闇の住人、ギルドナイトが悪徳ハンターを粛清する話。

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※作中に登場する魔女の一撃とはぎっくり腰のことです。


闇の住人 ギルドナイト

ハンターを光とするならば、ギルドナイトは闇とも言える存在。

 

【ギルドナイト】

未知のモンスターの調査や密猟者を取り締まる仕事。

非常に優秀なハンターしかなれないと言われている。

だが、彼らの事をしるハンターは言う。

「まさに、闇。“対ハンター用ハンター”」

と。

 

「密猟者、か」

赤い羽帽子を被りギルドの正装を纏った男が口の端に笑みを浮かべた。

 

 渓流のエリア7。

中年の男が違法に持ち込んだアイテムポーチに、採取したアイテムを詰め込んで行く。

「うひひひ」

男は卑しく笑った。

 

 渓流のエリア3。

アイルーやメラルーがギルドナイトに纏わりつく。

 それらをかわし、蔦で編まれた吊り橋から、飛び降りた。

 

「ほう、なにをしているんだ?」

あえてとぼけて男の行為を訊ねるギルドナイト。

「え、えーと、採取を」

しどろもどろになりつつ、男はシラをきる。

「ふーん。じゃ、その“三つ”あるアイテムポーチはなんなんだ?」

普通、アイテムポーチは、『通常のポーチ』と『臨時ポーチ』の二つだ。

 生態系を破壊するのを防ぐ為、ギルド及び龍歴院はアイテムポーチの持参を禁じている。

「“粛清対象”だ」

己の腰に差した、ギルドナイトセイバーを抜き放ち、構えた。

「ヒッ……」

男は、額に脂汗をかきつつも、背負った大剣を構える。

 ギルドナイトに粛清対象と宣言されること。

それ即ち、死を意味する。

 ギルドに詳しい人間ならすぐにわかる事だ。

それは、男も例外ではなかった。

 男の繰り出す、型もなにもない、闇雲な一撃。

 それをブシドースタイルでジャスト回避すると、反撃する。

 鮮血が飛び散り、水溜まりをピンク色に染めていく。

「クエスト完了」

得物や返り血を拭き取りつつ、言った。

 

 

 

 ギルドナイトの名は、オルナス。

双剣使いであり、腕利きのハンター。そして、ギルドナイトの本当の仕事、“悪徳ハンターの粛清”も業界では腕利きとして通っている。

 

「次のクエストはなんだ?」

と、ギルドマスターに向かって問う。

「まだ入っとらんのぉ」

「そうか…」

少し残念そうに返答すると、愛剣の手入れに掛かった。

「いい心掛けじゃのう」

「これは、癖と言っても良いかもしれないな。もうギルドナイトになった時から使っている」

「凄いのぉ。刃こぼれすらしとらん。手入れの賜物じゃな」

ギルドマスターは、元ハンターでかなりの達人だったようだが、今ではその面影も無く、ただの好々爺と成り果てている。

「老けたな、師匠」

ギルドマスターはオルナスの師匠であり、良き酒飲み友達でもある。

「それほどでもあるまいて」

座っていた椅子から立ち上がり、剣を振る動作をしたかったようだが、立ち上がり切った瞬間、グキィ、と音がした。

「“魔女の一撃”か?」

そう言って、受付嬢をチラリと盗み見る。

 ギルドマスターは、受付嬢にセクハラまがいの行為をしている。

 オルナスは深夜、受付嬢がギルドマスターを模した人形に釘を打ち込んでいる所を見た事がある。

 その呪いが成就したのだろうか。

受付嬢は声を押し殺して笑っている。

「老けたな」

「老けとらん!」

「それを人は老けたって言うんだよ」

「生意気な奴じゃな」

「老けてない奴は、語尾に『じゃ』なんて付けない」

「そんなのあるわけないじゃ……

そんなわけあるわけないだろう」

「言い直しても無駄だ」

「覚えておれよ!」

「善処する」

担架で運ばれていくギルドマスターを哀れむような目付きで告げた。

 

 それから一週間。

魔女の一撃も快方に向かい、腰に補助具を着けつつ業務

をこなすギルドマスター。

「オルナス、ちょっと来てくれんか?」

「了解」

酒の誘いだろうか、と思いつつオルナスはギルドマスター席へと向かう。

「粛清クエストじゃ」

「本当か?」

「本当だとも。今回の対象は、報酬詐称ハンター。掟を破った罰を受けるがいい」

「相変わらず、恐ろしいな」

「そうかのう? ギルドの鉄の掟を破った罰を受けるだけじゃよ」

「頑張るよ」

「怪我だけは無いようにな」

「ああ」

 

 

