終章クリア後、きっとぐだもトラウマ負ったよなぁと思って電波と衝動の思うがままに書いてみました
終章ネタバレ一応注意です

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ぐだ子とマシュ

何度も何度も夢を見る。

絶対に忘れる事は無い、忘れる事のできない悪夢のような光景。

人類の歴史3000年分の熱量を持った絶対的な滅びの熱量。それを防いで見せた彼女の最後の姿。

ゆっくりとこちらに振り向いて、これから迫る逃れえぬ死と言う運命を前にしても恐怖の色なんて欠片も見せない笑顔で。

 

――最後ぐらい、先輩の役に立ちたかった――

 

そんな事は無い。貴女が、マシュがいなければ私はここまで来れなかった。十分すぎる程に役に立ってくれていたんだから、そんな事しなくていい。

悲鳴のような叫びは声にならず、視界が真っ白な光に包まれた直後に、マシュの肉体は細胞一つ残さずこの世界から消滅した。

 

「―――ぁ」

 

その光景が何度も何度も、何度も何度も繰り返される。

魔神王との決戦の場以外でも、今まで旅をしてきた特異点、様々な時代と場所でマシュは私を守って死んでいく。

 

 

 

ある時は邪竜に食い殺され。

 

 

ある時は数万を超えるローマ兵に蹂躙され。

 

 

ある時は海賊に弄ばれたあげくに嬲り殺しにされ。

 

 

ある時は霧の中で無残に解体され。

 

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

無限に繰り返して、同じように自分の為に。

 

 

マシュは私を庇って――その度に笑顔で――死んでいく。

 

 

「ぁ……ぁぁ……っ!?」

 

 

マシュの体が私の腕の中に崩れ落ちる。

華奢な体を引き裂かれ、この世の物と思えぬほどの苦痛を味わっている筈なのに、マシュの笑顔は変わらない。

普段自分に見せる屈託のない純粋な笑みのまま。

 

 

「先輩……私、お役に……立てました……か……?」

 

 

もう私の顔なんて見えないだろう、光の消えた瞳で、迷いのない言葉で。

 

 

「先輩の未来……守れて……よ、か……った……」

 

 

そう言い残して、死んでいく。

 

 

「ぁ……ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

ベットから転げ落ちるように飛び起きて、私はようやく悪夢から解放される。

魔神王を倒し、未来を取り戻してから数日が過ぎた。魔術協会からの査察団は色々な都合で到着まで暫くかかるとかで、カルデアは特に変わらず平穏なままだ。

強いて言えば一部のサーヴァント達が座に帰るからと、盛大にお別れ会やったぐらいで後は静かな、特に何か事件が起きるわけでもない平和を満喫中。

私一人を除いて、だけれども。

 

「……まだ2時か」

 

ベットに潜ったのが午後11時で、今が午前2時。寝直そうにも、あの悪夢のせいでそんな気にはなれない。寝汗で濡れたシャツを脱ぎ捨て、ハンガーに掛けっぱなしだった別のシャツ着替えて部屋の外に出る。

廊下は薄暗く、私の足音が無駄に響き渡って、そんなに大きな音でも無いのに無駄にうるさく聞こえて仕方がない。

自分の足音に若干苛々しながらも、足早に向かうのはマシュの部屋。ノックもせず静かにドアを開けて、ベットの上で静かに寝息を立てている彼女の姿を見てほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「……良かったぁ」

 

悪夢を見る度に何度も何度も、彼女の部屋を覗きこんで確認してしまう。

ちゃんとそこにいてくれるのか、明日も私と一緒にいてくれるのか、ちゃんと生きているのかと。

本音を言えば部屋の中に飛び込んで彼女を抱きしめたいのだが、それをぐっと堪えてマシュの部屋を後にする。

 

「……何やってんのかな、私」

 

今日で何度目なのか、不安に駆られて繰り返すこの行動に我ながら呆れつつも、自分の中に沸きあがる不安と安堵には逆らえない。

酷い時には一晩に十回以上はやっている。マシュはちゃんと生きている――理屈は解らないけど、本人曰く生き返ったらしい――という事実に変わりはないというのに、どうしてもやってしまう。

