希望への望郷
紅魔館、ここには先日二人の来客がいた。
一人は元バレンヌ帝国最終皇帝ロムルス。この館の主である吸血とあいまみえ、たった一人の人間である自身の力をもって相打ちの形にまで持ち込んだ。彼女のことを知っている人類がいれば英雄ともいわれるような偉業を成し遂げた男である。
そして彼はその吸血鬼に気に入られ、紅魔館で働く身となっている。今も慣れない手つきながらも料理や、館でメイドとして働いている妖精の指揮を執っている。――従僕やフットマンとしては何もしてはいないが例外的になのだろうか、すぐさま執事として扱われることとなった。
彼は今のところの主人ということにしている、レミリアの行動に自分のスケジュールを合わせていた。レミリアは反対していたものの、彼は夜に起き、日中は眠る、昼夜逆転のような生活を送っていた。ただ、やはりいきなり生活のリズムを変えるとなるとさすがの彼でも体調を崩す原因となっていた。
そんなある日、初めてロムルスが自分の思い通りのことになったことにレミリアはとても複雑な気持ちを抱きつつ、執事として自室に来ていた彼に普通の生活をすすめていた。
「ねぇ…別に無理しなくてもいいのよ?生活を変えるにしても少しずつでもいいから」
「…ばれていたか。すまない、そうさせてもらおう」
「というより、別に無理に執事をしてもらってるわけじゃないしそんなに気にしないでもいいのよ?ある程度気を抜いてやってもいいし」
「やるからにはある程度しっかりとしないとな。…生活リズムの方も少しずつ合わせていくさ」
「…まぁ無理しない程度にね」
また、執事として働くにあたって与えられる自由時間にはパチュリーと共に魔法の研究をしたり、フランドールに絡まれてそれに付き合うなどをして過ごしていた。
今回もほとんど日環の一部としてパチュリーの部屋へと途中絡まれたフランドールと共に赴いている。やることと言えばやはり魔法の研究である。
「ふんふんふーん」
「楽しそうだな、フラン」
「うん!新しいことができるようになるってやっぱり楽しい!」
「そういう気質は魔法使いに向いているかもしれませんね」
「ふふっ魔法少女ってところかしら。こう、杖でバッーって」
そういいつつフランドールは自らの持つ歪な棒状のものを振り回した。パチュリーはそれを見て少し慌て気味にやめてくださいね、と軽く注意をしていた。
そんな日々を彼は過ごしていた。以前とはくらべものもつかない平穏な生活を。
そしてもうひとり、年端もそういってはいない精悍な顔立ちをした女性、少女と言った方がいいだろうか。その少女もこの紅魔館に生きた状態で館にいた。この少女はヴァンパイアハンターとしてこの館へと入り込み、門番を打ち倒し、仇敵に挑み、そして敗北を喫した。それも歴然とした力を見せつけられての惨敗であった。
前述の彼に比べたらはるかに劣るものの、人類にしてはかなりの腕前でありレミリアにもそれは認められ、殺されずに生かされてしまっている。そしてレミリアとの戦闘の後遺症か、眠り続けてしまっている。
彼女は、あの夜吸血鬼に敗れた彼女はまるで死んだかのようであった。だがその眠りはある時突然終わり、ようやく現実世界へと引き戻された。
少女は体をベットから起こすと、自分がどこだかわからない場所で眠りについていたせいか、しきりにあたりを見回した。そうして見ていると一つの人影が目に入る。それは彼女がどこかで見たものであった。
その人影の正体は大きな翼とそれとは対照的な小さな体をもつ、吸血鬼レミリア・スカーレットであった。おそらく以前の彼女ならばすぐにでも起き上がるところなのだろうが、歯車の動いていないからくり人形のように、まるで動くそぶりも見せなかった。
「ごきげんよう。…ようこそ、新しい世界へ」
レミリアはそう言い放ち、
紅魔館は今、暗く深い夜である。門番は眠りにつき門前も無人となっている。なぜ夜に見張りがいないか。それはとても簡単な理由で、館にいる主人がお守りがいるような存在ではない、それだけのことであった。――襲撃の際には一応、館の守衛として働くが。
とにかく、この館の危険度が増すのは間違いなく夜、とくに深夜であることはここを知る者がいれば確かなことであった。
この館では深夜に明かりがついているのは普通である。ロムルスもそれに慣れるために少しずつ、少しずつ眠る時間をレミリアへと合わせている。その涙ぐましい努力の賜物か、丑三つ時といったところだろうか。普通ならば彼はとっくに夢の世界へと滑り落ちているこの時間でも起きていられた。
