「どうしてこうなったのよ…」
目の前で紫色の服を着た少女が嘆いている。見た目は宮廷魔導士たちに似ているから魔法使いだろうか。
私は、確かにあの塔の装置を使ったはずだ。だが目を開けると、そこは大量の本と少女のいる明らかにどこかの家の、それもこの部屋の大きさからみるにおそらく相当大きい、館といった方がいいだろうか、その一室にいたのだ。
「なるほど…知らない場所だ」
「はぁ…あなた、何者かしら?」
私が言葉を発したのを察したのか、少女は嘆くのをやめ、質問をしてきた。
「突然失礼した。私は…私はただの旅人だ。名前はロムルスという」
名前だけの‘簡単’な自己紹介をする。ただ、突然現れた者を信用はできないだろう。
「…そう。まったく、なんで呪文を唱えたら人が出てくるのよ…」
警戒はしているがこわがってはいない様子である。むしろ何かしようとしたら反撃できるよう少し身構えている。身からあふれ出る魔力からもわかるがおそらく相当な実力者なのだろう。
「私もよくはわからないが、おそらくは私の使用した転移装置のせいだろう。ただ、君の魔法の影響もあるかもしれない。」
正直に話す。嘘をつくと後々話がこじれてしまうかもしれない。…信じてくれるかは別だ。
「転移装置、ねぇ…。面白いわねぇ。一体どういうものかしら?」
彼女は意外にも話に食いついてきた。ならばこちらも聞くことはある。
「その前に私も少し聞きたいことがある。ここがどこか、とかね」
「…。ここは紅魔館、私の友人が主を務める館よ。あなた、外にいる侵入者のお仲間かしら?」
「侵入者?私はそんな輩と付き合った覚えはないな」
「でも、信用はできないわね」
何か勘違いをされているようだ。確かに外からはバタバタ物音に交じって時折何かが爆発する音が聞こえる。音の原因はおそらく、彼女が言っている侵入者のせいだろう。
一つの部屋がこんな大きさだ、お宝の一つや二つはあるだろう。それを狙った侵入者なのかもしれない。
とりあえず恩を売っておいて損はないだろう。ならばやることは一つだ。
「それなら、私がその侵入者を倒せば信用してくれるかな?」
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魔法を唱えたら男が出てきた。何を私は言ってるのだろう、そう自問自答してしまう。
転移装置がどうのいっている。…もしかしたら引っ越しに使えるかも。
だがもちろん信用はできないので少しカマをかけてみた。するとなんということでしょう、彼(ロムルスと名乗ったわね)はなんと侵入者の討伐を名乗り出たではありませんか。
「行かないほうがいいんじゃないかしら。今は私の友人が戦っているだろうし」
「ふむ…。ならなおさらだ。ここの主とも話をつけれる」
そういい彼は飛び出していった。ここが図書館だと知ってかどうかはわからないけど、走りはしないみたいだ。
だけれど大丈夫なのだろうか。私は友人が、レミリア・スカーレットが吸血鬼とは言ってない。
まあ死んでも困らな…くはない。装置について何も聞いてない。
「今日はなんて日なの…。侵入者が来るわ魔法を唱えたら変な男が出てくるわ…はぁ…」
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紅魔館のおそらくは一番大きく、豪奢な部屋、――ホールといった方がいいだろう、そこで二人の少女が戦っていた。
一人は銀髪を肩のあたりに切りそろえ、黒の装束を身にまとう年頃は十代中頃ほどであろう少女。ナイフを両手に持ち、今の今まで戦っている最中であったとみうけることのできる、まさに臨戦態勢をとっている。だが、その体は荒々しく息を吸うために激しく上下している。
そして一人は淡い青色の髪と紅い帽子に、それと色をそろえた上品そうなドレスを着ている、先の少女よりもさらに幼い。そしてその背中には一見華奢に見える体に生えてるとは思えない、大きく立派な翼をはやしている。こちらは余裕綽々といった形だろうか、汗の一つも垂らしていない。
「ふふ…あなた、人間にしてはそれなりにできるようね。美鈴が倒されたのもわかるわ。だから私はあなたを殺すのが少し、ほんの少しだけどおしいわ。どうかしら、ここで働いてみない?妖精たちはあまり使い物にならないし、あなたのせいで数も少し…」
「黙れ!お前を倒す!必ず!この身に変えてでも…!」
突然、翼をはやしたこの館の主、レミリア・スカーレットが話し始めたのに対し、銀髪の、おそらくは先ほどから言われている侵入者と思しき彼女は息交じりの怒号でその言葉をはねのけた。だが、その言葉の威勢とは裏腹に体はその息遣いからかなり消耗しているように見える。
「なるほど…意志は固い、と。じゃあそうねぇ…。今日は月もよく見えて気分もいいわ。だから…あなたにはいいものをあげるわ」
侵入者に背を向け、部屋に合った大きな窓ガラスから見える月を眺め、謎めいた言葉をわたすレミリア。だが…、
「ふざけたことを言うな!」
そういいつつナイフを何本も、たて続けに侵入者は投げつける。だがレミリアはその翼にも目がついてるかのようすべてのナイフとよけてしまった。そしてよけつつ、まるで愛おしいものへ愛を囁くかのように侵入者の近くへ寄り、そして囁いた。
「私は話の途中よ?愚かな侵入者。ナイフのキレも随分悪くなってるようじゃない?」
事実、侵入者の彼女の体力はもうなく、ナイフの投擲の速さもかなり落ちている。なぜなら今の今までレミリアが戯れのように当たるか当たらないかの魔力弾、それも直撃すれば無事ではすみそうにないものを飛ばし、そして彼女はそれをよけていたからである。
「ハァ…ハァ…。ぐっ…。うるさい!」
