ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
「さて皆さん、遂にアンタレスの元に辿り着いたベル達でしたが、そこで信じられないものを目にします。それはアンタレスに取り込まれた紛れもないアルテミスの姿……………そう、『槍』に選ばれた者の役目とは、アルテミスを………『神を殺す』ことだったのです……………さて、ベルはこの重大な真実にどのような選択をするのでしょうか!? それでは! ダンジョンファイト劇場版ファイナルラウンド! レディィィィィィィッ……ゴォォォォッ!!!」
神殿の遺跡を臨める小高い丘。
その上に頭巾と布で顔を隠し、茶色いマントを羽織った人物が立っていた。
「………………大地が………苦しんでいる…………!」
そう言う人物の頭上には、二つの月が輝いていた。
いや、一つは本当の月だが、もう一つは
アンタレスの攻撃によって神殿の下層に落とされたベル達。
一瞬気を失っていたリリが目を覚ますと、
「どういうことですか……!?」
アスフィがヘルメスに詰め寄っていた。
「あれは
そう叫びながら問いかけると、
「……………アルテミスが喰われたからだ」
ヘルメスが真実を口にする。
その言葉に目を見開く一同だったが、ヘスティアだけは今までのアルテミスの様子から予想はしていたのか、何かを我慢する様に俯くだけだった。
すると、そこでリリはベルとアルテミスの姿が無い事に気付き、
「ッ…………! ヴェルフ様! ベル様とアルテミス様は!?」
そう聞くとヴェルフは首を横に振った。
「ここには居ない………おそらく、もっと下だ」
そう言いながら視線を向けたヴェルフの先には更に下層に続く大穴があった。
一方、最下層まで落ちたベルとアルテミスだったが、そこで二人は無残に殺されていた何人もの冒険者達を発見した。
「こ………これは………?」
「…………私の子供達だ………」
ベルの呟きにアルテミスが自分の眷属だと口にする。
「ッ……………………」
ベルがその言葉に胸を痛めていると、アルテミスが立ち上がる。
「…………私は見ているしかなかった………私を喰らった奴が子供達を殺す所を…………………私自身の手で殺される所を……………」
その苦しみは想像を絶するだろう。
アルテミスは眷属の一人に歩み寄り、その頬を優しく撫でた。
「………………帰ってきたぞ」
その一言に、どれだけの思いが込められていただろう。
ベルはアルテミスに歩み寄る。
「……………それじゃあ、今ここにいるあなたは……………?」
「………………私は…………残りカス………」
「ッ………………!?」
その言葉にベルは絶句した。
同じ頃、ヘルメスも移動しながら同じ説明を続けていた。
「彼女は槍に宿る思念体…………言わば女神の残身……………彼女はアルテミスであって、アルテミスじゃない………」
「それって……………」
「神の力をその身に取り込んだアンタレスは、全ての理を曲げる。倒せる方法は1つだけだ!」
「あの槍ですか?」
リューが聞くと、
「あれは正確には『槍』では無く『矢』。取り込まれる直前………いや、後か。アルテミスは残された微かな力であの『矢』をこの地に召喚した」
「神造武器…………」
ヴェルフが呟く。
「神造………武器………?」
リリが聞き返すと、
「ヘファイストス様に聞いた事がある…………天界に存在する、『神々をも殺す武器』!」
「その名は『オリオン』。神々の言葉で『射貫く者』を意味する」
「ッ…………!」
その意味をベルは理解した。
理解してしまった。
「今は動きを止めているが、アンタレスはすぐにここにやってくる………! モンスターでありながら、神の力を手に入れたアンタレスは、矛盾を孕んだ災厄。葬るには、理を捻じ曲げるこの『矢』で貫くしかない………!」
「待ってください………!」
ヘルメスの説明を聞いたアスフィが彼を呼び止める。
「………それは………世界の命運を、ベル・クラネル一人に背負わせるという事ですか!?」
「もう………これしか無いんだ…………!」
その言葉を聞いてアスフィはヘルメスの胸倉を掴む。
「それでも………! それでも一人の少年に押し付けるんですか!? 『神殺し』の大罪を!?」
嘆きに等しいアスフィの言葉に、ヘルメスは口を開こうとした。
その時、
「しないよ…………」
アイズが呟いた。
全員の視線がアイズに集中する。
「ベルはそんな事しない…………」
「ヴァレン某……………」
「ベルは、泣いてる女の子を見捨てたりなんてしない……………絶対に………どんなに可能性が低くても…………その女の子を助ける道を選ぶ…………!」
静かな………それでいて何よりも心に響く声でアイズはそう言い切った。
「だから私は…………私達はベルを好きになった…………」
アイズはリリとヘスティア、リューに視線を向ける。
「……………そうだね」
ヘスティアが呟いた。
「悔しいけど、君の言う通りだ………!」
今までのヘスティアは悲壮感に溢れていたが、今のヘスティアはいつも通りの表情に戻っていた。
「ベル君ならどんな困難でも打ち砕ける!」
ヘスティアが拳を握りしめる。
「そうです! ベル様なら!」
リリも同意する様に両手を握りしめる。
「はい、彼なら必ず!」
リューも頷く。
「理を曲げるだぁ? ハッ! そんな奴にあいつが負ける訳ねえだろ!」
ベートも好戦的な笑みを浮かべ、
「もしあいつ一人で駄目なら、俺達がベルを助けてやりゃあいいんだ!」
ヴェルフがそう言う。
今の彼らには悲壮感など全くない。
ただ、ベルへの信頼だけがあった。
「…………君達は………」
ヘルメスは帽子を深く被り直す。
だが、その口元には嬉しそうに笑みが浮かんでいた。
「ああ、その通りだ! 俺だってアルテミスに死んでほしい訳じゃない! 君達を連れてきたのだって、心の何処かでベル君なら何とかしてくれるかもって期待してたんだ!」
顔を上げたヘルメスがそう言う。
「ヘルメス様………」
アスフィが小さく微笑む。
「ベル君の所へ行こう!」
ヘスティアが力強く拳を掲げた。
「………………それって、僕にアルテミス様を『殺せ』って事ですか?」
ベルは呟く。