酷い例えだが、薬とかやっちゃってる人はこんな気持ちなのかなとか思ってしまう程に、あの悪夢とこの行為から抜けられないのだ。

 

「ホント、何やってるのかな? マスター」

「ふえっ!?」

 

背後から掛けられた声に驚き、飛び退くように振り向くと……呆れたような困ったような、それでいて私を心配してくれている表情を浮かべた女性が立っていた、

紅い髪に豊満にも程がある胸が嫌でも目を引く、母性溢れるライダーのクラスで現界したサーヴァント。

 

「あ……ブーティカ」

「あ……じゃないよ。ここ最近、夜中に歩き回ってる事が多いと思ったら……全く、こういう事か」

 

だいたいの事情を察したのか、ふぅとため息をついてブーティカは小さく笑みを浮かべる。

 

「食堂行こうか? なんか作ってあげる」

 

その笑顔の裏に、断ったら後が怖いよという脅しを垣間見たのは、きっと気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

 

「お? やっぱ来たか」

 

食堂には先客がいた。華奢な体に殆ど下着同然じゃないかと思える紅い布を身に付けた金髪の少女だ。

一瞬誰か判別出来なかったのは、普段はポニーテールに纏めてる金髪を下ろしているからだろうか。

 

「モードレット……」

「よっす、おはよーさん。つっても、まだ夜中だけどな」

 

椅子に背を預け、いつも通りの気さくな感じで声をかけてくれる。

私は黙ってモードレットの隣に座り、ブーティカは足早に奥のキッチンへ向かったかと思うと鼻歌混じりに何かを作り始めた。

食堂のキッチンは実質彼女ともう一人、アーチャーのサーヴァントであるエミヤの二人の城となっているので文字通りの我が物顔である。

 

「モードレットはなんでここに? さっき、やっぱ来たか……とか言ってたけど」

「ん~? まぁ、あれだ。最近マスターの様子がおかしかったしな、ぼちぼちブーティカ辺りが無理にでも引っ張ってくるだろと思ってた」

「……私、そんなに様子おかしかった?」

「あぁ、解りやすいぐらいにな。あまりにも解りやすすぎて、シェイクスピアがネタにするの自重したレベルだ」

 

どんだけ様子おかしかったんだろうか、シェイクスピアが実質ドン引きってすっごくヤバくないか私。

 

「清姫とか頼光とかがお前の部屋に突貫するの必死に止めてやったんだから、感謝しろよ」

「……ありがとう。お望みは?」

「ん? そうだな……機会があったら街連れてってくれ。まだ当分座に帰る気はないけど、一度ぐらい現世の街で遊んでおきたいしな」

「あぁ、それいいね。希望者つのって皆でいこっか」

 

ブーティカが両手に簡単な料理が盛られたお皿を持って会話に参加する。

お皿に乗ってるのは、彼女がたまに作ってくれるお菓子。職員やサーヴァント達に大人気で、出てくればあっという間に無くなってしまう程の代物だ。

茨木童子はこのお菓子を巡ってナーサリーやジャック、密かにこのお菓子の大ファンだったアサシンのエミヤと大乱闘を繰り広げると言う酷い事件もあったが……あれは忘れてしまおう。

 

「さて、と。夜な夜なマシュの部屋覗きに行ってるのは、なんでかな?」

「わざわざ言わなくても、だいたい予想つくけどな」

 

二人は私を責めるわけでもなく、話したくないなら別に言わなくても良いと言わんばかりの態度だ。

モードレットの言う通り、理由はだいたい解ってるって事なんだろう。

 

「……うん」

 

ほんのちょっとだけ迷ったけど、私は毎晩観る悪夢の事を二人に話した。

今まで誰かに打ち明けた事もなかった、話す事すら嫌で選択肢にすらあがらなかった事だが、この二人になら別にいいかなと思えたから。

二人は特に反応する事は無かったけど、黙って聞いていてくれた。

 

