ゆめまぼろしの皇帝と楽園の住人   作:あだもすてー

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水煙

 処罰は後で考えるとして、今は食事ね。

 

 レミリアのその一言でロムルス、美鈴はひとまずの安堵のため息をついた。だがそれは散った火花の粉ように一瞬のものであった。

「何を安心しているのかは知らないけど、食べ終わったら即刻断罪の刃は振り落されること、忘れないように」

 続いて放たれたレミリアの言葉により、彼ら二人は再び時間が遡るように現実へと引き戻されてしまった。

 

 

 

「さてと、覚悟はいいかしら二人とも」

「覚悟してもらわなきゃ困るわ、お姉さま」

 ロムルス、美鈴にとっては、気の思いやられる朝の食事は二人の吸血鬼のとても楽しげな声が終わりを告げる笛の音となって食堂へ響いた。彼らが犯した過ちは朝食に遅れるということであったが、パチュリーなどは日ごろから遅れたりそもそも来ないようであった。現にいまパチュリーの姿はなく、おそらく昨日の続きを一人でしているものと思われる。

 その待遇の差に、美鈴は仕方ないといった顔で。ロムルスは自分の弱みを握った今のレミリアに何を言っても通じないのだろうと覚悟を完了した状態で黙っていた。そんな二人の顔を見たレミリアは少しにこやかにして話し始めた。

「まぁ、そんなに縮こまらなくてもいいわよ。正直美鈴には特に何もないわ」

「え?そ、そうなんですか?」

「えぇ。門の近くにちゃんといたし、寝てたわけでもないでしょう?じゃあ門番としては働いていたわ。問題はこっちよ」

「私のことか…」

 この時点で明らかにロムルスと美鈴の表情は対照的なものになっていた。美鈴はロムルスに申し訳なさそうに喜んでいる。そしてロムルスは心の内では納得の行かないようではあるがそれを表に出そうとはしていなかった。レミリアにどやされるからだろう、表情はどうにかその気持ちを押し殺した様子となっている。

「反論はないのね。…殊勝な心がけだわ」

「…出来る限りなんでも言うことを聞いてやるさ」

 なんでも。言うには簡単なだが、いざ実行するにはとても難しいもの。そんな言葉をロムルスは言ってしまった。言った当人も直後に事の重要性に気づいたが、彼が訂正をしようとした前にレミリアはすでに言葉を発していた。

「なんでもっていうなら…あなたの血でも吸わせてもらおうかしら?」

「くっ…。そうくるか…」

 血を吸う鬼と書いて吸血鬼。レミリアはその吸血鬼たる由縁に則ったことを言ったまでである。だが、ロムルスからすればそれは彼女の眷属になれとでも言ってるようなものでもあった。

当然、彼は黙ってはいなかった。

「…吸血鬼になるのはいただけないな。前にも言ったが私は旅人だ。だから陽のでてる間は外出できないのはもってのほかなんだ」

「ちょうどいいよお兄さん。旅しないでここにいればいいじゃない。私はお兄さんにここにいてほしいもの。」

 ロムルスの反論に反旗を翻したのはフランドールであった。自分の素直な気持ちを全面に押し出した言葉ではあったが、ロムルスは首をひねりながら唸った。

 そのやり取りを見ていたレミリアは、その反論が来ることは知っていたかのように顔をゆがませていた。

 不敵に微笑みながらレミリアは話し始めた。

「そんなことなら簡単よ。吸血鬼にならなきゃいいだけよ」

「…詳しく聞かせてもらおうか」

「私をそん所そこらの吸血鬼を一緒にしてもらっちゃ困るわ。吸血鬼にしないで血を吸うことくらい簡単よ。」

「…それなら、私は構わない。レミリアを信じよう」

「ふふ…。聞き分けのいい執事(バトラー)ね。いいわ、こっちに来なさい」

 レミリアにそう言われるがままにロムルスは彼女の元へ歩みを進める。その足取りはどこか浮足立ったような、緊張したようなものであったのは傍から見ていたフランドールや美鈴の目からも確かなものであった。

 そうしてとうとう彼女の元へ彼はたどり着く。膝立ちになり、首を差し出すロムルス。

 レミリアは値踏みでもするかのように、彼の金髪に少し隠れた褐色の首筋を見つめる。その顔は舌舐めずりでもしようかというくらいの表情となっている。

 

