夜は明ける。そして朝日がのぼりだす。この日常が紅魔館にも訪れた。
ただ一つ、いつもと違うことと言えばこの館にはそれまでいなかった人物も館で新しい日を迎えたことである。
あの決戦の夜の主役、レミリア・スカーレットは普段朝は起きない。理由は簡単、彼女が吸血鬼だからだ。
それに加えて昨晩の戦いの疲れからいつもより深く、深く眠りについていた。
もう一人の主役――侵入者と間違えられた哀れな男、ロムルスもまた、疲労から深い眠りについていた。
彼らは決戦の最期、お互いの今持てる、最高の技を繰り出した。そしてその技はたがいに激突し、勝者が決まることもなく、二人とも力尽きてしまった。そんな二人の姿を遠視の魔法で見ていた、魔女パチュリー・ノーレッジはただ一言、こう呟いた。
「ばかみたい」
ただそれだけ言葉を吐き捨てて、パチュリーは舞台へと向かった。パチュリーが戦いを覗き見ていたのには訳があった。彼女が間接的に召喚してしまったロムルスのことである。彼女は間接的ながらも自分が部外者をこの館に招いてしまったことに少しだけ責任を感じていた。その上であの男が死んでしまうと少し気持ちが悪いと思い戦いの一部始終を見ていた。だが、その気持ちも戦いを見てるうちに杞憂に終わった。自分の友人と対等に渡り合っていたからである。
「それなりに魔力は感じれたけど、まさかあれほどとはねぇ…。ロムルス、か…」
そういってパチュリーは足元に倒れている二人の内、一人をのぞき込む。その顔は少し満足そうな、安心したような顔のようにパチュリーは思えた。その隣に倒れている友人、レミリア・スカーレットの姿も見る。レミリアの顔もやはり満足げである。
「とりあえず、レミィは寝かせれば治るとして、この二人はどうすればいいかしらね…」
今パチュリーが悩んでいるのはロムルスともう一人の侵入者の少女の処遇であった。侵入者なら普通は適当に外にほうり投げておけば、あとは外に住む化け物が処理してくれるに違いない。ただ戦闘を見るにこの男の方はレミリアも気にかけているらしいし…とパチュリーは推測する。そしてもう一人の少女についてはパチュリーもそちらの戦闘は見ていなかったので、どうすればいいのかわからない、というより下手に何かすると友人に怒られる気がしたのである。
「ひとまずは寝かせておけばいいかしらね」
これがパチュリーの出した結論であった。
ロムルスは夢を見た。かつての仲間の夢であった。インペリアルガードのハンニバル、軍師のコウメイ、サラマンダー族の代表アウ、そしてイーリス族の代表スカイアたちの夢であった。
彼らとは七英雄との戦いが終わり、国を解体して共和国にした後も何度かあっていた。沈んだ塔へ行く前に立ち寄ったチカパ山でも、スカイアと話を咲かせていた。
そんなつい最近であった仲間の夢であった。目が覚めるとロムルスは最近はコウメイと都合が合わなくて会っていなかったな、などと思ったが、今は会いに行こうとしてもよくわからない場所にいるので会える確証はなかった。それが彼の心残りになっていた。
そのように思いふけっていると、あの、と女性の声がした。呼ぶ声のした方へ向くと、そこには緑色の服と同じ色の帽子、星がついている帽子を被った女性がいた。背丈のほどはロムルスが昨日会った二人の少女よりは確実に大きいだろう女性であった。
「あ、おはようございます。といってももう昼なんですけどね」
「あ、あぁおはよう…こんにちは、か?ここは…」
「ここはレミリア様が主をしていらっしゃる、紅魔館ですよ。あ、私は
えっへん、とでも言いたげに得意げな顔で話す紅美鈴。彼も自分の名前を彼女に告げ、質問をした。
「私は何でベッドで寝ているんだ?それとこの服は…」
今彼が着ているのは彼が鎧の中に着ていた服とは別の、上品だがしっかりと着心地の良い寝間着であった。
その彼の質問に美鈴はこれまた得意げに話す。
「パチュリー様に言われたんです。ベッドに運んでおきなさいって。あ、服も私が…その、変えさせてもらいました。…私もハンターにやられて痛かったのに…パチュリー様ったら…」
