魔女と吸血鬼、そして
一人の皇帝がある世界にいた。その皇帝は世界と自らの家臣、そして民を救うためにその身をなげうった。
結果古代人にとって、世界にとって「悪」と見なされ、心もまさしく人でなくなってしまったかつての英雄たちは倒れ、世界に平和は訪れた。
しかし、賢明な皇帝は平和になれば自らの力、存在自体を恐れるものもいるだろう、そう予期していた。
そして、皇帝は皆の前から、世界の舞台から姿をまるで初めからいなかったのように姿を消し、その救世の皇帝は詩となって語られるだけの存在になった。
そしてここにかつての皇帝はいた。先代の皇帝が英雄の一人、ロックブーケを倒したとされる場所。そう、樹木が生い茂るエイルネップの沈んだ塔である。
彼が沈んだ塔に来たのはある理由があった。そう、かつて七英雄が古代人へと復讐を遂げるために捜し続けた、ある装置である。その前に彼は立っていた。
「これを使えば、私は…」
一人の旅人は、その日――
「なかなか…うまくいかないものね」
少女はただ一人、言葉を紡いだ。彼女の周りには魔術書と思わしきものが散乱しつくされていた。
「まったく、レミィったらなんで館ごと引っ越そう、だなんて面倒なことを…」
紫色のローブのようなものを着た彼女は、そう誰か——友人だろうかの名前を言いながら再び魔法を唱えだした。
そうやって魔法に集中していると、彼女のいる図書館のような部屋の扉が突如として開かれた。そして、
「魔法の研究の方は順調かしら、パチュリー?」
とその声を発した体躯に相応な幼げな、だがどこか気品のある声が部屋に伝わった。パチュリーと呼ばれた先ほどの少女は魔法を中断し、少し疲れ気味に声を返す。
「どうにもこうにもねぇ…。とりあえず、空間をつなぐ魔法の方はどうにかなりそうなのだけど、場所が問題なのよ」
そういって一度言葉を区切り、咳払いをし、また話す。
「いい加減場所、決めなさいよ、レミィ」
少しいらだち気味にそう返す。おそらく今部屋に入ってきた彼女がこの‘面倒なこと’の発案者なのであろう。
「そんなこと言ってもこういうのは悩んだ方がいいじゃない、ね?」
そんなパチュリーのいら立ちを諭すかのように体には似合わない、立派な羽をはやしたレミィと呼ばれた少女も返す。
「はあ…まったく、難儀な友人を持ったものね私も…」
…諭すような声は紫色の彼女には届かなかったようだ。
そうしているうちに扉の外から何やらどたどたと、あわただしい音が鳴り響いた。その音を聞き、顔にまた不機嫌そうな表情を浮かべながらパチュリーは聞いた。
「…だれか、来ているのかしら?」
「あぁ、言うのを忘れてたわ。そう、侵入者よ」
無い胸を――見た目通りの年なら、なくて当然だが――をそらし、少し上機嫌そうに「レミィ」は話す。この時、彼女のもとから赤い眼は平常よりまして紅く、紅くなっていた。
「狙いはどうやら私のようね。見るからにヴァンパイアハンターだもの。銀のナイフをいっぱい持ってね」
「そう。」
目を赤くして興奮気味の、今の言葉から吸血鬼を予測できるであろう少女とは裏腹にとても面倒な顔をした少女はこれもまた無関心に返す。そして返す言葉をつなげる。
「ここには入れないようにね、レミィ。あと、さっさと出て行って」
「あら、薄情。友人なら「助けるわ」だとかいうものよ?」
そう言葉を返したが、パチュリーはもう魔法に意識を向けてしまった。そして言葉を返すのにあきらめた、というより早く戦いたげな吸血鬼の彼女は
「じゃあ魔法の方、頑張ってね」
と言って部屋を後にしてしまった。部屋に残されたもう一人の少女は魔法を紡ぐ。そう、空間と空間とをつなぐ魔法を。そして…
とりあえず導入になります。