この素晴らしい世界に「私のタルシスを!」   作:Romanov

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EPISODE.03/SUBTITLE “馬小屋の出会い” ーThe prides are Brokenー

「ブラド…なのか?」

 

あの男は地球のカタフラクトと戦い、そして殺されたはずでは。

 

「はっ!軌道騎士ブラド、馳せ参じて御座います」

 

この風格、私の部下であったブラドに間違いあるまい。どうやら魔王討伐にと生き返ったのは私だけではないようだ。

蛙を切った武装は青白い光を放っていたが、やがて小さくなり粒子となって消えた。

ブラド専用の機体アルギュレの武装に酷似していたが、自身の末路を思い出すとどうにも忌々しく思ってしまう。

 

「うむ。貴公もまたこの世界に舞い降りていたか。貴公が居なければ志半ばで倒れるところであった。助太刀感謝する。感謝する…が、その格好は何だ…。軌道騎士の正装はどうした?」

 

本来のブラドであればチャコールグレーに赤の差し色が特徴的な、軌道騎士にのみ許された服装をしている。

しかしどういうことか、今のブラドの服装は額に白いハチマキ、袖を肩までめくり上げた白いシャツ、太ももがダボダボのカーキ色をしたパンツを履いていた。

 

「むぐっ!これは見苦しい姿をお見せしました…。現在はこの世界に溶け込み情報を集めています。この姿はその一貫という訳なのです」

 

「解せんな。如何なる事情があるとはいえ貴公は軌道騎士の一人だ!そして正装はその誇り!貴公の思惑がどのようなものであろうと軌道騎士の顔に泥を塗るような真似は…!真似は……」

 

ふと私を殺したザーツバルム卿の顔が浮かんだ。

共にヴァースの未来を語り合った旧友。民により良き未来をと笑っていた奴は反旗を翻した。

伯爵の位でありながら王族に牙を向けた軌道騎士がいるのだ。軌道騎士の誇りなど到に地に落ちている。

顔に泥を塗るなど何を今更。

 

「申し訳ありません、クルーテオ伯爵。直ちに服装を変えて参ります。浅慮なこの身をどうかお許し下さい」

 

黙り込んだ私が相当に憤慨していると思ったのだろう。ブラドがワタワタとした表情を落ち着かせて頭を下げてくる。

 

「…。ブラドよ、この世界の情報について聞きたい。何処か落ち着いて話せる場所はないか。人の身以上の蛙が蔓延っている(はびこっている)所では命がいくつあっても足りん」

 

「かしこまりました。では私が寝泊りをしている場所までお連れ致します。どうぞこちらへ」

 

ブラドの案内に導かれて私は街まで戻った。

蛙の体液が服の端々についているせいか、住民がヒソヒソと何か話していたが気に掛けている余裕はこの時なかった。

 

(キャー!あの二人ベチョベチョよ!一体どんなプレイをしたらあんな格好になるというの!)

 

(きっとクエストの最中に我慢しきれなくてグッチョングッチョンやったに違いないわ!)

 

(夜更けに恥じらいの顔で歩く二人の男…。これは売れる!!!)

 

気に掛けている余裕はこの時なかった。

 

/

(3時間ほど前)

 

「…おいアクアー。クエストの受注にも金が掛かるなんて聞いてないぞ。ここから俺たちの冒険が始まるんだ!とか思ってたのがバカみたいじゃないか」

 

冒険者生活が始まるとウキウキしていたはずの俺は登録料をどう工面するかで困っていたテーブルの席に戻って来ていた。

 

「知らないわよヒキニート!また借りて来てよほら早く!」

 

「できるか!さっきの2千エリスだって10日10割で借りて来たんだぞ。 これ以上借金増やせるか!」

 

ギルドの皆んなに囃し立てられた(はやしたてられた)アクアがドヤ顔でクエストの張り紙を受付に持っていったところ、

「ええと、クエストを受注する際にはその責任上、一時的に受注料をお預かりするんですが…お金はありますか?」

と聞かれ、俺たちは思わず首を後ろに捻ってしまった。

そこから冒険者アクアを祝うムードは徐々に冷めていき今に至る。

 

「どうにかして受注料稼ぐしかないよな。なぁアクア、その体使っ」

 

「いっっっやよ!!このエロニート!!!!何考えてんの!?私女神なのよ!?純粋にして清廉なる水の女神なのよ!!そんなことできるわけないでしょ!!ねえバカなの?バカなの??」

 

こいつ使えねえと思いながら目を細めて頬杖をつく。

どっかにお金落ちてないかなーと思いながら手足をワシャワシャと動かしツバを飛ばすアクアを見つめていたところ、声を掛けられた。

 

「あのー、何も注文しないならどいてもらえますか?流石にいつまでも居座られると迷惑なので」

 

ウェイトレスのお姉さんにジト目で見られ耐えきれず俯く。

 

「「ハイ、ゴメンナサイ…」」

 

アクアのハイテンションも鎮火されて俺たちはトボトボと重たい足を引きずって出入り口に向かう。

と、その時足をひっかけられた。

イラついた顔で振り向くとモヒカン頭をした厳つい男が微笑を浮かべていた。

 

「待ちな新入り。どうやら最初の壁にぶち当たったようだな。あれを見てみろ」

 

モヒカンがクイっと親指を指した先はギルドの隅っこ。

そこにはクエストの掲示板と比べるとやや小さめの掲示板がある。

 

「あれは?」

 

「『ハローワーク』、そう呼ばれている。誰がそう呼び始めたかは知らねえが、兎に角あそこには冒険者の仕事とは関係ない日雇いの求人が貼られてる。もしかしたらその仕事が光への道を切り開く第一歩になるのかもしれんな」

 

モヒカンは言い終えるとグッと親指を立ててサムズアップした。

か、かっけええ〜〜!!こいつ実はいい奴なのか!?