「…………オリオン…………これしか方法は無いんだ…………! 私が下界を滅ぼす前に…………私を…………
アルテミスはそう言ってベルの持つ『矢』に触れようとする。
「…………………………………………嫌です」
ベルは呟いた。
「えっ?」
アルテミスは手を止める。
「僕は…………………そんなの認めません……………!」
ベルは『矢』を持つ右手を握りしめる。
「望まない殺戮を悲しむヒロインを
ベルは握りしめた震える手を顔の前に持ってくると、、勢い良く顔を上げ、
「だけど…………僕は嫌だ!!」
「ッ…………………!」
顔を上げたベルの気迫にアルテミスは吹き飛ばされるかと思うほどの衝撃を受ける。
「僕は言ったはずです! どんなモンスターが現れても、この拳で倒して見せます! 必ず、あなたを護りますと! その意味は、決してあなたの命を奪う事なんかじゃない! 必ず本当の意味であなたを救って見せる!! 悲劇のヒロインなんて認めない! 在り来たりと言われてもいい! ご都合主義と言われてもいい! 最後は皆が笑って終われる【
そう叫んだ瞬間、『矢』を握りしめた右手の甲にキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がり、その右手に握られた『矢』に罅が広がっていく。
「なっ…………!? まさかっ……………!?」
目の前で起こっている光景にアルテミスは驚愕で目を見開き、
「だから
次の瞬間、『矢』は粉々に砕け散った。
「理を捻じ曲げる『神造武器』を…………下界の子供が……………!?」
目の前で起こったあり得ない出来事にアルテミスは呆然となる。
その時、上層からアンタレスが落下してきた。
『矢』が破壊される前の気配を追ってきたのだ。
「アンタレス………!」
険しい表情をするアルテミスの前に、ベルが進み出る。
「下がってください、アルテミス様……………」
「オリオン………!」
「違います…………!」
オリオンの名で呼ばれたベルはそれを否定する。
「オリオン………?」
「僕は…………『オリオン』じゃない………!」
ベルはアンタレスを睨み付ける。
「僕は…………『ベル・クラネル』だ!」
拳を握りしめ、
「僕は、『
その叫びと共にベルは駆け出す。
「ッ……………………!?」
アルテミスはその言葉に胸を撃ち抜かれたような感覚を覚えた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」
アンタレスが唸り声をあげながら巨大な蠍の鋏をベルに向かって叩きつける。
「はぁあああああああああああああっ!!」
それに対し、ベルは真っ直ぐに拳で迎え撃った。
アンタレスの巨大な鋏とベルの拳がぶつかり合う。
次の瞬間、拮抗する間もなくアンタレスの鋏が砕け散った。
「■■■■■■■■■■■■ッ!?」
痛みを感じるのか叫び声をあげるアンタレス。
ベルはそのまま飛び上がり、
「たぁりゃぁああああああああああっ!!」
目玉がある頭部らしき場所に飛び蹴りを叩き込んだ。
頭部が砕け、地に崩れ落ちるアンタレス。
地面に着地したベルは油断なくアンタレスを見据える。
「………………………ッ!」
すると、再びアンタレスが動き出し、ベルが破壊した部分が瞬く間に再生される。
「やっぱり一筋縄じゃ行かないか………」
驚きは無いが、厄介な再生能力だと認識する。
アンタレスが再生された鋏で攻撃してきたのでベルは飛び退いてそれを躱す。
「はぁああああっ!!」
壁を蹴ってアンタレスに向かって跳躍すると、腕の一つを蹴りで吹き飛ばす。
だが、その腕も即座に再生された。
「再生能力はデビルガンダム並み………! アルテミス様を助けるためにはアルテミス様の本体以外を完全に破壊するしかない!」
攻撃を躱しながらアルテミスを助ける方法を模索するベル。
その時、ベルのキング・オブ・ハートの紋章が共鳴する様に輝き始める。
「これは………!」
ベルが紋章に目をやると、
「「「「ベル(様)ッ!!」」」」
アンタレスの後を追ってきたアイズ、リリ、ヴェルフ、ベートが到着した。
「フッ!!」
アイズが剣で巨大な鋏を斬り落とし、
「はぁああっ!!」
ヴェルフが大刀で尻尾を切断し、
「おらぁっ!!」
ベートが蠍の頭に踵落としを食らわせで甲殻を砕き、
「てぇぇぇぇぇぇぇやっ!!」
リリがグラビトンハンマーで頭部に攻撃。
粉砕する。
「皆っ!」
仲間達の登場にベルは笑みを浮かべる。
だが、アンタレスはそれらのダメージもすぐに再生させた。
「おいおい、あれだけのダメージも一瞬かよ………」
ヴェルフがボヤくようにそう言う。
「再生能力はデビルガンダム並みでしょうか?」
リリもベルと同じようにそう判断する。
「でも、そこまで強くない………」
「ああ、再生できねえほど粉々にしてやりゃ良いだけの話だ!」
アイズとベートはそう言った。
すると、
「皆! アルテミス様を助けたい! 力を貸して!!」
ベルが叫んだ。
「うん………! もちろん」
アイズが躊躇なく頷き、
「やっぱりそう来たか!」
ヴェルフが、
「それでこそベル様です!」
そしてリリも当然とばかりに笑みを浮かべる。
「はっ! 仕方ねえ! しくじるんじゃねえぞ!!」
ベートも口は悪いが反対はしない。
皆の言葉に、
「皆………ありがとう………」
ベルは深く感謝した。
気を取り直すと、
「よし! 皆! アルテミス様以外の部分を完全に破壊するんだ!」
「「「「おう/うん/はい!!」」」」
全員が迷いなく応える。
「【炸裂! ガイアクラッシャー!!】」
リリが地面に拳を打ち込むと地面が割れ砕け、隆起し、針状になった岩山がアンタレスの足と蠍の胴体部分を串刺しにする。
「天に竹林! 地に少林寺! 目にもの見せるは最終秘伝!!」
ベートが高く跳び上がり、蝶のような光の羽を纏う。
「真・流星胡蝶剣!!」
ベートはその光の羽を全身に纏うと急降下。
「うぉらぁああああああああああああああっ!!」
アンタレスの尻尾の先から根元までを一気に粉砕する。
すると、アイズが剣を振りかぶっており、
「豪熱…………」
アイズの剣が燃え盛る赤い闘気を纏う。
「マシンガンスラッシュッ!!」
一瞬にして放たれる無数の斬撃がアンタレスの全ての足と腕を斬り落とした。