「やっぱりね……そんな事だろうと思ってた」

 

ブーティカは何時の間にか用意してくれていたコーヒーを私に差し出してくれる。

 

「お前がそんなんなるなんて、マシュ絡みしかないもんなぁ」

 

モードレットがお菓子を頬張り、それをコーヒーで流し込んでから私の方に目線を向ける。

 

「んで、オレ達に話せてちょっとは楽になったか?」

「……どうだろ。なったような、なれてないような……わかんない」

 

でも、二人になら話してもいいと思ったと付け加える。

ブーティカは第二特異点からの付き合いで、マシュと共に守りの要。最後の戦いでも、マシュの抜けた穴を一人で補って魔神王の攻撃をほぼ一人で防ぎ切ってくれた。

モードレットも第四特異点で結んだ縁でカルデアに来てくれてから、ずっと前線で戦ってくれている。彼女が最後まで前線に立ってくれていたから、魔神王を倒せたといっても過言じゃない。

どちらもマシュと同じぐらいに、私の大切な仲間。多分というか絶対、マシュ以外の他のサーヴァント達の中では最も強い絆で結ばれてると思う。

実際、真っ先に座に帰らずにカルデアにとどまってくれると言ってくれたのもこの二人だし。

 

「マスターの悩み解決出来ればと思ってたけど……ちょっとこれは難しいかなぁ」

「しゃーないだろ。こればっかりはマスターが自分でどうにかするしかない悩みだしな」

 

ブーティカは可能なら私の悩みを解決したかったのか少し残念な表情を浮かべ、モードレットは対照的にそこまで深入りはしないとさっぱりした感じの反応。

何から何まで対照的な二人が、こうして私の心配をしてくれているのがとても嬉しい。

 

「でもまぁ……そうだな、一つだけマジで言っとくけどよ」

 

コーヒーを飲みほして、モードレットは静かに口にした。

 

「マシュのヤツな……今のままだと、間違いなく同じこと繰り返すぞ」

「っ!」

 

それは、私にとってとても残酷で受け入れがたい一言だった。

 

「ちょっ……モードレット!?」

「お前だって解ってんだろ、ブーティカよ。同じ状況になったら、アイツは躊躇いなくマスター護る為に死ぬってさ」

「それはそうだけど……もうちょっと言い方ってのがあるでしょ!」

「こういうのはスパッと言った方が良いんだよ。今更、気を使うような関係でもないだろオレ達さ」

 

ブーティカもモードレットと同じ考えなのは解ったし、私もどこかで解っていた。

また同じような事になれば、マシュは私の為に何度でも死ぬ。それこそ、迷いのない笑顔を浮かべたまま。

 

 

 

私の心に一生消えない傷を残して、何度でも何度でも。

 

 

 

「ぁ……ぁ……っ!?」

 

途端に全身が震える。背筋に氷柱を差し込まれたような、全裸で冷凍庫に放り込まれたかのような寒気に包み込まれる。

あの日から常に付きまとう不安が、毎晩夢に見る地獄にも等しい光景が、実際に起こりえるという認めたくない現実。

 

「やだ……や、だ……そんな、の……」

「だろ? だったら、そうしないのがお前の役目じゃねぇの?」

「……え?」

 

ぶっきらぼうに言いながら、モードレットは席を立つ。

空になったコーヒーカップを壁に備え付けられている給湯器に置き、二杯目を飲むためにボタンを押す。

 

「マスターは、マシュとこの先ずっと一緒なんだろ? だったら、あいつが今後どうなるかはマスター次第だろ」

 

注いだ二杯目のコーヒーを飲みながら、モードレットは壁に背を預けて言葉をつづけた。

 

「オレやブーティカだって、そのうち座に帰るわけだし? てか、そもそも死人のオレ等が今を生きてるマスターとマシュの未来に口出しなんて出来るわけねーし」

 

そこまで言うと、モードレットは真っ直ぐに私を見る。

だから、そこからはお前の仕事なんだよと言わんばかりの強い目線で私を見ている。

 

