研究会の後、ロムルスは紅魔館の外へ出ていた。空は少し明るくなってきたころ合いから明け方だろうと思われる。しかし、その傍らに昨日からついてきていた吸血鬼の妹の姿はなかった。
つい先程までロムルス、フランドール、パチュリーの三人はパチュリーの部屋である図書館で
だが、捨虫の術を使用しているパチュリーはいいとして、フランドールは吸血鬼にしろ睡眠は必要なうえにロムルスに至っては人間である。活動の限界が来るのは明白であった。
「うぅん…。眠くなってきちゃった…」
先に眠気を言葉に出したのはフランドールであった。ロムルスは眠くなくなるおまじないだ、などといって自分に集気法をかけ、集中力を一時的にではあったが眠気を無視していた。だが、あくまで一時的なものであったのかフランドールがそういうと、それに賛同するように
「ふむ…あれからずっと魔術を使っていたからさすがに私も眠くなってきたな…」
と同調した。
そんな中、パチュリーはどこ吹く風と言う様で魔術の試行錯誤を重ねていた。だが、それもフランドールのある行動により中止せざるを得なくなってしまった。
「パチュリー、一緒に寝ようよ」
そういいフランドールはパチュリーを引っ張りベットへ連れ込もうとした。当然、パチュリーもそれを無視することはできない。
「私は寝なくても大丈夫ですから。…そんな引っ張らないでください…」
フランドールは見た目は幼くても、強靭な体と強大な魔力を持った吸血鬼である。魔力はあるが力の弱い魔法使いのパチュリーが、フランドールとの力比べに勝てる道理はなかった。
「わかりました…。一緒に寝ますから、引っ張らないでください…」
そういいあいながら二人はベットへと移動していった。
ロムルスも近くにあった椅子に腰かけ、眠ろうとしたのかそのまま目を閉じた。しかし、それも先ほどのパチュリーと同じような目にあってしまった。
「お兄さんもこっちで寝ようよ。そんな椅子じゃ休めないよ?」
「・・・ん、私もか?」
そう、彼もフランドールに呼ばれてしまったのである。出会って間もない男女が同衾するのを許す観念を持ち合わせていなかったロムルスは、それを困り顔で断った。だが、
「そんなかたくならないでよお兄さん。パチュリーもいいって言ってるよ。」
そういいフランドールも食い下がる。最後の言葉を聞いたパチュリーは真っ先にそんなことは、と反論した。
ロムルスもそんな助け船にすがるかのように言い返した。
「ほら、パチュリーもああいってる。・・・一緒に寝るならまた今度でもいいだろう」
「じゃあ・・・約束だよ?今度は一緒に寝てくれるって」
「わかったよ。さ、はやく寝るんだ。今日は慣れないことをして疲れているはずだ」
ロムルスは苦し紛れの約束をして、フランドールを引き下がらせた。彼女もそれで納得したのか、はーいと言ってしぶしぶパチュリーの待つベッドへともぐりこんでいった。
そうしてなんとか一人で眠りにつくことに成功したロムルスは、こうしてただ一人早朝に起きていたのである。一人で出歩きたかった理由は、朝早くにフランドールを起こすのはかわいそうというためであった。――単純に眠気はある上に、朝焼けは吸血鬼にはおそらく気持ちの良くないものであるから、正解なのだろう。
ふらふらと紅魔館の敷地を歩いていると、彼はふと門番をしているといった娘との約束を思い出した。手合せをしてくださいね、と言われていた約束である。
「門番と言うくらいだから、門に行けば会えるか」
そういい、彼は門のある方向へと向っていった。
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「そういえば、私の国の門番もしっかり働いてくれていたな…」
