この素晴らしい世界に「私のタルシスを!」 作:Romanov
EPISODE.01/SUBTITLE “異世界の手引き” ーLet’s fight for Meー
地球
豊富な恵みを受けた土地と資源、そしてそれらを取り囲む新鮮で莫大な量の水と空気を持つ我々人類の発祥の地。
その水と空気が無理やり光を屈折させ、あの星を青く輝かせるのだろう。
アセイラム姫も、あの日同じ事を考えておられたのだろうか。
「許せスレイン…よくぞここまで忠義を尽くした。この者を手厚く介抱せよ!」
アセイラム姫、古代技術アルドノアの起動因子を持つ皇帝陛下の血を引く御方。
我らヴァースの民を憂い、いがみ合いを続けてきた地球に和平を求め降り立ち、そして地球人に殺された。
私は、いや、誰もがそう思っていた。
しかし姫は生きておられた。
姫に弓を引いたのは地球人ではなくヴァースの手の者だった。
あれだけ罵り、叩きのめした地球人が己の命を懸けて姫への忠義を示し、姫の生存を知らせたのだ。
私も姫に忠義を誓った者。姫に手を掛けた反逆者は許しておかぬ…!
「我ら軌道騎士を愚弄した者を必ずや突き止め、成敗してくれる!」
そう意気込んでいる所に奴は飛んできた。
…ドォォォン………。
突如接近してきた物体が城に大穴を穿った。
ガラガラと壁が崩れ、髪や服が雨に濡れる。
「ぐぅっ……何がぁ起こった!?」
ボロボロになった壁に手をつき目の前を見ると見慣れた物体があった。
紫の光を纏い黒を基調として赤の挿し色が施された鎧が、金の角が生えた武者の様な兜が。
「あれは、ディオスクリアっ…ザーツバルム卿か!」
親友として長年連れ添ってきた男がその愛馬と呼ぶべき機体に搭乗し、五本の爪で私の城を切り崩していく。
なっ、あっ、と碌に声も出せないまま私の部下達が崩落する瓦礫に巻き込まれ次々と埋まる。
「そうか、そういう事か…!」
この十余年、繰り返し不服に感じてきた事がある。
何故あの青き輝きを我らヴァースの民ではなく地球の劣等民族共めが独占しているのか。
もちろん富は欲しい。だがその欲求は忠義に劣る。
故に王族を餌に富を得よう等、言語道断。
ヴァース軌道騎士37家門の全てが志し同じくしていると、そう信じていた。
「姫の暗殺を企てたのは!」
裏切り者が私の前に現れるまでは。
「私のタルシスを!!」
その猛々しい宣戦布告を言うが速いか、赤き双眸は私を見下ろしたまま蒼き光剣を振り下ろした。
蒼白い光が瞬時に体を分解して行き、空白の中で澄んだ女の声が聞こえた。
『あ、このポテチもう空ね』
それが私の人生を締めくくる最後の言葉となった。
ー
ーーー!
ーーーーー!!
「ねえ!早く起きてってば!!!後がつかえてるんですけど!」
(何やら騒々しい。此処は、何処だ? 私は、確か)
「そうだ!ザーツバっっっ!!??」
「あいたぁぁぁーーー!!??」
かなりいい音のヘッドバッドが何かにクリーンヒットした。
これはクリティカルポイントも付けて100点満点といってもよいのではないだろうか。
高級そうな赤い服を纏った恰幅のいい男の人が、うなりながら痛みを直向きに隠していた。
あの柔らかそうな金髪を見る限り外国の人だろうな。
貴族という言葉がしっくりくるぐらい上品な姿だ。
一方で青い髪の美少女は、何というか、、木から落っこちた芋虫の様に、土から掘り起こされたミミズの様に体をうねらせながら喚き散らしていた。
「ちょっとー!あんたいきなり何すんのよー!!」
「貴様にその様な事を言う資格はない。貴様…地球人だな?現状を説明せよ」
「あんた何様よっ!私は地球人じゃなくて女神よ、め・が・み!ものすっごく偉いの! 控えなさい! 」
どうしよう。この人達、頭がイタイ人達だ。
赤い服の人は相手のこと地球人とか呼んでるし、青い髪の人なんて自分のこと女神って言っちゃってるよ。
あ、でも此処が何処なのかは俺も知りたいかな。
「戯言に付き合っている暇はない。アセイラム姫が生きておられる。私は急遽アセイラム姫を救出し、反逆者を捉えねばならない」
「それは無理よ。だってあなたもう死んでるもの」
「馬鹿を言うな!こうして体もあるではないか!」
…おそらくこれは事実なんだろうな。現に俺も女子高生を突き飛ばしてトラックに轢かれた後の記憶がない。
なるほど、女の子の方が女神というのも何となく納得できる。