そういい少しぶつぶつとつぶやく美鈴。そんな彼にロムルスは少し笑いながら話しかけた。
「そうか、君が私を介抱してくれたのか。なら…」といいながら彼はしっかりと彼女の前へと向き直る。彼の姿を見ていた美鈴は何をするのかとみていると、彼はこう一言いった。
「ありがとうございました」と。それに返すように美鈴も微笑みながら「どういたしまして」と返した。
そんなやり取りをしていると扉の開く音がした。そこにいたのは昨晩ロムルスが出会った二人の少女、パチュリーとレミリア、その人たちであった。レミリアはロムルスが起きているのを確認するとこう言った。
「起きたようね、ロムルス。ご機嫌はいかがかしら?」
「ええと…レミリア…だったか?」
「ええそうよ。ちゃんと覚えてはいるようね」
「ああ。ちゃんと覚えているよ。…お互い、体は丈夫みたいだ」
「ま、私は丈夫なだけじゃないけどね」
そうやって二人が話しているところに美鈴、パチュリーも続く。
「そういえばロムルスさん、本当にお嬢様と戦ったんですか?二人して倒れていたのまさかとは思ったんですけど…」
「そのまさかよ、美鈴。私もまさか自分が召喚した人間がここまで強いとは思いもしなかったわ」
「へえ~、ロムルスさん強いんですねぇ。私も手合せしてもらいたいです」
「ああ、私は構わない。手合せ程度ならいくらでも」
「あら、私とやるときはあんな嫌がったくせに」
そんな風にレミリアが茶化すとその場にいた四人は笑い始めた。ひとしきり笑うとロムルスは笑いながら言葉を絞り出す。
「ハハハ…ふぅ。あれは手合せじゃなくて殺し合いだろう。今私がいいといったのは手合せであって命のやり取りなんかじゃない」
そういうとレミリアが反論する。
「でもこうして二人とも生きているじゃない。だったら命のやり取りというより実戦に限りなく近い手合せ、というべきじゃなくて?」
「…レミィ、あなた思いっきり殺しあおうなんて言ってたわよ」
パチュリーがすかさずツッこむ。これにはロムルスと美鈴はまた笑ってしまう。レミリアはレミリアで、
「あら、そうだったかしら」などとすっとぼける始末である。
こうして茶番を続けていると美鈴は思い出したかのように話し出した。
「あ、そういえばもう一人、私を倒していった人がいましたよね。あの人どうするんですか?」
その質問に答えたのはレミリアであった。
「あの娘にはいろいろすることがあるのよ。ね?パチュリー」
「本当にやるの?面倒じゃない?」
パチュリーがそういうがロムルスと美鈴は疑問符を浮かべた顔になってしまう。そんな二人を見てレミリアはこう告げた。
「いずれわかるわ二人とも。さ、時間もちょうどいいしご飯にしましょう。ロムルスも遠慮することはないわ」
そういえば、とロムルスはおなかをさする。彼は昨日ここへきてから何も食べていないのである。
「私も一緒にいいのか?あんなに部屋を散らかしてしまったり…」
「あれは私を楽しませるためにやったんでしょう?なら問題ないわ。それにパチュリーが手違いでよんじゃったんだし、こちらにも非があるわ。紅魔館は客人をちゃんと迎え入れるのよ」
招かれざる客以外はだけど、と最後に付け足して部屋を出ていくレミリア。それに続くようにしてパチュリーも出ていく。しかし美鈴は出ていかないので、
「私を呼んだ彼女はパチュリーというのか…。君はいかなくていいのか、美鈴」 とロムルスが問いかけると彼女は、
「あ、私はお嬢様に今日一日はロムルスさんの面倒を見るよう、言われてるんです。だから私が屋敷の案内をさせていただきます」
といわれロムルスは短くそうかい、と言ってベッドから体を出し美鈴と部屋を後にした。
部屋を後にして、二人が廊下を歩く。そこで最初に声を出したのは美鈴だった。
「そういえばロムルスさん、どこから来たんですか?パチュリー様に召喚されたって聞きましたけど…」
「ん、あぁ…。そうだな、私はエイルネップという場所にいたんだ。そこで転移装置を使うとここにいたから、パチュリーが呼び出した、というのは半分正解で半分間違いなんだ」
「へぇーエイルネップ…。私はそこまで地理に詳しくないのでわからないですねー」