更に、
「【このエネルギーの渦から逃れることは不可能】」
ヴェルフが言霊を唱える。
「ローゼスハリケーン!!」
ヴェルフのローゼスビットが巻き起こしたエネルギーの渦がアンタレスを包み込み、アイズが斬り落とした足や腕を消し飛ばし、アンタレス本体の甲殻に大きな罅を入れる。
そして、その正面にベルが立っていた。
「流派! 東方不敗の名の下に!」
ベルは右手を顔の前に持ってくる。
「僕のこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!」
右手の甲にキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がり、その手を握りしめると、ベルは明鏡止水を発動し、金色のオーラに包まれる。
「ひぃぃぃぃぃぃっさつ!! アルゴノゥトフィンガァァァァァァァァッ……………!!」
前に突き出した右手に大自然の気を集中させ、それを己の力としてコントロールする。
「石破っ! 天驚けぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
それを正拳突きと共に撃ち出した。
拳型の気弾はアンタレスに向かって突き進み、寸前で拳が開いて掌の形となり胴体部分に直撃。
大きな掌の跡を残す。
すると、その掌の跡の中心にキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がり、アルテミスを除いたアンタレスの体全体に罅が行き渡る。
そして、
「グランド………フィナーレ……………!」
アンタレスの身体が大爆発を起こして砕け散った。
その場に残ったのはアルテミスの本体が囚われている水晶のような結晶のみ。
「やったぁ! ベル君!」
それを見ていたヘスティアが喜びの声を上げる。
彼女達はベル達が戦っている間にアルテミスの元へ辿り着いていた。
だが、
「いや……………まだだ!」
胸を押さえながらアルテミスは叫ぶ。
その直後、アルテミスの本体から青黒いエネルギーが噴き出し、それが形作ると瞬く間にアンタレス本体が再生する。
「そんな…………あの状態から再生するなんて…………」
アスフィが驚愕に身を震わせる。
「はぁ………はぁ…………アンタレスは………私と魂レベルで融合してしまっている………私が生きている限り…………アンタレスもまた滅びることは無い…………!」
「そんな…………!」
アルテミスの言葉にリューは悲痛な声を漏らす。
すると、アルテミスは声を張り上げた。
「オリオン! もういい! あなたの気持ちは十分に伝わった! 私に構わず、アンタレスを討ってくれ!! あなたなら『矢』を使わなくても私を殺せるはずだ!」
「アルテミス………」
ヘスティアは悲しそうな顔をする。
「お断りします!!」
だが、ベルはハッキリと拒絶した。
「僕は、必ず貴方を助けます!! どんなに小さな可能性でも、必ず掴んで見せる!!」
「だが、このままではこの『下界』が……………!」
「例え世界の命運を賭けたとしても! 僕は、あなたを…………一人の女の子を救って見せる!!」
「オリオン…………!」
ベルの言葉にアルテミスは呟くことしか出来ない。
すると、アルテミスの肩に手が置かれ、
「諦めなよ。ああなったベル君は絶対に引かないから」
「ヘスティア………」
アルテミスの肩に手を置いたヘスティアは笑みを浮かべていた。
「ベル君にとって、今の君は女神でも世界を滅ぼす魔獣でもない………………救うべき、たった一人の女の子なんだから…………!」
ベルを信じって真っ直ぐ彼を見つめるヘスティアに、アルテミスもベルを見つめた。
「…………………オリオン……………」
再生を終えたアンタレスが動き出そうとした時、
「さて、次は如何するよ?」
ベルに問いかけるヴェルフ。
そのベルは、自分の右手に浮かび上がったキング・オブ・ハートの紋章をジッと見つめていた。
すると、
「………………………皆」
ベルは顔を上げ、皆に呼びかける。
「紋章が教えてくれた。アルテミス様を助ける方法……………だけど、それはとても危険な方法なんだ…………命を賭けるほどの………………だから…………」
ベルがそう言いかけた時、
「ごちゃごちゃ言葉を並べてんじゃねーよ!」
ベートが叫んだ。
「ベートさん………?」
「ベル、テメーは一体どうしたいんだ?」
ベートはベルに問いかける。
「僕は…………僕はアルテミス様を助けたい…………!」
ベルは自分の答えをハッキリと告げる。
「だったら迷う必要は無えだろ! それとも命を賭ける程度で俺達がビビるとでも思ってんのか!?」
ベートの言葉にベルはハッとする。
「ベートさんの言う通りだよ」
アイズが笑顔で頷く。
「ベル、俺達はお前を信じてここにいる」
ヴェルフが、
「何より、危険な賭けだからこそ皆で力を合わせるんじゃありませんか!!」
リリが迷いなく答える。
「皆……………」
ベルが四人を見渡すと、四人が同時に頷く。
「………………よーし!」
ベルは顔を上げて気合を入れる。
「皆の命、僕に預けて!!」
「「「「おう/うん/はい!」」」」
ベルの言葉に四人は四方に散り、アンタレスを囲う様な配置に着く。
そして、アンタレスの真正面にはベル。
「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」」」」」
五人が精神を集中させる。
そして、
「ブラック・ジョーカー!!」
リリが紋章を輝かせながら金色の闘気を纏う。
「ジャック・イン・ダイヤ!!」
ヴェルフが、
「クイーン・ザ・スペード!!」
アイズが、
「クラブ・エース!!」
ベートが、
「そして…………キング・オブ・ハート!!」
そしてベルが。
五つのシャッフルの紋章が共鳴し合い、アンタレスを中心に五芒星を描いた。
すると、黄金の闘気がまるで炎のように五芒星の線を走り、アンタレスを包む。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!??」
アンタレスがまるで苦しむように叫び声を上げる。
「こ、これは…………っ!?」
リューが襲い来る衝撃波から顔を腕で守りながら驚愕する。