なら此処は差し詰め天国なのだろう。
「いい?思い出して。あなたはビームサーベルで跡形も残らず分解されたのよ」
「……私は、本当に死んだのか?反逆者に誅を下せず、アセイラム姫の救出さえも、、、忠義を尽くすことなく死んだのか!?」
顔を険しく歪め肩を震わす姿を見ていると何だかこっちまで胸が熱くなってくるな。
そんな事を思ってると女神が急にテンションを上げながら話し始めた。
「あなたには選択肢があるわ!それは、もう一回赤ん坊として生まれるか。天国的な所でお爺ちゃんみたいな暮らしをするか。どっちがいいかしら?」
「アセイラム姫殿下…どうか、ご無事で……。」
「あのー、もしもーし、話進まないんですけどー。あ、天国ってのはね。あなたが想像している様な素敵な所ではないの。死んだんだからもう何かを食べる必要ないし、何も産まれないわ。何か作ろうにも材料がないし。天国にはね、何にもないのよ。ネットもなければテレビも漫画もゲームもない。そこに居るのは、すでに死んだ先人達のみなの。もちろん死んだんだから、えっちい事だってできないし、そもそも体がないんだからできないわね。彼らと永遠に意味もなく、ひなたぼっこでもしながら世間話するぐらいしかやる事がないわ」
何だそりゃ、ネットも娯楽も何にもないとか、俺にとっては地獄じゃねーか。
だけど、赤ちゃんになってもう一度人生やり直すのも何だかなぁ。
「亡くなられた父上や、先代の軌道騎士の方々と話をするのも」
「ちょーーっと待った!まだ話は終わってないわ!うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないわよね? かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われてもね〜」
この女神、あからさまに何か企んでやがるな。胡散臭い感じがプンプンするぞ。
「…つまり私に何をしろと」
「ふふん、話が早くて助かるわ。ある世界で長く続いた平和が魔王の軍勢によって脅かされていた!人々が築き上げてきた生活は魔物に蹂躙され、魔王軍の無慈悲な略奪に怯えて暮らしていた!いたぁっ!」
「待て。その魔王というのが統率者の名称というのは分かるが、魔物とは何だ。」
「そっか、あなたの国にはゲームも漫画も無いのよね。まぁ細かい事は気にしない!気にしない!要するにその魔王って奴をサクッと退治してくれればいいのよ!」
なんっつーいい加減な説明だ!俺でももっと真面な説明ができるわっ!
「………加えて、軍と言うのならば結構な人数なのだろう?ならば私一人が立ち向かったところで戦果は知れている。」
「だから大サービス!何か一つだけ、向こうの世界に好きな物を持っていける権利をあげているの。それは、強力な固有スキルだったり。とんでもない才能だったり。常識を超える装備を希望した人もいたわね。どう? これなら可能性のある話でしょ? あなたは異世界とはいえ記憶と肉体を保持して人生をやり直せる。異世界の人達は即戦力になる人がやってくる。悪くないでしょ?」
「一つだけ、と言ったな。ならば私のタルシスを」
「わかったわ。じゃ、この魔方陣の中央から出ない様にしてね」
そう女神が言い終えると赤い服の人の足元に、青く光る魔方陣が現れた。
おおっ、何かファンタジーっぽいな!
「無事魔王を倒した暁には送りの者を送るわ。さあ、勇者クルーテオよ!願わくば数多の勇者候補の中からあなたが魔王を打ち倒す事を祈っています!さすれば神々からの贈り物としてどんな願いでも叶えて差し上げましょう!」
「どんな願いでもだと!?貴様、女神と言ったな。その言葉に嘘偽りがないのであれば必ずや私が魔王を討ち取ってみせよう。ゆめ、忘れるでないぞ!」
「さあ、旅立ちなさい!」
そう言うと赤い服の人は白い光に包まれて消えていった。
何か凄いことになったな。魔王退治ってRPGみたいで面白そうだな!俺もきっとその為に呼ばれたんだろ?そうと決まればっ
「ふぅー、なーんか疲れちゃったなー。次の人は…サトウカズマ、ただのクソニートね。話すと大変そうだし一休みして休もーっと」
そして女神は姿を消した。
…ちょっと待て。此処にいるんですけど!無視しないでもらえます!?それに俺まだ一言も喋ってないんですけど!!っていうか俺ニートじゃねーーーし!!!
じゃねーーし…!!
じゃねーし…!
じゃねーし…