私はいつ国へ帰ってきても真面目に、ご苦労様ですと言ってくれていた門番のことを思い出した。…忌々しいアリになってしまった者も、その後続の者もよく働いてくれていた。目の前にいる彼女――こちらには気づいていないようだ、もまだ朝も早いというのに門番を務めていた。…拳法の練習をしながらではあるが。
「美鈴、精が出るな」
「あっ、ロムルスさん。おはようございます。随分と早起きですね」
「あぁ、美鈴との約束を思い出してな」
私がそこまで言うと、美鈴はその赤い髪を揺らしながら少し考え始める。そして思いだしたのかパッとした表情で、思い出したように口を開いた。
「あ!もしかして手合せのことですか?覚えていてくれたんですね」
「その通りだ。今からでも大丈夫か?」
「ええ、問題ありませんよ。場所はちょうど開けてますしここでいいですか?」
「これだけ広ければ十分だろう。魔術抜きで、拳と拳。まっすぐ戦おうではないか」
私がそういうと彼女もとてもうれしそうに返事をした。…門番だけではつまらないのだろう。
「はい!私、戦う前からわくわくしちゃいますよ」
「そうかそうか。なら私も全力でその期待に応えよう」
お互い、話しながら移動はし終えていたのでその場ですぐに戦えるほど間合いになっている。今は手合せだから手出しはしない、されないと美鈴は考えているのだろうが「闘争」ならばすぐにでも拳を交じあわせることとなる。・・・今回は私の方で合図を出すことにした。
「では美鈴、いくぞ…!」
構えをとる。私がそうすると美鈴もすぐさま構えをとる。美鈴は握拳で左手を前に出し、右手は防御に。基本的な構えである。私は開手で左手は下へ向け頭の方へ。右手も下へ向け腰の位置へ。
そうして少し見合っているうちに美鈴が先に突っかけてくる。すさまじい速さだ。おそらくつっかけたスピードを拳に乗せ打ち出す、
――が、それは明らかに戦力の分析ができていない証拠。来た拳を身を切りよけ、体を切るのと同時に左掌底で顎をかすめさせる。・・私がその二つの動作を行ったと同時に美鈴の意識は吹き飛び、体はその勢いをのせて崩れ落ちていった。ひとまず、倒れた彼女の背に手を当て声をかけてみた。
「甘いな、美鈴。ほら、大丈夫か」
「・・・えっ。いったい何が…?」
「顎をかすめてあれだけ拳に速さをのせられるのはいいが、如何せん直線的すぎる。あれでは私くらいならよけれてしまうぞ」
「えぇー・・・。あれ、一応人間の達人とか言われてる人にも通用したんですけど…」
「むっ、まるで私が人間でないような言い草だな」
私がそう茶化すと美鈴は困った顔で謝ってくる。・・・からかいがいのある娘のようだ。確かにあの速さなら大抵の者には通じるだろうが…とりあえずあれを使う、というのは関心はしない。
そのことを美鈴に伝えると、また困った顔で話し始めた。
「うーん…。じゃあロムルスさんくらいの人を相手にしたときって、どうすればいいんでしょうか?」
「手合せでも、遠慮せずに不意打ちしてもよかったんだ。一応合図は出したが、不意を突くのも大切なことだ」
「・・・ずるくないですか?」
「美鈴、これが闘いならばお前はもう死んでいるんだぞ」
「それはそうですけど…手合せですし…」
「手合せは戦いの練習だろう。練習でできないことが実戦でできるとは思えないな。」
自分でもわかっているが、少し感情を表に出しすぎている。だが、戦いには真面目でいたい。その事は美鈴にもわかってもらいたいのだ。伝わるといいのだが…。
「すまない、少し言い過ぎたな」
「いえ・・・こっちも当然のことを言われてたのに…。すいません」
美鈴に謝るとあちらもそう返してくる。私が声のかけ方に困っていると、先に美鈴が口を開いた。
「すいませんでしたロムルスさん。こっちから誘ったっていうのにこんな空気にしちゃって。もう一回やりましょう。仕切り直しです、仕切り直し」
「・・・そうだな。そうしよう」