「ふむ…。ところで、ここはどの地方に位置する?」
そうロムルスが質問すると美鈴はええと…といって地名を告げた。その名前はロムルスが全く知らないものであった。
「そうか…聞いたことのない地名だ。おかしい…」
そういって悩みこむロムルスを見て美鈴は不思議そうに尋ねる。
「でも、ロムルスさんがいくら旅人だからと言って世界を全部回ったわけじゃなければ聞いたことのない地名の一つや二つくらい…」
「いやそのまさか、だ。私は世界をすべて旅したはずだ。…そうだな、後で地図を見せてもらってもいいか?」
「ええ、かまいませんよ。ですけど世界を旅した旅人さんなんて…すごいんですね。暇なときに旅の話、してもらってもいいですか?」
世界を旅した「旅人」という言葉にロムルスは少し複雑な気持ちになったが笑いながらああ、いいよと答えた。
そうして二人が話していると、美鈴が「ここですよ。」と言い扉を開ける。そこは昨晩ロムルスたちが戦った場所と同じくらいのとても広い部屋だった。その部屋の中央に置かれた、これもまた部屋にあった大きさのテーブルにはすでに、とてもおいしそうな料理が置かれ湯気をたたせていた。席にはすでに先にいった二人がいて、レミリアは「こっちよ」と言って自分の近くの席を指し示した。その案内の通りにロムルス、美鈴は座るとレミリアはそろったわねと言い、立ち上がりこう告げた。
「昨日は侵入者との戦闘、皆ご苦様。今日はその労いの意味もあるけど、一番は客人の歓迎よ。さあ料理が冷めないうちにいただきましょう」
レミリアが号令をかけたのち、改めて全員でこういった。
「いただきます」
そうして食事の時間が始まった。ロムルスはここへきて少しして気づいたある質問をした。
「この屋敷は随分と広いが、ここにいる三人以外はあとは全員使用人か?」
そう、この屋敷は広いがそれに対する住んでいる人数が少ないのだ。その質問に少し空気が重くなる。そしてレミリアが答えた。
「もう一人、本当はいるのよ。だけど…色々と事情あってね…」
「ふむ…。差支えがなければその事情をきいても?」
少し考えるように黙り込むレミリア。ほかの二人もこのことを言うのは憚りがあるのか何も言わないでいる。そしてその沈黙を破るように考えをまとめたと見えるレミリアが答えた
「私の、たった一人の妹がいるのよ。もともとあの娘とも一緒に食事をしていたし、普通に生活していたの。だけど…」
そういって少し黙り込むレミリア。ロムルスも聞き返すこともなく、レミリアが再び話し出すのを待つ。
そして、レミリアは一語一語、思い出すかのように答えた。
「ある日、昨日みたいにハンターがこの屋敷に来たわ。撃退は簡単だったんだけど、たちの悪い、呪いを…妹にかけてしまって…。それっきり妹は…フランは、様子がおかしくなったのよ」
そしてとうとう完全にレミリアは黙り込んでしまった。食事の時にこんな空気にしてしまい苦虫をかみつぶしたのような顔をロムルスはしていた。
そこへ何も言わなくなったレミリアに代わり、パチュリーが答えた。
「私が見たらどうやら精神に作用するものでね。しかも魔法と微妙に違う、別の力が働いてるみたいなのよ」
「魔法以外の力?」そうロムルスはなにかいぶかしげな表情になり返す。そしてまたパチュリーは答えた。
「ええ。だけどそれが何かいまいちわからないうえに、妹様ったら長い時間調べると拘束を振りほどくのよ。だからほとほと手を焼いているの」
「なるほど。呪いか…」
そういいロムルスは考え事をする。その様子を見たレミリアはすがるように尋ねた。
「…何か、思い当たることでもあるのかしら…?」
「いや、別に…」
本当は少し見当をつけているロムルスではあったが、見てみないとわからないう上にもし間違っていてぬか喜びさせても、と思い黙っていた。
「そう…。…まぁ、今は食事を楽しみましょう。食事の時に考えても話はまとまらないわ。」
そうレミリアが言うと再び全員食事に戻った。
だが正義感のあるロムルスがこの話を黙って流すことはなかった。
以上になります。
ここら辺から少し独自解釈が入ってきます。