 そして目標を定め終わったか、レミリアはキスでもするかのように血を吸い始めた。ロムルスは少し呻いてそれを受け入れる。その顔色は気持ち赤みがかかったようにも見える。

 対してレミリアはロムルスに抱き付くかのように手をまわし、吸血をする。そして吸った血を口内で転がし、味を確かめながら彼の血を嚥下した。

 そうして広間の時計の針が少し動いたあたりでロムルスは声を絞り出すようにしてあげた。

「もう、いいんじゃないか?」

「…ん、そうかしら?」

「そうよお姉さま。私もお兄さんの飲んでみたいし、そろそろ交代してほしいかな」

「フランもか…」

 

 ロムルスが血を吸われたからか、さきほどよりもだいぶ疲れたように返事をする。レミリアもその姿を見てか、首にはもう歯を立ててはいなかった。

 

「…もう少し飲みたいけど、いいわ。今日のところは終わりにしてあげる。また吸ってあげるわ」

「出来ればやめてほしい…。なぜか心地よく感じるが…血が減ったからか、やはりふらふらする」

「まっ、また元気なときにするわ。フランも今は我慢しておきなさい」

「うーん…わかった。本当にお兄さん、倒れちゃいそうだもん」

 

 そうして、ようやくロムルスはレミリアから解放された。彼は全てを出したかのように呆けた表情をして、首に手を当てつつ、立ち上がる。

 

「…。あなたがそんな顔をするなんて、ちょっと飲みすぎたかしら」

「私がこのまま死んでも、後悔後先たたずだからな、レミリア」

「…まぁ、死ぬことはないでしょう」

 

 二人が少し物騒な会話をしていると、それにはいってきたのはフランドールであった。

「ところでお兄さん、私には何もしてくれてないけどこれからどうするの?」

「そうだな…少し、休ませてもらいたいな。さすがにこれでは…」

「つまり、いまから寝るってことでいいのかな?」

 ここまでくると今は頭の回らないロムルスでもようやく理解はできたようで、なるほど、とでも言いたげな顔でフランドールへの返答を兼ねて、レミリアに自分の予定を告げた。

「そういうことか。私は自分の部屋で寝ようと思う。それでもいいか、レミリア」

「…別にかまわないわ。ただし、目覚めたらその時は執事として働いてもらうわ」

「了解した。というわけで、私は今から寝るがフランはどうする?」

「ふふ、お兄さんったらわかってるくせに」

 フランドールのその返事が合図になったのか、ロムルスは彼に与えられた部屋へ彼女とともに向っていった。

 その後姿を、レミリアは黙って、じっと見つめていた。

 そして美鈴は安心しきっていたせいで何も話せていなかったことにより、この広間に居づらく感じたのかあたふたと、自らの主人へ一礼をして部屋を後にした。

 

 

 

 

 ロムルスは部屋へたどり着くと、誘蛾灯に集まる蛾のようにベッドへと向っていった。本来の彼ならば付き添ってきたフランドールへ声をかけてから寝るのだろうが、今回は少々事情が変わっている。

 それでもフランドールは彼に続くようにベッドにもぐりこんでいった。少し、満足そうな表情を浮かべて。

「お兄さん…いくらなんでも演技が過ぎないかしら?」

「演技だなんて、そんなことはないぞ」

 ロムルスがそう反論すると、フランドールは目を細ばせ、まさにくすくすと無邪気に笑い、ロムルスに語り掛けた。

「お姉さまと戦いあえる人があの程度の血を流して戦ったことがないだなんて、思えないわ。そうよね、お兄さん?」

「…まったく、甘えてるようで目が鋭いなフラン。ばれていたか」

「少しパチュリーに話を聞いといてよかったわ。会った後だけの印象だと、魔法ばかり強いのかと勘違いするところだったわ。でも、なんであんな演技をしたの?」

「私がとても疲れるから、というのと何回も吸血されたらたまったものじゃないからだ」

「まぁ、それは疲れるでしょ。でも実際は騙せると思ってはないんでしょ?」

「騙せていたらいいかな程度にな。それにそう何度も血を吸われて、間違えたなんて言われて吸血鬼化したらどうなることか」

 そこまでロムルスが話すと、フランドールはそろそろ本題に入りたいのか、話の主導権を握るために流れを断ち切るように、 

「…それもそうね。それはそれとして…。お兄さん、今は一緒に寝ましょ?」

「そうだな。さて、してほしいことは何かあるか?」

「じゃあ…えい」

 そういいフランドールは上機嫌なままロムルスに抱き付く。その小さい体をロムルスの体へとしっかりと密着させた。身体年齢の差もあるのだろうが、ロムルスのその体は一般的な男性の体よりも逞しいものであった。