仕切り直し。私にも非はあるが、美鈴が明るい性格で助かった調子になった。この様子なら先ほどのような過ちも犯さないだろう。私はそう思う。
そう頭の中で考えつつ、先ほどのように距離をとるために少し移動する。だが、移動して美鈴の方へ目を向けると、先ほどまでいた彼女の姿はもうなかった。泡飛沫のように消え去ってしまった――ように見える。
「ハァッ!」
気合がこもった一撃が背後から迫るのを感じた。美鈴は私に後ろからの奇襲を仕掛けていたのだ。
だがそれは気迫が強すぎる。だから、私に感づかれる。
「甘い!」
後ろから迫っていたのは美鈴の後ろ回し蹴りであった。私はそれを振り向き様に腕で横にいなす。
美鈴は横へいなされた足を地へつけ、軸足をそちらへ入れ変え今度は正拳突きを繰り出す。
先程の回転の威力が加わった突きの威力はかなりのものだと推測し、私はそれを足の膝と攻撃をいなすために使った腕による、はさみ殺しを実行する。
「フンッ」
「あぐっ・・・!?」
おそらく必中を狙ったであろう突きは私の防御の前に受け止められるどころか、腕を膝と肘で挟むことによる苦痛を受けることになった。美鈴はその苦痛に顔をゆがませる。だが、彼女の闘志は衰えず。挟まれた腕を引き抜き、反対の腕で再び突きを繰り出してくる。
「ソバット!」
ソバット。その技の横回転により攻撃をよけ、攻撃を叩き込む。美鈴はそれを見切ることができず、横殴りの衝撃により吹き飛ばされることとなった。
「いたたた・・・。やっぱり奇襲もダメじゃないですかぁ。」
「気配が強すぎる。攻撃が当たる瞬間まで気配は殺さないとな」
「うぅ・・・精進します・・・」
「その意気だ。まだ、やるか?」
「まだ明け方ですし、朝食まででも大丈夫ですか?」
「いいぞ、のぞむところだ」
「なるほど、だから美鈴はボロボロなのね」
「すまない美鈴。私が手を抜かなかったせいで・・・」
「いえ、ロムルスさんは悪くないですっ」
今現在、目の前にはレミリア、横には美鈴が立っている。結局、私たちの手合せは朝食の時間の直前まで続き、戦った体のままで赴くことになった。今言ったように手を抜かない――もちろん殺気はないが、で戦ったせいで美鈴はところどころ服が破れている。・・・私は、美鈴の攻撃で地に伏すことはなく、というより攻撃はすべていなしていたせいで当たることはなかった。少し、申し訳ない気持ちではある。
そうして朝食の前に、朝であるにもかかわらず平然と起きている吸血鬼は、私たちの姿を見るや否やな色々と問いただしてきたのだ。
そして、レミリアはなにやら不敵な笑みを浮かべている。
「私は、朝食に遅れた輩には罰が必要と思うわ」
やたらと――幼い声で頑張った、ネットリとした声で私たちに問いかけてくる。そして私にとって運が悪かったのは、それに賛同するものがいたからだ。
「そうねーお姉さま。私を置いてけぼりにした誰かさんには罰が必要だよ」
「フラン・・・」
賛同者はフランである。今更ながら早朝の行動を後悔してしまう。
「フランを朝日にさらすわけにいかないだろう。誤解なんだ」
「それでも一声かけるとか、何かメモでも残せばよかったじゃない。いきなり一人にされると、寂しいもの・・・」
「・・・すまなかった、フラン」
弁解はしようとしたものの、フランの言い分も理はある。事情が分かる者ならばわかることだろう。少し、配慮が足りなかった。
「ちょっと貴方たち、一緒に寝てたの?」
「待て、寝てないぞレミリア」
話を聞いていたレミリアが突然反応する。反応した理由はわからないでもないが、今は話がこじれるだけだ。…何やら約束事が増えそうな気配がする。
「…まぁそのことはいいわ。今は貴方たちが遅れたことへの処罰を考えないとね」
「処罰は確定か…」
「すいません…」
こうして私は、話に聞く石船でも背負ったかのような気持ちで一日を迎えることになった。…倉庫に送れないだろうか?
以上になります