そんな彼が夜にレミリアへの従事に励むべく、豪華な館の廊下を奔走している。
「あら、ご苦労様、ロムルス」
「ん?あぁレミリア。私は頑張っているよ」
そんなロムルスに声をかけたのはレミリア・スカーレットその人であった。気持ち程度の労いの言葉で彼女は挨拶をした。
「みたいね。まあ前も言ったけど…ね」
「うむ、そこは大丈夫だ。…と、こんばんはお嬢さん。どこかで見たような気もするが、どうだったか」
「…」
ロムルスがレミリアへ向けていた注意を今度はレミリアの翼の後ろにいた件の少女へと向けた。ロムルスの言葉に少女はただ会釈をするのみであったが、それでもロムルスは構わなかったのか微笑みかけた後にレミリアに再び視線を戻す。
「その娘は…あの時の娘か?」
「今を刻む時計と過去を刻んでいた時計、それが同じものと言えるならそうかもね」
「…つまり?」
「敗者の代償よ。今のこの娘の名前は、十六夜咲夜によ」
「イザヨイ…十六夜
ロムルスは東の国に住む、イーストガードたちの記憶を思い浮かべた。彼らも似たような使い方をする言語を使っていたからである。
「咲夜よ。咲く夜ね」
「なるほど。てっきり十六夜月の昨晩で満月、だなんて吸血鬼らしいような名前かと思ったが。確かにその書き方の方が名前らしいな」
「ふっ、大体当たってるのが悔しいわね。説明してやろうと思ったのに」
そういい少し悔しそうなそぶりをレミリアは見せながら、後ろにいた少女――レミリアよりは背丈が大きいが、を前に呼び何か言いなさいよ、と挨拶を促した。
「…初めまして。十六夜、咲夜です。どうぞよろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく頼むよ咲夜。私の名前は先程から呼ばれている通りだ」
そうお互い自己紹介をすると咲夜はまるで幻でも見るかのようにロムルスを凝視していた。ロムルスはそれを何も言わずに見守ってはいたが、しばらくそうしているとしびれを切らしたレミリアが黙ってはいなかった。
「ああ、もう。話は済んだら何か言いなさいよ。で、咲夜はロムルスに仕事を教えてもらいなさい。とりあえず今はメイド見習いとして置いておくから。頑張りなさいよ」
そういってレミリアはほとんど匙を投げる形でロムルスの二の腕あたりを――本当は肩のあたりでも叩きたかったのだろうか、たたいてその場を後にした。
「ということらしいが…何か聞いているかな?」
「…ええ。ここでこき使ってやるわ、と言ってました」
「まあ、ほどほどにするようにはレミリアに言っておくさ」
「そうですか。感謝します」
「そんなに肩肘張らないでもいいぞ。そうされると私も堅苦しいからな」
「…すいません、まだ慣れなくて」
「まあそのうち変えていけばいい。とりあえず今は仕事をしよう」
「わかりました」
そういって二人も話を切り上げて、今すべき仕事に向っていった。
今ロムルスは咲夜にこの館の配置や、仕事内容の説明をしていた。彼女は彼の話を真面目に聞いているようで、ロムルスの背後に何も言わずにつきそっている。今の二人の服装は、ロムルスは白のシャツに黒のスーツと言ったいたって普通の執事の服装をしている。そして咲夜の方もごく普通のメイド服を着ている。
「ところで咲夜、ここに来る前は何をしていたんだ?」
ロムルスはあの夜の戦いの時に彼女を見はしたが、暗かったこともあり顔までは覚えていないのかそう質問した。だが、その質問に咲夜は身じろぎもしないでいる。
声が返ってこないのでロムルスは後ろを振り向き再びその名前を呼ぶとようやく彼女は反応した。
「すいません、まだ…その名前に慣れていないもので」
「…咲夜、君には何があったんだ?」
「私は…」
彼女はそういって少し何も言わないでいると、ずるずると、ゆっくり話し始めた。
「私は、あのレミリア・スカーレットを倒すためにここへ来たこと、自分が何を今までしていたかは覚えて得います。ただ、ここへ来た時にあなたのような人間がいたことと、自分の名前は忘れたというか…、何か違和感があります」
「私のことは後で説明するとして…名前に違和感とはどういうことなんだ?」
「…なんというか、絵を上から別の色で塗りつぶしたような…」
「本来の名前のようなものでないということか?」