そういいながら敵から距離をとる。彼女も自らの体力が尽きていることはとうにわかっていた。だがそれでも彼女は戦う意思をなくしたりはしないようだ。
「…もう、終わりにしましょう。あなたとこれ以上戦ってもつまらないわ。ちょっと眠ってなさいあなた」
レミリアの、その幼く見える体から出せるとは思えないほどの高速の拳による打突が正確に急所、水月を貫いた。その衝撃は人間を悶絶至らしめるには十分すぎるほどであった。
その衝撃に耐えきれず、銀髪の彼女は吹き飛び、そしてそれまでの疲労の蓄積により意識は暴風に吹き飛ばされるかのように消えてしまった。
「ふぅ…今まで来たヴァンパイアハンターの中では一番楽しめたかもしれないわね。で?あなたはどうなのかしら?…そこにいるのはわかってるわ」
殺気と歓喜を織り交ぜた言葉を部屋の入り口に向かい投げつける。そこから姿をあらわしたのは、褐色の肌とそれとは対照的な金色の髪をもつ、精悍な顔立ちの男であった。
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パチュリーのいた部屋から出た彼、ロムルスはその金色の髪をゆらしながら物音のする方へひたすら廊下走っていた。
「音には近づいているみたいだが…激しさは減っていく一方みたいだ」
ロムルスは音を頼りにひたすら広い廊下を走っていたが、同時にその音の激しさから戦いが終わりを告げようとしていることも同時に察していた。もしかしたら主は侵入者に殺されてしまうかもしれない。そんなことが脳裏によぎりながらも彼は走り続けた。そして目的地へとようやくたどり着いたとき、少し開かれた扉の先から物音が聞こえた。その時既に、うるさいほど鳴り響いていた騒音はすでにその音を潜めて、声のみが聞こえていた。
「女性が二人…話しているのかあれは?…!片方は…あれは…!」
彼の目に映った光景は、銀髪の少女と、翼をはやしたおそらく彼の世界でヴァンパイアと言われるだろう幼女の姿をしたものが対峙していた。
そうして彼がみていると、ヴァンパイアが少女をどうやら殴り飛ばし、戦いは終わりを告げた。服装的に侵入者はおそらく、あの黒装束の銀髪の少女に違いないだろう。だがそうなるともう一人はヴァンパイア。それが彼を多少、混乱させていた。つまり、銀髪の少女の方が侵入者とするとこの館の主、パチュリーの友人はあの幼く見えるヴァンパイアになるのだ。
そうやって思考を巡らせていると、彼の耳にまた声が聞こえてきた。
「今まで来たヴァンパイアハンターの中では一番楽しめたかもしれないわね。で?あなたはどうなのかしら?…そこにいるのはわかってるわ」
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今宵のハンターは格別だった。とても楽しい、楽しい戦いだった。人間が私にかなうなんて万に一つ、億に一つかもわからない。だけど吸血鬼狩りの者たちはその可能性に賭け、挑み、散っていく。この少女も年端もいかないが敢闘はした。だけど足りない。私には届かない。ただ、そんな人間はとても素晴らしいものだと思う。とても美しい。
だけど今はそんな余韻に浸るのはやめにする。また一人、この舞台に招かれたのだから。
舞台の役者に話しかけないのは失礼だろう、私は声を投げかけた。ただ、少し殺気を込めて。
すると現れたのは男だった。風貌は整った顔立ちに金髪。腰には剣と杖らしきものをぶら下げている。それに、何かの鱗のついた鎧とマントに手袋、足の部分に銀色の防具をつけている。見た目からしてハンターなのかは少し微妙なところ。もう少し軽装な者が多かった気がする。
ただ、重要なのは見た目じゃない。その身に纏う明らかに先の娘とは桁外れの、戦う者としての気迫だ。魔力はパチュリー程じゃないとは思うけどあそこに倒れてるのよりは確実に高い。総合的な戦闘力は思わず昂る(もしかしたら身震いかもしれない)ほどだ。
「あらあら…あなた、誰の許可をもらってここにきているのかしら?ここは私の城よ」
とりあえず挑発してみる。さて、どうでる?
「なるほど、貴女がこの館の主ということか。…突然の訪問、失礼した。私の名前はロムルス。おそらく貴方の…友人の魔法によって召喚されたようなのだ。できれば、この館に立ち入ったことを許してほしい」
パチュリーのことを言っているのだろうか。なんで引っ越しの準備を頼んだのに、人を召喚しているのかしら。そのことはまたあとで問い詰めることにしよう。ただ、今は目の前のやるべきことをやらないと。
「ふぅん、パチュリーに召喚された、と。ならまぁ許してあげないこともないわ」
もちろん、それは戦ったらの話。こんな上玉、目の前でお預けなんてことは私には耐えられない。
「本当にすまない。だが、ただで許してもらうのもこちらとしては気持ちがいいものでない。だから、私に何かできることなら喜んで引き受けよう」
そんなこと言われたらもう、言うことは一つじゃない。早く、速く、疾く。
「ふふ、そうね。殊勝な判断だわ。なら…とても簡単なことよ。私と戦いなさい。私を楽しませなさい。そうすれば、許してあげる」
もう能書きはいい。次で行く。
「戦う?それは…」
躊躇っている。でも、そんなことはどうでもいい。
「ごたごたと…いくわよ!!」
二度目の饗宴の始まりだ。
以上になります
※皇帝陛下の名前について。
特に他意はないです。ウィキペディアで最後に皇帝を務めた人物の名前から持ってきました。
本当は最終皇帝とやってることが被ってそうなところから持ってきたかったのですが、いい人がいなかったのと、ハインリヒやらカールやらなかなかしまらない名前が多く、この名前になりました。