『火山』

 貴重な鉱石資源が多数ある、灼熱の空間。

「まずは、証拠を集めないとな」

 カン、とピッケルと鉱床が激突する音。

 音を頼りに進むと、エリア2に辿り着く。

 そこには革製の採取装備の中年ハンター。

赤鉱床を掘っているようだ。

 変装用のギルドガード・蒼シリーズを身に纏ったオルナス。

この装備は、炭鉱夫の間でも優秀な採取装備として名高い装備であり、ギルドナイトシリーズと外見は大差ない。

 オルナスのギルドナイトとしての誇りと変装の二つを兼ね備えた、まさに理想的な装備だ。

「ラージャンだ!」

 けむり玉の煙を辺りに充満させた所で、オルナスは叫ぶ。

 ラージャンがいることなど、嘘だ。

 近頃、炭鉱夫達の噂でこの地域にラージャンが出没しているという情報があったので、利用させてもらっただけだ。

「ヒィヤアアア」

奇妙な悲鳴を挙げ、オルナスに助けを乞う。

「逃げますよ!」

モドリ玉を地面に叩き付け、二人でBCに帰還する。

「危なかった~」

へなへなと膝から地面に崩れ落ちる中年ハンター。

 二人はネコタクチケットを納品し、二台のネコタクが彼らを迎えに来る。

「コイツと一緒に行ってくれない?」

中年ハンターを指差し、要望を伝えた。

「お知りあいですかニャ?」

「俺はギルドナイトなんだが、コイツを取り締まる為にここにいる。隣のネコタクのアイルーにも伝えてくれ」

「了解しましたニャ」

「出来れば、ヤツに知られない方法でな」

「ご希望に添えるよう、頑張りますニャ」

「ニャ、ニャニャニャ、ニャーオニャニャーオ」

「ニャーオ」

中年ハンターを乗せているアイルーは相槌をうつと、

「ニャニャニャ、ニャーオ」

「お任せ下さいニャ、と言ってますニャ」

「頼んだ」

ギルドの検問の手前で中年ハンターは怪しい行動を見せた。

 鉱石の類いをポケットに入れたのだ。

 ギルドでは、天然資源の採りすぎを防ぐ為、鉱石などの物は、規定の量しか自らの物に出来ない、という規則がある。

「今、なにした?」

中年ハンターにオルナスが鋭く問い詰める。

「いえ、特になにも」

「そうか。ならインナーを見せてもらって良いか?」

「えーとそれは。ダメ……です」

「どうしてなんだ?」

「恥ずかしいので……」

「俺はてっきり鉱石を隠したのだと思ったけどな」

「そんな事あるわけないじゃないですか!」

 中年ハンターが怒りを込めて立ち上がると、ジャラ、と“なにか”が擦れる音がした。

「なんだ? この音は?」

「ぼ、防具が擦れる音ですよ」

「そうなのかね? 今、君が着ているのは、革製のハズだけどなぁ?」

「見逃して下さい! 娘が重病に侵されていて! 治療費を稼ぐために! 僕みたいな狩れないハンターはこうやって生きてくしかないんですよ!」

「貴様に娘なんかいないハズ」

オルナスは手元の紙を見て、中年ハンターに呟く。

「“粛清対象”だ」

腰から、拳銃程の小型ボウガンを取り出し、額に銃口を向けた。

「ヒッ……!? 銃?」

「終わりだ」

とても乾いた破裂音。ハレツアロワナの破裂の構造を模した銃弾は着弾と同時に破裂し、中年ハンターの顔を傷付ける。

 ガクッと崩れ落ちた中年ハンターを見て、

「クエスト完了」

口癖と化したそれをクエストの最後に呟いた。

 

 

「師匠ばりの弱さだったな」

「それ、失礼だと思うのじゃが」

「気にしちゃダメだ。もう良いおじいちゃんなんだからな。老人と中年を比べているんだから良いだろ? 別に」

「うむ」

「次のクエストは?」

「まだしばらく無さそうじゃ。嵐の前の静けさ、という感じがじゃよ。それに『インジマライ』の連中が暗躍しとるという噂もある。キナ臭いのぉ」

「確かに、キナ臭さは感じる。ギルドナイトとしてのカン、というやつだがな」

「そうか。努力と準備は怠らぬようにするのじゃぞ」

「わかっている」

 

 

 

「インジマライの影響かのぉ。悪徳ハンターが多発しておる。ここにおるギルドナイトだけでは対応しきれん。

インジマライを叩くしか無さそうじゃ」

 インジマライ。それは、悪徳ハンター達の元締めにして最大組織。

 寄生、プレイヤーキラー、物の譲渡の強要。

狩猟の妨害、etc…

 思い付く限りの悪行をインジマライは重ねてきた。

「遂に来たか」

オルナスは感慨深そうに過去を振り返った。

「思い出に浸るのは、インジマライを倒してからにした方が良い」

「そうだな。そうする事にしよう」

 

 

 