ただそのハローワークって絶対日本の転生者が呼び始めただろ。

異世界まで来てアルバイトか…。

いやいや!受注料稼ぐだけだし?まだチュートリアルみたいなもんだし?これは一先ずやるしかない!

 

「よしアクア、ハロワ行くぞ!クエストをこなすには武器も必要だし、ここで金を稼いでおけばモンスター退治も楽にこなせるはずだ!」

 

「そうね!カズマがハロワ行くのはちょっと心配だけど私がいれば問題ないわ!大船どころかノアの箱船に乗ったつもりでいなさい!」

 

「おっさん!ありがとな!」

 

モヒカンのおっさんに頭を下げると、勢いを取り戻した俺たちはハロワに向かった。

あのサムズアップかっこ良かったな〜。今度やろう。

 

……

…

 

「カズマー、これは?」

 

「なになに?200個の鶏の卵から雄だけを選別して下さい、1000エリス。いや俺にそんな特技ないぞ」

 

「じゃあこれは?」

 

「宅配便か。いやこれ住所が書かれてない物をどうやって運べばいいんだよ。この世界に来たばかりの俺たちには荷が重すぎる。この世界のハロワ、ハードル高すぎないか?」

 

「そう言って日本でも引きこもってたのね。まぁ、カズマにはどの仕事も難しいわよね」

 

「いや引きこもってたのとは関係ねーし!まともそうな仕事が全部朝7時からなんだよ!適当に1つ選んで明日働くぞ。今日はどうにかして寝泊まりできる場所を探そう」

 

「わかったわ!」

 

俺はこの時アクアが選んだ仕事に目を通しておくべきだったんだ。アクアが選んだ張り紙にはこう書いてあった。

『アットホームで和気藹々(わきあいあい)とした職場です!初めての人でも大丈夫!誰でもできる簡単なお仕事です!優しい仲間達と一緒にゆっくり覚えていきましょう!1日5000エリス』

 

/

 

「……ブラド、此処(ここ)は?」

 

「はっ、馬小屋でございます」

 

「貴公は私に言ったな。寝泊まりをしている場所へ連れて行くと。よもや此処が宿舎だとは言うまいな」

 

「その通りです。私も昨日この世界に来たものでして宿に泊まるほどの金銭はありません。どうか御容赦を」

 

予想はしていたが、やはり馬小屋か…。この世界に持ち込む物は我が揚陸城(ようりくじょう)にするべきだったかもしれんな。

 

「…我々の権威も地に墜ちたものだな。嘆かわしい」

 

一先ず柵に腰掛けることにした。少し古いようで皮がぽろぽろと落ちて軋む音がする。

 

「では集めた情報について教えてくれ」

 

「はっ。まずこの世界の人類は我々ヴァースや地球の人類とは大きく異なる発達を遂げています」

 

「というと?私が見た限りでは刀剣といい、道の整備といい、何世代も前の地球のようであったが」

 

「はい、確かに文化という面ではかなり遅れています。ですがこの世界の人類はその身に魔力を宿しているのです。この力を転換して人体から水の槍や風の刃、さらには隕石爆撃に匹敵する爆撃といった魔法を放つことが可能です」

 

「なんと…!!では彼ら1人1人がアルドノア・ドライブを搭載したカタフラクトに匹敵する力を秘めているのか。そのような力を持ってなお敵わぬ魔王とは何者だ」

 

「いえ、魔力には個人差があります。人によってはコップ一杯を満たす程度の水を出すのが精々という者も。魔王についての情報はまだ何も掴めておりませぬ」

 

なるほど。要は身体機能の延長線という訳か。

しかしコップ一杯の水を出せるだけでも我々と彼らとでは大きな差がある。

そのような力が1人1人に備わっていれば我らヴァース帝国は大きく発展し、民達は困窮せずに済んだだろうに。

眉間の皺が徐々に深くなっていく。

 

「我々にも魔力があれば歴史は大きく変わったのであろうな。まぁよい。我々に魔力がない以上、別の方法で戦っていくしかなかろう」

 

「ああいえ、我々にも魔力が通っており魔法の行使は可能です」

 

「っ!!何!?それは真か!」

 

「はい。ギルドでカードを発行すればクルーテオ伯爵も彼らと同じように魔法を使えます」

 

「そ、そうか。では明日はカード発行までの案内を頼む。今日はどうにも疲れが溜まっているようだ。少し早いが私は眠るとしよう」

 