「マシュのヤツはまだまだ人間でいえば赤ん坊同然なんだ。マスターが、ちゃんと人間にしてやれよ」

 

テーブルにカップを置いて「んじゃ、後は任せたぞー」とブーティカへ手を振りながら、モードレットは食堂から立ち去っていった。

後に残ったのは、モードレットの何時になく真面目な発言にキョトンとしてる私と後片付けを押し付けていった彼女にちょっと苛々してるブーティカの二人。

 

「やれやれ……洗えとは言わないけど、せめて水にぐらいつけてって欲しいよねぇ」

 

最も、彼女が後片付けを真面目にしないのはいつもの事なのでブーティカも諦めてるのか、苛立ちはため息と共に吐き捨てたみたいだった。

 

「それにまぁ……実際、モードレットの言う通りだと思うよ? 私もさ」

「え……?」

 

ブーティカは、静かに私の隣の席へ腰を下ろして、真正面から私を見据えてくる。

真剣に何かを伝えようとする時、相手が誰であろうとも彼女はこういう風になるのは何度か目にした光景だ。

主な相手は悪戯がすぎるジャックだったけど。

 

「マシュはさ、色々あって人並の寿命を持てたけど……中身は全然変わってない。外の世界をあんまり知らなくて、色んな価値観もまだまだ定まってない赤ん坊……というか子供のまんま」

 

特異点での旅だけじゃ、そういうのはちゃんと身に付かないんだよとブーティカは諭すように言ってくる。

 

「その辺は、私達が教えるよりは……やっぱり、マスターが親身になってあげないとね」

「私……?」

「そうだよ。マスターが、マシュに色々教えてあげればいいんだよ」

 

生きていく事の楽しさとか、辛さとか、外の世界の常識とか、何でもいい。

良くも悪くも純粋無垢なままのマシュに、良い事や悪い事を色々教えてあげればいいんだよとブーティカは続ける。

要するに、彼女と戦いなんてない普通の生活を送ればいいんだと。

 

「そうやって、何てことは無い普通に生活とか幸せとか教えてあげてさ。マシュに思わせてあげればいいの、死にたくないってさ」

 

多分それこそが、マシュが今後知っていかなきゃいけない事だと言われてる気がした。

 

「あの子はもうちょっと欲張りになった方がいいよ。マスターの事以外に大事な物を持ったりとかさ……それが出来るの、マシュに教えてあげられるのはアンタだけだよ?」

 

だって、私達と違って未来があるんだからね。

ブーティカのその言葉は、不思議と私の心に響いた。

 

 

 

 

 

「あー……やべ、マジ恥ずかしい……」

 

廊下の壁、というか外の風景を映し出す強化ガラスに額を押し付けたオレは顔を真っ赤にしていた。

ええい、慣れない事はするもんじゃねぇな! マスターが夜な夜なうなされてるのは知ってたから、世話になった礼もかねてちょっと世話焼いてみたが……本当に恥ずかしい。

第五特異点の後にマシュが倒れた時のマスターの取り乱し様は酷いもんだったし、あの戦いでマシュが消滅した時なんて心が完全に折れていた。これで万が一にでも、マシュがまた死ぬような事があればマスターは今度こそ完全に終わるだろう。

そうなるのは、座に帰った後であろうとも嫌だったんで首を突っ込んだ。今はそれを後悔してる。

 

「こんな恥かくなら、やるんじゃなかったか……」

 

万が一にでもアンデルセンやシェイクスピアに見られてみろ。オレは即刻カルデアから退去するしかなくなるじゃねぇか。

その前に作家コンビ二人は宝具で焼き払うけどな。あの魔神王とか言う奴にトドメを刺したのは――その後、人間の姿で出てこられた時はホントにショックだったが――オレの宝具だし。

世界を救った一撃で死ねるならあの二人も本望だろ。

 

「あ……モードレットさん」

「んー?」

 

廊下の奥から聞きなれた声がしたので目線だけ向けると、カルデアにいる時に何時も着てる制服姿のマシュがいた。

 