ギルドナイトシリーズを着込んで、インジマライの本部へと向かう。

 本部は、集会らしい。

本拠地を持たず、転々と場所を変えていくのだという。

 今もその集会の最中だった。

インジマライの首領、『ユンター』の高笑いが聴こえてくる。

 オルナスは耳をそばだてて、インジマライの会話を聞き逃すまいとしている。

「それでよーあのザコマジメハンターがよー」

届くのは爆笑のみ。組織の中核に辿り着く情報は得られなかったが、それでいい。

 ユンターを粛清すれば良い話だ。

「泣き喚いてな! ヒャハハハハ!!」

オルナスの心にふつふつと怒りが込み上げてくる。

 ガン! と大きな音を立てて、乱暴に酒のジョッキをテーブルに叩き付ける。

 受付嬢も迷惑そうな顔を浮かべている。

 今から突撃したい、という衝動が駆け抜けたが、理性で堪える。

 現行犯で粛清しなければならない、というギルドナイトのルールだからだ。

「誰かきたみたいだな」

「楽しくイジってやるとしようぜ!」

 

 

 

 

遺跡平原エリア1で、インジマライの連中が若手ハンターを、三人でいじめている。

「止めてくれ!」

ユンターの得物のガンランスで砲撃され、吹き飛ばされた、若手ハンターが懇願した。

「止めて下さい、だろ?」

「止めて…下さい」

「え? やだ」

「どうすれば、止めてくれるんだ!」

「お前が逃げるか、死ぬか。金を払うか、ハチミツをよこすか、の四択だ。」

「今、かな」

遺跡の陰から、オルナスは飛び出すと即座に二人、ギルドナイトセイバーで始末。

 返り血が目に入り、視界を塞ぐが、構わず突撃する。

「シャアアアアアアア!」

雄叫びを挙げながら、リーダーのユンターに双剣を降り下ろす。

 盾で受け止められる。

構わず、双剣で切り刻む。

 盾で防御、槍で相殺されるが、気にしない。

 オルナスの渾身の一撃とユンターの狙い澄ましたカウンターが衝突した。

「グワアアアア!」

悲鳴は、オルナスの物。槍での一撃の後、砲撃で吹き飛ばされた。

「その、装備は!」

ユンターの装備を確認したオルナスが、怒りに声を荒げて叫んだ。

「これの事か?」

ユンターの装備はギルドナイトシリーズと外見は同じ。

ただ、その色は邪悪を内包した黒色。

 ギルドナイトの誇りを踏みにじる一着。

「この装備は優秀なんだよ。回避性能、回避距離UP、ボマーと来た。ウチの鍛冶屋も捨てたモンじゃねーな」

「喋るな」

同時にオルナスは、疾駆する。

「ヘッ! 貴様に何が出来る!」

そのガンランスの砲撃。

 それがオルナスに直撃し、またのオルナスは吹き飛ばされた。

 ボロボロになり、満身創痍を体現したオルナスが、剣を杖代わりに起き上がる。

「この世界にはあるルールがある。いくらお前が強者で俺が弱者でも! この闘いには俺が勝つ」

「抜かせ! そんな戯れ言(ざれごと)で自分を奮い立たせようたって無駄だぜ」

「戯れ言? 笑わせるな。事実だ。なぜハンターがマンマ食えてるか、わかるか? それは! 強力なモンスターに! 勝ててるからだ! 人間という弱者が! モンスターに、勝ててるから!」 

オルナスは、そこで区切り、深く息を吸い込んだ。

「人間が生きてんだよ」

トーンを低くして、そう続けた。

「ハンターが! 人間の盾となり! 矛となり! モンスターから人々を救う! そのハンターの名を穢すお前らを! 俺は許さない!」

オルナスは頭上で双剣を交差させ、鬼人化する。

 前回と同じような突撃。

 ただ、それ前回よりも鋭く、速く。

 細い方の剣が的確に、喉元へあてがわれる。

 血が、喉を伝い、重力に従って落ちる。

「遺言は?」

「無いね」

「なら、死ぬがいい」

 ユンターの喉笛が貫かれ、ヒュウ、と空気が漏れた。

「もっと…なぶりたかった……」

「それが貴様の遺言か、どこまでも下劣な奴だ」

ユンターが突然、スイッチが切れたように、目を瞑る。

 今までのギルドナイトとしての経験から、事切れたのだとわかる。

 踵を返し、BCへと歩き出す。

「かっこよかったぞい!」

「師匠、見てたのか?」

「かっこよく熱弁をふるっとったのぉ」

「殺す」

「へっ?」

「恥ずかしいから殺す」

「止めろ! ギルドナイトを呼ぶのじゃ!」

「俺、ギルドナイト」

「もう! それよりもよいのか? かつての相棒に黙祷を捧げずに」

「袂を分かったからな。それに俺が殺めた」

オルナスとユンターは、コンビを組んでいた。

それこそ、名コンビと称えられたコンビを。

 ただ、常にオルナスに実力で次いでいたユンターが一番を目指す、と失踪したため、コンビは解散となった。

「こんな事で一番になってもな」

「そうじゃな」

沈みゆく太陽に背を向けて、歩き出す。

 微かに残った光から、ギルドナイトの住むべき場所。

“闇”へ。


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