 フランドールは背中にまわした手と密着させたその体で彼の強さを感じ取っていた。彼女も思わずその手を動かし、その体を、引き締まった筋肉をまさぐった。

「お兄さん、抱き付くと改めてわかるけどすごい体してるね」

「一応、旅をしながら鍛えてはいたからな。鍛錬を怠ったことはないな」

 ロムルスがそう思い返すように独り言のように話すと、フランドールは次に猫のように顔をこすりつける。だが鼻はまるで犬のようにすんすん、と嗅いでいく。するとフランドールは呼吸と声が混じったような声になっていないような音を上げてその感想を言った。

「あはっ…お兄さん、ご飯の前に美鈴と戦ってたからかな?においがすごくわかる…。」

「ん、汗臭かったか」

「別に臭くなんてないよ?とてもいい匂い…。ずっと嗅いでたいくらい」

 フランドールが自分に素直な感想を言い切ると、ロムルスはそれを困り顔で笑った。そして、そうだ、と言ってロムルスはフランドールに話しかけた。

「風呂に入って寝てしまおう。寝るのはそのあとにする」

「お風呂?じゃあ私も一緒に行くわ」

 フランドールが一緒に行く、といった時点でロムルスは嫌な予感がした。ロムルスが浴場へ行くのは美鈴と戦って汗臭いからというのはだれにでもわかることだが、フランドールも行くというのはどういうことを意味するかロムルスにはすぐにわかることであった。

「…まさか」

「さっきの今はいいって発言、撤回するね。一緒に入りましょ」

「やはりか…。まぁ、しょうがないか」

「決まりね!じゃあ善は急げっていうし、早くいきましょう!」

 ロムルスはすこし呆れ気味でわかった、と返すがそれとは対照的にフランドールの顔は今日一番の笑顔だった。

 二人はそのテンションのまま、彼の部屋を後にし風呂へと向かった。

 

 

 脱衣所に着き、ロムルスは足早に浴場へと入っていく。一方フランドールは鼻歌交じりに、とても楽しそうにしてのんびりと服を脱いでいた。

 その浴場は館の広大さにあった、適度に豪奢なつくりなっていた。

 基本的な構造はロムルスの世界のものと何ら変わりはなかったので、彼は迷うこともなくひとまずその体についた汗を流した。

 そのまま彼が体を洗っているとフランドールも浴場へと入ってきた。彼女はロムルスを見つけると、ひとまずと彼の隣へと移動し、一緒になって体を洗い始めた。

 傍からみると同じ色合いの金髪をあいまって親子か兄妹のようにも見える。が、それは見た目だけの話であって年齢的には全く逆のものとなってしまうのである。

 

 ――そのように何気なく、ロムルスは考えるとそのあべこべさが少しおかしかったのか、自身の肢体を洗いながら少し笑ってしまった。

 フランドールはその様子を頭をかしげながら見てはいたが、彼が何を考えていたかはわからないようで、すぐに体を洗うことに意識を戻した。

 そしてそのまま静かに二人は体を洗い終わり、二人だけで入るには大きすぎる浴槽へと入っていく。

 だがそこでフランドールは広い浴槽にもかかわらず、あえてロムルスの横からは離れようとはしなかった。

「はぁっ…、気持ちいい…。お兄さんはどう?」

「とてもいい湯加減だ。広い風呂はやはりくつろげていいものだな…」

「旅をしてたらこんなお風呂に入れないよ?」

 フランドールのその発言がロムルスには自らを引き止めるように聞こえた。フランドールのほうも少しそのニュアンスを含めたような言い方だったので、結果的にその気持ちはうまく伝わったようだ。

 ロムルスもそれを微笑みながら、

「そんなに言わなくても、すぐにはいなくならないさ。そこまで不安にならないでもいいんだ」

「ふぅん…?じゃあお兄さんがまた何かやっちゃったら今度はそういうお願いでもしようかなっ?」

「出来るだけ気を付けるようにしよう。レミリアにも何か言われそうだしな」

 

 最後の言葉をロムルスはにこやかに、やわらかい表情でしゃべっていたがフランドールの顔は真剣そのものであった。




以上になります。
とてつもなく遅れてしまいました。申し訳ないです。
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