「どうした? 何か用か?」

「はい。先輩がどこにいるか知りませんか? 部屋にいらっしゃらなかったので」

「マスター? なら食堂。ブーティカと一緒にいると思うぞ」

 

こんな時間にマスターを探してるって事は、夜中にこっそり部屋を覗いてたのが遂にバレたって事なんだろう。

なら、後は二人がさっさと話をすればこの問題はとりあえず終いだ。どう転がるかまでは当人同士の問題であってオレの責任じゃない。

不味い方向に転んだようなら、ほんのちょっとはフォローしてもいいけど。

 

「食堂ですか、ありがとうございます。ところで、モードレットさんは何故そのように額を押し付けているのですか? 顔も真っ赤ですし」

「気にすんな。触れんな。さっさと忘れろ。ついでに言えば他言無用だからな」

「……解りました。それでは、失礼しますね」

 

廊下を駆ける足音と共に、マシュの姿が食堂の方へと消えていく。

アイツにも何か一言言うべきかと一瞬思ったが、別に必要はないだろう。オレなんかが言うより、マスターの言葉の方がよっぽど効き目あるだろうし。

 

「……で。わざわざ霊体化して見てんじゃねぇよ……喧嘩売ってんのか?」

「あはは、ごめんごめん」

 

音も無く、霊体化を解除してブーティカが姿を見せる。

この女。一部始終見てやがったな。

 

「いやぁ……モードレットがあんな事言うなんてお姉さんビックリ。口は悪いけど、やっぱり優しいんだねぇ」

「うっせぇ。親戚のオバサンかテメェ」

「……せめて、お姉さんって言ってくれないかな?」

 

ゾッと、背筋が凍った。

普段はなんていうか、優しさが服着て歩いてるようなサーヴァントなのにたまにこういう怖い顔見せるんだから、とんでもない女だ。

なんでライダーで現界してるんだ。いつかのオガワハイムの時みたいにバーサーカーか、アベンジャーのが似あってるだろと常々思う。

てか、なんでサーヴァントになってまで歳気にしてんだよ。

 

「……ごめんなさい」

 

口に出したら、それこそ後が怖いので絶対に言わないけどな。

 

「んで、マスターの方は良いのか?」

「ん~? あとは若い二人に任せてきた。未来の事は、未来がある当人達で話をつけないとね」

 

ブーティカの言う通り。ここから先の未来の話はマスターとマシュの二人だけの話だ。

オレ達サーヴァントはあれこれと理屈つけたって所詮は過去の亡霊。とっくの昔にくたばった死人なんだから、未来を求めるなんて分不相応ってものだろう。

清姫とか、その辺理解してなさそうなのもいるけど。それでもサーヴァントである以上、何時かは座に帰らないとならないのは抗いようのない現実ってやつだ。

聖杯使って受肉するとか、マシュみたいに生身の人間にサーヴァントの力が宿ったような例外でもない限り。

 

「はぁ……ホント、らしくない事しちまったなぁ」

「たまには良いんじゃない? マスターには色々世話になったんだしね」

「まぁな」

 

マスターは特にそんな世話とかしてないし、むしろ逆だと言いそうだ。しかし、オレ達にしてみればこんな居心地の良い場所に呼んでくれただけで十分なのだ。

正直、座に帰るのがちょっと嫌になるぐらいにはここでの生活は気に行っていた。

そんな満足往く日々を過ごさせてくれただけで、十分すぎる恩義があるというヤツだ。

 

「んじゃ、オレは寝る。なんか面倒事あったら起こせよ」

 

ブーティカに背を向け、さっさと自分の部屋へ戻る。

ホント、恩返しみたいなもんとはいえらしくない事をしたもんだ。

 

 

 

 

 

「先輩」

 

ブーティカも立ち去って、私一人になった食堂にマシュが姿を見せる。

私を見つけると、ちょっと嬉しそうな顔をして足早に近づいてすぐ近くの椅子に腰かけた。

 