「ええ…。今の、私の名前が本名だと言われたら確かにそうだと思うのですが…。どうもほかに名前のあるような違和感を感じます」
「そうか…。そこのあたりは私は何もされてないようだからなんとも言えないか。魔法使いがここにいるから彼女の力を借りた可能性はあるな。あとはレミリアを倒しに来たのに今はそんな敵意もない、というのか?」
「はい、本当に何も。なぜ彼女を襲撃したかも今ではわかりません。…ところで、ロムルスさん。あなたはなぜここに?」
「私の方は色々とあってここに召喚されてしまったのだ。そのあとレミリアにここで働かせてもらうことになった」
「吸血鬼が、人間を、ですか。何ごともなくですか?」
咲夜がそうロムルスに今までの受け身の受け答えから変わり、問いただすような少しあらただしいような聞き方をしてしまった。ロムルスはそのことは特に気にすることもなく、少し苦笑いをしながら話し始めた。
「その、なんだ。あれの口車にのせられて戦うことになってしまったんだ。そこでどうにかあがいてみたら、何やら気に入られたみたいなんだ」
ロムルスの言葉が聞こえた瞬間、咲夜は体の内からかたまりつく感覚を覚えた。おそらく彼女のまだ半分も過ぎていない人生の中、いやこれからの彼女の人生の中でも最大となるであろう感情の揺れ動きであったろう。
「…え。…勝敗は?」
「相打ちだ。お互い倒れてしまったんだ」
「あい、あいうち?」
ロムルスはそう言っている咲夜の顔を改めて、見てみた。その年相応な若さの整った顔立ちは幽霊でもみたかのような顔に残念ながらなってしまっている。ロムルスは先ほどあった時から無表情であったその顔に初めて感情が表でたのを少し面白がったのか、それともうれしかったのか、先程の苦笑いとは違う笑い方をした。
「相打ちだ。彼女は強いからまた戦ったらどうなるかわからないだろう」
「ちょ、ちょっと待ってください。普通の人間が、どうやったらあの吸血鬼と相打ちにもつれこませれるんですか!?」
咲夜のその言葉にロムルスは昔に言われていたことと似たような、だが正反対の感覚を覚えた。
確かに傍から見ればロムルスは
その感覚にロムルスは懐かしく思えたようだが、それもすぐに過ぎ去り彼は咲夜の質問に答えることにした。
「先程召喚されたといったが、その実はこことは別の世界から召喚されたのだ。その世界での秘術である人の魂と記憶をそのままそっくり跡継ぎになるものへと引き継がせることができるものがある。伝承法と言ってな、私はそれの最後の伝承者だ。それのおかげで私は戦闘経験と知識はかなりあることになっている。大体三千年程の蓄積のたまものだ」
「三千年…。そんなものがあったのも驚きですが貴方が異世界から来たというのも驚きですね。正直、信じがたいものです」
彼の返答に咲夜はかなり訝しげな、いくらなんでも、と言っているような表情でロムルスを、その細めた目で見つめる。ロムルスはやはり少し口角を吊り上げ、表情を緩めながら、
「レミリアにそのことは聞けばいい。おそらく同じように相打ちになったといってくれるはずだ。間違っても百聞は一見に如かずなんてことはやめておくれよ」
「…機会があれば、残念ながらお願いしたいですね。最初に見たときは連れ去られて来られたのかと心配でしたが…。それならまだどうにか」
「…その時はお手柔らかに頼むよ。お互いの事情も少し分かったことだ。これからも
「ふふっ、よろしくお願いします」
そうして気が付くと二人は力強く、手を結び合った。
二人は話もほどほどに、再び館を見て回っていた。
ほとんど使われた形跡のない客室の位置や、食堂、調理場、倉庫などの使用人として働くならばあらかた知っておいた方がいい場所をである。広いこの館を見て回るのはやはり時間がかかるもので、気が付けば夜は少し明け、朝焼けがほんのりと空を演出していた。
さて。
そういってロムルスは目の前にある、ほかの部屋より大きめのドアに手を当てた。彼ℬはここに最後に来ることにしていたらしく、これで最後の部屋だと付け加えていた。
「ここは紅魔館の大図書館になる。おそらくこの館で一番大きな部屋だ」
「…扉からもどれだけ広いかがなんとなくわかります」
「なかも見ておこう。一応この館に住んでいる者たちにも挨拶をしておこう」
「わかりました」
咲夜が短くそういったのをロムルスが確認すると、彼は扉を開き中へと入っていった。