「この魂の炎を、極限まで燃やすんだ!!」
ベルの言葉に、シャッフル同盟が応える。
「「「「「はぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」」」」」
その瞬間、五芒星全体から光の柱が立ち昇った。
「■■■■ッ!? ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!??」
アンタレスが苦しみながら暴れ狂うが五芒星から外へ逃れることは出来ない。
「この光は…………?」
アスフィが目の前の光景に目を奪われていると、
「………命の光」
ヘルメスが呟く。
「ああ、ベル君達の…………魂の輝きだ………!」
ヘスティアもその光の柱を見上げながらそう言う。
「まさか、これほどまでに命を輝かせるなんて………命の光っていうのは、神の眼を通して見ないと分からない程の、本当に小さな輝きの筈なのに………ほんっとベル君達には驚かされるねぇ……………」
ヘルメスの驚きを通り越して呆れたような言葉。
だが、その口元にはハッキリと笑みが浮かんでいる。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!??」
その光の中では、アンタレスの身体がボロボロと崩れ出していた。
「アンタレスの身体が………!」
それを目撃したリューが叫ぶ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」
アンタレスは力を振り絞ってベルに向かって鋏を振り下ろした。
だが、ベルはそれを避けようとはせず、鋏がベルに届く寸前に鋏の先からボロボロと崩れてしまった。
それを皮切りに尻尾の先から、頭から、腕の先から、足の先からその身を崩壊させていく。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!???」
アンタレスは断末魔の叫びを上げ、崩れ落ちる身体を止める術も無く、その存在を消滅させていく。
そして、最後に残ったアルテミスを閉じ込めていた結晶も消え去り、アルテミスの身体だけが残る。
すると、ベルが一歩前に踏み出した。
「………………………アルテミス様」
ベルには分かっている。
アルテミスの中には、未だアンタレスの魂が存在していることに。
ベルはアルテミスの身体を見据える。
「……………これで…………終わらせます…………!」
ベルはキング・オブ・ハートの紋章が輝く右手に意識を集中させた。
すると、立ち昇っていた光の柱が徐々に小さくなり、消えてしまう。
いや、その輝きの全てがベルの右手に集中されていったのだ。
ベルの右手に全ての光が集中し、ベルは言霊を紡ぐ。
「僕のこの手に『命』が宿る! 『彼女』を救えと輝き叫ぶ!!」
ベルは地面を蹴り、
「キング・オブ・ハート…………!」
輝く右手を振りかぶり、
「アルゴノゥト………………!」
アルテミスの身体に、
「フィンガァァァァァァァァァッ!!!」
叩き込んだ。
アルテミスの身体に流し込まれる膨大なる魂の輝き。
本来であれば、アルテミスの魂は融合したアンタレスの魂ごと砕け散ってしまうはずだった。
だが、その魂の輝きの中には、『アルテミスを護る』というベルの確かな意思が込められている。
その強い意志がアルテミスの魂を傷付けずにアンタレスの魂を引き剥がした。
それを感じ取ったベルは、
「グランドォォォォォォォォォォッ…………………!」
アルテミスを救うための最後の言霊を紡いだ。
「………………フィナーーーーーーーーーーーーッレッ!!!」
魂の輝きの奔流がアルテミスの身体を貫き、背中から放出される。
その眩い光の中に、僅かに青黒く淀んだ何かが押し出される様に混ざっていた。
アルテミスの魂から引き剥がされたアンタレスの魂だ。
『それ』は光の奔流の中で大部分が消え去り、僅かに残った残照は弱々しく天へ昇っていった。
残ったアルテミスの身体には、傷一つ無い。
ベルはアルテミスの身体を抱き上げ、地面に着地する。
「ベル様!」
リリが一目散に駆け寄ってきて、自分が着ていたローブを脱ぐと、一糸纏わぬアルテミスに被せる。
「ありがとう、リリ」
ベルはリリにお礼を言う。
「いえ、流石にいつまでも女神の肌を晒しておくわけにはいかないので………」
リリはそう言うとその場で座り込んでしまった。
「リリ!?」
ベルが驚いたように声を掛けると、
「大丈夫です…………でも、とっても疲れました!」
リリはそう言って笑って見せる。
「さあ、早くアルテミス様の所へ」
リリに促され、ベルはアルテミスの身体を抱き上げたままアルテミスの所へ向かう。
「アルテミス様……………」
「オリオン…………」
ベルはアルテミスの名を呼ぶと、
「アルテミス様、約束、守りましたよ!」
そう言って満面の笑みで笑って見せた。
「ッ………………!!」
アルテミスはその笑みに言い様の無い魅力を感じ、赤面して固まってしまった。
「……………アルテミス様?」
ベルが首を傾げると、
「い、いや、何でもない…………!」
それを見ていたリリは、
「攻略完了ですね、ベル様」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべていた。
アルテミスは慌てて取り繕うと、手を伸ばして自分の身体に触れる。
すると、思念体のアルテミスの身体が光の粒子となり、アルテミスの身体に吸い込まれていった。
そして、
「ッ…………」
アルテミスの瞼がゆっくりと開く。
「アルテミス様…………?」
ベルはゆっくりと問いかけた。
「……………未だに信じられないな…………私は…………生きているのだな…………」
そう呟いた。
その時、
「ッ………ううっ…………アルテミス~~~~~ッ!!!」
ヘスティアが涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらアルテミスに抱き着いた。
「良かったよう! ホントによかったよう~~~っ!!」
ヘスティアは体面など気にせずにわんわんと泣く。
「ははは…………泣くなヘスティア」
