一列に並んで台に乗っているご飯を取っていく。今日も今日とて大盛。

 夕張先生の取っていたご飯の量には勝てる気がしないけど、それでもかなり多い方だと思う。

 重たいお盆を持って、食堂の一番端っこへ。テーブルにお盆を置いてから椅子に座り、手を合わせてから食べ始めた。今日はハンバーグにじゃがいも、コーンポタージュ等の洋食だ。

 口に次々とご飯を詰め込みながら、俺はこれからの事を考えていた。

 予定なんて殆ど無い。宿題も今日は出なかったし、早速朝ルテミスに言われた訓練室に行ってみるのも良いだろう。

 ゆで卵に塩をかけるために手を伸ばし、テーブルの上に置いてある調味料入れに手を伸ばす。

 そして塩を取った所で、テーブルを挟んで向かい側にお盆が置かれた。涼花かな、と思ったが確実に違う。そのお盆の上には、俺と同じくらいのご飯が乗っていたのだ。涼花は小食だし、こんなに食べない。じゃあ誰だ、また夕張先生かと思って顔を上げると。

「……塩、次貸してくれ」

 そこには、隼人が居た。

 鷹野を炎の翼で下し、涼花を助けた男子。茶髪をオールバックに纏め、180はあるだろう身長を猫背に丸め不機嫌そうな三白眼を俺に向けている。

 俺は焦って塩をどばっとゆで卵に振りかけ、一瞬しまった! と思ってから隼人に塩を渡す。

 隼人も塩を振って、手首のスナップが強すぎて塩がばさあっと大量に出てしまい、厳しい表情のまま無言で塩の瓶の蓋を閉めた。

 何とも言えない沈黙が流れる。数秒後、隼人がやっと食べ始めたから俺もご飯に再び手を付けた。

「……なあ、転入生」

「ん?」

 ご飯を食べていると、突然隼人が話しかけて来る。返事をすると、淡々と彼は言った。

「この後、訓練室で一回戦え」

「……え?」

「俺と戦えって言ってんだ。鷹野郎との模擬戦、俺と同時に一人を攻撃した時の反応速度に興味がわいた」

 隼人は、鷹野の他にも二人と模擬戦をした。そしてその上で、炎の片翼しか使わずに全員を倒したのだ。そんな強い人間からのお誘い。

 速く強くなりたい俺は、直ぐに頷く。

「うん! 俺でいいならやろう」

「……じゃあ、八時ごろ訓練室な」

「わかった!

 そこで会話は終わり、お互いに無言で食事を続ける。『精霊』と契約して、その上で俺は強くなりたい。ポゼッション・リンクも習得して、もしもまた人狼みたいな奴らが襲ってきたらしっかりと対応できるように成りたい。

 意気揚々とご飯を食べる俺の前で、ほぼ同じ速度で食べ進めていた隼人と同時に食べ終わる。

 時間は七時四十分。俺は一度部屋へと戻り、制服から二着あるジャージの綺麗な方を着た。隼人は自分よりも全然強い。その事を胸に刻みつつ部屋を出て女子寮へ。

 一階の奥、今朝ルテミスに教えてもらった通りに進むと一つの部屋の上に「訓練室」と書かれた看板があった。恐る恐る入ってみると、中には沢山の『精霊』と契約している人間が訓練していて、その一角に隼人が立っている。

 駆け寄ると、隼人は無言で歩き始めた。付いていくと、辿り着いたのは観客席の様な物。

 眼下のフィールドでは『精霊』の力を使い、二人が戦っている。

「……訓練室の一部、模擬戦用の部屋だ。予約制で戦えて、悪いけど8時50分から俺たちの番になっている。ここが閉じるのは9時だから、最後の模擬戦だな。時間を取る、すまん」

 戦っている二人をじいっと見つめながら、隼人はそう告げた。

 隣に座っている俺も小さく頷き、戦いを目で追う。刀を持っているだけの男が弓矢の女子と戦っていて、目まぐるしく攻防が入れ替わっている。『精霊』の力を使いつつ、最後には矢ではなく蹴りを叩き込んで女子が勝利した。

 豪快な勝ち方だな……と眺めている内に、次の一組が入る。それを繰り返す。

 やがて、俺たちの番が来た。隼人に続いて訓練室の観客席から下へと降りて、15mくらいの間を開けて向き合う。足元の青いラインに沿って立った俺たちは、同時に大きく声を上げた。

「ステイ・リンク!」

「ポゼッション・リンク」

 青白い光が、俺を包み込む。

 向き合う強敵。息を短く、鋭く吸い込んで俺は右拳を固く握りしめた。

 

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