無限の精霊契約者   作:ラギアz

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第四十三話「雲泥」

 青年は軽く笑みを浮かべ、にこやかに言葉を発する。その奥には、強い狂気が見えた。

「僕はライター。[アマテラス]と契約してる、人間でも最上位に君臨する存在だよ」

 目の前の青年は、[アマテラス]の契約者。つまりは、俺の敵だ。

 余裕の笑みを浮かべつつ、ライターは後ろの光る箱を顎で示して呟く。

「君は、[ツクヨミ]の仲間かな? 残念だね、[ツクヨミ]はもう倒したよ。凄く弱かった」

 何て事の無いように、精霊実技では一回も負けていない涼花を傷一つ負わずに下したことを彼は告げる。俺の驚いた表情を笑い、ライターは声を大きくした。

「この白い箱は、光の結晶体! [アマテラス]と[ツクヨミ]はお互いに強く干渉しあい、お互いの力はお互いに必殺の威力を持つ―――――」

 つまり、とライターは繋げる。

「[アマテラス]を倒せるのは[ツクヨミ]だけであり、闇の集合体である[ツクヨミ]は今光の箱へと閉じ込められている。……意味が分かるかい? 簡単だ、もう僕を止められる人間と『精霊』は居ない」

 あっさりと言い切ったライター。右手で片目を覆い、碧眼で俺を睨み付ける。そこに宿る今にもあふれ出しそうな殺意と狂気を感じ、俺はルテミスに教わった戦闘の基本姿勢を取った。

 涼花の勝てなかった相手に、相性が良い訳でも無い俺が勝つ。

 ……無理だ。無理すぎる。涼花と俺の時点でも力の差は雲泥の差。[アマテラス]と、まともに戦えるかどうかも分からない。

「……うんまあ、その姿勢を見るに君も[ツクヨミ]の仲間かな? ねえ、どうしてステイ・リンクなんだい? 本気出せよ、ポゼッション・リンクで戦いなよ」

 さもないと。

「死ぬよ?」

 ライターは淡々と言い切った。次の瞬間に、俺の体は天井へと叩きつけられていた。

「ぐああっっ!!」

『速い……!!』

 口から酸素と血が一気に吐き出される。天井に叩き付けられたという事に気づいた一拍後に襲い掛かる衝撃は背中を駆け抜け指先まで痺れさせる。隼人との戦いのダメージが未だに残っている中で、それも相まり意識に霞がかかった。

 だが、状況がそれを許さない。天井から力なく落ちてきた俺は、地面に両膝と右腕を叩き付ける様にして着地する。

 左腕は使えない。顔面が地面すれすれの所でやっと止まり、俺はよろよろと起き上がった。

「おお、大丈夫? ちょっと限りなく光速に近い速度で殴っただけなんだけど」

 光速に近い速度。

 つまりは、人間の到達できる限界を遥かに超越した速度で自身が動いたという事をライターは言っている。当たり前の様に。にこやかに、笑みを浮かべながら。

「うんまあ[ツクヨミ]も喰らってたしねえ。誰も避けれないのかな? 分からないや。僕、そんなに戦った事無いしなあ」

 ライターがそう話している中で、俺は右拳を握りしめた。血まみれのそこに、フィニティの力を溜める。

 俺の十八番、[インフィニティ・バースト]の構え。青白い光を湛える拳を構え、俺はライターをじっと見据えて構える。光速で動ける相手に、攻撃は当たらないだろう。やるならば、カウンター狙い。

 刺し違えてでも、攻撃を与えなければ[アマテラス]を倒すことは出来ない。

 せめて隼人の紅蓮の片翼の様に、気づかれない距離からの遠距離攻撃があればあいつを狙えただろう。しかし今、俺の手元には何も無い。

「……おお、凄い光ってる。綺麗だなあ……」

 呑気に俺の拳を眺めるライターは足元へと鋭く右足を振り下ろし、突き刺す。瓦礫が幾つも飛び散って、その内の一つへと右掌を押し付けてライターは告げた。

「[アマテラス]、[砲撃]だ」

 ボウ、と瓦礫が純白の光に包み込まれた。そして、太陽の様に赤く赤く燃え上がった。

 一瞬吹いた熱風が俺の肌を撫でる。それだけでぶわあっっと汗が全身に浮かび、口の中が干上がった。

 圧倒的な熱量。光。『精霊』の力はここまで強いのかと、強くなれるのかと戦慄する。

 見せつけられた、力の差。雲泥の差なんて生ぬるいものじゃない。人間の物差しじゃ計りきれない。

 どごん、と瓦礫、いや業火の砲弾は俺へと一直線に飛来する。身を焦がす熱風が吹き荒れる。

 あれに[インフィニティ・バースト]は使えない。あんな物に拳を押し付ければ、その瞬間に拳が溶けて消えるだろう。

『右ッ!!』

 この場において、考える時間は死に直結する。フィニティの鋭い指示に従い、俺は右方向へと転がるようにして飛び込んだ。

 ごろごろと転がり、直後に俺の居た場所を貫いて赤熱している瓦礫は壁も鉄筋も溶かして突き進む。やがて、どこかで大きな音がした。瓦礫の通り抜けた所は、あまりの熱量に溶けて跡が付いている。抉れたそこは赤く、赤く成っていた。

 勝てるビジョンが思い浮かばない。今の一撃が、直撃はせずとも俺の決意とやる気を根こそぎ潰し、無に帰していた。

「……逃げてばっかりだなあ、つまんない……」

 ライターは表情を曇らせて、右手を下した。そのまま足で地面を叩き、じっと考え込む。数分後、彼は突然顔を上げて表情を輝かせた。

「じゃあ、ゲームしよう! それなら君も逃げないしさ!」

 ライターは俺の了承も得ずに進める。光の箱を指さして、彼は喜々として語り始めた。

「この箱の中には、[ツクヨミ]が居る。勿論、君の仲間の女の子もね。この箱は結構頑丈で、万全の状態の[ツクヨミ]でも壊せるか分からない」

 彼は、その”ゲーム”とやらの内容を満面の笑みで語る。

 

「その箱を、君が壊す事が出来たら君の勝ち! 僕は死ぬよ!」

 

 あっさりと。

 怖いくらいにあっさりと、ライターは自分の死を天秤に乗せた。微塵の恐怖も無く、寧ろ嬉しそうにライターは笑っている。

 ぞっと、背筋が粟立った。今までとはベクトルの違う恐怖。

 単眼の巨人など、比べ物にならない。闇の深い、そこの見えない恐ろしさが青年の中に眠っていた。

「……壊せなかったら?」

 俺の問いに、ライターは簡潔に答える。

「中の女の子を殺す」

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