アルテミスはそう言いながらヘスティアの頭を撫でる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」
それが嬉しかったのか更に大泣きしてしまった。
「いや~、良かった良かった。まさか本当に助けちゃうとはねぇ~~」
ヘルメスは気楽な雰囲気を出しながらそう言う。
「ヘルメス様…………」
アスフィも貰い泣きをしたのか目尻に涙を浮かべている。
「それにまさか、俺の夢がこんな所で適うとはねぇ~。アルテミスの一糸纏わぬ姿! ありがとうございました~!」
「フンッ!!」
「ぐはぁっ!?」
ヘルメスをどつくアスフィに、その場の皆が笑いに包まれた。
その後、【アルテミス・ファミリア】の遺体を一ヶ所に集めて身形を正し、埋葬するために運び出す人員を呼ぼうと一行が地上に出てきた時だった。
ズズズズッ、と地面が揺らぐ。
「何だ!?」
「地震か!?」
それぞれが声を漏らすが、
「…………違う!」
アルテミスが気付いたように空を見上げた。
そこには夜空に浮かぶ月と、その隣に形作られ、引き絞られた巨大な『弓矢』。
「あれは…………!」
ヘスティアが叫ぶ。
「知ってるんですか!? 神様!」
ベルが問いかけると、
「『アルテミスの矢』…………」
ヘルメスが呟く。
一斉にヘルメスに振り向く。
「純潔の女神が放つ、天界最強の『矢』だ…………!」
ヘルメスは珍しく険しい表情でそう告げる。
「アレが放たれれば…………下界なんて吹き飛ぶぞ…………!」
その言葉に全員が戦慄する。
「アルテミス! 『矢』の発動を止めるんだ!!」
ヘスティアがアルテミスに呼びかける。
だが、アルテミスは悔しそうな表情をして、
「…………駄目だ。あれはアンタレスの意志によって作り出された『矢』………私では止めることが出来ない…………」
そう口にする。
「そんな…………!」
ヘルメスはその『弓矢』を眺めると、
「拙いな…………『弓矢』は殆ど完成している。いつ放たれてもおかしくないぞ………!」
時間が残されていないことを仄めかすヘルメス。
「アンタレスめ…………下界を道連れにするつもりか…………!」
すると、アルテミスは決心した表情をして、
「私を送還しろ! もしかしたら、
「却下です!」
ベルが言い終わる前に即答した。
「オリオン!?」
「あくまでそれは可能性に過ぎません。そんな可能性であなたを
「しかし…………!」
アルテミスはなおも食い下がろうとする。
しかし、
「それに…………僕が目指す【
「オリオン…………!」
ベルの言葉にアルテミスは何も言えなくなってしまう。
「だが、一体どうするつもりだい? もう時間は残されていない………」
ヘルメスがそう聞くと、
「………僕は武闘家です……………なら、武闘家は武闘家らしく…………どんな困難でも打ち砕いて見せます!!」
「まさか…………!?」
ベルの言葉を聞いてヘルメスは絶句する。
「はい…………あの『矢』を打ち砕きます!!」
「無理だ! いくらベル君が規格外でも、下界を滅ぼす力を持つあの『矢』を止められるわけがない!!」
ヘルメスにしては珍しく感情的に声を荒げる。
「やってみないと分かりません!」
「無理だ!」
「だったら諦めるんですか!?」
「ッ!?」
ベルの言葉にヘルメスは押し黙る。
「無理だから………敵わないから…………黙って敗北を受け入れるんですか!?」
「それは…………」
「僕は諦めません! 例え無理だとしても………僕より遥かに強い相手が居たとしても…………! 何もせずに黙って敗北を受け入れるぐらいなら、最後まで抗う道を僕は選びます!!」
ベルの言葉がその場に響き、一瞬静寂が支配する。
次の瞬間、
「よくぞ言った! ベルよ!!」
上の方から声が聞こえた。
「この声は………!」
ベルは反射的に上を見上げた。
そこには小高い岩山の上に立つ、白髪交じりの長髪を三つ編みにした初老の男性。
「それでこそ流派東方不敗の使い手! それでこそ我が弟子よ!!」
それは、ベルの師であり最強の武闘家、東方不敗 マスターアジア。
「師匠!!」
「ベルよ! 来るが良い!」
「はい! 師匠!」
東方不敗に呼ばれ、ベルは岩山の上へと駆けあがる。
他のメンバーもそれぞれのペースで岩山に登った。
岩山の頂上では、腕を組んで直立不動の東方不敗と、一歩下がって東方不敗と同じ方向を向いているベルの姿があった。
「ヘスティア、あの者は誰だ?」
唯一東方不敗を知らないアルテミスが問いかける。
「あの人はベル君の師匠で東方不敗 マスターアジアって言う名前さ。まあ現時点で下界最強の御仁だろうね…………」
その後に小さく、天界でもどれくらいあの人に敵うか分かんないけど…………と付け加える。
すると、東方不敗は未だに揺れ続ける大地を見渡す。
「ベルよ……………この大地の声が聞こえるか?」
「……………はい」
東方不敗の言葉にベルは頷く。
「『恐れている』………だろうね………」
ヘルメスは小さく後ろの方で呟く。
言葉には出していないが、ヘスティアもアルテミスも同じ答えだった。
だが、
「大地は…………大地は……………『抗おう』としています!」
その言葉に、神の三人は驚いた表情で彼らを見る。
東方不敗は頷き、
「その通りだ…………大地は………この『星』は、黙って滅びを受け入れるほど弱い存在ではない…………」
その言葉にベルは頷く。
「ですが………この大地には『アレ』に抗う『
「うむ…………知っての通りこの大自然………この『星』はとても大きな『力』を持っている。だが、その『力』はこの大地に住む『命』を育み、慈しむために使われている」
「この大地の力は、この大地に生きる命を『守り育てる』ことに特化しているという事…………」
「だが、我が流派東方不敗は『天と地の霊気を父母とし、天地自然の大いなる力をうけて生まれた拳法』。即ちこの『星』の力を借りて戦う事が出来るのだ!」
「はい! つまり、僕達があの『矢』に抗う『
「その通りだ!! この『星』の抗おうとする『力』全てを我らの身で受け止める!! 覚悟は良いか!?」
「はい! 師匠!!」
東方不敗の言葉にベルは迷いなく頷く。
その時、天空の『アルテミスの矢』が向きを変え、ベル達の方を向いた。