「マシュ……どうしたの?」

「いえ……先輩が私の部屋に来たようでしたので、何か用でもあったのかと」

「あ……起こしちゃった? ごめん」

「気にしないでください」

 

即答でそう言ってくれる事に、申し訳なさがこみ上げる。

そこはちょっとぐらい、怒っても良い処だと思うんだけどなぁって。

 

「それ以上に先輩の事です。最近、ろくに眠れていないのでは無いですか?」

 

モードレットやブーティカに気づかれていたから、もしかしたらと思っていた。

やっぱり、マシュにも気づかれてたんだ。

 

「うん。最近ちょっと……ね」

「私で良ければ、相談に乗りますけど」

「……別にいい。そっちはモードレット達がやってくれたから」

「……そう、ですか」

 

ちょっと残念そうに引き下がるマシュに、また申し訳なさを覚えてしまう。

まさか「マシュが死ぬ夢を何度も見るから、なんとかしてください」なんて本人に言えるわけもないんだから、仕方がない。マシュのせいじゃないんだしね。

それはそれとして、私がやるべきはモードレットとブーティカに言われた事をちゃんと、私なりに伝える事だ。

 

「ねぇ……マシュってさ。もうカルデアの外に出ても問題ないよね?」

「はい? そうですね……魔術協会の査察が終わった後になるでしょうけど、外出に問題はないかと。医療スタッフの皆さんからもお墨付きをもらいました」

 

実際、晴れた日に二人で外に出て青空を見たんだから聞くまでも無かったかなと思ったけど、嬉しそうに言うマシュの顔を見れたから良しとしよう。

カルデアの外。この雪山以外の風景をレイシフト先でしか見たことのないマシュにとって、まだまだ世界は未知だらけなんだから。

 

「ならさ……私の家とか来ない?」

「先輩の家……ご実家、ですか?」

「うん。エミヤとか孔明先生には、私は多分色々面倒事があるからいっそ時計塔行くかカルデアに永久就職かしか無いかもって言われたけど……その前に一度帰るつもりだし」

 

具体的には、査察とかのゴタゴタが終わってから。

私とマシュの身柄がどう扱われるか解んないかもとか言われたけど、悪いようには絶対にしないってダヴィンチちゃんや孔明先生が約束してくれてるから不安はない。

万が一の場合は、と武器を研いでいたアサシンやバーサーカーの皆さんは全力で止めたけど。

 

「それでさ。ちょっとの間ぐらい、魔術絡みの事は全部忘れて、普通の女の子としての生活満喫するの」

「普通の……」

「そう、普通の。きっと楽しいよ」

 

私の言葉に、マシュの眼の色が変っていく。

今まで経験したことのない、魔術も何も関わらない極々普通の生活というのは、彼女にとってとても魅力的な響きに違いない。

 

「それは、とても楽しそうですね。でも、先輩の家にお邪魔してよろしいのでしょうか?」

「良いよ。二人で思いっきり普通の生活楽しんだ後に、またここに戻って来ようよ」

 

どうせ魔術に関わるしかないなら、名前だけしか知らない時計塔よりはカルデアの方が良い。

マシュも、カルデアが実家のようなものだから気兼ねなくリラックス出来るって言ってたし。

 

「……そうですね。とても魅力的な提案です。はい、ご一緒させてください先輩」

「うん」

 

自然と、私はマシュの手を握っていた。マシュはほんのちょっとだけ驚いて、すぐに指を絡めてくれる。

まだきっと、あの悪夢は見てしまうだろう。夜中にマシュの部屋に向かってしまうかもしれない。

それでも、マシュと一緒に普通の生活を送るって未来が待ってるなら今まで程怖くなんて無い。

 

 

「覚悟してよ、マシュ」

 

 

 

 

何時か絶対に、何が何でも死にたくないって言わせてあげるから。

マシュが私を護るなら、マシュは私が護るから。

 

 

二人で、未来に行こうね。




モードレットとブーティカが出張ってるのは、単にこの二人がマイカルデアの絆10コンビだからです
絆10なら、これぐらいの距離感なんじゃないかなーと思ったり

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