「かしこまりました。ここは家畜の糞の匂いがどうにも強烈ですので何か気の休まる物を探して参ります」

 

「うむ。よろしく頼む」

 

/

 

俺はクルーテオ伯爵を馬小屋に置いて外に出た。

気の休まる物を探すなどとは言ったが、実のところクルーテオ伯爵と共に居たくなかっただけだ。

どうにもあの方と共に居ると俺の気が休まらない。

 

「やはりこの世界の空気はうまいな。ヴァースの荒んだ砂混じりの空気とは大違いだ」

 

馬小屋から離れた草原で寝転がる。

雑草がチクチクと手足に刺さるがそれもまた新鮮。

地球に降下した時はアルギュレから下りて寝転がるなどという真似は出来なかったからな。

あの星も、同じように自然に囲まれていたのだろうか。

 

空を見上げると幾万もの星々が群青の空に輝いていた。

この景色を眺めているだけで俺が生きていた時代が馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 

「フッ…。全く素晴らしい世界だ」

 

俺は顔に笑みを浮かべてしばらく空を眺めていた。

 

………

……

…

 

しばらくすると少女が泣きじゃくる声が聞こえて来たので空から目を逸らした。

 

「うぇえええん!ガズマ゛ァァァ!私たちこのままじゃ野宿だよ゛お゛お゛お゛。寒いよおおお!眠いよおおお!」

 

「仕方ねえだろ。俺たち一文無しなんだから。宿なんか期待しちゃいなかったけど異世界は民泊なんかさせちゃくれないよなぁ」

 

少年の方を見ると涙目をしているように見えなくもない。

 

…気まぐれだったのだろう。

俺は腰を上げて子どもたちに声を掛けた。

 

「お前達、寝床を探しているのか?」

 

子どもたちは一瞬背中を波立たせて怯えるように俺を見上げた。

 

(かっ、カズマ!これはチャンスかもしれないわ。どうにかして話を繋いで)

 

「ああああ、あのっ!!何か教えて…もらえ、たり…?」

 

少女が少年の背中にありとあらゆる体液を擦り付けながら俺を覗き見、少年が挙動不審な目で俺に話しかける。

 

怖がらせてしまったかと思い、今度は顔に笑みを浮かべゆっくりと話しかけた。

 

「ああ。雨風を凌げる程度の最低限度であれば知っているぞ。君たちの分であればどうにか確保できるだろう」

 

「「是非っ!是非お願いします!」」

 

「うん、いいだろう。しかし、俺も少し困ったことがあってね。何か良い匂いがする物か匂いを消せる物を持っていたりしないかい」

 

そう言うと少女が服の中をごそごそと探し回り、白く四角い物を差し出してきた。

 

「これじゃダメですかね…?」

 

「これは、石鹸か。いいよ、取引成立だ。君たちを馬小屋の主人に寝泊まりできるよう頼んでみよう」

 

「「ありがとうございます!!」」

 

子どもたちがホッとした表情を浮かべるのを確かめると馬小屋に向かって歩き始めた。

子どもたちが付いてきているか時々後ろを見て確認する。

 

……

…

 

馬小屋に着くと主人は眠る直前だったらしい。

厳しい顔で喚き散らしてきたが、幾ばくかの金を握らせると直ぐに静かになった。

 

「本当にありがとうございました…!」」

 

「わかったからもう泣き止め。君も男だろう」

 

馬小屋に着くと少年も顔を体液でぐしょぐしょにしていた。

 

「あの、名前を聞いてもいいですか?」

 

「ブラドだ。君は?」

 

「俺はカズマって言います。サトウカズマ」

 

「ではカズマ君、また明日」

 

俺がクルーテオ伯爵の元に戻ろうと背を向けるとカズマが少女に話しているのが聞こえた。

「ああいう人が勇者になって魔王を倒すんだろうなぁ」と。

 

その直ぐに

「さっさと寝ろ!!!しばかれてえのか!!!」と馬小屋の主人が怒鳴ってくる。

 

クルーテオ伯爵の元に戻ると怒鳴り声のせいか、はたまた匂いのせいか陰鬱な表情で目を細めていた。

少しだけ眠っていたらしい。

 

「騒がしいな…。何事だ」

 

「特に問題はありません。クルーテオ伯爵、石鹸を持って参りました。これで少し気が楽になるかと」

 

「感謝する。これでようやく眠ることが出来そうだ。明日からもよろしく頼むぞブラド」

 

「はっ」

 

…

 

俺は布を敷いた藁の上で横になったがどうにも眠れなかった。

クルーテオ伯爵が居ることで緊張しているのだろうか。

目を閉じたまま今日の出来事を回想していく。

 

(ああいう人が勇者になって魔王を倒す、か。俺には全く似合わんな)

 

思い出して鼻で笑った。俺は勇者などという柄ではない。

忠誠、正義、くだらぬ。そんなもの到の昔に捨ててきた。

生前自分がしたことを顧みれば尚のこと。

 

(なぜなら俺はヴァース帝国に反旗を翻した軌道騎士の一人なのだから)

 




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