彼女がその図書館へと入り最初に見たのは、天井まで届くかというほど大きな書棚。その書棚が部屋中にいくつもおかれ、一つ一つにびっしりと本が入っている。その納められている本も一つ一つが尋常ではない様子でいる。
そしてその書棚を置くのに似合うほどに大きなその部屋は、書棚の陰で暗くなるかと思えばそうなってはおらず、部屋のあちらこちらに光源があるようである。よく見るとその光はよくある、蝋燭やランプなどによるものではなく毛玉のようなものがあたりを照らし出していた。その光は炎による原始的な光源よりかははるかに鮮明で、それでいて明るすぎないちょうどよいものであった。
その様子に咲夜は溜息交じりの感嘆の声を漏らしていた。
「すごい…」
「私も最初に見たときは驚いた。一つの館が所有するには過ぎるようなものだと感じたよ」
「これは…全部魔法なんですか?」
「そうみたいだ。詳しくはこの部屋にいる魔法使いに聞いてくれるといいだろう」
「魔法使い…この館には魔法使いもいるのですか」
「ああ、ちなみに吸血鬼も二人だ」
「二人も…」
「多分この部屋にいるはずだからあっておくといいだろう」
「わかりました」
そうして二人が書棚の
あらたな人の気配をすぐさま感じ取ったもう一人の吸血鬼、フランドール・スカーレットはハッとしたように足跡の下方向へと振り向き、そしてその人を確認して顔を綻ばせてしまう様子になった。
「お兄さん!どうしたの?まだお仕事中じゃないの?」
「今日は後ろにいる娘にこの館を案内していたから紹介がてらに来たんだ。というわけで咲夜、この娘がフラン、フランドール・スカーレットだ」
「咲夜っていうのね。わたしの名前はフランドール。よろしくね、咲夜。」
「スカーレット…なるほど、姉妹だったのですか。よろしくお願いします」
「ああ、フランが妹だ。それと、奥で本を読み耽っているのが先ほど言った魔法使いのパチュリー・ノーレッジだ」
「おまけみたいに言わないでくれるかしら。まあ今言ってたとおりよ。本を読む時は私に言ってからにしなさい。危ない本もあるのよ」
「はい、よろしくお願いします」
そうして紅魔館の住民たちが自己紹介を終えるとあらためて咲夜が自らの紹介を手短に済ませ、次にロムルスが口火を切った。
「私も自由時間の時はここにはよく来ているから、何かあったら来るといいだろう。少なくとも1人はここにいるからな」
「なるほど、わかりました」
「ちょっと、私の部屋を屯する場所みたいに言わないでくれる!?」
パチュリーの精一杯の叫びにフランドールにはそれが可笑しかったのかくすくすと笑い、ロムルスもそれにつられてか否か一緒になって噴き出してしまった。
「いやぁすまないすまない。私は与えられた自由時間の時はほとんどここにいるからな。ほかに決まって誰かがいる場所もないんだ。…ふふ、すまないな」
「くっ…お互いにいろいろ教えあって使わせてるから強く言い出せない私が憎いわ。…まあいいわ。忙しいくなったら駆り出させてもらうから、そのかわりってことで使わせてあげる」
「はい、ありがとうございます」
あれやこれやがあり話は盛り上がっていたが、ここでフランドールの発言により少しその場の空気が変わったようになってしまった。
「ところで、お兄さんと咲夜ってどっちが強いの?」
まるで蛇ににらまれたようにロムルスは固まってしまった。ついさきほど危惧していたことにさっそく襲われてしまった形である。その原因が彼に好意を抱いているだろうフランドールというのも皮肉な話である。飼い犬に噛まれる、というよりも流れ弾が当たるという方がふさわしいのだろうか、それを先ほどの経緯がわからない彼女が起こしたのでロムルスもなんとも扱いに困る感情を抱きながらの返答になった。
「フラン、そんなことはどうでもいいじゃないのか?ただの使用人同士だ、強い弱いの話ではないだろう?」
諭すような精一杯の彼の言葉と願いは虚しく、その場にいる彼以外のものたちとの意思の共有は失敗に終わることになった。
まずはパチュリーが
「まあ面白そうだしやってもらいたいわね。あ、ここ使ってもいいわよ」
といい、次に咲夜も
「私からも是非。どれほどの腕前か私も興味があります」
言いつつ快諾、であった。
以上になります。また遅れました。
一人、主筋に加わり新章です。
おまけです
筋力 器用さ 魔力 素早さ 体力 所持技能
レミリア 25+ 20 22 25+ 18 槍:36 体術:36
たかが500年。