「ッ! 『弓矢』がこちらに!」
「ハッ! 俺達にやられた恨みを晴らそうってか?」
リリとベートがそう言う。
「丁度良い! 正面から打ち破るぞ、ベル!!」
「分かりました!」
ベルと東方不敗の二人が同時に闘気を高める。
明鏡止水の境地により、二人の身体が黄金の闘気に包まれる。
「ゆくぞぉ! ベルッ!!」
「はい! 師匠ぉっ!!」
二人は同時に右手を顔の前に持ってくる。
「「我らのこの手に闘気が宿る!」」
「世界を護れと!!」
「轟き叫ぶ!!」
東方不敗とベルが言霊を紡ぐ。
右手を前に突き出し、大自然の…………この『星』の力をこの身に受け入れる。
「「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ…………!!」」
通常とは比較にならない『力』が二人の身体を暴れ狂う。
それでも尚二人は止まることは無い。
「流派!!」
「東方不敗が!!」
「最終ぅぅぅぅっ!!」
「奥義ぃぃぃぃっ!!」
莫大な気を練り上げ、巨大な気弾を作り上げる。
その時、天空の『矢』が放たれた。
「『アルテミスの矢』が…………!」
その『矢』は雲を吹き飛ばし、全てを滅ぼさんと一直線にこちらへ向かって来る。
だがその瞬間、
「石ッ!」
「破ッ!」
「「究極!!」」
東方不敗とベル。
二人の師弟によるこの『星』の一撃が放たれた。
「「天驚けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!!!!」」
『星』の力を内包した極大の気弾は凄まじい勢いで天空へ向かって突き進む。
そして、空のド真ん中で激突した。
激しい光と轟音、衝撃が響き渡る。
それは、オラリオからでも確認できていた。
一瞬の拮抗。
「「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ…………!!」」
だが、次の瞬間『アルテミスの矢』が二人の石破天驚拳を押し返していく。
「やべぇ!」
「押されてる………!」
ヴェルフとアイズが思わず声を漏らす。
『矢』が迫るにつれ、技を放っている二人にも圧力が掛かる。
「ッ…………ううっ……………!」
拳を繰り出し続けるベルだったが、足に力が入らなくなり、遂に片膝を着いてしまう。
「ベル君!」
ヘスティアが叫ぶ。
その時、
「何をしておる!? それでもキング・オブ・ハートかぁ!?」
東方不敗からの叱咤が飛ぶ。
「師匠………!」
「足を踏ん張り、腰を入れんかぁ!! 自ら膝を着くなど、勝負を捨てた者のすることぞぉ!!」
東方不敗が更に激突する気弾に力を送る。
すると、僅かだが押されるスピードが緩やかになる。
「立て! 立ってみせいっ!!」
己の師からの厳しくもベルを思う言葉に、ベルは顔を上げる。
「し、師匠…………! ッ………ぐぅぅぅぅぅっ………!」
ベルは気力を取り戻すがまだ立ち上がることが出来ない。
(立つんだ………! 立たなきゃ………!)
ベルは必死に立とうと足に力を込めるが、それが逆に焦りを生み、明鏡止水の境地を揺らがせてしまう。
「うぐぅぅぅぅぅぅ……………うあっ…………!?」
ベルは遂に耐えきれなくなり、吹き飛ばされようとしていた。
だがその時、
『『『『ベルさんっ(君)/クラネル様っ!!』』』』
ここには居ない筈の者達の声がした。
オラリオから見える『アルテミスの矢』と『石破究極天驚拳』の激突。
オラリオのほぼ全員が何が起こっているか解っておらず、神々ですら『アルテミスの矢』に何が抗っているのかを理解していない。
だが、ベルを想う少女達はその『矢』に抗う者がベルだと直感的に感じていた。
「ベルさん…………」
いつものウエイトレス姿で激突の様子を見上げるシル。
「ベルさん………」
「クラネル様………」
【ヘスティア・ファミリア】の仮宿から見守るカサンドラと春姫。
「ベル君…………」
ギルドの仮設事務所の外で祈るエイナ。
ベルが居る所から遠く離れたオラリオの地。
本来なら、彼女達の声が届く事などあり得ない。
しかし、彼女達の想いは星を巡る『力』に乗ってベルの元へと届く。
「皆っ…………!」
その瞬間、ベルは背中を支えられる感覚がした。
吹き飛ばされそうだった身体がその場で堪えられる。
ベルは何とか持ち直した衝撃の中、僅かに視線を後ろに向ける。
そこには誰も居ない筈だった。
だがベルの眼には、確かに自分の背を支えるシル、カサンドラ、春姫、エイナの姿が映っていた。
「シルさん、カサンドラさん、春姫さん、エイナさん……………!」
確かに感じる背中の温もり。
それに伴い身体にも力が戻ってくる気がした。
「ッ…………! うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ベルは気合を入れ、体中に力を漲らせる。
着いていた膝が徐々に浮き上がり、ベルは力を振り絞って立ち上がった。
ベルは知らなかったが、その時にベルのスキル、【
「師匠っ………!」
ベルは立ち上がり、再び東方不敗の隣に並んだ。
「よくぞ立ち上がった! ベル! 見事だ!」
「師匠!!」
「力を振り絞れ! ゆくぞ! ベル!」
「はい! 師匠!!」
二人は更に気弾に力を送る。
押されるスピードは、先程よりもかなり遅くなっていた。
だが、それでもまだ『アルテミスの矢』は止まらない。
「ベル君…………」
持ち直したベルをヘスティアが見つめる。
「シル…………あなたはベルを支えているのですね………」
リューの眼にも、ベルの背を支えるシル達の姿が映っている。
「……………私は…………私も…………!」
リューが決心したように顔を上げると、ベルに向かって駆け出す。
そしてその背を支え、
「ベル! 諦めないで!」
「リュー!?」
驚くベルだが、支えられた分自分に力が入る様な気がした。
すると、その背に次々と手が添えられる。
「ベルなら出来る………!」
アイズが、
「頑張ってください! ベル様!」
リリが、
「最後まで付き合うぜ、ベル!」
ヴェルフが、
「フン、このぐれえでヘバってんじゃねえぞ!」
ベートが、
「皆で勝とう………! ベル君!」
そしてヘスティアが。
全員がベルの背中を支える。
「リュー、アイズ、リリ、ヴェルフ、ベートさん、神様……………!」
支えられるベルの背中は温もりを越えて熱く燃えるよう。
同時に、体の奥底から力が溢れてくる。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ベルが限界を超えて『力』を放出し、気弾の勢いが増して『矢』の前進を完全に止める。
『アルテミスの矢』と『石破究極天驚拳』が完全に拮抗したのだ。
だが、『アルテミスの矢』は止まらない。
少しでも力を抜けば再び押し切られる。
「オリオン………ヘスティア…………!」
その様子を衝撃に耐えながらアルテミスは見ていた。
あらゆるものを滅ぼす天界最強の己の『矢』を、下界の子供達が食い止めている。
僅かに抗う事が出来ただけでも神々にとっては信じられない事なのだが、ベル達はそれに打ち勝とうとしている。
「ッ……………あと少し……………もう少しなのに…………!」
ベルが悔しそうにそう口にする。
ベル達は限界を超えた状態で拮抗している。
この力の放出は長くは続かないし、それが途切れた時には『アルテミスの矢』は容赦なく下界を滅ぼすだろう。
「ベル君…………!」
その背を支えていたヘスティアは、ベルの零した言葉を聞いていた。
そして、一度俯くと決心したように顔を上げ、
「アルテミスーーーーーーーッ!!」
後ろにいたアルテミスに呼びかけた。
「ヘスティア…………!?」
「君は! ベル君の事を! どう思っているんだいーーーーーっ!?」
ヘスティアが大声で呼びかけた。
「か、神様!?」
「ヘスティア様!? こんな時に何を!?」
ベルが僅かに動揺し、リリも怪訝な声を漏らす。
「いいから君達はこっちに集中しててくれ!」
ヘスティアは説明する時間も惜しいとばかりにそれだけ言うと再びアルテミスの方を振り向き、
「アルテミス! 君は今、初めての気持ちに戸惑っていると思う! でも、今その気持ちに向き合って欲しい! 君は、ベル君の事をどう思っているんだい!?」
ヘスティアの言葉に、アルテミスは戸惑う。
「私の………オリオンへの気持ち………?」
『必ず、あなたを護ります!』
『悲劇のヒロインなんて認めない! 在り来たりと言われてもいい! ご都合主義と言われてもいい! 最後は皆が笑って終われる【
『例え世界の命運を賭けたとしても! 僕は、あなたを…………一人の女の子を救って見せる!!』
『アルテミス様、約束、守りましたよ!』
今までのベルの言葉が思い返される。
「私………私は…………! オリオンを…………! 『彼』を…………!」
『それに…………僕が目指す【
「私は………『彼』と一緒に迎えたい………『彼』が目指す………【
「アルテミス!!」
ヘスティアの叫びと共にアルテミスは駆け出す。
そのままベルの背を支え、
「『ベル』! 私は…………あなたが好きだ!!」
その想いを口にした。
「アルテミス様…………!?」
その瞬間、ベルはもう限界を超えていると思っていた自分の身体の奥底から、また新しい『力』が沸き上がるのを感じた。
「これは…………!?」
ベルは一瞬戸惑うが、
「行けぇ! ベル君!!」
何の迷いも無いヘスティアの言葉に、ベルは戸惑いを吹き飛ばした。
「はぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!! いっけぇええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」
ベルの新たなる『力』の最後の一押しが、完全に『アルテミスの矢』の威力を上回った。
『石破究極天驚拳』が『アルテミスの矢』に罅を入れていき、砕けると同時に一気に貫く。
『石破究極天驚拳』は、そのまま直進し、天空に残っていた『弓』さえも貫き、掻き消して空へと消えていった。
先程の閃光と轟音が嘘のように静まり返る。
「………………はぁ~~~~っ!」
ヘスティアが脱力して崩れ落ちると同時にその場の時間が動き出したような気がした。
「ははは…………まさか、天界最強の『矢』を下界の子供達が打ち破るなんてね………」
ヘルメスが参ったと言わんばかりに帽子を深く被る。
それをこの『星』の力を借りたとはいえ、紛れもない下界に住む人間たちが打ち破ったのだ。
流石のヘルメスも驚愕も呆れも通り越して乾いた笑いを漏らすしかなかった。
見れば、ベル達も全員その場に崩れ落ちて座り込んでいる。
だが、
「ベルよ! そして仲間達よ! 見事であった!」
東方不敗だけは直立で腕を組む余裕すらあった。
「この『星』の力。そしてお前達の絆。一つでも欠けていればこの勝利は無かったであろう!」
東方不敗はベルを含め、この場の全員を称賛する。
「師匠…………!」
「ベルよ! 確かにお前個人では儂にはまだ及ばん! しかし、仲間達との絆! そして絆を『力』に変える『
「師匠!? そんな事は………!」
ベルが何か言おうとした時、
「くぁあああああつ!!」
東方不敗の一喝が響いた。
「何を勘違いしておる!? そしてこの儂を誰だと思っておる!? 未だ負けを知らぬは東方不敗ぞ!! 越えられたからと言っていつまでも弟子に後れを取ったままでいるほど耄碌したつもりはないわぁ!!」
それは東方不敗も、もっと強くなるという意気込み。
「師匠…………!」
それを聞いてベルは自然と笑みを浮かべる。
その時、東の地平線から朝日が顔を出した。
それを眺める東方不敗。
「美しいな、ベルよ」
「はい、とても美しゅうございます………!」
ベルは東方不敗の言葉に同意する。
「ならば!」
東方不敗の合図と共に、
「「流派! 東方不敗は!」」
いつもの掛け合いを始めた。
「王者の風よ!」
「全新!」
「系列!」
「「天破侠乱!! 見よ! 東方は赤く燃えている!!!」」
朝日の中に熱き叫びが響いた。
~FIN~
おまけ
「ところでアルテミス様、先程のお言葉は本当ですか?」
リリがアルテミスに声を掛ける。
「えっ?」
「先程、アルテミス様はベル様が好きだと仰いましたよね? それは本気ですか?」
そう言われると、アルテミスは頬を染めて俯き、
「……………ああ………本当だ…………私は、彼が好きになってしまった…………! 恋人が居て…………彼を想う者が多くいるにも関わらずにだ…………」
そう口にする。
「そうですか…………それならば!」
リリはアルテミスに手を差し出し、
「アルテミス様も『ベル様ハーレム』の一員になりませんか?」
そう宣言した。
「ハーレム……………?」
アルテミスがきょとんとして首を傾げる。
「『ベル様ハーレム』はその名の通りベル様をお慕いする同志が集まって結成したベル様のハーレムです。ベル様の一番になれないなら、二番以降のベル様のハーレムになってでもベル様と添い遂げようとする者達の集まりです! 私が結成当時からいるベル様ハーレムNo.01です。『豊穣の女主人』のウエイトレスのシル様がNo.02。そこにいるリュー様がNo.03。オラリオに残っている【ヘスティア・ファミリア】のカサンドラ様がNo.04。春姫様がNo.05。ギルドのエイナ様がNo.06。そして、ヘスティア様がNo.07となっております。今なら、アルテミス様をNo.08としてお迎え致します」
そこまで言うと、
「ちょっとリリ! いきなり何言ってるのさ!? しかもアイズの目の前で!」
ベルが叫ぶ。
すると、
「いいのか?」
アルテミスが期待を込めた目でリリに聞き返した。
「もちろんです!」
リリは即答する。
「よろしく頼む!」
アルテミスは戸惑うことなくリリの手を取った。
「歓迎しますよ」
リリはニッコリと笑って握手をする。
それを見たベルは、ギギギとブリキ人形のように首を回してアイズを見る。
何気にアイズは嫉妬深い事を分ってきたベルは、アイズが不機嫌になっていると思ったのだが…………
「…………………あなた達も………ベルの事が好きなんだよね?」
アイズはリリ達にそう問いかけた。
「もちろんです! ですが、アイズ様の邪魔をしようとは思いません。ただ、アイズ様が感じている幸せの一部を、私達にも分けていただきたく思っているのです」
リリはアイズを真っすぐ見返してそう言う。
すると、
「………………………………ベルが良いなら、良いよ?」
「アイズ!?」
「本当ですか!?」
アイズの言葉に驚愕するその場の全員。
アイズは頷き、
「ベルの一番は私だから…………ベルが一番に私を想ってくれれば…………我慢する」
「これは、予想外の進展です! 最も最難関と思われたアイズ様の許可をこんな形で認めていただけるとは!」
リリが喜びと驚愕を露にする。
「え? アイズ? 本気?」
ベルの問いかけに、アイズはこくりと頷く。
「これで後はベル様自身に認められれば万事オッケーです!! リュー様! 早速シル様達に報告を! 緊急ベル様ハーレム会議を開いてベル様を攻略する手段を話し合うのです!」
「分かりました!」
リューが即答して駆けていくと、竜の一匹が飛び立つのが見えた。
「えっ? リュー?」
展開の速さに着いて行けないベル。
オロオロしているベルを見て、
「武闘家としては一皮むけたようだが、男としてはまだまだだのう」
東方不敗はやれやれと呟いた。
シャッフル同盟最終【ステイタス】
リリルカ・アーデ
Lv.宇宙海賊
仲 例 俺 俺 来
間 え の は な
と 一 戦 負 鳥
俺 つ い け 野
と の の る 郎
敗 邪 訳 !
あ 北 魔 に
ん も は は フ
た 二 さ ゆ ラ
の 人 せ か イ
運 の な ん ド
命 も い の チ
の の ! だ キ
為 で ! あ ン
に は ぁ に
! な ぁ し
か ぁ て
っ ぁ や
た ぁ る
の ぁ ぜ
か っ !
・ ! !
・
・
・
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ヴェルフ・クロッゾ
Lv.貴族騎士
討 戦 騎 出 私 マ
つ い 士 陣 は リ
べ は は い 負 ア
き ま 敵 た け ル
は だ に し な イ
背 ま い ゼ
自 終 を す ! 様
分 わ 向 ! ! ぁ
の っ け ぁ
心 て な ぁ
い い ぁ
な ぁ
い ぁ
ぞ ぁ
! っ
! !
!
ベート・ローガ
Lv. 少林寺
同 オ 少 負 父
じ イ 林 け さ
時 ラ 寺 な ん
を の 再 い
分 姿 興 ! 父
け が は 負 さ
合 見 け ぁ
っ え オ る ぁ
た る イ わ ぁ
ア か ラ け ぁ
ニ な が に ぁ
キ ? や は ぁ
と り ぁ
な 遂 死 ぁ
ら げ ん ん
ば る で !
! ! も !
負
け
る
わ
け
に
は
!
アイズ・ヴァレンシュタイン
Lv.アメリカンドリーマー
俺 例 ど I I お
が え う 前
夢 こ し W W た
だ の た I I ち
! 身 ? L L に
が L L 坊
俺 砕 も や
が け う B N 扱
希 よ 一 E E い
望 う 度 V さ
だ と 笑 B E れ
! も っ A R て
! て C た
俺 み K G ま
は な ! I る
今 よ V か
こ ? E ぁ
そ ぁ
最 U ぁ
高 P ぁ
に ‼ ぁ
燃 っ
え !
て !
や
る
!
!
俺
は
夢
を
掴
む
ん
だ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
っ
!
!
ベル・クラネル
流派東方不敗は王者の風
血 看 石 全 王 東 新
染 招 破 新 者 方 一
東 ! 天 招 之 不 派
方 驚 式 風 敗
一
片
紅
完
はい最終話完成しました。
めっちゃ長くなった。
まあ、思いついたネタの殆どが最終決戦でのことなので。
はい、ご都合主義の如くアルテミス様助かりました。
アルテミスを助ける所は、先代シャッフル同盟がDG細胞に侵された新シャッフル同盟を救うシーンと、ギアナ高地でのデビルガンダムへの止めのシーンをイメージしてます。
原作ではアンタレスを倒したところでアルテミスの矢は消滅しましたがこちらでは怨念が残ってぶっ放しました。
それを止めるために登場したのが我らが師匠東方不敗。
いいとこ取りですね。
おまけにベル君ハーレム完成。
こんな感じです。
それでは、こちらでまた会う日が来るかは分かりませんが、未来へ向かって
レディィィィィィィッ……ゴーーーーーー!!